
国際情勢が不安定化する中、宇宙空間の利活用が安全保障上重要性を増しています。
政府は2020年に航空自衛隊に「宇宙作戦隊」を発足させ、2022年には人員を強化し「宇宙作戦群」を新編しました。また、民間企業による宇宙開発が加速化するなか、国際競争力のある企業育成も課題となっています。
今回は、元自衛官で自由民主党の宇宙総合戦略小委員会幹事長を務める中谷真一議員に、日本の宇宙政策と国防の現状と展望を伺いました。
(取材日:2025年1月22日)
(聞き手・文責:株式会社PoliPoli 井出光)
中谷真一(なかたに しんいち)議員
防衛大学校卒業後、陸上自衛隊第一空挺団に配属。
佐藤正久参議院議員の秘書を経て、
2012年12月の衆議院議員選挙で初当選(5期)。
趣味はラグビーと読書。
「政治を変えないと国を守れない」自衛隊から政治の道へ
―中谷議員は高校卒業後、防衛大学校に進学。その後10年間、自衛隊員を務めました。国防の道に進んだきっかけは何だったのでしょうか。
国防に燃えて、というよりも、何か熱中できることを探していたことが動機でした。小学校では野球、中学ではソフトテニス、高校ではラグビーをやってきたのですが、どこか不完全燃焼で、もっと何かに熱くなりたいという思いがあったんです。
ちなみに私の父親はサラリーマンで、親族を含めて自衛官は周りにいませんでした。防衛大学校入学当時は18歳。防衛大学校に行けば、自分が求めているものがあるのではないかと。
もう一つのきっかけは、高校3年時に起こった阪神淡路大震災(1995年)です。災害現場で活躍する自衛隊員を見て、自分も彼らのように人の役に立ちたいと考えました。
防衛大学校の4年、自衛官としての10年、この14年間は自分の人格形成に大きな影響を与えていて、この経験がなければ今の自分はありません。
人の役に立ちたい、という思いも強くなりましたし、陸上自衛隊では「第一空挺団」と呼ばれるパラシュート部隊に在籍し、国防への使命感も深まっていきました。この国を守ることが自分の存在意義である。14年間にわたる様々な訓練を通じて、諦めずに最後までやり抜く力を鍛えられました。
―そこからなぜ政治の道に進んだのでしょうか。
国を守ろうと真剣に考えながら日々の業務と向き合っている中で、さまざまな疑問が出てきたんです。
たとえば、私の部隊がイラクに派遣される2、3週間前に、部下がホームセンターで万引きをする事件が起きました。事情を聞くと、「部隊がイラクに行くので、自分も行かざるを得ない。しかし妻が反対している。万引きをすれば、派遣を免れるのではないかと考えました」と。いろいろな意味でショッキングな話でした。それまで私は、どんな危険な任務でも部下たちはついてくると信じていました。彼の行為は戦闘の場面では「敵前逃亡」で、処分は懲戒免職です。戦場で命を落とすより、懲戒免職を選ぶ可能性もあるのです。
根本的な課題は制度にありました。自衛隊は軍隊ではないため軍法がなく、一般の法律で裁かれます。しかし戦場という特殊な環境で規律を保つには、それでは不十分なのです。この制度的な課題は、政治によってしか解決できません。
他にも政治の影響を受けていると思うことがたくさんありました。なので自衛隊を退職し、政治家への道を選びました。
宇宙開発の参入障壁を下げ、民間の力を活用すべき
―具体的な政策についてお伺いさせてください。中谷議員が幹事長代理を務める自由民主党の宇宙・海洋開発特別委員会が2024年5月、第9次提言を当時の岸田総理に渡しました。ポイントを教えてください。
日本の宇宙政策は相当、ドラスティックに変わってきています。
特に安全保障分野での宇宙の重要性が高まってきていて、監視衛星システムの在り方も変わろうとしています。
これまでは1機100〜200億円の大型の「情報収集衛星」を打ち上げて、1日に2、3回の頻度で特定地域を撮影、監視してきました。ですがこの第9次提言では「小型衛星コンステレーションに移行するべき」と強く主張しています。
内閣府「小型衛星コンステレーションに関する取組状況について」(2021年11月)より
「小型衛星コンステレーション」には大きなメリットがあります。複数の衛星を配置することで、一部が攻撃を受けても機能を維持できます。また、監視の頻度を上げられ、より広い範囲をカバーすることも可能です。
このシステムへの移行は、宇宙開発におけるゲームチェンジとなるでしょう。世界的に見ると出遅れていた日本の宇宙政策ですが、ここで追いつくチャンスが来たのです。
―民間企業による宇宙開発も活発化する中、政府の支援についてどのようにお考えでしょうか。
民間の力を使っていこうという方針の中で、予算も拡充していますが、課題もあります。参入障壁が高いために事業者が限られていていつも同じような顔ぶれになってしまうのです。
この状況を打開するため、新たな資金調達の仕組みを検討しています。たとえば、ベンチャーキャピタルや銀行に宇宙開発に適した企業の発掘を依頼し、出資も含めた形で信頼性を担保する方法です。
国としてスタートアップを支援し、イノベーションを促進する新しいエコシステムを早急につくらないといけません。
―2022年に本格始動した航空自衛隊の「宇宙作戦群」については、これまでの成果や課題をどのように捉えていますか。
正直なところ、宇宙作戦群にはまだまだ課題があると思っています。
まず、指揮官の階級が低すぎる点です。当初は2等空佐が指揮官でしたが、宇宙政策における予算獲得のためには、より上級の指揮官が必要です。
また、人材不足も深刻です。2008年の宇宙基本法成立まで安全保障目的での宇宙利用は制限されていたため、自衛隊内にはいわば「宇宙の専門家」がいません。JAXA(宇宙航空研究開発機構)からの人材派遣を要請していますが、進展は遅く、民間企業のエンジニアなど外部の専門人材の活用も必要です。
宇宙分野はものすごい速度で技術が進化しています。政府として急速に取り組まなければ、他国に追いつくことはできないと危機感を持っています。
―アメリカや中国も宇宙開発に力を入れています。宇宙政策に関してどのように他国と向き合っていくべきでしょうか。
アメリカを安全保障のパートナーと考える上で、日米で開発エリアを分担するべきだと考えています。日本の安全保障に大きな影響を与えるエリアについては日本がGPSや通信システムを自前で開発・運営しなければなりません。自立した防衛力を維持するためです。
日本の担当エリアについてはGPS機能や小型コンステレーションの映像などをアメリカに提供する。一方でアメリカの担当エリアの情報が必要なときには使わせてもらう。このような交渉をアメリカに持ちかけるべきだと考えています。
日はまた昇る。日本再生への展望
―中谷議員の考える理想の国家像を教えてください。
国家の本質は国益の追求にあり、現在の日本に最も必要なのは自立性の確保です。
自衛隊員としての経験から、この国がいかにアメリカに頼っているか思い知りました。現在の日本は自分の足で立つことが難しく、アメリカ寄りの立場を取らざるをえないんです。他国に依存した状態だと、自国のために何かしなければいけないという時に、それがねじ曲げられてしまう可能性があります。また、中国からの影響も無視できません。
このような他国への依存や影響を最小限にして、国家としての主権をしっかりと発揮できる自立国家をつくっていかなければいけません。これが私の取り組むべき使命だと思っています。
―アメリカではトランプ大統領が就任するなど、世界の変化のスピードは激しくなっていきそうですが今後、日本を取り巻く環境はどのように変わっていくとお考えでしょうか。
陽はまた昇る、と私は思っています。
現在の国際情勢は、日本にとって追い風となっています。アメリカと中国の対立の深まりにより、むしろ日本の外交的な自由度は増大しています。両国が日本を重要なパートナーと位置づけているからです。トランプ大統領就任も、対中姿勢を強めていくと見られるので、日本にとってはプラスだと思っています。
経済面でも好転の兆しが見えています。デフレからインフレへの転換、円安による国際競争力の向上、半導体産業の再生。この状況をしっかりと利用しなければいけません。
また、防衛費についても、これまでGDP比1%だったものを2%に向け伸ばしているところです。こういった政策を力強く前に進めていけば確実にこの国は上向いていくはずです。
これまで世界各国を訪れた経験から、改めて日本ほど良い国はないと実感しています。若い世代の皆さんには「自信を持って一緒になってこの国を良くしていきましょう」と伝えたいです。
