
高齢化が進む中、国民医療費は年々増加しており、2023年度の国民医療費はおよそ47兆円と過去最高を更新しました。税と社会保障費が国民の所得に占める割合である国民負担率は約50%となり、国民生活の大きな負担となっています。
日本維新の会は現役世代の社会保険料の引き下げを求め、自民・公明両党と政策協議を行っています。今回のインタビューでは、金村りゅうな議員に年間4兆円の医療費削減を行い、社会保険料を引き下げる改革プランについてお伺いしました。
(取材日:2025年2月12日)
(文責:株式会社PoliPoli 中井澤卓哉)
金村 龍那(かねむら りゅうな)衆議院議員
1979年愛知県出身。日本維新の会 幹事長代理。
2002年から10年間、衆議院議員 城島光力(元財務大臣)の秘書を務める。
児童福祉施設経営を経て、2021年衆議院議員初当選(2期)。
プライベートでは、3児の父として、共働きで子育て真っ最中。
次世代のため、社会保険料の引き下げを目指す
ー社会保険料の引き下げを求め、日本維新の会は自民党・公明党と協議を開始しました。まず、社会保険料の引き下げに取り組む問題意識と背景について教えてください。
ひとことで言えば、現役世代の負担軽減を実現するためには、社会保険料の引き下げがセンターピンだからです。最近の議論では「税」と「社会保険料」の話がやや混同されがちなので、少し整理してお話しします。
国民民主党の問題提起で話題になった「103万円の壁」は、1年間の収入が103万円を超えると所得税が生じることから「壁」と呼ばれています。これは「税」の話です。この「壁」は、(1)アルバイトで働く学生などが年収103万円を超えると所得税が発生するという側面と、(2)その学生が「特定扶養控除」の要件から外れてしまい、親の税負担が増えるという側面の2つの側面があります。(1)の所得税については、103万円を超えた分にしか課税されないので、例えば年間の収入が110万円だったとしたら、110万円に対して課税されるのではなく、110万円-103万円の差額7万円に対して課税される、ということです。一方で、(2)の特定扶養控除の要件から外れると、親の税負担が増加するため、103万円を超えないように、実態として学生が年末に働き控えをすることが多くありました。
一方で、「103万円の壁」の延長として「130万円の壁」とも呼ばれていますが、こちらは「社会保険料」の話です。130万円を超えると、すべての人に社会保険料が発生します。みなさんもご自身の給与明細を見ていただければ、会社が支払う総支給額と実際に振り込まれる手取り額でこんなに違うのか、と驚かれることだと思います。総所得により異なりますが、多くの人はこの差額の大半を社会保険料が占めていると思います。例えば、年収350万円の単身世帯では、所得税は年間約7万円である一方で、社会保険料は年間約50万円と約7倍です。
現役世代の負担軽減を実現するには、まずこの社会保険料の引き下げに取り組まなければなりません。現役世代から高齢世代がに必要とする年金の財源を、現役世代から保険料という形で徴収して用意する現在の仕送りする「賦課方式」と呼ばれる方法では、人口構成が逆ピラミッド形になるなかで現役世代の負担がどんどん増加していきます。少子高齢化が加速し、人口構成が変化するなかで、現在の制度は持続可能ではありません。
現役世代が元気でなければ社会全体の活力も失われてしまう。そうした観点から、社会保障制度が本当に適切な形になっているのか、正面から見直していくことが必要であると考えています。
ー社会保険料の引き下げというと、具体的にどのくらいの金額を引き下げるのでしょうか?
現在の試算だと、年間で最低でも約4兆円、これを現役世代1人あたりに換算すると、年間で1人あたり約6万円の引き下げができると考えています。
ー具体的に、どのような取り組みによって医療費を削減していくのでしょうか。
医療費の削減については50ほどの案があるのですが、先行して取り組むのは以下の3つです。1つ目は資産を把握した上での応能負担の導入、2つ目はOTC類似薬を保険適用の対象外とすること、3つ目は医療DXの推進による無駄の削減です。
まず、応能負担についてです。現在、医療費窓口負担の割合や高額療養費負担限度額は所得によって変わってきます。例えば、75歳以上の後期高齢者の医療費の窓口負担は原則1割ですが、現役並みの所得がある人は3割、一定の所得がある人は2割などとなります。
ただ、負担割合を所得だけで判断しているので、実際の支払い能力を反映していないという指摘があります。例えば、資産は1億円あるが年金以外の収入がなく、所得が少ない方の窓口負担が1割になる一方で、資産がなく、生活のために年金以外の収入が必要で働いている方の窓口負担が2割になることもあるわけです。
さらにいえば、後期高齢者の医療費の財源の4割は、現役世代の収めた保険料からの支援金です。現役世代は高い保険料を払いつつ、窓口では3割負担。一方で、資産があっても所得が低い高齢者は、低い保険料で窓口では1割負担。これは本当に公平な制度なんでしょうか。日本では家計金融資産の6割を60歳以上が保有していると言われており、所得だけで支払い能力を判断するのは現役世代に過度な負担を強いることになります。日本維新の会では、資産を把握しその人の本当の支払い能力を考慮した上で、保険料や窓口負担率を決めていくべきではないかと考えています。
なお、ここで説明した応能負担の導入が、なぜ医療費の削減に結びつくのか疑問に思われるかもしれません。実は、1割負担だったら市販薬を買うよりも病院にかかる方が安いと考え、ちょっとしたケガや風邪でも病院にかかるケースが多くあるんです。保険料や窓口負担率を見直すことで、このインセンティブが減り、医療費が削減することが見込まれます。
2つ目は、OTC類似薬の公的医療保険からの除外です。OTC薬とは、薬局やドラッグストアなどで処方せんなしに購入できる医薬品のことで、OTC類似薬とは、OTC薬と効果が似ていながら、原則処方箋が求められる医薬品のことです。OTC類似薬には、例えば湿布や保湿剤などがあります。
病院で処方されるものとOTC薬で中身は同一でも、医療保険を使うと1割から3割の負担で買うことができるので、じゃあ病院で処方してもらおう、と思ってしまいますよね。でも、今ここまで医療費が増大するなかで、やはり市販で買える薬は自分で薬局やドラッグストアで買ってもらうべきではないのかと考えています。一部の試算では、OTC類似薬を保険適用外とし、全額自己負担とした場合、医療費が3450億円ほど減るという結果もあります。
3つ目は、医療DX推進による無駄の削減です。具体的には、病院や検査機関が持つ診察・検査データなどの医療・健康情報を集約する「パーソナル・ヘルス・レコード」の普及を目指します。
各病院ごとで持っているデータと、個人で記録する日常的な健康関連データを、本人が管理することを前提として1か所に集約したものが「パーソナル・ヘルス・レコード」です。現在、日本では通院歴や服薬歴、検査結果などは、病院ごとに保存・保管されていますが、「パーソナル・ヘルス・レコード」が普及することによって、薬を過剰にもらったり、何度も同じ検査を受けたりする無駄が削減できます。
実は今、残薬といって、処方されたにも関わらず飲まずに捨てられてしまう薬が問題になっており、残薬をなくすだけで年間500億円以上の削減効果があると言われています。また、同じ症状で別の病院にかかると、カルテを共有していないので同じ検査を何度も受けることになりますが、「パーソナル・ヘルス・レコード」で検査結果を共有することができれば、検査も一度で済みます。
電子カルテの普及率はだいたい50%ほどですが、電子カルテを普及させ、マイナンバーと紐づけていくことで、「パーソナル・ヘルス・レコード」を実現することができると考えています。
ーこの3つの先行的な取り組み以外の取り組みも組み合わせると、約4兆円の医療費削減という数字になるということでしょうか。
正直に申し上げて、先ほどご説明した3つも、実際にやってみなければどれくらいの医療費削減効果があるかわからないところがあります。蓋を開けてみなければ、それぞれの施策が人々の行動にどのような影響を与えるのかわかりません。
例えば、小泉政権下で後期高齢者の医療費負担増について議論していたとき、まだ実際に負担が増えたわけではないのに医療費が減ったんです。これは、これから医療費負担が増えるということを知った方が、受診控えをしたことが一因とも言われています。なので、実際にやってみることが必要だと思っており、4兆円の内訳については今はっきりと決まっているわけではありません。
ー社会保険料の引き下げに関する協議のスケジュール感などはいかがでしょうか。
社会保険料の引き下げについてはかなり複雑な制度を抜本的に見直すこととなるので、最終的な案は2025年6月末ごろに取りまとめる予定です。その後、年金制度の改革案も合わせて、社会保障制度の改革案を2025年度中にとりまとめていくようなイメージです。
我々が今力を入れている教育無償化も社会保険料引き下げも、実は両者の根幹は同じで、次世代のために、まずは現役世代を元気にし、経済を元気にしていかなければという思いがあります。
しがらみのない日本の維新の会だからこそできること
ーこれまで誰もが問題意識を持ちながら、なかなか触れられてこなかった部分に改革を切り込んでいると見受けてますが、日本維新の会だからこそできることはなんでしょうか?。
まさにその通りで、医療・介護分野は日本に残された最大の既得権です。なんのしがらみのない日本維新の会だからこそ、この改革を断行することができると思っています。
一方で、歳出改革なしに税率の負担を下げるというのは、実は別のところからお金が取られるだけだったりするわけです。だからこそ、1番にやらなければならないのは再出改革です。先ほど申し上げた先行的な3つの取り組みも、無駄の削減や現在の歳出のあり方に焦点を当てているのもそのためです。
これまでの自民党政権は、選挙で負けるから消費税は増税できないから負担が増えても分かりづらい社会保険料をひきあげる、というやり方でした。子育て支援の新たな財源となる子ども子育て支援金も、本来は税でやるべき話をなぜか健康保険料に上乗せする形で徴収することになりました。しかしこのやり方は、現役世代の負担を増やし、なおかつ問題の本質を先送りにしているというやり方です。まずは現在の無駄を排除すること、既得権に切り込んでいくことが必要です。そうすることで、新たな成長のエンジンやイノベーションを起こし、経済成長を促していくことができると考えています。
令和の時代にあった社会保障制度を実現したい
ー医療費の削減以外に取り組みたいことなどを教えてください。
まずは医療費を削減し、社会保険料を下げます。次に取り組むのは、税と社会保険料という二つの歳入区分を一つにすることです。実は税と社会保険料は密接に関わっていて、例えば後期高齢者医療費の財源の半分は公費、つまり税金なんです。支出するときには混ざっているんだけれども、徴収の仕方が税と社会保険料で分かれているという複雑な仕組みです。さらに、税は財務省の管轄、社会保険料は厚生労働省の管轄と分かれています。
私個人としては、歳入庁という新しい役所を一つ作って、税も社会保険料も一体となって管理すべきなんじゃないかと思っています。そうすることで、税と社会保障を一体的に取り扱い、より効率的な歳出のあり方を実現できるのではないかと考えています。
そして最終的に取り組みたいのは、生活保護なども含めた社会保障制度全体の見直しです。現在、基礎控除が48万円、給与所得控除が55万円ありますが、この103万円で人って生きていけるんでしょうか。税、社会保障と分けず、生活に必要な最低ラインはどこなのか、どうやって最低ラインの生活を保障するのかを議論していくべきだと思います。
年金にしろ、医療にしろ、昭和の時代につくられた制度がそのまま生きていて、制度そのものが既得権となっています。昭和の人生モデルと令和の人生モデルはやはり違う。それに少子化で現役世代が減少していくなかで、賦課方式を維持し続けるのは不可能です。令和の社会モデルに合わせて、制度を一から作り直したいという思いはありますね。
