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自由貿易とは? 概要や目的、最近の動向をわかりやすく解説

投稿日2025.4.28
最終更新日2025.04.28

トランプ米大統領による関税政策をきっかけに、中国をはじめとする一部の国・地域が報復関税や貿易規制措置で応じるなど、世界的に自国の産業を守ろうとする保護主義の傾向が強まっています。

こうした動きの中で、商品やサービスが自由に国境を越えて取引される「自由貿易」そのもののあり方が問われています。

以下では、自由貿易の概要や目的、メリット及びデメリットを解説するとともに、自由貿易をめぐる国際的な動向、日本の役割についてわかりやすく解説します。

1. 自由貿易とは

自由貿易とは、国際間における財貨やサービスの取引に際し、各国が原則として貿易政策や為替政策による政府の介入を行わず、市場の価格調整機能に委ねる仕組みを指します。

この自由貿易を推進し、ルールづくりや貿易紛争の処理を担ってきたのが、スイスに本部を置く世界貿易機関(WTO)です。WTOは、保護主義が第2次世界大戦を引き起こした一因であるとの反省に立ち、自由貿易の促進を目的として1948年に発効した関税および貿易に関する一般協定(GATT)を前身としています。現在では約170の国と地域が加盟しています。

さらに、自由貿易の考え方の根底には、「比較優位」という経済理論があります。これは、各国が自国にとって得意な物品の生産に特化し、それを必要とする他国に供給することで、世界全体として効率的な資源配分がなされ、経済成長につながるという考え方です。このような理論に基づき、自由貿易は関税などによって国内産業を保護する保護主義とは対照的に、市場原理を重視する国際経済秩序の実現を目指しています。

実際、国際貿易の拡大は世界各国の国内総生産(GDP)と連動しており、各国経済の成長を力強く後押ししてきました。

引用:衆議院

参考:日経新聞

2. 自由貿易のメリット・デメリット

自由貿易には、経済の成長や消費者の利益を促進する多くのメリットがあります。経済産業省は、主に以下の点を自由貿易の利点として挙げています。

  • 経済規模の拡大

各国が自国の得意とする分野に特化し、それを輸出する一方で、他国の得意な製品を輸入することで、より効率的な資源配分が実現されます。こうした分業と交易によって全体の生産性が向上し、結果として経済規模の拡大が期待されます。

  • 消費者の購買力向上

自由貿易によって国際競争が促進されると、輸入品が国内市場に多く流入し、価格競争が生じます。これにより、消費者は同じ品質の商品をより安価で購入できるようになり、生活の質の向上にもつながります。

  • 生産性向上

貿易を通じて海外の新たな技術や知見が国内に流入し、企業はより効率的な生産方法や革新的な製品の開発に取り組むようになります。このような競争環境は、企業の努力を促進し、経済全体の生産性向上に寄与します。

一方で、自由貿易に関連して、以下のような懸念も指摘されています。

  • 国内産業の停滞

自由貿易の進展により、競争力の低い国内産業が圧迫されることがあります。特に農産品では、安価な輸入品により国内農家が打撃を受け、生産や収益が減少する可能性があります。

  • 所得格差の拡大

自由貿易は高いスキルを有するホワイトカラー層に有利に働く一方、いわゆるブルーカラー層には賃金の低下や雇用減少などの不利益をもたらすことがあります。過去に、アメリカでは北米自由貿易協定(NAFTA)の影響で、ブルーカラー層の賃金が相対的に下がり、所得格差が拡大したとの指摘があります。

上記の点を踏まえると、自由貿易はグローバルな経済成長を促進し、消費者にとっては利益をもたらす一方で、国際競争に敗れた国内の産業や労働者には厳しい影響を与えることがあります。ここから、貿易の自由化を進める際には、このようなデメリットをどう軽減するかが重要な課題といえます。

参考:経済産業省独立行政法人経済産業研究所

3. 自由貿易の限界としてのトランプ関税

自由貿易は、経済の成長や消費者利益をもたらす有効な手段として推進されてきました。その一方で、自由貿易への反発も世界各地で見られるようになっています。その象徴的な事例がトランプ米政権下で導入された追加関税、いわゆる「トランプ関税」です。この政策の背景には、自由貿易がもたらした経済の二極化が指摘されています。

具体的に、グローバリゼーションの進展やIT・デジタル革命の影響により、中間的な賃金水準の職が減少し、労働市場は高賃金層と低賃金層に分断されつつあります。とりわけ、低スキル労働者は国際競争や技術革新の影響を強く受け、低賃金の職に流れることを余儀なくされ、その賃金すらもさらに下落するという悪循環が指摘されています。

このような所得の二極化や中間層の没落は、経済のみならず政治にも影響を及ぼしています。例えば、これまで中間層の支持を受けてきた中道派の政党は、その支持基盤を失い、代わってポピュリズムを掲げる極端な左右両派の政党が支持を拡大する傾向が強まっています。トランプ氏が支持を集めた背景の一つとして、中間層の不満を吸収し、保護主義的な政策を掲げた結果であることも指摘されています。

以上の指摘を踏まえると、トランプ関税は単なる通商政策の転換ではなく、自由貿易体制の限界を示す象徴的な動きであり、自由貿易の影の部分である格差の拡大や雇用の喪失に対する社会的な反動として捉えることができます。

参考:東洋経済オンライン

4. 自由貿易における日本の役割

自由貿易の限界が表面化する中で、日本にはどのような役割が求められているのでしょうか。

資源や食料を海外に依存し、人口減少が進行する日本にとって、世界との連携は欠かせません。日本企業が活躍する場所を狭めないためにも、日本が自由貿易体制を維持する旗頭にならなければいけないとの指摘があります。

その一例として、日本政府が特に重視している自由貿易協定である環太平洋経済連携協定(TPP)が挙げられます。2018年に発足したTPPには、日本を含む12カ国が参加しており、域内の人口は約5億8000万人、世界のGDPの約15%を占めています。

一方で、TPPの発効には、第1次トランプ政権下でアメリカが2017年にTPPから離脱したという困難な状況がありましたが、日本は残る11カ国との交渉を主導し、2018年に協定を発効させました。この過程で、日本は自由貿易の枠組みを維持し、さらに拡大する上で中心的な役割を果たしました。

現在、EUとTPP加盟国との連携強化に向けた議論も進んでおり、日本は引き続き自由貿易のリーダーとして、そのルール作りに重要な貢献をすることが期待されています。

参考:読売新聞日経新聞

まとめ

自由貿易は、財やサービスを自由に交換することで経済成長を促す仕組みです。これまで自由貿易は、経済規模の拡大や消費者の購買力向上、生産性の向上など多くの恩恵をもたらしてきた一方で、国内産業の衰退や所得格差の拡大といった負の側面も指摘されています。

こうした中で、日本は、資源や食料を海外に依存し、国内市場が縮小するという構造的課題を抱えていることから、自由貿易体制の維持が不可欠です。TPPをはじめとする多国間貿易協定において、日本は中心的な役割を果たしており、今後も自由貿易のルール作りを主導していくことが期待されています。

自由貿易のメリットを維持しつつ、格差の是正や国内産業の支援といった課題にどう対応していくかが問われており、日本を含む各国の今後の動向に注目が集まります。

この記事の監修者
秋圭史(株式会社PoliPoli 渉外部門)
慶應義塾大学法学部政治学科卒業後、東京大学大学院に進学し、比較政治学・地域研究(朝鮮半島)を研究。修士(学術)。2024年4月より同大博士課程に進学。その傍ら、株式会社PoliPoliにて政府渉外職として日々国会議員とのコミュニケーションを担当している。(紹介note:https://note.com/polipoli_info/n/n9ccf658759b4)

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