デジタル化や新たなテクノロジーの発展により活躍の場を広げるクリエイター。そのクリエイターの創作活動を起点とする経済圏として注目を集めるのがクリエイターエコノミーです。
今回はそのクリエイターエコノミーの普及・浸透を目指す、一般社団法人「クリエイターエコノミー協会」の事務局長・淺井健人さんに、クリエイターエコノミーの現在地とこれから目指すルールメイキングのあり方などについてインタビューしました。
note株式会社法務室長/一般社団法人クリエイター |
1、クリエイターエコノミー協会とはどのようなものなのか
(1)クリエイターエコノミーとは創作活動が経済活動につながる部分のこと
ーそもそもクリエイターエコノミーとはどのようなものか教えてください。
淺井:
クリエイターエコノミーとは、クリエイターの創作活動を起点とする経済圏のことです。個人の情報発信やアクションによって形成される経済圏とも言えますね。
暮らしの中にさまざまある創作活動の中でも、特に情報を発信したり、自分の作品を販売したりするなど、経済活動が関わる領域がクリエイターエコノミーだと考えています。
(2)クリエイターが安全に活動できる環境を整えるのがクリエイターエコノミー協会の役割
ーどうして会社としてクリエイターエコノミー協会を立ち上げたのか、経緯を教えてください。
淺井:
だれもが創作をはじめ、続けやすくするために、クリエイターの声を政治や政策づくりの場に届けたいと思ったからです。クリエイターを取り巻く環境には課題があるものの、クリエイター個人が声を上げにくい部分があります。クリエイターにとってよりよい環境を整備するには団体を立ち上げ、声をまとめていくことが有効な手段だと考えました。
ークリエイターエコノミー協会の役割としてはどこを重視されているのでしょうか?
淺井:
政策提言とクリエイターエコノミーに対する認知拡大の2つです。
まず重視している役割としては、クリエイターが安心・安全に活動できる環境を法律などの制度面から作る動きを主導し、政策提言を行うことです。
私が協会の事務局長を拝命したことも、この政策提言の部分と関わっています。クリエイターの声を集約し、政策へ反映させるためには実際の法律の在り方や運用などを理解しておいたほうが都合がよい場面が多いんですね。
またクリエイター活動へ新たな規制をかける動きへの対応も行っています。現場の声を行政に届け、法的な規制が必要かや実態に即しているかについてディスカッションすることもあります。
もう1つの役割はクリエイターエコノミー自体を普及・浸透させていくことです。クリエイターエコノミー自体、まだまだ一般の人に広く知られるところまでは至っていないと思います。
認知を広げることでクリエイターエコノミー全体のパイを大きくし、クリエイターや、クリエイターエコノミーにかかわる企業のみなさんがウィンウィンになる方向へ持っていくことが大切だと考えています。
(3)クリエイターエコノミーの国内市場は1兆円超え
ークリエイターエコノミー協会が2022年10月に行ったクリエイターエコノミーに関する調査について、具体的な内容と調査の意義について教えてください。
淺井:
2022年10月に実施した調査では、主にクリエイターエコノミーの市場規模やクリエイターの活動実態について調査を行いました。
<参考>
日本初!国内クリエイターエコノミー調査結果を発表
国内クリエイターエコノミーに関する調査結果
実はこれまで日本にはクリエイターエコノミーに関する本格的な調査がなく、その実態がつかめていませんでした。今回の調査は国内のクリエイターエコノミーの実像をつかむ初の調査となりました。
クリエイターエコノミーの市場規模が明らかにできたのは大きな成果です。今後、クリエイターエコノミーを政策として取り組む必要性を訴える根拠になると考えています。
より具体的にはクリエイターエコノミーには国内に1.36兆円ほどの規模があることがわかりました。約15兆円の世界全体の市場のうち約1割を日本が占めていることになります。今後、産業として推進しがいのあるマーケットです。これにより、これから創作活動を始めようとする人を勇気づける意義もあると思います。クリエイターの裾野を広げるきっかけになれば嬉しいです。
またクリエイターがどのように創作活動を行っているのかについても調査を行いました。以前はクリエイターがインターネット上で創作活動を行うことのできるサービスは限られていましたが、現在ではクリエイターが、さまざまあるサービスの中から自分にあったサービスをいくつか選択し、活用していることもわかりました。クリエイターの活動の様子について、基本的な情報やその実態も社会に対して提示できたと思います。
(4)クリエイターエコノミー自体が盛り上がるように
ー今後、クリエイターエコノミーをどういう位置づけにしていきたいか、ビジョンはどういったところにあるのでしょうか?
クリエイターエコノミーが国からも応援され、推進される位置づけになることです。
クリエイターエコノミーが盛り上がると、
クリエイターの裾野が広がる
↓
売れるコンテンツを生み出すクリエイターが現れる
↓
コンテンツ産業が活性化する
その結果、さらにクリエイターが増えるといった好循環が生まれると思います。
クリエイターエコノミーが盛り上がることで、海外でも売れるコンテンツが増え、海外で日本発のコンテンツが受け入れられる機会がこれまで以上に増えることにもつながります。
また、海外では自身の創作や表現を機に、アパレルや飲食店といった自分のブランドを立ち上げるクリエイターも現れており、コンテンツ産業を起点に別産業と連携するクリエイターが日本でも生まれてほしいとも思っています。
クリエイターエコノミーには発見されていない大きな可能性がまだまだあり、日本に大きな経済的インパクトをもたらすことを期待しています。
2、クリエイターエコノミー協会が取り組んできたルールメイキング
(1)特商法*の解釈変更により、クリエイター活動へのハードルが大きく下がった
ー最初にルールメイキングとして取り組んだ「特商法*の解釈変更」は業界にどのようなプラスの影響がありましたか?
*特商法とは特定商取引法のこと。事業者による違法・悪質な勧誘行為等を防止し、消費者の利益を守ることを目的とする法律。
淺井:
特商法の解釈変更を引き出したことにより、個人のクリエイターは一定の条件を満たせば、自分の住所・電話番号を公開する代わりにプラットフォームの住所・電話番号を公開すればよいということになりました。
解釈変更以前、クリエイターは原則、住所や電話番号といった個人情報を開示しなければならず、個人情報へ誰でもアクセスできる状態でした。これにより情報が悪用される懸念を持つクリエイターが多くいらっしゃいました。
今回の解釈変更により「個人の住所や電話番号を公開しなければならない」という大きなハードルをなくすことができた点はよかったです。
多くのネットショップを抱えるプラットフォームのクリエイターからもこの法解釈変更に感謝の声が上がっているとも伺っています。インターネットが持つリスクを少しでも下げることに貢献できたのかなと思っています。
(2)内閣が出している骨太方針にクリエイターの創作支援が含まれ予算要求が3倍になった
ー内閣が出している骨太方針にクリエイターの創作支援が含まれました。このことは業界に対してどのようなインパクトがあったのでしょうか?
淺井:
今後、業界として政策的な動きが取りやすくなりました。省庁とのコミュニケーションや予算確保などが以前より格段にやりやすくなったと感じます。
例えば、未確定ではあるものの、文科省は令和5年度にクリエイター支援予算として、これまでの3倍の金額を要求しました。
これまでよりもさらに踏み込んだ政策提言をするためのとっかかりができた印象です。
(3)今後は匿名でも経済活動ができるようにしていきたい
ー今後必要になってくるルールメイキングやアクションがあれば教えてください。
淺井:
現在、インターネット空間での匿名の経済活動には規制がかかっています。インボイスや先述の特商法でも個人は実名を公表する必要があります。
しかし、ネット空間ではハンドルネームで活動している人も多く、できるだけ実名が必要な場面を減らしていくべきだと思います。
もちろん名前を出すことによって守られている利益もあります。その利益を守りつつ、匿名で経済活動ができる環境を整備するためのアイデアが必要です。
例えば、匿名クリエイターの本名を、そのクリエイターが利用するプラットフォームが控えておき、何かしらトラブルが発生した際にプラットフォームが情報提供できる仕組みが考えられます。こうすれば既存の利益も守りながら匿名での経済活動を推進できると思います。
最近、注目を集めているメタバースなどの新たな形のインターネット空間への対応も必要です。
インターネット空間で匿名で行われている創作活動や経済活動が、本名を公開させられることで、阻害されるということは、なるべく避ける必要があります。(例:本人は男性でもアバターは女性といった事例)匿名でも問題ない場面では匿名での活動を可能にする環境にしていきたいです。
(4)さまざまな団体、企業と協力して政策を実現していきたい
ー最後に、今後PoliPoli Enterpriseのサービスに期待していることを教えてください。
新たな動きをする際、議員の方とのコミュニケーション面についてご相談ができればと思います。配慮するべき点はどこか、どのようなアプローチをするべきなのかなど不慣れな部分が多いからです。
またPoliPoliさんが持つさまざまな団体や企業との関わりにも期待しています。一つの政策を実現するためには、議員の方との連携のみならず、横のつながりが必要です。さまざまなステークホルダーの共感を得て、クリエイターエコノミーを盛り上げていきたいです。