
総務省は「デジタル田園都市国家インフラ整備計画(改訂版)」を2023年4月に公表し、また、2024年6月には「デジタル社会の実現に向けた重点計画」が閣議決定されるなど、政府主導でデジタル推進が加速しております。社会全体のDXに向けた制度改革やスタートアップへの成長支援も広がっています。
今回のインタビューでは、IT企業出身という強みを生かし、現在は総務大臣政務官としてデジタル社会の推進に尽力する川崎ひでと議員に、DXにおける政治家の役割や目指すべき社会についてお伺いしました。
(取材日:2024年12月16日)
(文責:株式会社PoliPoli 秋圭史 )
川崎秀人(かわさき ひでと)議員
1981年三重県伊賀市出身。法政大学経済学部卒業。
NTTドコモ勤務を経て、父・二郎氏の秘書として後援会事務所に入所。
2021年に衆議院議員選挙で初当選(2期)。党広報部ネットメディア局次長やデジタル社会推進本部web3PT事務局長を歴任。2024年11月に総務大臣政務官就任。
身近なコーディネーターとしての政治家を目指す
ー民間企業に勤められていた川崎議員が政治家へ転身したきっかけを教えてください。
社会人になった当初、パソコンのスキルやビジネスマナーが身に付いておらず、会社の先輩から「大学を出ているのに使えないな」と指摘されていました。何年か経って部下ができると、自分も同じようなことを部下に感じたことがあり、そのときにふと「これは本人に非があるのか?」と疑問に思ったのです。そこで感じたのが「社会に出てから求められることと学校で習うことがリンクしていない点が問題なのでは?」ということ。これが最初のきっかけです。
例えば学校で「会社ではパソコンをこのように使うから、エクセルは最低限ここまで学んでおきましょう」という教育を受けていれば、この溝は埋まります。そうすれば、会社に入ってから何年もかけて能力トレーニングをする必要がなく、即戦力として活躍できます。自分の子どもの将来を考えたとき、「テクノロジーが進化するなかで、この溝を埋めなければ世界から取り残されてしまう」と危機感を抱くと同時に「この問題を解決できるのは立法を行う政治家だ」と思ったのです。
また、私が勤めていたNTTドコモを含むNTTグループの業務には「日本電信電話株式会社等に関する法律」、通称「NTT法」による規制が大きな影響をうけます。例えば、私が在職していた2012年にNTTドコモとNTT東日本の料金業務がNTTファイナンスに移管されたのですが、その際も、移動体通信業務の分離の観点から、一定の制約がありました。このときに、法規制が企業行動や国民生活に与える影響の大きさを感じたことが政治家を志す動機のひとつになっています。
ーお父様の川崎二郎氏は運輸大臣も務めた政治家でしたが、その影響もあるのでしょうか。
どちらかというと逆ですね。曾祖父の代からの政治家一族に生まれ、私も周りからのプレッシャーを感じており、それに対する反発心から「政治家にはならない」と決めていました。期待に応えるよりは「自分の人生を周りに決められたくない」という思いの方が強かったと思います。
また、今でも「世襲」と言われることに違和感を感じます。私のバックグラウンドは世襲ではなく「会社員」です。多くの有権者の皆さんと同じように企業で働き、同じように悩んできました。それでも「世襲議員」としてカテゴライズされてしまうのは、ちょっと悔しいですね。
ーそのような反発心が、川崎議員が打ち出している「政治家っぽくない政治家」という特徴に表れているのでしょうか。
父は昔ながらの「陳情受付型」の政治家で、「川崎二郎に言えば何とかなるだろう」という感じの相談が多かったと思います。しかし今は問題が複雑化しており、単純に陳情すれば解決するような社会状況ではありません。何か解決しようと思ったら、有識者や民間企業などさまざまなプレーヤーを集めて、チームで取り組む必要があります。今の政治家には、そのためのコーディネーターとしての役割が必要だと感じたのです。
そのためにはフランクで明るい方がいいですし、距離感を詰めるためにも「政治家っぽくない政治家」というキャラクターの方がいいと思っています。あとは、くり返しになりますが私のバックグラウンドは世襲ではなく会社員なので、「政治家」として特別視されたくない、という思いもありますね。
デジタル化を推進するには地域格差のないインフラ整備が必要
ー2021年に初当選されましたが、1期目の手応えはいかがでしたか。
最初から充実した活動をさせていただきました。ちょうどコロナ禍で「DX」に対する世間の関心が高く、そこから出てくる政策的課題も多い時期でした。私はNTTドコモ出身ということで野田聖子さんに情報通信戦略調査会に呼んでいただいたり、平井卓也さんにデジタル社会推進本部に入れていただいたり、活躍の場を与えていただきました。自民党情報通信インフラ特命チームの事務局長に就任し、「情報通信インフラの強化に向けた緊急提言」を政府に行いました。同期には優秀な方が多かったので、その中で「IT系企業出身」という自分の強みを生かせたのはラッキーでしたね。
ー民間企業で得た経験の中で、議員の仕事に役立っていることはありますか。
自民党は大きな組織なので、何か政策を作ったら政務調査会や審議会、総務会などを通すエスカレーションフローがあります。そのフローをきちんと通し、承認をいただくための調整力や根回しの大切さはNTT時代に学んでおいて良かったと思います。ドコモショップの窓口で働いていたこともあるので、携帯電話の契約に関する実務や通信システムの裏側を理解していることも強みになっています。
ーDXやデジタル推進に取り組む中で、重要視されているポイントは何ですか。
前提となる背景課題を正しく理解する必要があると思います。人口減少の流れは、カーブが緩やかになることはあっても減少そのものは止まりません。だから、従来は10人で行っていた仕事を6人~8人でカバーする必要が出てきます。それでも10人分の生産性を上げないと、この国は沈没してしまうのです。そのためのDXなのです。
そして、DXを推進するためには5Gや光ファイバーといった通信インフラの整備、AIを動かすためのデータセンターの拡充などが喫緊の課題です。日本は広大な国土を持つ国ではないので、広大な国土の国と比較すれば、インフラ整備にそこまで莫大な費用がかかるわけではありません。効率的にインフラ整備を進めれば、日本の情報通信環境はもっと進化し、人口減少社会でも国として成長する可能性が生まれるのです。
ー現在は総務大臣政務官を務められていますが、デジタル推進における総務省の役割について教えてください。
情報通信と放送のインフラを整えることだと考えています。先ほどお伝えしたとおり、AIの活用を進めるためにはデータセンターの拡充が不可欠ですし、今後ますます増加するであろう海外との通信を支えるためには海底ケーブルの敷設も必要です。災害発生時の通信を維持するためには、成層圏に浮かぶ飛行機型基地局の「HAPS(ハップス)」など、次世代の技術にも目を向ける必要があるでしょう。
放送に関しても、災害発生時の情報源として重要である一方、近年のテレビ離れ、ラジオ離れによって放送事業者の経営を維持するのが難しくなっています。事業者の収益を確保しながらインフラ整備を続けていくためには、どのような施策が有効なのか。総務省が方針を定めて事業者に伴走していく必要があると思います。
ー実際にインフラ整備を担うのは民間企業だと思いますが、総務省と企業はどのように連携していくのでしょうか。
前提として、通信インフラは民間の力で整備していただきたいと考えています。その上で総務省が行うべきことは、地域格差を作らず日本全体でインフラの恩恵を享受できるような働きかけをすることです。事業者の利益を考えれば、人口の多い都市部の整備に力を入れるのが自然な流れですが、地方にも均等に整備していただくよう総務省が旗を振ってお願いしていかなければなりません。携帯電話にしても放送にしても、総務省が電波を管理する立場なので、事業者の私利私欲のためではなく日本全体の成長のために使われるよう、一緒に取り組んでいくことが需要だと考えています。
課題のあるところにビジネスチャンスあり。
ー2022年に「スタートアップ育成5か年計画」が策定されたように、現在国を上げてスタートアップ創出に力を入れています。川崎議員が取り組まれているDXの分野においてもスタートアップは重要なプレーヤーとなるのではないでしょうか。
その通りです。例えば衛星通信を使って農業の課題解決に挑んでいるサグリ株式会社というスタートアップがあります。衛星からの画像認識で田んぼや畑の利用状況を瞬時にデータ化する、というすばらしい技術を持っています。このような事例を見て感じることは、やはり「課題があるところにビジネスチャンスがある」ということ。そして課題の多くは地方にあります。過疎化が進むと水道などの生活インフラの維持も難しくなっていきます。このような課題に対し、AIや衛星通信などの先進的な技術で解決に挑めば、そこに新たなビジネスチャンスが生まれるのです。その意味でもスタートアップの活躍には大いに期待しています。
ースタートアップの優れた技術を社会実装する上で、課題になっていることはありますか。
「いかに信頼度を生み出すか」という点だと思います。すばらしい技術やアイデアを持っている一方、知名度や実績の面でスタートアップはどうしても不利になってしまいます。この課題に対し、例えば「総務省に採択された」「デジタル庁の事業に採用されている」などの実績があれば、信用につながります。そのため、政府調達の中にスタートアップのプロダクトを積極的に取り入れるべき、という思いもあります。
また、ユーザーとなる国民の皆さんのITリテラシーを上げていくことも課題のひとつです。せっかくスタートアップがすぐれたサービスを出しても「スマホに慣れていない」などの理由で使っていただけないと社会実装が進みません。最初の教育の話にも通じますが「最低でもこのアプリは使えないといけない」といったリテラシーの重要度は今後さらに増していくので、国としても後押ししていく必要があります。
リテラシー向上への取り組みとして、郵便局を活用してスマホ教室を実施した事例があります。参加者は高齢者の方が中心で、LINEの使い方等を習得するなどの成果が見られました。全国2万4,000か所の郵便局ネットワークをはじめ、総務省のアセットを活用して取り組めることはまだまだあると思います。
誰もが活躍できる社会を実現するために規制をデザインする
ー政治家として、どのような社会づくりを目指していますか。
同僚である小林史明さんも言っていましたが、社会全体でDXを進める「デジタル」と、成長につながるような規制のあり方を考える「デザイン」、そして誰もが活躍できる社会を築く「ダイバーシティ」の3つの「D」を大切にしています。その中で目指すべき社会はやはり性別や障がいの有無に関わらず、すべての人が活躍する社会です。私の事務所でも障がいを持つ方に名簿の整理をお願いしていたり、お子さんをお持ちの方にブログのサポートをしてもらったりしています。このように多様な立場の方が活躍できる環境は広がっているので、これをさらに広げていくことが目標です。
それは規制の面でも同じで、活躍を阻むようなルールがあるなら再検討しなければなりません。民間企業や国民の皆さんから「こういうことをやりたいけど、規制があるからできない」という声が上がれば政治家の出番です。そのような声に対し、規制ができた経緯や役所側の要望なども踏まえて答えを出すのが私たちの任務です。
だから、冒頭に申し上げた通り私たち政治家は「コーディネーター」なのです。民間で洗い出された課題に対し、たくさんの仲間を集めて解決に取り組むこと。それが我田引水にならないよう、社会全体の利益に資する方向へ導くこと。その結果として新たな国益を生み出すことに今後も貢献していきたいですね。
