河西 宏一 かさい こういち 議員
1979年新潟県出身。東京大学工学部を卒業後
松下電器産業(現:パナソニック)に入社。公明党職員を経て
2021年の第49回衆議院議員選挙に比例東京ブロック単独2位で
立候補し初当選(2期)。公明党青年局長。
自由民主党の総裁に高市早苗氏が選出され、史上初の女性総理大臣誕生が現実味を帯びてきました。一方で基本政策や政治資金問題への立場の違いから、四半世紀以上続いてきた自公の連立は危機を迎えています。今回のインタビューでは公明党で青年局長を勤める河西宏一議員に、日本の成長戦略に向けた提言や今後の政局の展望についてお聞きしました。
(取材日:2025年10月7日)
(文責:株式会社PoliPoli 秋圭史 )
リスク不安のない環境を整えることが、AIの利用促進につながる

ーまずは前回のインタビューでもお話いただいたAIについてお聞きします。この9月にAI新法(人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律)が施行されましたね。
私は党の生成系AI利活用検討委員会の委員長を務めていますが、AI新法の成立に向けて委員会でも精力的に国会質疑を重ねてきました。この法律はAI利用の推進とリスクヘッジのバランスを取ることを目的にしています。記憶に新しいのは、ある企業が日本の有名なアニメをソースに使ったことが問題視され、指摘を受けた企業経営者が仕様のアップデートを表明しました。このようなリスクを回避して誰もが安心して使える環境を整えることが、利活用を後押しすることになります。
ー日本は海外と比べてAI活用が遅れているのでしょうか。
そうですね。昨年の調査ですが、生成AIを活用する企業は日本が55%なのに対し、アメリカや中国、ドイツは90%を超えています。またAIへの投資額も日本の約9億ドルに対し、中国は90億ドル超、アメリカは1000億ドル超で、雲泥の差があります。もっと活用を進めなければ人口減少のインパクトを吸収しきれません。
ーAI活用を促進する上で、リスクヘッジ以外に必要な要素は何でしょうか。
ちょうど先日、IT関連団体の方ともお話していたのですが、その方は「経営者のマインドセットを変える必要がある」と言われていました。私もまったく同感です。自社の事業をAIでどのようにトランスフォーメーションするのか、明確なイメージが描けないと活用は進まないでしょう。それこそ、今の日本が直面している壁だと思います。私たちも今後出てくる基本計画や指針で後押しできるよう、しっかりと取り組んでいきます。
ーこの1年でAIを巡る環境はどのように変化しましたか。
「どのように法整備をするか」という前準備のフェーズから「AIで社会をどう変えていくか」という現実的なフェーズにどんどん移っています。ただ日本には優秀な技術者がいても、先ほど指摘したようなAIX(AIトランスフォーメーション)に関するマネジメントに長けた経営者がいない、といった問題があり、社会全体を変革させるようなエコシステムをいかに作っていくかが今後の課題です。
この点で参考になるのがEUの「ARISA(Artificial Intelligence Skills Alliance)プロジェクト」で、「AIの専門人材(技術者)」「政府の政策立案者」「企業経営者」という3分野の人材を育成するものです。プロジェクトを通じて技術を発展させ、法制度を整え、経営人材が社会に実装する、というエコシステムが築かれます。日本でもAI新法を受けて、行政や政治がエコシステム構築に関わっていくことが重要です。
「財源を探す国」から「財源を作る国」へ

ーAI活用も含め、日本が抱えるさまざまな課題を乗り越えて成長軌道を描くために必要なことは何でしょうか。
もっとも欠けているのは「チャレンジ」だと思います。私がパナソニックに入社した当時は就職氷河期のまっただ中で、日本全体で賃金が上がりにくい時代でした。また、父はゼネコンに勤めていましたが、バブル崩壊による悲惨な状況が私にも伝わってきました。そこから、なぜ30年も「失われた時代」が続いたのでしょうか。
今では信じられないと思いますが、バブル崩壊前には「日本の産業は成長しきったので、もう産業政策は何も必要ない」という声が中央省庁の中にあったと聞きました。その中でバブル崩壊が起こり、その後はコストカット優先で「設備投資しない」「研究開発に投資しない」「人にも投資しない」という姿勢が当たり前になってしまいました。
この後遺症がまだまだ残っていると感じたのが、トランプ関税に関連して出てきた「80億ドルの投資」の話です。国会でも多くの質疑が出ていたのですが、聞こえてきたのはリスクヘッジの話ばかり。投資する以上は、それを成長やイノベーションにつなげてリターンを得ることを第一に考えなければなりません。もっとリスクテイクとチャレンジの話をしたいですね。
ー以前、製薬会社を視察されていましたが、製薬も大きなリスクテイクが必要な業界ですね。
はい、製薬はいわゆる「デスバレー」が深く、長い道のりです。特に創薬には10年~20年に及ぶ長いプロセスと数百億円規模の投資が必要ですが、成功する確率が非常に低いのが現状です。その中で、研究開発に対する国の支援制度は、成功が見込める案件にしか投資をしません。そして補助金の採択者は詳細な報告を求められるため、その報告書作成に忙殺される側面もあります。
イノベーション創出には、どの芽が大きく育つかわからない中でも「とにかく多くの水を撒く」という大胆さが必要です。これまで日本は平均的な給料で平均的な人を雇い、過去の延長線上で開発と製造を繰り返してきました。しかしアメリカや中国は、優秀な人には惜しみなく投資して、世界が驚くようなものを生み出しています。あるAI研究者に「なぜ中国はDeepSeekを作れて、日本は作れないと思いますか?」と聞いたら、即答で「日本は投資が少なすぎる」と返ってきました。日本も若手の挑戦者に対する補助金を増やしていますが、もっと大胆な施策が必要です。
ー社会保障費が増える中で、成長投資とのバランスをどのように考えていけば良いのでしょうか。
金利が上がっているので新規国債の発行には慎重にならざるを得ませんが、日本を持続可能なものにするためには経済成長が欠かせません。経済成長がなければ、結局は社会保障も維持できなくなるのです。そのためには、科学技術予算や研究開発への投資を倍増させ、規制も緩和していくことが必要です。そのためにも、公明党は政府系ファンドの創設を政策に掲げ、「財源を探す国から財源を作る国への転換」を図りたいと考えています。
国民が求めているのは、政策ごとに柔軟な協議を展開する政治

ー2025年の国会で特に力を入れた政策議論や質疑について教えてください。
災害対策基本法等の改正は、公明党としても私個人としても大きな意味のあるトピックでした。能登の災害では在宅や車中泊で避難された方が多く、その中には福祉サービスが必要な高齢者や障がい者、小さなお子さんをお持ちの方もいらっしゃいました。公明党は「災害救助に福祉を位置づけるべきだ」と一貫して訴えてきました。私自身も昨年12月の予算委員会で取り上げ、その後の災害対策基本法や災害救助法の改正において、「福祉サービスの提供」が明確に位置づけられました。この法改正によって、介護福祉士や社会福祉士などで構成される災害派遣福祉チーム「DWAT」が、避難所のみならず在宅避難者や車中泊の避難者にも着実に支援を届けられるようになります。
ー政治資金の問題にも公明党は力を入れて取り組んでいましたね。
はい、残念ながら政治資金の問題はずっと尾を引いています。物価高対策や社会保障政策が重要であることは大前提として、どこかで「政治とカネ」の問題に決着を付けないと信頼が揺らいだままになってしまいます。私たちは「お金の流れを常に監視する第三者機関が必要だ」と強く訴えており、法律上は作ることが決まっているものの、まだ発足していません。不透明な政局が続きますが、引き続き実現に力を尽くします。
ーこの話は自民党と公明党の連立にも影響を与えるのでしょうか。
今の時代、政策ごとにアジャイルで協議を進めるスタイルを国民も求めています。その中で、どういう連立政権の枠組みが国民にとって望ましいのか、という点は柔軟に検討する必要があるでしょう。
また、公明党としても、去年の衆院選や今年の参院選での不記載議員に対する推薦の問題については、真摯に反省しなければなりません。公明党が向き合うべき民意を、連立という前提を取り払って冷静に見つめなおすフェーズに来ているのではないか、と感じています。
公明党は「クリーンである」ということに対して非常に厳しく、何か問題を起こせば責任を取ることが求められます。違法性はもちろん道義的な責任もしっかりと問います。ともあれ連立を続けることで、もし党のアイデンティティを見失ってしまえば本末転倒です。もちろん、連立を解消すれば失うものも多いでしょう。しかし、譲れない理念もあると思うのです。

ー河西議員は青年局長を務められています。最後に若者の政治参加を促す取り組みについて教えてください。
若者の活動団体に対する支援を毎年求めていますが、人材と予算が足りていません。こども家庭庁は若者団体への直接的な支援に踏み出さないので、とにかく壁を破ってほしいと思っています。「こどもまんなか社会」を築くためのプラットフォームのようなものを作り、そこに参画した若者団体に実質的な支援ができるような議論を来年度の予算編成に向けて進めています。
党としても、もっと幅広い方々に政治活動の場を提供できるのではないかと感じています。公明党に投票いただいている方の中には、党員ではない方も多くいらっしゃいます。その中の若い方々と一緒に政策を作ったり、党の公約や政策に直接的に関わったりする中で、いずれ議員として活躍する方が出てきたらうれしいですね。
公明党を「支える」とか「手伝う」という形ではなく、若者が主体となり、自主性と柔軟性、ときにエンターテインメント性もある、海外のユース活動のような良い意味で緩い空間を作り、彼らと政治との距離をなくしていきたいのです。選挙のときだけアプローチするのではなく、普段から政治との接点を持ってもらえるような取り組みを、これから本格的に進めていこうと思っています。













