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政治ドットコム政治用語「国旗損壊罪」とは?概要や主要論点をわかりやすく解説

「国旗損壊罪」とは?概要や主要論点をわかりやすく解説

投稿日2025.12.17
最終更新日2025.12.17

2025年10月27日、参政党は日本国旗を破いたり燃やしたりする行為を処罰対象とする「日本国国章損壊罪」を盛り込んだ刑法改正案、いわゆる「国旗損壊罪」法案を参議院に提出しました。

国旗損壊罪の創設は、自民党と日本維新の会が10月に署名した連立政権合意書にも明記されており、高市政権の下で法改正が実現する可能性が高まっています。そのため、国旗損壊罪をめぐる議論は一段と注目を集めています。

以下では、国旗損壊罪の内容や立法の目的、そして想定される懸念点について、わかりやすく整理して解説します。

1. 国旗損壊罪とは?

国旗損壊罪とは、国家を侮辱する目的で国旗に物理的な侵害を加える行為を処罰するものです。

現在の日本の刑法には、日本の国旗を損壊した場合に適用される規定はありません。

一方、外国の国旗については、刑法第92条において「外国国章損壊罪」がすでに存在します。外国国章損壊罪では、「外国に対して侮辱を加える目的で、その国の国旗その他の国章を損壊し、除去し、又は汚損した者は、二年以下の拘禁刑又は二十万円以下の罰金に処する」ことが規定されています。ただし、外国政府の請求がなければ公訴を提起することができない「親告罪」とされています。

こうした状況の中で、日本の国旗についても同様の保護を与えるべきだという議論が以前からあり、今回の動きにつながっています。

なお、国旗損壊罪の新設をめぐる動きは今回が初めてではありません。2012年には、当時の野党であった自民党が同様の刑法改正案を提出しましたが、審議未了で廃案となりました。このとき、法案提出を主導したのが現在の高市首相であり、国旗保護の重要性を訴えてきた経緯があります。

引用:刑法第92条

参考:高市早苗議員HP

2. なぜ今、国旗損壊罪が議論されているのか?

日本の国旗を対象とした「国旗損壊罪」の創設は過去にも試みられてきましたが、いま再び議論が活発化しています。その背景には、参政党による法案提出と、自民党・日本維新の会の連立政権合意という、政治的な動きの重なりがあります。

① 参政党による法案提出

参政党は今回の法案提出にあたり、「日本国に対して侮辱を加える目的で国旗や国章を損壊・除去・汚損する行為について、処罰規定を整備する必要がある」と説明しています。

さらに、神谷宗幣代表は、2025年7月の参院選の街頭演説において、日の丸にバツ印をつけて抗議する人物がいたことを具体例に挙げ、「国家への冒涜にあたるため、早期に法制化すべきだと考え、選挙期間中から準備を進めていた」と述べています。こうした「国旗侮辱」への問題意識が、法案提出を後押しした形です。

② 自民党・日本維新の会が連立合意で明記

国旗損壊罪の議論を大きく加速させたのが、自民党と日本維新の会による連立政権合意書です。2025年10月20日に両党が締結した「自由民主党・日本維新の会 連立政権合意書」には、「来年の通常国会で『日本国国章損壊罪』を制定し、外国国章損壊罪のみが存在する矛盾を是正する」と明記されています。

また、連立政権合意書に国旗損壊罪の創設が組み込まれた背景には、高市首相と日本維新の会の双方が、国旗・国歌をめぐるルール形成に強い関心を持ってきたという点が指摘されています。

日本維新の会の「国旗・国歌」へのこだわり

日本維新の会は大阪を中心に、国旗・国歌に関するルール化を積極的に主導してきました。代表例として、大阪府議会で教職員に君が代の起立斉唱を義務づける全国初の条例の成立や、府施設での国旗掲揚を義務づけなどがあります。当時、条例を提案したのは橋下徹知事率いる大阪維新の会で、「我が国と郷土を愛する意識の高揚」を目的とするものでした。国旗・国歌に対する維新の政策的こだわりは、現在も強く引き継がれていることが指摘されています。

高市首相の長年の問題意識

高市首相も国旗保護の必要性を以前から訴えてきました。2012年、旧民主党政権下で自民党が野党だった際、高市氏を中心に「国旗損壊罪」を盛り込んだ刑法改正案が国会に提出されています。結果的に廃案となりましたが、高市氏は当時から「日本国に対する侮辱目的の国旗損壊」への罰則導入を一貫して主張してきました。

上記のように、参政党の法案提出に加えて、自民党・維新の連立合意で法制化が明確化されるという複数の動きが重なったことで、国旗損壊罪の立法が現実味を帯びた政治課題になっていることが、今議論が高まっている理由といえます。

引用:参政党HP自民党HP

参考:毎日新聞

3. 国旗損壊罪をめぐる賛成派と反対派の意見

国旗損壊罪の創設をめぐっては、法的な均衡性の観点から導入を求める声がある一方、表現の自由を侵害する可能性を懸念する声も強く、議論が分かれています。

まず、賛成派が強調するのは、いわゆる「法のねじれ」の問題です。現在の刑法では、外国の国旗を対象とした「外国国章損壊罪」があるのに対して、日本の国旗については同様の規定が存在しません。賛成派は、この不均衡を是正し、自国の国旗も外国と同じように法的に保護すべきだと主張しています。

また、国際的な整合性の面でも、ドイツやフランス、イタリア、中国などの国が自国の国旗損壊を処罰していることから、日本も同様の制度を設けるべきだという意見があります。

一方、反対派が最も強く懸念するのは、憲法が保障する表現の自由や思想の自由が制約される可能性です。国旗を焼く、印を付けるといった行為は、これまでも政府や政党に対する抗議の手段として用いられてきました。これを刑罰によって規制すれば、政治的意思表示の萎縮につながりかねず、国家への敬意を事実上強制する結果になりかねないという指摘があります。

さらに、賛成派が指摘する「外国国旗が保護されているのに自国の国旗が保護されないのは矛盾」という主張についても、反対派は根本的な立法目的の違いを指摘しています。

外国国章損壊罪が設けられている理由は、外国の国旗損壊が国際紛争の火種となり、日本の外交関係にも悪影響を及ぼす可能性があるためです。2012年の刑法改正案を提出時において、日本弁護士連合会は、このような外交上の理由は日本の国旗損壊には当てはまらず、「外国国章損壊罪と同様の存在意義は認められない」と述べています。

このように、国旗損壊罪をめぐる議論は、自国の象徴の尊重をどのように位置づけるかという問題と同時に、表現の自由という民主主義の根幹をどう守るかという問題が交差する、非常に複雑なテーマとなっています。

引用:首相官邸HP日本弁護士連合会

参考:読売テレビ毎日新聞

4. 国旗損壊罪法案に対する主要政党の立場

自民党・日本維新の会・参政党の3党は、国旗を損壊した場合に刑事罰を科す「国旗損壊罪」の新設に前向きな姿勢を示しており、法案成立に向けた動きが強まっています。

また、国民民主党の玉木代表は、現行の外国国章損壊罪では外国の国旗が保護されている一方、日本の国旗については同様の規定がない点を「ダブルスタンダードではないか」と指摘し、新設に前向きな立場を示しています。

しかし、自民党内でも意見は一枚岩ではありません。外国国章損壊罪が外交上のトラブルを避けるために設けられたことを踏まえると、国内向けの国旗損壊罪については同様の必要性(立法事実)が乏しいとの慎重論があります。岩屋毅前外相は、「現在、日の丸が破られたり燃やされたりして社会問題化している状況にはない」とし、国旗尊重の意識が社会に根付いている以上、「法律によらずにその状態が保たれることが望ましい」と述べています。

立憲民主党も、新設に対して慎重な立場です。野田代表は、「損壊といってもさまざまなケースがあり、法案の中身を見なければ判断できない」と述べ、対象行為の範囲や表現の自由への影響など、個別の論点を丁寧に検討する必要があるとの考えを示しています。

このように、自民党・日本維新の会・参政党の3党が国旗損壊罪の創設を推進する一方で、自民党内の一部議員や立憲民主党は、国旗尊重のあり方や法的整合性、表現の自由への影響などをめぐって慎重な姿勢をとっています。法案の行方は、今後の国会審議でどのような論点が深まるかに左右されることになりそうです。

引用:毎日新聞

参考:立憲民主党HP産経新聞

まとめ

日本の国旗に物理的な侵害を加える行為を処罰する国旗損壊罪をめぐる議論は、自民党と日本維新の会の連立政権合意に明記されたことに加えて、参政党による法案提出されたことで、一気に現実味を帯びた政策課題として注目を集めています。主要政党の間でも意見は分かれており、賛否ともに多面的な論点が存在することから、今後の国会審議では、立法の必要性や表現の自由との関係、対象行為の範囲、罰則の妥当性、といった論点がどこまで深められるかが焦点になります。国旗への敬意をどのように位置づけるべきか、そして民主主義社会における政治的表現をどう守るべきか、国旗損壊罪の議論は私たち自身の価値観が問われるテーマでもあります。

   
この記事の監修者
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株式会社PoliPoli 政府渉外部門マネージャー 秋圭史
慶應義塾大学法学部政治学科卒業後、東京大学大学院に進学し、比較政治学・地域研究(朝鮮半島)を研究。修士(学術)。2024年4月より同大博士課程に進学。株式会社PoliPoliにて政府渉外職として日々国会議員とのコミュニケーションを担当。(紹介note:https://note.com/polipoli_info/n/n9ccf658759b4)