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政治ドットコム政治用語「給付付き税額控除」とは?仕組みや課題点、各政党の立場をわかりやすく解説

「給付付き税額控除」とは?仕組みや課題点、各政党の立場をわかりやすく解説

投稿日2025.11.12
最終更新日2025.11.12

高市早苗首相は就任記者会見で、「給付付き税額控除」の制度設計を早期に進める意向を表明しました。この制度は、2025年7月の参議院選挙において、複数の野党が公約として掲げており、与野党をまたいで注目を集める政策の一つとなっています。

給付付き税額控除とは、所得税の一定額を控除したうえで、控除しきれない分を現金給付によって補う仕組みを指します。

以下では、給付付き税額控除の仕組みや課題点、そして各政党の立場について詳しく解説します。

1. 給付付き税額控除とは?

給付付き税額控除とは、減税(税額控除)と現金給付を組み合わせた仕組みのことを指します。納めるべき税金から一定額を差し引く(減税する)とともに、仮に所得が少なく税金を引ききれない場合でも、その差額分を現金で受け取ることができる制度です。

高市首相は、10月21日の就任記者会見でこの制度について、「税・社会保険料負担でなかなか大変な中・低所得者層の方々の負担を軽減し、所得に応じて手取りが増えるようにするもの」と説明しています。

従来の減税策では、所得税を多く納めている人ほど恩恵が大きく、所得が低い人や非課税世帯には効果が届きにくいという課題がありました。給付付き税額控除は、こうした課題を解消し、所得の低い層にも確実に支援を届けることを目的とした制度です。

給付付き税額控除はすでに海外では導入が進んでおり、主に二つのタイプに分かれています。一つ目は、当初は控除と給付を組み合わせて運用し、その後に全額給付型へ移行した国で、英国やフランスが代表例です。二つ目は、現在も控除と給付の併用を維持している国で、米国やカナダなどが挙げられます。

引用:首相官邸

参考:日経新聞

2. 給付付き税額控除のメリットと課題

給付付き税額控除の導入には、多くの国で実績がある一方で、制度運営の難しさも指摘されています。ここでは、その主なメリットと課題を整理します。

【メリット】所得再分配・逆進性の是正・就労インセンティブの強化

給付付き税額控除を導入することで、消費税の逆進性を緩和できるほか、物価上昇の影響を受けやすい中低所得層の所得を補い、生活の安定を図る効果が期待されます。さらに、働くほど手取りが増える仕組みであるため、生活保護や現金給付に比べて、就労意欲を高める効果を持つ点も利点として指摘されています。

【課題】財源確保・不正受給・制度運営の複雑さ

一方で、税額控除と給付の双方を支える財源をどのように確保するかが大きな課題とされています。実際、控除と給付を組み合わせて制度を始めた英国やフランスでは、制度の複雑さや運用コストの高さが問題となり、最終的に全額給付型へ移行しました。また、雇用主や行政の事務負担が重くなることや、所得が毎年変動する人を正確に捕捉する難しさから、誤支給や不正受給のリスクも指摘されています。

参考:野村総合研究所日経新聞

3. 給付付き税額控除の制度設計をめぐる論点

こうしたメリットや課題が指摘されるなかで、高市首相は、給付付き税額控除の制度設計を早期に進める意向を示しました。しかし、日本で給付付き税額控除の制度を導入するにあたって、以下3つの論点が指摘されています。

① 所得の正確な把握

まず課題として挙げられるのが、所得をどのように正確に把握するかという点です。

給付付き税額控除は、所得に応じて支援を行う制度であるため、所得情報の正確性がその基盤となります。しかし、現在の日本では給与所得については比較的正確に把握できるものの、金融所得や不動産所得、事業所得などの捕捉が難しいと指摘されています。こうした所得把握の不十分さをどう補うかが、日本で制度を導入する際の大きな論点となっています。

② 給付金の支払い体制

次に課題となるのが、給付金を支払う体制をどう構築するかという点です。

マイナンバーによって一定の情報を名寄せすることは可能ですが、新たな給付対象を特定するための照合作業は膨大になると見込まれます。さらに、マイナンバーと連携した「公金受取口座」は、対象者に迅速に給付を行うインフラとして期待されていますが、登録件数は約6,300万口座にとどまっています。そのため、未登録者への申請受付など追加業務の発生が予想されています。

また、給付金の支払い事務を担う地方自治体からは、すでに作業負担が重いとの声も上がっています。給付付き税額控除の事務手続きはさらに複雑になるため、支給業務を自治体に委ね続けることができるかについては慎重な検討が必要とされています。

③ 制度の対象範囲の設定

最後に重要となるのが、制度の対象とする国民の範囲をどのように設定するかという点です。給付付き税額控除の制度設計は、政策目的によって方向性が大きく異なります。

海外では、支援対象を明確に限定する例が多く見られます。たとえば、米国では25〜64歳、英国では18〜65歳を対象とし、「現役世代への支援」という目的を明確にしています。

一方、日本では、高齢者のなかにも少ない年金で生活を切り詰めている人が少なくありません。そのため、高齢者を給付付き税額控除の対象に含めるのか、それとも低年金対策を別の仕組みで講じるのかが、制度設計の大きな論点となります。

参考:第一生命研究所SOMPOインスティチュート・プラス日経新聞

4. 給付付き税額控除に対する各党の立場

給付付き税額控除の制度設計をめぐってさまざまな論点が指摘されるなか、主要政党の多くが導入そのものには賛成の立場を示しています。

たとえば、7月の参議院選挙では、立憲民主党・日本維新の会・国民民主党が給付付き税額控除を公約として掲げました。また、自民・公明・立憲民主の3党は、9月に制度設計に関する協議に入っています。さらに、自民党と日本維新の会は、連立政権樹立の合意書に「給付付き税額控除の実現を図る」と明記しています。

一方で、各党が重視する政策目的は異なっており、制度の位置づけや狙いに違いが見られます。

自民党は、中低所得者層の社会保険料負担を軽減することを主な目的としていることが指摘されています。他方で、立憲民主党は、消費税の逆進性を緩和するための対策として、消費税の一部を所得に応じて給付や還付の形で実質的に戻す仕組みを構想しています。日本維新の会は、現役世代の社会保険料負担軽減や物価高騰への支援を目的とし、勤労税額控除としての性格も重視しています。さらに、最低所得保障制度の一環として給付付き税額控除を位置づける考えを示しています。

このように、給付付き税額控除をめぐっては、政党間で方向性こそ一致しているものの、政策目的や制度の位置づけには違いが見られます。誰を中心に支援するのかという制度設計のあり方が、今後の議論の焦点となる見通しです。

参考:大和総研日経新聞

まとめ

減税と現金給付を組み合わせる「給付付き税額控除」は、従来の減税策では恩恵を受けにくかった層にも確実に支援を届けられる点が注目されています。一方で、財源確保や所得の正確な把握、給付体制の整備など、制度運営上の課題も多く残されています。

また、主要政党の多くが導入自体には賛同しているものの、目的や制度の位置づけには違いが見られます。今後は、誰を対象とし、どの所得層を中心に支援するのか、そしてどのような仕組みで公平かつ効率的に給付を実現するのか、与野党の枠を超えた議論を通じて持続可能で実効性のある制度設計が求められています。

   
この記事の監修者
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株式会社PoliPoli 政府渉外部門マネージャー 秋圭史
慶應義塾大学法学部政治学科卒業後、東京大学大学院に進学し、比較政治学・地域研究(朝鮮半島)を研究。修士(学術)。2024年4月より同大博士課程に進学。株式会社PoliPoliにて政府渉外職として日々国会議員とのコミュニケーションを担当。(紹介note:https://note.com/polipoli_info/n/n9ccf658759b4)