
人口減少・高齢化が進む中、デジタルを活用した社会変革、デジタル産業への投資を通じた経済成長が重要となっています。2024年11月に石破政権は半導体分野や国内のAIの技術開発や設備投資に対し、2030年度までの7年間で10兆円以上の公的支援を行う方針を示しました。
今回のインタビューでは、経済産業副大臣を務める大串正樹議員に、今後推進していきたい政策のポイントを伺いました。
(取材日:2025年1月27日)
(聞き手・文責:株式会社PoliPoli 井出光 )
大串正樹(おおぐし まさき)議員
1966年、兵庫県生まれ。
石川島播磨重工業(現IHI)に勤め、1996年松下政経塾入塾。
2003年北陸先端科学技術大学院大学博士課程を修了し、助教に就任。
西武文理大学准教授を経て、2012年衆議院議員選挙で初当選(5期)。
経済産業大臣政務官、自民党厚生労働部会 部会長、デジタル副大臣などを歴任。2024年より経済産業副大臣兼内閣府副大臣。
好きな食べ物はカレー。
「技術者を大切にする国」を求めて
ー技術者だった大串議員が政治に関心を持ったきっかけを教えてください。
IHIでは資源開発の分野でプラント設計に携わっていました。偏微分方程式を用いたプログラミングでシミュレーションし、それを基にスペックを決めてCAD図面をクライアントに納入する、という仕事です。当時ずっと感じていたのは「もう少し技術者を大切にする国になればいいのに」ということです。
私が就職した1991年はバブル絶頂期で、金融系の人たちに比べて収入が低いことに疑問を抱いていました。日本は天然資源が採れない国なので、技術を持った人が付加価値の高いものを世に送り出すことで富を得るしかありません。にも関わらず技術者の地位が低い理由を考えたときに「政治の世界に技術政策を理解している人が少ないのでは」と思ったのです。それが最初のきっかけですね。
ー松下政経塾に入られたときには既に政治家を志していたのですね。
そうですね。自分が政治の世界でも通用するかどうか試したかった、というのが正直なところです。「君には無理だ」と言われたら諦めようと。
私は政治家にも社会経験が必要だと思っていましたし、自分自身はIHIでのビジネス経験を生かすことができるので有利だという考えがありました。合格者は毎回5~6人で、当時300人くらいの入塾希望者がいて狭き門でしたが、無事に合格できました。
松下政経塾にいた当時は民主党に勢いがあった時期で、私の周りでも民主党から政治家をめざす人が大半でした。みんな「世の中を変えよう」と叫んでいたのですが、私はその傾向を疑問視していました。
世の中を変えるには2つの考え方があります。「まったく新しい仕組みを作る」か、「既存の経験を生かしたうえでリフォームしながら進むか」。私はIHIでの経験も踏まえて、これまで自民党が行ってきたことをすべて捨ててゼロから始めるのは、やや現実離れしていると感じていたのです。
なので政治家として自民党に所属しようと決めていました。やはり自民党の中から変える方が現実的なリフォームになるし、結局はその方がスピードも速いと思ったのです。ただ、当時の自民党は公募などを行っておらず、地方議員出身者や世襲の方が多かったので、なかなかチャンスがまわってきませんでした。そんなときに、松下政経塾でご一緒になった経営学者の野中郁次郎さんから、「これからは政治家にも博士号が必要」と、北陸先端科学技術大学院大学の博士課程にお誘いいただいたのです。
ーその後、医療マネジメントや社会保障の分野で教員をされていたとのことですが、政治家としても厚生労働系のフィールドで活動しようと考えられていたのですか。
どうしても技術者出身ということで経済産業系の役職をいただくことが多いのですが、政治家として取り組みたいことのひとつに雇用政策があります。最近は賃上げについて議論されることが多く注目も集まっていますが、雇用政策を厚生労働省が担っている現状に少し疑問を抱いています。
企業目線で考えると、欲しい人材がいれば会社は雇用したいわけです。では企業が雇いたい人材を輩出するために何が必要かというと、それは教育であり、文部科学省の分野です。現在の教育は初等中等教育に重きが置かれていて、高等教育の仕組みが整っていないと大学の教員時代に感じてきました。研究の環境も充実しておらず、若い人材が自由な発想で研究成果を生むのが難しい状況があります。結果として、優秀な若者が海外に出ていってしまうんですね。
だから雇用を考えるにあたっては「こういう人材を高等教育で輩出する」という文科省の政策もあるべきだし、「こういうニーズがあるからそれに応える人材を養成してほしい」という経済産業省の方針もあるべきです。厚労省、文科省、経産省が同じ方向を向いて日本の雇用政策を作っていく必要があり、各省庁間をつないで谷間に落ちている話を拾い上げるのが、私たち政治家の仕事だと考えています。
10兆円規模の半導体・AI支援で、世界と戦える体制づくりへ
ー経済産業副大臣として、経済産業の政策についてお伺いします。2024年11月に石破政権は半導体分野や国内のAIの技術開発や設備投資に対し、2030年度までの7年間で10兆円以上の公的支援を行う方針を示しました。半導体について、現状の課題や必要な支援についてどのようにお考えですか。
半導体産業は、かつては日本がリードしていた分野ですが、出遅れてしまった感があります。現在は設計はインテル(米)やエヌビディア(米)、製造はTSMC(台湾)の独壇場という状況です。
今は重要な局面で、日本政府もかつてないレベルの投資をしています。今まで特定の企業に国がお金を出すことに抵抗があったのですが、世界はそれをやりながら競争力をつけているので、我々も「公平」を追求するあまり世界に遅れを取るような状況は避けなければなりません。これは成長産業を育てる観点からも、経済安全保障の観点からも重要なことです。
ーAI関連では、たとえば2024年12月に経産省は「GENIAC(Generative AI Accelerator Challenge)」を立ち上げ、生成AIの開発強化に乗り出しました。どのような効果を期待していますか。
生成AIに関して確実に言えるのは、人材を育てることと、人材同士が情報交換できるコミュニティを作ることがとても重要だ、ということです。
そのプラットフォームとしての役割を担うのがこの「GENIAC」です。今後、汎用的なAIの精度がどんどん上がっていくなかで、専門分野に特化したAIの価値が高まっていくと考えられます。その点、日本であればアニメなどのコンテンツ産業に特化したAIで勝負できる可能性があります。このように特徴の出せるAIを開発する環境の整備に取り組んでいるところです。
一方で、こうしたAIの普及に伴い、データセンターの電力需要が急増しています。このため、産業立地を検討する際には、安定的な電源の確保が最重要課題となっています。現在、原油価格の高騰や脱炭素化への要請など、エネルギーを取り巻く環境は複雑化しています。資源の乏しい日本においては、原子力発電所の再稼働を含めた多様なエネルギー源の活用が不可欠となっています。
ーAIのような先端技術に関して、政治家はどのように情報をキャッチアップしていますか。
どうしても政治家や省庁は後追いになってしまいますね。本当に最先端で技術を生み出している人たちは自分たちでコミュニティを作って、そこで情報共有しています。海外のアカデミアの世界にはサロンのような形でいろいろな人が集まって情報交換する場があるので、そのような環境を日本に合った形で作ることも考えなければなりません。
半導体の話にしても「投資して工場を作れば製造できる」と考えている政治家も少なくありません。しかし、例えば半導体製造に必要な露光装置はオランダにほぼ100%のシェアを握られています。また、ガリウムなどの鉱物資源はアフリカで採掘する必要があります。その辺の事情にも目を向けて経済安全保障を考えられる政治家は少ないのではないでしょうか。
情報の背景にも目を向けて冷静な議論を
ー最後に、読者に向けてメッセージをお願いします。
国民の皆さんの中には「自民党はインパクトのある政策を実行できない」と思っている方もいるのではないでしょうか。ただ、政治も含めて仕事というのはやればやるほど実は地味なことの方が大切だったり、それほどインパクトのある正解は存在しなかったりするものです。
自民党の特徴は、多様な意見を丁寧に集約して、現実的な政策を練り上げる調整力だと自負しています。派手な政策提言は少ないかもしれませんが、これはある意味、社会の安定性を重視しているともいえます。
また、情報との向き合い方についても、昨今のニュースを見ていて色々と思うところがあります。オールドメディアの報道の方法や内容。また、インターネット上の情報には誤情報も混在し、すべてを語るデータというものは存在しません。私たちが目にする情報は、必然的に特定の視点や文脈から切り取られたものであり、正解・不正解と必ずしも言い切れないのです。
政策を議論する際には、表面的な内容だけではなく、このような背景にも目を向けると、また違った現実が見えてくると思います。
