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政治ドットコムインタビュー企業インタビュー『PoliPoli Enterprise』はスタートアップと政治の「触媒」。ファンズが目指すルールメイキングとは

『PoliPoli Enterprise』はスタートアップと政治の「触媒」。ファンズが目指すルールメイキングとは

投稿日2023.1.25
最終更新日2023.12.25

オンライン上で、資産運用をしたい投資家と事業資金を調達したい借り手企業をファンドを通じて結ぶプラットフォーム「Funds」を提供するファンズ株式会社(以下、ファンズ)。

今回はファンズCLO(最高法務責任者)で、弁護士でもある髙尾知達氏にこれまでのキャリアやファンズの事業、ファンズとして取り組むルールメイキングについて伺いました。

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取締役CLO(最高法務責任者)/リスク統括本部長 髙尾 知達 氏
弁護士。大阪大学法学部卒業、早稲田大学法科大学院修了。司法試験合格後、ディー・エヌ・エーに入社、UGCプラットフォーム、モビリティ等の新規事業に法務担当として携わる。その後、大和証券にてIPO支援に従事。フィンテック関連の金融法に関して幅広い知見を有し、政策提言にも取り組む。セミナー、執筆経験多数。一般社団法人Fintech協会 理事。

1、弁護士でありながら事業会社でビジネスパーソンとしてのキャリアを築く

(1)事業会社に飛び込んだ理由

―まずこれまでの経緯について聞かせてください。髙尾さんは司法修習の終了後、すぐにディー・エヌ・エー(以下、DeNA)へ入社されています。なぜ弁護士事務所ではなく事業会社への就職を選択されたのですか。

髙尾:

地元である大阪の企業法務系事務所に就職することを考えていたのですが、希望していた事務所からオファーをもらえませんでした。当時弁護士業界の景気が厳しかったことも影響したかもしれません。
そこで、周りと違う選択をして自分の得意分野を持ちたいと思い、インターネット企業であるDeNAに入社しました。

僕が入社した2014年頃のDeNAは、主力のモバイルゲームがアプリ化する中でプラットフォーマーとしての確固たる地位に揺らぎが生じ、事業の多角化を推進していました。

新聞に掲載されるような案件に法務の主担当として携わることができ、その裁量の大きさに戸惑いながらも、ファーストキャリアとしてよい経験を積ませてもらったと思います。

DeNAでは数多くの上司や先輩に恵まれましたが、中でも同じくインハウスロイヤーであった渡部友一郎先生(現 Airbnb Japan リードカウンセル)から仕事の進め方や成長企業のリーガル人材として必要なマインドセットを指導していただけたことは、僕の職業人としての財産です。

また、ロースクール時代に、内閣法制局長官、最高裁判所判事を歴任された山本庸幸先生から立法学の指導をいただいたことも今の仕事につながっています。山本先生は当時法制局の次長でしたが、そのような方から立法技術のイロハを学び、内閣法制局を見学する機会をいただけたことは、大変貴重な経験でした。

キャリアを考える中で、法務という枠を超えて、よりチャレンジできる環境に身を置きたいと思うようになり、DeNAから大和証券の公開引受部へ転職しました。自分の強みを活かしながら事業成長にダイレクトに貢献できると感じたからです。

大和証券公開引受部への転職は自分のキャラクターを際立たせるきっかけになりました。

弁護士資格は、法律事務所で働くか否か、企業の中で法務部に在籍するか否かにかかわらず、自分の専門性を強力に証明してくれるバリューのある資格です。

ビジネスパーソンとして自分のポジションを模索する中で、法律家として身に着けてきた知識や思考法の価値や希少さを感じた時期でしたね。実は弁護士登録をしたのも大和証券に移籍後です。

(2)ファンズに入社したきっかけ

―ファンズに入社したきっかけや経緯を教えてください。

髙尾:
直接のきっかけは日弁連の就職あっせんサイトなんです。その頃、弁護士のニーズを把握する意味で数か月に一回くらいの頻度でサイトをみていたのですが、メディアを運営するクラウドポートという設立間もない企業がメンバー6人なのに社内弁護士を募集していて、これは何か新規事業を仕込むつもりだなと直感しました。

共同創業者の二人が連続起業家でイグジット経験があり、創業メンバーのエンジニアも強そう。この人たちが一体どんなことを考えているのか、直接話を聞いてみたいと興味を惹かれました。

聞けば貸付型ファンドのマーケットプレイスをやるということでした。この構想が現在のFundsとして実現したわけですが、これまでの僕自身の経験を存分に活かせそうで、解決を目指す社会課題のテーマ設定も共感できると思ったことをよく覚えています。

大和証券でIPOを支援していて、当時の感覚ではスタートアップがリーガル人材を採用するのは大体20人目くらい、自分のバックグラウンドで一桁社員としてゼロイチに携わるのは難しいと感じていたこともあり、迷わずジョインを決めました。

2、Fundsとは「お金を借りたい企業」と「資産運用したい個人」を結ぶプラットフォーム

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―ファンズの歴史について教えてください。

髙尾:

ファンズ株式会社は株式会社クラウドポートとして2016年11月に創業しました。2022年12月現在、7年目になるスタートアップ企業です。

Fundsのサービス提供の土台になったのはメディア事業です。金融商品取引業の登録を取得するまでの間、ソーシャルレンディングのプラットフォームを比較できるメディアを運営していました。

メディア事業を展開していたおかげで投資家の皆様から信頼を得ることができ、Fundsのサービス立ち上げをスムーズに進めることができました。

―Fundsのサービスについてより詳しくお伺いしてもよろしいでしょうか。

髙尾:

Fundsは「お金を借りたい企業」と「資産運用したい個人」を結ぶプラットフォームサービスです。貸付投資(※1)の仕組みを用いた投資商品を提供しています。

借り手は上場企業が中心であり、当社が設定した基準に基づく審査を実施することで、投資家の皆様に安心感をもって資産運用していただける商品づくりにこだわっています。

一般的な商品設計としては、1-2年の期間で設定された予定運用期間で運用が行われ、税引前で年率換算1-2%程度の利回りが3ヶ月に一回の頻度で分配、運用終了後に元本が償還される形のものが多いです。

投資商品なので元本保証はありませんが、サービス運用開始から約4年で累計募集額は約290億円まで拡大しており、これまで分配遅延、元本毀損の発生はありません。

他方、Fundsは借り手企業からみれば資金調達プラットフォームであり、成長企業の資金ニーズに応えることも僕らが提供すべき価値です。11月に閣議決定された政府の「スタートアップ育成5か年計画」でも、スタートアップのための資金供給の強化が重点施策として掲げられています。

Fundsで資金調達をしていただいた上場スタートアップは複数ありますが、メルカリ、マネーフォワードが象徴的であり、これまでにそれぞれ4億円、約10億円の資金調達をしていただいています。上場前の企業では、マイクロファイナンス事業を展開する五常・アンド・カンパニー、セガグループのゲームセンター事業を承継したGENDAなどが利用企業です。

最近では、三菱UFJ銀行や楽天証券でもFundsの商品を取り扱っていただいており、販路拡大も着実に進んでいます。

(※1)「企業へ資金を貸し付けるファンド」への投資のこと。投資するファンドには、予め想定された利回りと運用期間が決まっていることが特徴で、このファンドを通じて資金を借りた企業が運用期間中に返済を行うことで、投資家が利益を得ることができる。

―新事業としてFundsをリリースする際に不安に感じた点などはありましたか?

髙尾:

Fundsは金融商品取引業の登録、つまりライセンスを取らなければビジネスを始めることができません。開発やオペレーションのメンバーがリリースに向けた準備を進める中で、想定通りにライセンス取得ができるかプレッシャーを感じる部分はありました。

ただ、メディア事業を通じて当社の認知向上と信頼獲得を実現できている手ごたえはありました。僕らがマーケットプレイスを展開すれば今までにない価値提供ができるという自信もあったので、リリース前の不安というのはそこまでなかったですね。

3、ファンズが実現したい守りと攻めのルールメイキング

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―Fundsのサービス開発を行う上で、今後どのようなルールメイキングが必要であると考えていますか?

髙尾:

ファンズとして「攻め」と「守り」のルールメイキングを推進することで、複層的な価値創造を行いたいと考えています。

「攻め」のルールメイキングでは、Fundsの商品が適切な資産運用手段として、また、成長資金の提供手段として存在意義が広く認められ、社会的な役割を果たしていけるように、税制を中心とした各種制度の整備を働きかけていきたいです。

また、「守り」のルールメイキングとしては、合理的な形で投資家保護を図りつつ、日本の経済成長につながるような規制のあり方を当局と一緒に考え追求していきたいと考えています。攻めと守りとは言ったものの、これらは車の両輪であり表裏一体です。

政治家や官僚などのポリシーメイカーと連携して、あるべき社会の実現のためにバランスよい規制体系、制度設計を共に考え、実現に向けて力を尽くすことは非常にやりがいを感じますね。特に「攻め」のルールメイキングについては、PoliPoliさんと連携していきたいです。

当社のミッションは「未来の不安に、まだない答えを。」です。
将来のお金に対する不安を解消するために、これまで誰も取り組んだことのない答えを出すことでお客様に価値提供をしていきたいです。金融領域は商品設計において複雑な仕組みを用いているからこそ、ルールメイキングが必要であると考えています。

4、PoliPoliとともにより本質的なルールメイキングを

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―ファンズでは実際に『PoliPoli Enterprise』を利用されていますが、ルールメイキングのために今後PoliPoliにどのようなことを期待していますか。

髙尾:

PoliPoliさんの魅力は与野党問わず幅広い議員の方々とのネットワークがある点です。僕らが課題意識を持っているテーマに通じた議員と知り合い、政策として提案したりそれに対してフィードバックをもらえることは、ルールメイキングを推進する上で非常に重要です。

PoliPoliさんは単なるマッチングにとどまらず、僕らの課題意識を政策課題として設定した上で議員の方々と連携していただけるので、いわゆる陳情のような形ではなく熱量の高いディスカッションが実現しています。僕は政治とスタートアップの化学反応を促す意味で触媒と捉えています。

これからは既存の規制をアップデートするルールメイキングだけではなく、日本全体の金融リテラシーを啓蒙し、経済成長を実現するような本質的な動きを模索していきたいですね。

ポリシーメイカーの方々に、より社会にインパクトあるルールメイクを行ってもらえるように取り組みを進めていきます。

この記事の監修者
政治ドットコム 編集部
株式会社PoliPoliが運営する「政治をもっと身近に。」を理念とするWebメディアです。 社内編集チーム・ライター、外部のプロの編集者による豊富な知見や取材に基づき、生活に関わる政策テーマ、政治家や企業の独自インタビューを発信しています。