ブッシュ、デュカキスと熾烈な(?)選挙戦を展開
2020年11月3日に行なわれバイデン氏が新たな大統領の座に就いた。新型コロナウイルス騒動が収束の見込みも立たない中での異例の選挙戦となった今回も、熾烈な争いが繰り広げられました。
アメリカ大統領選挙はアメリカ人にとって、当然関心の高い一大イベント。
注目が集まり、関心が高まれば、意外なアイディアでエンタテインメント化してしまう、そんな国民性を表したエピソードがあります。
1988年のアメリカ大統領選挙では、共和党のジョージ・H・W・ブッシュと民主党のマイケル・デュカキスが大統領の座を争って火花を散らしていました。
そんななか、突如立候補を表明したのが、モリス。彼はヒトですらなく、1匹のかわいいオス猫でした。
モリスは「9Lives」という、アメリカで人気のキャットフードブランドのキャラクター猫でした。
テレビCMや広告で、モリスの写真は大々的に使われており、全米でもその知名度は抜群でした。
「猫のモリスが大統領選挙に立候補する」、このニュースはまたたく間に全米に広がり、アメリカ史上初の猫の大統領立候補者をひと目見ようと、記者会見には数十人の新聞記者が集まりました。
立候補するための規則には「人間でなければならない」という条項はありません。この立候補は、その盲点を突いたものでした。
記者会見における、ブレーンによるモリスの推薦スピーチが、なんともイカしています。
「モリスは、カルビン・クーリッジ(30代米大統領)の静かな態度、ジョン・ケネディ(第35代米大統領)の動物的な魅力、そして、アブラハム・リンカーン(第16代米大統領)の正直さを持った候補者です」
このキャンペーンは全米でも爆発的な人気を集め、モリスがイメージ猫を務めていたキャットフードの「9Lives」は売上が激増。
善戦むなしく(?)、大統領選挙には落選してしまいましたが、無事、広告塔としての役目は果たしました。
これに気を良くした「9Lives」は、続く1992年にもモリスを立候補させています。
モリスの代が変わった2012年には、「すべての猫に『終の棲家』を」「いつもいっぱいのご飯」「猫の行動の自由」を選挙公約として掲げ、再度大統領選挙に立候補、バラク・オバマとジョセフ・バイデンとその座を争いました。
この選挙戦では、Facebook内にモリスの特設ページを立ち上げ、そこに公開されていたポスターが1回ダウンロードされるごとに、キャットフードの「9Lives」を1缶、動物保護団体に寄付するというキャンペーンも同時に行いました。
「すべての猫に幸せを」を、公約として掲げた2代目モリスでしたが、この選挙でも善戦むなしく(?)落選しています。
世界の選挙を見てみると、「人間以外のなにか」が公的な選挙に担ぎ出されている例は珍しくありません。
1968年にはアメリカ大統領選挙で豚が、1988年のリオデジャネイロ市長選挙にはチンパンジーが、1997年のアルゼンチン大統領選挙では「ダスティン」という架空の七面鳥が立候補し、数千票を獲得しています。
いずれも、政権や政治体制に不満を持った人々が、ユーモアと権力者たちへの皮肉を込めて行ったパフォーマンスと言えるでしょう。
猫のモリスのケースは、そこに企業広告としてのPRを折り込み成功させた、ユニークな例と考えられます。