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政治ドットコムインタビュー政治家インタビュー「自己責任」で弱者を切り捨てない社会へ。立憲民主党・五十嵐えり議員インタビュー

「自己責任」で弱者を切り捨てない社会へ。立憲民主党・五十嵐えり議員インタビュー

投稿日2025.5.30
最終更新日2025.05.29

2024年10月に投開票された第50回衆議院議員選挙では、99名の新人議員が誕生しました。新設された東京第30区から出馬した立憲民主党の五十嵐えり議員もその一人です。中卒でフリーターとなり、そこから司法試験をめざした過去、弱者に寄り添った政策づくりに奔走する現在、そして心に描く将来ビジョンまで、話を伺いました。

(取材日:2025年5月12日)
(文責:株式会社PoliPoli 児島花生里 )

五十嵐えり(いがらし えり)議員
1984年愛知県出身。中卒でフリーターとして働いた後、高卒認定資格を取得。
静岡大学人文学部、名古屋大学法科大学院を経て30歳で司法試験に合格。
参議院議員の政策担当秘書を経験した後、2020年に弁護士登録。
2021年、東京都議会議員選挙(武蔵野市選挙区)にて初当選。
2024年10月の衆議院議員選挙で東京第30区から出馬し、初当選(1期)。

自分の身を守るには法律の知識が必要

ー政治家になる前は弁護士をされていましたが、まずは法律の世界に興味を持たれた経緯を教えてください。

私は中学校でいじめに遭い、不登校になりました。高校へは進学せず、フリーターとして職を転々としたのですが、そこで非正規労働者が抱える問題を身をもって経験しました。最初に働いていたレストランでは、2年ほど働いた頃に突然「明日から来なくていいよ」と言われました。本来、解雇する際は30日前に予告する義務があり、私のケースは不当解雇にあたります。そのようなことも当時の私は知らなかったのですが、後に教えてもらって労働基準監督署に相談し、1か月分の給与を補償してもらうことができました。

五十嵐えり議員インタビュー

その後もいろいろなアルバイトをしましたが、有給休暇をもらったこともないですし、友人が働いている他のアルバイト先でも「給料が支払われない」とか「遅刻で罰金を取られた」といった話を耳にしていました。このような現状を見る中で「自分を守るためには法律の知識が必要だ」と考えるようになり、司法試験をめざすことにしたのです。

ーその後、法律ではなく政治の世界に飛び込んだのは、なぜでしょうか。

30歳で司法試験に合格しましたが、弁護士登録はせず、4年ほど国会議員の政策担当秘書を務めました。その背景には、それまでに感じてきたさまざまな格差や不条理があります。家庭の経済的な事情で学びたくても学べない人、「女の子だから大学に行く必要はない」と言われてしまう人など、世の中には多くの格差がありますが、日本ではすべて「自己責任」で片付けられてしまいます。「この現状を変えることができるのは政治だ」と考えたのが、政治に関わろうと思ったきっかけです。

ただ実際に活動してみると、旧態依然とした状況が変わる気配はなく、かつ女性の議員も非常に少ない。「この環境にいると自分の感覚も鈍くなってしまうのでは」という危機感を感じるようになり、弁護士になる決断をしました。

五十嵐えり議員インタビュー

ー弁護士の次に都議会議員を務められましたが、なぜ立候補されたのでしょうか。

きっかけは友人から「立候補してみないか」と誘われたことです。2021年のことでしたが、ちょうどコロナ禍で生活に困窮する人が増え、女性の自殺も深刻化していました。それ以前から、若い女性を対象にLINEで相談を受けるボランティアをしていましたが、DVやいじめの相談が非常に多くなっていました。

基本的人権すら守られていない状況に対して「おかしいことはおかしいと言いたい」という気持ちに突き動かされ、立候補を決めたのです。結果的には現職候補も含めて3人を破り、当選させていただきました。都議会では自分のバックグラウンドを生かして女性の働く環境の支援や自殺対策、貧困対策などの質問に力を入れてきました。

ーそして、いよいよ国政に進出されるわけですが、都議を辞めて国会議員をめざした経緯を教えてください。

東京都の予算規模は15兆円と巨額なので、都政でも多くのことができます。しかし、やはり社会問題を根本的に解決したいと考えたときに、条例ではなくその上にある法律を変える必要があると感じたのです。それができるのは、やはり国政しかないと思いました。

ー国会議員になってからも、ご自身の経験を踏まえて「働く人への政策」や「教育の充実」を掲げられていますが、活動する上で大切にしている理念を教えてください。

国会議員に中卒や非正規労働といったバックグラウンドを持つ人は少ないので、経歴としてはユニークだと思います。そこはやはり強みとして生かしていきたいですね。逆に今の社会では派遣やアルバイトなど非正規で働かれている方が非常に多いので、それらの方々の立場に立った政策運営をしていくのが私の使命だと思っています。

非正規で働いていると「代わりはいくらでもいる」と備品のように扱われ、賃金は上がらず仕事を評価されるわけでもないので、自尊心を持ちにくくなります。一人の人間として認めてもらえず「自分は何のために生きているんだろう」とか「何のために働いているんだろう」という感覚に陥ってしまうのです。これは私もずっと感じてきたことなので、この感覚は忘れないようにしたいですね。

教育のルール作りには子どもを守る視点が不可欠

ー国会議員になられてから、どのような政策に力を入れてきましたか。

文部科学委員会の委員を務めていますが、ここで取り組んでいる問題のひとつに学校法人武蔵野東学園の問題があります。この学校法人が運営する高等専修学校で、ある女子生徒が理事長から不当に謝罪文を強要されたとして、理事長を刑事告訴しました。その生徒は退学処分を通告されたのですが、東京地裁の勧告で和解し、無事に卒業することができました。しかし、卒業後に理事長はこの女子生徒を含む複数の卒業生と週刊誌記者に対して7億円超の損害賠償請求を起こしたのです。

この問題に対し、衆院文部科学委員会で「余りにも請求額が高額で、スラップ訴訟で脅しのようではないか」と指摘し、保護者から文科省に助けを求める声が上がっていることに関して阿部文科相に質疑させていただきました。大臣は「所轄庁は東京都である」と文科省としては静観する構えを見せましたが、私は私立学校法に問題があると考えています。私立とはいえ、学校経営のルールに子どもを守る視点を入れるべきであり、そのための活動には今後も力を入れていきます。

五十嵐えり議員インタビュー

ー公立学校の教員の処遇改善が盛り込まれた給特法についても積極的に発言されています。

給特法の議論に対して、私は大きく3つの点を重視しています。まず第一に「見えにくい減額」を許さないことです。教職調整額を段階的に10%へ引き上げる一方、義務教育等教員特別手当の縮小や多学年学級担任手当の廃止、特別支援教育教員の調整額引き下げなどの動きがあります。表面上の数字だけ調整して、結果的に年収が下がるような事態は絶対に避けねばなりません。委員会質疑でも「総額ベースで処遇が下がらない設計なのか」を繰り返し確認し、文科省は「下がらない」と答弁したので、その言葉を今後も検証していきます。

第二に「業務量削減とセットになっているか」という点です。政府は「5年で時間外在校時間を3割削減し、月30時間を目標」と掲げていますが、達成の工程が曖昧です。私は、業務量の削減を客観的なデータで示すために勤務実態調査の再開を求めました。数値目標と工程表を国が示し、自治体・学校が進捗を共有する仕組みが不可欠です。

第三に「主務教諭」の導入による影響です。東京都では主務教諭導入時に「周りの教諭の基本給が下がった」という事例があります。委員会では「主務教諭創設で教諭の基本給を下げない」と大臣および局長に明言させました。もし自治体が減額した場合、文科省が是正指導することも確認しています。

教員の処遇は子どもの学びの質に直結するため、制度改革が結果として不利益を生まないことが肝要です。現場が「改善した」と実感できる政策の立案に引き続き取り組んでいきます。

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ー日本学術会議の法改正についてはSNSでも意見を述べられていますね。

この問題は、そもそも2020年に当時の菅政権が6人の学会員を任命せず、その問題を解決しないまま議論を進めていることに疑念を抱かざるを得ません。だからSNSでは廃案を訴えているのですが、私が担当する委員会ではないので質疑を行うこともできず、この問題への関わり方は難しいのも事実です。また、党の意見との間に齟齬が生じてもいけないので、やみくもに反対を唱えるわけにはいきません。最終的に立憲民主党は反対の立場を取ったので良かったのですが、維新が賛成に回って衆議院では可決してしまいました。この問題に対しては、引き続き党と歩調を合わせながら自分にできることを模索していきたいと思います。

五十嵐えり議員インタビュー

政治の世界は多くの人にチャンスがある場所

ーこれから国会議員として、追求していきたい目標や国家ビジョンを教えてください。

やはり経済的に苦しい人たちが「自己責任」と切り捨てられることなく、力を発揮できる社会、学びたいときに学べる社会を築いていきたいです。そのためには、ライフステージに合わせた多様な働き方を選べるようにすることも大事です。野党第1党なので、自民党とは違う選択肢を示しつつ、他の野党も巻き込めるよう尽力していきます。

五十嵐えり議員インタビュー

ー最後に読者に向けてメッセージをお願いします。

20代の私は非正規の仕事を転々としており、とても貧しかったので、自分が国会議員になるなんて想像もしていませんでした。そんな私でも40歳で国会議員になれたので、政治の世界というのは多くの人にチャンスがある場所です。記事を読んでいるあなたも、将来は政治家になっているかもしれません。

だから、社会に対して「おかしい」と思う問題があって、「誰も解決してくれない」と思ったら「自分でチャレンジしてみる」という選択肢もぜひ考えてほしいと思います。

この記事の監修者
秋圭史(株式会社PoliPoli 渉外部門)
慶應義塾大学法学部政治学科卒業後、東京大学大学院に進学し、比較政治学・地域研究(朝鮮半島)を研究。修士(学術)。2024年4月より同大博士課程に進学。その傍ら、株式会社PoliPoliにて政府渉外職として日々国会議員とのコミュニケーションを担当している。(紹介note:https://note.com/polipoli_info/n/n9ccf658759b4)

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