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カスタマーハラスメント対策とは?現在の政策をわかりやすく解説

投稿日2025.2.18
最終更新日2025.02.18

顧客や取引先が企業や従業員に対して、常識の範囲を超える迷惑行為や不当な要求を行う「カスタマーハラスメント」が問題となっています。

東京都では、カスタマーハラスメント対策を強化するため、全国に先駆けて「東京都カスタマーハラスメント防止条例」を制定しました。2025年2月現在、国においても法案提出に向けて議論が進んでいます。本記事では、カスタマーハラスメントの定義や問題となった背景、そして現在の対策の状況について詳しく解説します。

カスタマーハラスメントとは?

カスタマーハラスメントとは、顧客や取引先が企業や従業員に対して、常識の範囲を超える迷惑行為や不当な要求を行うことです。

例えば、以下のような行為がカスタマーハラスメントに当たります。

暴言・脅迫: 大声でのクレーム、人格否定、差別的な発言、土下座の強要など

執拗なクレーム: 長時間にわたる苦情、同じ内容の繰り返し、執拗な電話やメールなど

不当な要求: 返品・返金の強要、過剰なサービス要求、言いがかりなど

嫌がらせ: SNSでの誹謗中傷、氏名・顔写真など個人情報の暴露、待ち伏せなど

暴力行為: 身体的な攻撃、脅迫、器物破損など

カスタマーハラスメントによって企業の活動が阻害されている

カスタマーハラスメントは企業にどのようなダメージを与えているのでしょうか。例えば、企業にとっては以下のようなダメージがあります。

従業員の心身への負担: ストレス、うつ病、PTSD(心的外傷後ストレス障害)など

従業員の離職: 精神的な負担から退職する従業員が増加する

業務効率の低下: 特定の顧客の対応に追われる、業務中断など

企業のイメージダウン:他の顧客への影響など

カスタマーハラスメントが行われる背景

では、なぜカスタマーハラスメントが行われるようになったのでしょうか。その原因として、経済が停滞するなかで「お客様は神様」という考え方が浸透したことが挙げられます。

「お客様は神様」という言葉は、日本のサービス業において、お客様を最大限に尊重し、丁寧な対応を心がけることを意味する言葉として広く知られています。1990年代のバブル崩壊後、経済が停滞するなかで「お客様は神様」という考え方が広まりました。

しかし近年では、「お客様は神様」という言葉が、カスタマーハラスメントを正当化する言葉として使われるケースも増えており、問題視されています。

カスタマーハラスメント対策としてできることとは

カスタマーハラスメント対策として、一部の企業ではカスタマーハラスメント対策マニュアルの作成や従業員研修の実施、相談窓口の設置など、具体的な対策を講じています。

ここでは、企業が取り組むべきカスハラ対策の具体例を、3つの段階に分けてご紹介します。

1. カスタマーハラスメントを未然に防ぐための事前対策

従業員教育:カスハラに関する定義や具体例、対応方法などを学ぶ研修を実施します。ロールプレイング形式で、具体的な対応方法を練習することもあります。

マニュアル作成:カスハラが発生した場合の対応手順を明確に定めたマニュアルを作成します。マニュアルには、相談窓口の連絡先や、具体的な対応方法などを記載します。マニュアルを全従業員に配布し、内容を周知します。

相談窓口の設置:カスタマーハラスメントに関する相談窓口を設置します。相談窓口には、専門の相談員を配置し、従業員が安心して相談できる環境を整えます。相談内容に応じて、適切なアドバイスやサポートを提供します。

職場環境の改善:従業員が安心して働けるよう、職場環境を改善します。

2. カスタマーハラスメント発生時における対策

状況の把握:カスタマーハラスメントが発生した状況を、正確に把握します。日時、場所、行為の内容、目撃者などを記録します。必要に応じて、証拠となる写真や動画などを収集します。

従業員の安全確保:従業員の安全を最優先に確保します。危険な状況であれば、速やかに警察に通報します。

毅然とした対応:カスタマーハラスメントに対しては、毅然とした態度で対応します。相手の言い分を冷静に聞き、丁寧に説明しますが、不当な要求には応じません。必要に応じて、警察や弁護士に相談します。

記録作成:カスタマーハラスメント発生時の状況や対応内容を、詳細に記録します。

3. 事後対策:再発防止と従業員のケア

メンタルケア:カスハラ被害に遭った従業員に対し、メンタルケアを行います。カウンセリングや休養など、必要なサポートを提供します。

原因究明:カスタマーハラスメントが発生した原因を究明します。原因に応じて、再発防止策を検討します。

再発防止策の実施:検討した再発防止策を実施します。従業員教育の強化、マニュアルの見直し、職場環境の改善などを行います。

従業員への情報共有:カスハラの発生状況や対応内容、再発防止策などを従業員に共有します。情報共有を通じて、従業員の不安を解消し、安心感を提供します。

カスタマーハラスメント対策の政策課題

現在、カスタマーハラスメント対策は主に各企業が自主的に取り組んでいます。一方で、従業員を保護するため、カスタマーハラスメントの明確な定義や法的規制が必要だという声も上がっています。

東京都は、2024年に全国に先駆けてカスタマーハラスメント防止条例を策定しました。この条例では、カスタマーハラスメントを「客から就業者に対しその業務に関して行われる著しい迷惑行為で、就業環境を害するもの」と定義したうえで「何人も、あらゆる場においてカスタマーハラスメントを行ってはならない」などと規定しています。

新しい法律を整備する動きもあります。国民民主党は、2024年5月に参議院に、2024年12月に衆議院に、「カスタマーハラスメント対策法案」(消費者対応業務関連特定行為対策の推進に関する法律案)を提出しました。カスタマーハラスメント対策法案では、カスタマーハラスメントを「著しく粗野又は乱暴な言動を行うことその他の行為であって従業者等に業務上受忍すべき範囲を超えて精神的又は身体的な苦痛を与えるおそれのあるもの」と定義し、国や事業者の責務を定めています。この法案はいずれも議員立法で、国会で可決されず成立しませんでした。

また、自民党も2024年5月にカスタマーハラスメントに関する法整備や政府の支援強化について盛り込んだ「カスタマーハラスメントの総合的な対策強化に向けた提言」をとりまとめました。

政府内でも検討が進んでいます。2024年12月には、厚生労働省の審議会で「女性活躍の更なる推進及び職場におけるハラスメント防止対策の強化について」をとりまとめました。ここでは、カスタマーハラスメントの定義を①顧客や取引先、施設利用者、そのほかの利害関係者が行うこと、②社会通念上相当な範囲を超えた言動であること、③労働者の就業環境が害されることの3つの要素をいずれも満たすものとしています。また、企業の方針を明確化して周知・啓発を行うことや、労働者からの相談に応じて適切に対応するための体制の整備などの取り組みを企業に義務付けることを盛り込んでいます。厚生労働省では、このとりまとめの内容を踏まえた法律案を今年の通常国会に提出する見込みです。

内閣提出法案と議員立法の違いについては以下の記事も参考にしてください。

https://say-g.com/cabinet-submission-bill-758#i-6

まとめ:カスタマーハラスメント対策のこれから

カスタマーハラスメントは、顧客や取引先が企業や従業員に対して、常識の範囲を超える迷惑行為や不当な要求を行うことです。経済の低成長下において「お客様は神様」という考え方が社会に広まったことで引き起こされました。

2025年2月現在、各企業が自主的にカスタマーハラスメント対策を行っていますが、企業活動の促進や従業員の保護のため、法的規制を求める声もあがっています。政府は、カスタマーハラスメントを禁止し、企業に対してカスタマーハラスメント対策を義務付ける法律案を今年の通常国会に提出する予定です。

カスタマーハラスメントは、単なる迷惑行為ではなく、人権侵害にあたる行為であることを社会全体の意識を高めることが重要です。カスタマーハラスメントのない社会を目指すためには、私たち一人ひとりの意識改革と、社会全体の取り組みが不可欠となるでしょう。

この記事の監修者
政治ドットコム 編集部
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