高市政権が掲げる「強い経済」の実現に向けて、高市首相の主導で「日本成長戦略会議」が発足し、2025年11月10日に初会合が開かれました。
高市首相はこの会議を経済政策づくりの司令塔と位置づけており、今後の日本の成長戦略を形づくる場として、政界内外から大きな関心が寄せられています。
以下では、日本成長戦略会議の設置目的や歴代政権における成長戦略会議の位置付け、そして初会合で議論された主要論点について、わかりやすく解説します。
1. 日本成長戦略会議とは?
日本成長戦略会議とは、高市早苗首相が閣議決定に基づいて新たに設置した、政府の成長戦略を具体化するための経済政策会議です。岸田文雄政権や石破茂政権の下で同様の閣議決定に基づいて設置されていた「新しい資本主義実現会議」は、閣議決定によって廃止され、その検討事項の一部は日本成長戦略会議へと引き継がれました。
日本成長戦略会議の目的について、政府は「リスクや社会課題に対して先手を打つ官民連携の戦略的投資を促進し、世界共通の課題解決に資する製品・サービス・インフラの提供を通じて、日本経済のさらなる成長を実現するため」と説明しています。また、高市首相も会議発足の理由について「日本経済のパイを中長期的に拡大し、強い成長を実現するため」と述べ、成長重視の姿勢を明確にしています。
日本成長戦略会議の議長は高市首相が務め、関係閣僚に加えて、経済界や学者など複数の民間有識者が参加しています。
引用:内閣官房HP
参考:日経新聞
2. 歴代政権における成長戦略会議の位置付け
日本成長戦略会議は高市政権によって新設されたものの、歴代政権も経済を成長させるための戦略を検討する会議を設けてきました。また、日本成長戦略会議発足の背景には第二次安倍政権以降の成長戦略づくりの流れが存在することが指摘されています。以下では、安倍政権から菅政権・岸田政権・石破政権、そして高市政権へと続く経済政策会議の変遷を整理します。
(1)安倍政権:成長戦略の枠組みを強化
第二次安倍政権は、アベノミクスの推進役として、総理大臣を議長とする「日本経済再生本部」を閣議決定により設置し、政府全体で成長戦略を進める体制を整えました。また、2016年には、未来産業の育成を目的とした「未来投資会議」を立ち上げています。こうした一連の会議は、「成長を政府が主導する」という政策姿勢を特徴としており、日本成長戦略会議の前身的な位置づけとして指摘されています。
(2)菅政権:官房長官主導の成長戦略会議への転換
安倍政権退陣後、菅政権は未来投資会議を廃止し、新たに「成長戦略会議」を設置しました。同会議は、経済財政諮問会議と役割を分担しつつ、産業政策や成長戦略を専門的に議論する場として機能し、議長を内閣官房長官とした点が特徴です。
(3)岸田政権〜石破政権:「新しい資本主義」への転換
岸田政権は、安倍政権以降の流れを引き継ぎながらも、「成長と分配の好循環」を実現する「新しい資本主義」を掲げ、賃上げや中間層の厚みを確保する施策に重点を置きました。その中核として、総理大臣を議長とする「新しい資本主義実現会議」を設置しました。続く石破政権も同会議を継続し、「賃上げこそ成長戦略の要」と位置づけるなど、成長と分配を両立させる政策路線を維持しました。
(4)高市政権:再び「成長」を政策の中心に
高市政権では、まずは成長を取り戻すことが賃上げの前提になるとして、「日本成長戦略会議」を新たに設置しました。特に「危機管理投資」を政策の柱とし、従来の「成長と分配の好循環」から、成長戦略をより前面に押し出す路線へと転換した点が特徴です。
このように、歴代政権は経済情勢や政策理念に応じて会議体の目的や役割を調整してきました。その結果、成長戦略会議の名称や内容には、それぞれの政権が重視した政策分野が反映されているといえます。
3. 日本成長戦略会議、初会合の具体的内容
日本成長戦略会議の初会合は2025年11月10日に開催され、全閣僚が出席しました。会合では、物価高への対応を進めつつ、「危機管理投資」と「成長投資」を両輪として日本の供給力を抜本的に強化する方針が示されました。こうした方針を具体化するため、17の「戦略分野」と 8つの「分野横断的課題」が選定されました。
17の戦略分野
AI・半導体/造船/量子/バイオ/航空・宇宙/デジタル・情報安全/コンテンツ/フードテック/資源エネルギーGX/防災・国土強靱化/創薬・先端医療/核融合/重要鉱物/港湾ロジスティクス/防衛/情報通信/海洋
8つの分野横断的課題
スタートアップ支援/金融を通じた潜在力向上/労働移動・労働市場改革/賃上げ環境の整備/大学改革・人材育成/国際競争力の強化/女性の働き方改革/サイバーセキュリティ
政府はこれらの分野に関して、民間投資を後押しするための新たな減税措置を検討しており、官民一体での成長分野育成を進める方針です。また高市首相は、各分野の投資規模や達成目標を整理する「官民投資ロードマップ」の作成を指示しました。今後は、有識者を交えた議論を重ね、2026年夏をめどに成長戦略の取りまとめを目指すとしています。
引用:首相官邸HP
4. 日本成長戦略会議に対する評価
日本成長戦略会議については、政府が産業支援に積極的に舵を切った点を評価する声がある一方で、政策の方向性や重点分野の設定をめぐって課題も指摘されています。
まず評価されている点として、高市政権が掲げる「危機管理投資」が明確に位置づけられた点です。これまでの規制改革中心のアプローチに加えて、政府が戦略的に重点分野へ投資し、供給力や産業競争力の強化を図る姿勢は、世界的に進む産業政策の流れにも合致すると受け止められています。特に、AI・半導体、エネルギー安全保障、防衛産業といった国家戦略分野に対し、国が積極的な投資を行う方針は、国内産業の底上げにつながるとの期待が寄せられています。
一方で、提示された17分野は範囲が広く、国土強靱化など従来型の公共事業も含まれることから、政策の優先順位が不明確で「ばらまき」ではないかとの批判もあります。
さらに、地球環境問題への対応が求められる中で、「脱炭素」が戦略分野の中心に位置づけられていない点も課題として指摘されています。GXの一部に含まれるとの説明はあるものの、「脱炭素」が主軸から後退したように見えるとの懸念が示されています。
まとめ
日本成長戦略会議は、高市政権が掲げる「強い経済」の実現に向け、政府が成長分野を明確化し、戦略的に投資を進めるための中核的な政策会議として位置づけられています。AI・半導体やエネルギー安全保障などの国家戦略分野に対し、官民連携による大規模投資を進める方針は、世界的な産業政策の流れとも合致し、供給力の強化に向けた積極姿勢として評価されています。一方で、17分野の項目設定が幅広く、政策の重点が不明確になりかねないとの指摘など、改めて検討が求められています。今後は、選択と集中による明確な優先順位づけとともに、それらをどのように実現させていくのか、注目が集まります。













