「政治をもっと身近に。」
政治に関する情報をわかりやすくお届けします。

政治ドットコムインタビュー省庁インタビュー【厚生労働省インタビュー】オンライン診療で医療格差の解消をめざす

【厚生労働省インタビュー】オンライン診療で医療格差の解消をめざす

投稿日2026.2.3
最終更新日2026.02.03

2025年に改正された医療法により、これまでガイドライン(指針)の中で運用されてきたオンライン診療が法律で制度化されます。オンライン診療は、いわゆる「医療難民」の救世主となるのでしょうか。今回のインタビューでは厚生労働省でオンライン診療の制度設計に関わった間中勝則氏に、法改正の背景や課題、法整備において重視した点をお聞きしました。

(取材日:2025年12月23日)
(文責:株式会社PoliPoli 秋圭史 )

厚生労働省インタビュー

間中 勝則(まなか かつのり)(写真中央)
厚生労働省 医政局 総務課 オンライン診療推進専門官
東京大学医学部卒。東京大学医学部附属病院腎臓・内分泌内科に所属しており、新型コロナウイルス感染症の流行を契機に東京大学医学部附属病院でのオンライン診療導入の実務に携わり、人事交流として厚生労働省に出向し現職。総合内科専門医(日本内科学会)、内分泌代謝・糖尿病内科領域 専門研修指導医(日本専門医機構)、内分泌代謝科専門医・指導医(日本内分泌学会)、糖尿病専門医・指導医(日本糖尿病学会)、日本甲状腺学会認定専門医、臨床遺伝専門医、日本内分泌学会評議員。

写真向かって右:太江 俊輔(たいえ しゅんすけ)(医政局総務課 課長補佐)
写真向かって左:利光 健作(としみつ けんさく)(医政局医事課 課長補佐)

へき地・離島の医療課題解決と情報通信技術の進化

厚生労働省インタビュー

ーオンライン診療について定めた医療法の改正案が成立し、2026年4月から施行されることになりました。まずは、この背景を教えてください。

オンライン診療の歩みは、平成9年12月に出された局長通知から始まりました。もともとは離島やへき地の医療格差をICTで解消することが目的でしたが、平成27年8月の事務連絡により、対象は地域に限定されないことが明確になりました。時代の変化とともにオンライン診療への期待が高まり、平成30年3月には運用ルールを定めた指針の策定や診療報酬への組み込みも行われました。しかし、これらはあくまで指針としての運用であり、当時はまだ法律的な根拠が十分に整理されていないという側面もありました。

そもそも医療法は1948年にできた古い法律で、インターネットなど存在しない時代のものなので、すべて対面での診療を想定したルール設定です。オンライン診療を普及させていくにあたり、その有用性を生かしつつ、想定される問題にも対処するためには、やはり法律での位置づけが必要です。これまでのように、通知や指針の解釈によって運用していくのは難しくなってきたため、法改正に向けた議論が始まった次第です。

ーオンライン診療を法的に位置づける上で、特に重視されたことは何でしょうか。

まず医療において何より大切なのは安全性であり、「安全で適切な医療を必要としている人に届ける」という理念が根本にあります。従って、対面診療にも通じる安全な運用基準を明文化した側面があります。明文化されたことによって、医療の提供側から見れば「これは大丈夫?」「どこまで許容される?」という迷いがなくなり、安心して患者様と向き合うことができます。逆に受診する側から見れば、きちんとレギュレーションが守られたオンライン診療を受けることは安心につながります。

ーオンライン診療の普及に伴い、どのような活用の形が期待できますか。

従来は、へき地や離島などの距離的に医療アクセスに制限のある人々の利用を想定していましたが、高齢で免許を返納した方が同居する家族などのサポートを受けて利用するケースもあるでしょうし、治療できる医療機関が限られている難病の患者様が利用するケースもあると思います。また、遺伝カウンセリングのように家族で一緒に受けていただきたい場合などに、複数の場所から同時につなぐこともできます。

また、小さな子どもや介護が必要な方などケアを必要としている家族がいて病院に通いづらい方にとっても、オンライン診療は有益だと思います。コロナ禍のときに「子どもを連れて病院に行けない」といった声もあり、高齢者や過疎地の方に限らず、本当にさまざまなニーズがあります。いずれのケースも、場所の制約を受けずに質の良い医療を提供する、という視点が欠かせません。

症状を十分に把握し、質の良い医療を安全に提供する

厚生労働省インタビュー

ーオンライン診療を普及させる上での課題は何でしょうか。

入院と外来にそれぞれメリット、デメリットがあるように、オンライン診療にもデメリットはあります。それは、患部に直接触れられないことで、症状を十分に把握できない可能性があることです。「質の良い医療を安全に提供する」というのが医療でもっとも重要なポイントなので、既往歴や服用している薬も含めて患者様のことを深く把握した上で診療に臨むことが求められます。

ー患者様のことを十分に把握するにはコミュニケーションも重要なポイントですね。

そうですね。これは対面もオンラインも同じで、例えば「この持病があるなら、こういう薬を飲んでるかもしれない」とか、患者様が自ら言わなくても、さまざまなケースを想定しながらコミュニケーションを取ることが重要です。

ー安全性の確保はどのような形で制度設計に反映されましたか。

薬の処方に関して一定の条件を設ける形で議論が進められてきました。「初診では処方すべきでない」とか「処方する場合も、日数に制限を設けるべきだ」といった意見を踏まえたものです。初めて服用する薬や特に注意が必要な薬の場合、普段は2~3か月ごとに通院してもらっている患者様も、副作用の確認のために2週間後に来てもらって採血するようなケースが多くあります。それが難しいオンライン診療の場合は、より慎重に運用する必要があります。

各地域の実情に合わせた医療体制の構築が前提

厚生労働省インタビュー

ーオンライン診療の制度設計にあたり、医療現場からはどのような意見がありましたか。

例えば検査や処置などを巡り「何ができて、何ができないのかわかりにくい」といった声がありました。また、安全性の確保という観点で「もしオンライン診療中に患者様の容体が悪くなったらどうするか」といった懸念もありました。これらの議論も踏まえて、対面とオンラインの適切な使い分けを考えていく必要があります。その他、診療報酬についても明確化を求める声がありますね。

日本にはまだオンライン診療のユースケースがそれほど多いわけではなく、議論を進める上で参考にするエビデンスは主にアメリカでの事例に基づいています。ただ、アメリカの医療環境は日本と異なるので、海外の手法が日本でも有用なのかどうかは検証が必要ですし、最適な運用方法については今後も模索していく必要があると思います。

ーオンライン診療によって地域格差の解消は期待できるのでしょうか。

地域における医療体制の充実という点では有益だと思います。ただ、オンライン診療ですべてカバーできるわけではないので、どのような医療体制を目指すかについては各地域でしっかり検討していただく必要があります。例えば小児科医が少ない地域において、不足するリソースを内科医にも補ってもらうなど、地域ごとの状況に応じた対応が必要なのです。そのような基本姿勢をデフォルトとして備えた上で、さらにオンライン診療によって外部リソースを活用すれば、真に効果的な運用ができるのだと思います。

ー自由診療についても、法改正に盛り込まれたのでしょうか。

自由診療に関しても、もともとオンライン診療を行うための指針は適用範囲でした。ただ、やはり「指針」では運用が難しい側面もあり、「法律」で明確化できたことは大きな意義があったと思います。もちろん従来から守っていただくべきルールだったことに変わりはありませんが、今回の改正でより具体化されたと感じています。新しい治療法や薬の服用に伴うリスクに対し、より適切に対応する体制構築につながっています。

社会の変化に合わせた継続的な改善が私たちの使命

厚生労働省インタビュー

ー今回の法改正を踏まえ、今後のオンライン診療に関する展望を教えてください。

オンライン診療は外来や入院などと同じく診療形態のひとつなので、どのような疾患や症例に向いているか、というのは今後も探っていく必要があると思います。一方で技術はどんどん進化し、社会構造も変化するので、それらに合わせて法制度も常に変化を求められていきます。

法律や規則は、その時々の最適解なので、今回の法改正も「今」の社会や医療環境に合わせて考え抜いたものではあります。ただ5年後も10年後も同じ制度で運用し続けられるわけではないので、状況に合わせてルールを見直す努力を続けていくことが我々の使命です。

   
この記事の監修者
『政治ドットコム』は、株式会社PoliPoliが運営する「政治をもっと身近に。」を理念とするWebメディアです。
株式会社PoliPoliは「新しい政治・行政の仕組みをつくりつづけることで世界中の人々の幸せな暮らしに貢献する。」をミッションに、政策をわかりやすく発信し、国民から意見を集め、政策を共創するウェブサイト『PoliPoli』などを運営しています。

・株式会社PoliPoli:https://www.polipoli.work/
・『PoliPoli』:https://polipoli-web.com/
・株式会社PoliPoli 公式X:@polipoli_vote
・政治ドットコム 公式X:@polipoli_seicom

株式会社PoliPoli 政府渉外部門マネージャー 秋圭史
慶應義塾大学法学部政治学科卒業後、東京大学大学院に進学し、比較政治学・地域研究(朝鮮半島)を研究。修士(学術)。2024年4月より同大博士課程に進学。株式会社PoliPoliにて政府渉外職として日々国会議員とのコミュニケーションを担当。(紹介note:https://note.com/polipoli_info/n/n9ccf658759b4)