
LGBT理解増進法の成立を契機に設立した右派勢力は、自民党が少数与党となり地位が揺らぎつつある今、その存在感を増していくのでしょうか。この記事では「日本保守党」結党の経緯や重点政策についてくわしく解説します。
日本保守党が結党された経緯
日本保守党は、小説家の百田尚樹氏と元ジャーナリストの有本香氏が「日本の伝統や国のかたちを守る」という考えのもと、2023年10月に設立した政党です。百田氏が代表、有本氏が事務総長、元名古屋市長の河村たかし氏が共同代表を務め、法律顧問には北村晴男氏が就任しています。
党のスローガンは「日本を豊かに、強く」で、伝統的な価値観や国益の重視を掲げています。2024年の衆議院選挙で当選者を出して政党要件を満たし、国政政党となりました。
1.LGBT理解増進法成立への強い不満がきっかけに
日本保守党の設立には、LGBT理解増進法の成立が大きなきっかけとなりました。この法案に対する自民党の対応に不満を抱いた百田氏と有本氏が、保守的な立場から新たな政党を立ち上げる決意を固めたとされています。
有本氏は、LGBT理解増進法の成立過程について、自民党内の保守系議員においては反対意見が多かったにもかかわらず、議論を打ち切って法案を提出し、わずか1時間半の審議で可決されたことを「非常に乱暴で民主主義の破壊だ」と批判しています。
また、百田氏は、LGBT理解増進法の成立が日本にとって「おぞましい未来」をもたらすと懸念し、自民党に対する失望から新党設立を決意したと述べています。
このように、日本保守党は、LGBT理解増進法の成立とその過程に対する強い反発が、設立の主要な動機となっています。
2.デジタルを活用した支持層の拡大
LGBT理解増進法に対する保守層の反発を背景に、百田と有本は2024年9月1日に「百田新党(仮称)」として党のXアカウントを開設しました。その後、2週間も経たずにXアカウントのフォロワー数が目標の20万人を超えたことを受け、党の正式名称を「日本保守党」と発表し、2024年12月には公式YouTubeチャンネルも開設。党の活動や政策に関する動画を公開しています。
また、党の代表である百田尚樹氏や事務総長の有本香氏が出演する街頭演説や記者会見の映像もYouTubeで配信されており、党の主張や活動内容を広く伝える手段として活用されています。さらに、党の支持者や関係者による非公式の応援チャンネルも存在し、日本保守党に関する情報や議論が活発に行われています。
このように、日本保守党はYouTubeを通じて党の理念や活動を広く発信し、支持者とのコミュニケーションを図っています。
参考・引用 日本保守党公式HP ABEMA TIMES
3.初の国政選挙で見せた存在感
2024年4月の東京15区の衆議院補欠選挙では、日本保守党は初めて国政選挙に公認候補として飯山陽氏を擁立しました。この選挙は、代表である右派論客の百田氏にとって国政選挙デビュー戦となり、街頭演説には、地元だけでなく全国から多くの支持者が集まりました。
選挙結果は、9人中4位で約2万4000票を獲得。勝利した立憲民主党の酒井菜摘氏には倍以上の票差をつけられて敗れましたが、5位の小池都知事が応援した都民ファースト推薦の乙武洋匡氏には4600票以上の差をつけ、3位の日本維新の会・金澤結衣氏にも約4200票差まで迫り、一定の票を得ました。
これには、各新聞が既存の保守政党に不満を持つ有権者の支持を集めた結果としたほか、安倍晋三元首相なき後の「自民不満層」の票を集めたと評価しています。
主な政策と主張
日本保守党は主に、右派として日本の伝統的な価値観を重視しつつ、政府与党の自民党に対しては批判的な立場をとっています。直接的な関係はありませんが、安倍晋三元首相の政策と共通する点もあるようです。
基本理念
- 日本の国柄(国体)を守る
日本の歴史・伝統・文化を大切にし、それを次世代に継承することを最優先とする。
皇室の尊重や神道的価値観など、古くからの日本的価値を重視。
- 家族や地域社会を基盤とした国家づくり
個人主義ではなく、「家族」「地域」「国」がつながった共同体の価値を重視。
- 自主独立した国家を目指す
外国に依存せず、日本の国益を最優先にする外交・安全保障政策を展開。
憲法改正、自衛力の強化を通じて、自らの手で国を守る体制を作る。
- 真実を伝える言論と自由を守る
いわゆる「偏ったメディア」や「言論の抑圧」に対抗し、「言いたいことが言える社会」を実現。
さらに、外交・安全保障・経済に関する政策や主張は、「日本の主権を守る」「国益を最優先する」という保守的な立場から展開されています。
主な政策・主張
- 憲法改正
自衛隊の存在を憲法に明記。戦後の体制を見直し、「真の独立国家」を目指す。
- LGBT理解増進法・ジェンダー政策に反対
2023年に成立した「LGBT理解増進法」に強く反対。男女平等の名の下での「行き過ぎたジェンダー政策」に反発。
- 移民政策に反対
外国人労働者の受け入れ拡大に慎重で、日本人の雇用や治安の悪化を懸念。移民よりも日本人の労働力や出生率向上を重視。
- 福祉の見直し(福祉排外主義)
外国人への生活保護などに反対。社会保障はまず日本国民のためにあるべきだという立場。
- 対中・対北外交の強化
中国や北朝鮮に対して強い姿勢を取るべきだと主張。安全保障や経済安全保障を重視。
- 教育の見直し
愛国心や道徳教育の強化。教育現場の左傾化に批判的。
さらに、外交政策では対中・対北朝鮮政策の強化や、中国や北朝鮮に対して毅然とした外交を主張し、特に中国の海洋進出や台湾問題に関して、日本の安全保障上の脅威と認識しています。北朝鮮による拉致問題についても、より強い対応と国際連携を求めています。
米国との関係については、日米同盟を重視し安全保障の柱として米国との協力関係を維持しつつ、「言うべきことは言う」姿勢を取るとしています。防衛力の強化については、防衛予算の増額を指示し、ミサイル防衛や反撃能力(敵基地攻撃能力)についても前向きな立場です。
経済政策については、消費税を減税、もしくは一時的なゼロ%も検討すべきという立場で、国民の生活負担軽減を重視し、物価高への対抗策と位置づけで、財政規律よりも景気回復を重視し、公共投資や減税などでデフレからの脱却を目指しています。
参考・引用 日本保守党公式HP
国民の反応と参院選の動向は
日本保守党は、既存の保守政党に対する不満や伝統的価値観の重視を訴えることで、特に若年層を中心に支持を広げています「今後、日本政治史のなかでも例外的な事態になり得る」との声まであり、発足してから1年余りで一定の票を得たことには驚きの声があがっています。
街頭演説の聴衆は熱狂するわけではなく、静かに演説を聴いている印象で、世代も若い層から高齢層まで幅広く、なかにはスイスから一時帰国したり、栃木県から駆けつけたりと遠方から来た人もおり、日本保守党のイメージカラーである青色の服を身に着ける人の姿が目立ちました。
有権者の中には、国に物申すためには投票しないといけないと思いつつ、投票先が見当たらなかったが、「やっと投票したいと思える政党ができた」との声もありました。
2025年の参議院選挙に向けて、日本保守党が候補者を擁立するかどうかについては、現時点では公式な発表がありません。朝日新聞の報道によれば、東京選挙区や宮城選挙区の立候補予定者一覧には日本保守党の名前は含まれていません。一方で、参院選の前哨戦となる東京都議選においては「擁立に向けて調整中」と報じられています。
まとめ
日本保守党が急速に一定の支持を集めたことには、政府・自民党への不満が大きくありました。政党不信に陥った理由の一つは、LGBTQ理解増進法がきっかけでしたが、「自民党は保守じゃない」という一貫したイメージや主張を一定数が支持したようです。
また、安倍元首相の支持層の受け皿としての存在も大きいとみられます。自民党や安倍派(清和政策研究会)と直接的な組織的関係はありませんが、日本保守党は、安倍政権の保守的な路線に近い立場をとっており、いわゆる「安倍路線の正統な継承者」を自認するような発言や姿勢も見られます。
このように、既存の保守政党に不満を持つ有権者の支持を集めていますが、今後の選挙の動向によっては、少数与党の自民党の票が流動する場面も見られるかもしれません。日本保守党の参院選や都議選での動向に注目が集まります。
