
近年、政府はガバメントクラウドの取り組みを本格化させています。ガバメントクラウドとは、政府共通のクラウド基盤のことを指し、コスト削減や業務効率化を進めるねらいがあります。
本記事では、ガバメントクラウドの概要や必要となった背景、私たちの生活に与える影響などについて解説します。
ガバメントクラウドとは?概要と必要になった背景
ガバメントクラウドとは、政府情報システムの共通基盤であり、行政機関が共同で利用できるクラウド環境のことです。
これまで、住民サービスを提供するためのシステムを、約1800の自治体が個々に開発・所有していました。しかし、少子高齢化で生産年齢人口の急激な減少が予想されるなか、それぞれの自治体でシステムの維持管理、セキュリティ対策などを行うことが難しくなっています。
そこで国は、2021年に「地方公共団体情報システムの標準化に関する法律」を成立・施行し、自治体情報システムの標準化・共通化に取り組んでいます。
各自治体が個別に管理していたシステムを共通化することで、コスト削減やセキュリティ強化、業務の効率化などを図ることができます。
(参考)自治体ごとに情報システムを維持・管理する上での課題
- コストの増大
各自治体が個別にシステム開発・運用を行うため、共通部分でも重複投資が発生し、全体のコストが増大します。システム維持・更新にも個別に費用がかかり、財政的な負担が大きくなります。
- システムの複雑化・非互換性
異なるベンダーが異なる技術でシステムを構築するため、システム間の連携が困難になり、住民サービスの相互利用や行政情報の共有が阻害されます。システムの複雑化により、セキュリティリスクが高まり、サイバー攻撃への対応も困難になります。
- 人材不足
高度な専門知識を持つIT人材が不足する中で、各自治体が個別に人材を確保することは困難です。システム運用・保守を外部委託する場合でも、自治体側の専門知識不足により、適切な管理が難しくなる場合があります。
- 住民サービスの質の格差
財政力やIT人材の確保状況によって、住民サービスの質に格差が生じます。特に、人口減少が進む地方自治体では、十分なシステム投資や人材確保が難しく、住民サービスの低下につながる可能性があります。
- 行政運営の非効率化
システム間の連携不足により、行政手続きが煩雑になり、住民の負担が増大します。行政情報の共有が遅れることで、迅速な政策決定や効率的な行政運営が阻害されます。
ガバメントクラウドによって共通化されるシステムとは
では、「地方公共団体情報システムの標準化に関する法律」に基づいて、具体的にどのようなシステムが共通化されるのでしょうか。
国は、「地方公共団体情報システムの標準化に関する法律」において、20の事務を「標準化対象事務」として位置付け、自治体に対して標準化基準に適合した情報システム(標準準拠システム)の利用を義務付けました。
「標準化対象事務」とされているのは、以下の20の業務です。
児童手当、子ども・子育て支援、住民基本台帳、戸籍の附票、印鑑登録、選挙人名簿管理、固定資産税、個人住民税、法人住民税、軽自動車税、戸籍、就学、健康管理、児童扶養手当、生活保護、障害者福祉、介護保険、国民健康保険、後期高齢者医療、国民年金
これらの業務は、住民サービスに共通性が高く、標準化によって住民の利便性向上や行政運営の効率化が期待できるものとして選ばれました。
これらすべての「標準化対象事務」について、2022年度末までにそれぞれの制度を所管する省庁が、情報システムの標準仕様を策定しています。
ガバメントクラウドで私たちの生活はどう変わるのか
自治体ごとに別々だったシステムが共通化されることで、私たちの暮らしはどう変わるのでしょうか。
主に、以下の5つの効果が挙げられます。
- オンライン手続きの拡充:
各種行政手続きがオンラインで完結できるようになり、役所に行く手間や待ち時間が削減されます。これにより、忙しい人や高齢者、障がい者なども、より便利に手続きを行えるようになります。
- 手続きの簡素化:
システム間の連携がスムーズになることで、行政手続きが迅速化されます。例えば、引っ越しをした際の手続きが簡素化され、転入先でもスムーズにサービスを利用できるようになります。また、複数の部署をまたがる手続きでも、ワンストップで完了できるようになる可能性があります。
- 安全性の向上:
標準化によってセキュリティ対策が統一されることで、サイバー攻撃に対する防御力が向上します。これにより、個人情報などの重要な情報がより安全に保護されます。
- 地域格差の是正:
住民に関する情報について、国や他の自治体、支援団体との共有がスムーズになり、連携強化による迅速な対応が可能になります。また、被災地以外の自治体から支援要員を派遣し、被災地のシステム運用をサポートすることが可能になります。
5. 災害時の支援の迅速化:
財政力やIT人材の確保状況に関わらず、全国の自治体で質の高い行政サービスを提供できるようになります。これにより、地域間のサービス格差が是正されます。
ガバメントクラウドの課題
国は、自治体情報システムについて、原則2025年度末までに標準準拠システムへの移行を目指すとしていました。しかし、2023年にすべての自治体を対象に調査を行ったところ、標準準拠システムへの移行が2026年度以降とならざるを得ないシステムがあることがわかりました。
さらに詳しくヒアリングを行った結果、2024年10月末時点で、標準化の対象となる全34,592システムのうち、約6%に当たる2,165システムが2025年度末までに標準準拠システムへの移行が完了しない見込みであることが判明しました。
デジタル庁と総務省は、自治体がスムーズにシステム移行を行えるよう、引き続きさまざまなサポートを行うこととしています。
まとめ:ガバメントクラウドのこれから
ガバメントクラウドとは、政府情報システムの共通基盤であり、行政機関が共同で利用できるクラウド環境のことです。約1800の自治体が個別に開発・所有していたシステムを共通化し、コスト削減やセキュリティ強化、業務の効率化などを図ることを目的としています。
国は、2025年度末までに自治体の情報システムの標準化を完了させる予定でしたが、一部の自治体では移行が完了しない見込みであることが判明しました。
自治体情報システムが標準化されることで、オンライン手続きが拡充されるなど私たちの暮らしにもメリットがあります。自治体システム標準化は、国民の暮らしをより便利で快適なものにするための重要な取り組みです。
