財務省・金融庁などでのキャリアを経て政治家に転じた小森卓郎議員は、自民党でAI政策の提言書(ホワイトペーパー)を取りまとめるなど、国内AI政策を政治の側から牽引する第一人者です。官僚時代に感じていた近年の政治プロセスの懸念点、またAI分野での日本の戦い方やAIが日本にもたらす可能性のあるイノベーションなどについて小森議員にうかがいました。
(取材日:2025年4月14日)
(文責:株式会社PoliPoli 大森達郎)

小森 卓郎 こもり たくお 議員
東京大学法学部卒業後、大蔵省(現、財務省)入省。内閣官房副長官秘書官、石川県総務部長・企画振興部長、金融庁総合政策課長などを経て、2021年衆議院議員初当選(石川1区、現在2期目)。2023年総務大臣政務官
財務省・金融庁を経て政治家に転じた経緯とその思い
ー小森議員は、財務省や金融庁のキャリアを経て国会議員に転じています。公務員から国会議員に転じた経緯や、当時抱いていた問題意識などを教えてください。
私は1993年に大蔵省へ入省しました。当時はまだ財務省と金融庁が分かれていない時代です。現在では考えられないことですが、東京大学法学部の成績のよい学生は国家公務員を志望するのが自然だという風潮もみられた時代でもありました。私は両親が銀行員だったこともあり、民間企業の就職活動も行いましたが、活動を通じて、人の役に立てる時にこそ喜びを感じることに気づき、世の中の多くの人に貢献したいと思うようになりました。その気づきと想いから、最終的に大蔵省への入省を決めました。
大蔵省は、その後、財務省と金融庁に分かれましたが、私は両省庁で仕事をする機会がありました。私が入省した頃の大蔵省は、政策形成を主導したり、時には政治とともに政権運営の一翼を担ったりしていました。そのような環境で働くことができ、また世の中の動きを多角的に見ることができ、貴重な経験ができたと感じています。
ー2011年からは石川県庁に出向されたそうですね。
2011年からの3年間、石川県庁に出向して、担当の部長として北陸新幹線の金沢開業準備や第三セクター鉄道会社の「IRいしかわ鉄道」の設立などに携わりました。当時は新幹線の開業準備の最盛期で、地域の魅力を首都圏の人たちにどう伝えられるかを考えて、地域の魅力の磨き上げなどの手を打つことが仕事でした。当時の石川県は、新幹線開業への大きな期待と、わずかながらの不安が入り混じった状況でしたが、私は客観的に見ても、新幹線開通によって必ず多くの人が石川県を訪れると確信していました。結果的には、私の予想をはるかに超える大勢の方が金沢開業後に石川県を訪れることになりました。
それまで新幹線の延伸は、「我田引鉄」と揶揄されたように無駄な公共事業というステレオタイプの取り上げられ方をされることが多く、ネガティブなイメージを持たれがちでした。金沢開業は、新幹線のそうしたイメージを劇的に変えたと思っています。地域再生は今日の日本にとって非常に重要な課題です。石川県の人々を中心とした努力によって、北陸新幹線の金沢開業を地域にとっての資産にできたことは、成長戦略・地域再生の観点からも大きな価値であり、その一員として携われたことを誇りに感じています。
ー金沢から政治家を目指した背景はどのようなものだったのでしょうか。
私の妻の父、つまり義父が能登選出の国会議員をしていました。義父の政界引退の際に出馬のお話をいただいたことがきっかけで政治家になる選択肢を随分と考えましたが、その時は突然の展開の中で出馬するには至りませんでした。
2000年代から2010年代にかけて、政治主導によるトップダウン方式の政策決定が進みました。それまでの官僚からのボトムアップは、時間はかかっても各方面が納得しやすい丁寧な政策形成が行われた一方で、日本には様々な大きな課題があり、突破力も必要とされました。トップダウンが進んだことによって政策のスピード感は増しましたが、時には拙速な政策が出てくるようになり、国民の不満にも繋がるケースも見受けられました。早く大きく変えるとともに、正しく賢く変えなければなりません。そうした状況下で、官僚としての経験を持つ自分だから役に立てることがあるのではないかと考えました。
そのような思いから、2021年に義父とは異なる選挙区である金沢での出馬のご縁をいただいた際に、挑戦することを決断しました。
自民党のAIに対するホワイトペーパーの取りまとめ、生成AIへの取り組みについて
ー小森議員は自由民主党デジタル社会推進本部の「AIの進化と実装に関するプロジェクトチーム」の事務局長として、2024年4月に「ステージⅡにおける新戦略 -世界一AIフレンドリーな国へ-」と題するホワイトペーパーをまとめられました。
このホワイトペーパーでは、国内外のAI分野を牽引する専門家や有識者80名以上との意見交換を踏まえ、国内AI産業の競争力強化と利用者の安全確保を両立させることを根幹に、具体的な政策提言をまとめたものです。
提言の中では、社会全体のAIに対する理解促進も不可欠であることも強調しています。AIは、実際に活用することでその真価が人々に理解されていく技術ですが、残念なことに日本のAI利用率は諸外国に比べて低い水準に留まっています。この現状を打破するため、有益な利用と避けるべき利用に関する詳細なガイドラインの策定が有効だと考えています。各業界で判断に迷うケースやグレーゾーンが存在する現場を踏まえ、業界ごとのガイドラインを設けるなどして、AI利用を後押しする施策が求められています。
安心・安全な利用環境を整備することで、AIを利用することについての安心感を社会全体に広げていく必要があると考えています。
ー今月(2025年5月)にも新しいホワイトペーパーを公表するようですね。生成AIのリスク面について自民党や政府はどのように捉えているのでしょうか。
AIは道具です。道具は使わなければ何も始まりません。怪我のリスクがあるから刃物を使わない、交通事故のリスクがあるから車に乗らない、ということはありません。リスクを認識しながら、AIの有用性を引き出していく必要があります。また、AIはもっともらしい誤情報を提示することもありますので、AIの出力のみを鵜呑みにして行動すると不利益を被ることにもなります。それ以外にもAIによる人権侵害や著作権侵害といった倫理的なリスクもあります。まずはさまざまな分野で実際にAIを活用し、その可能性と課題を具体的に把握して、様々なルールを柔軟に設定し、展開に応じて素早く変えていくことが、今後の健全な発展に不可欠だと考えています。
AI基点のイノベーション戦略について
ーこれまではAIのリスク面のお話でしたが、AIがもたらすイノベーションについてはどのようにお考えでしょうか。
生成AIは、学習させるデータの量はもちろんですが、質が性能に大きく影響します。適切な学習データを投入することで高い性能を発揮するAIを育成できます。ここに日本にとってのチャンスがあります。また、現在の生成AIの大規模言語モデル(LLM)は英語を中心とした情報で学習していることが多いため、例えば英語を母語とする人々が日本に対して持っている先入観などが反映されている可能性もあります。日本は大規模言語モデルでは米国や中国に遅れを取っていますが、日本に関する正確で質の良いデータを学習させることで対抗する余地がありますし、そうしなければならないと考えています。
このほかにも重要なチャンスが更に2つあると考えています。1つ目は、「AI×リアル」の可能性です。生成AIは、コンピューターの空間の中だけでなく、今後、現実世界においても大きな変革をもたらし得ます。たとえば、日本の製造業は高度なロボット技術を有しています。この分野のデータを集めて生成AIに学習させることで、これまで以上に複雑で柔軟な動きをロボットが行えるようになり、省人化などの生産性の向上や、工場以外での利用など新たな領域へと展開できる可能性があります。日本が強みを持つものづくりなどの多くの産業とAIを結びつけることで、新しい領域での競争力を持つ可能性があると考えています。
2つ目は、特化したAIです。汎用的な巨大AIは多くのタスクをこなせる一方、例えば医療や金融といった特定の分野においては規模の小さなモデルでも汎用モデルに対抗できる可能性があります。
また、日本語が使われているデータを強みに変えて、特化した分野で成功する事例を作ることができれば、その後のグローバルな展開につながります。将来的には、同様の手法をアジアやアフリカなどの少数言語にも応用し、それぞれの地域に最適化されたAIモデルを提供できる可能性も秘めていると考えています。
巨大な汎用AIの分野ではすでにアメリカなどが先行していますが、「AI×リアル」や特化したAIの領域においては、日本が独自の強みを活かして優位性を確立できるチャンスがまだ残されています。ただし、AI技術の開発競争は激しいため、これらの分野における研究開発と実用化を迅速に進めなければせっかくの機会を失うことになりかねないとも感じています。
ー石破内閣は地方創生に力を入れていますが、生成AIの活用は地方創生に貢献したり、地方にイノベーションをもたらすとお考えでしょうか。
全国的に人手不足は大変深刻であり、私の地元である金沢も例外ではありません。一方、AIは人の代替となり得る業務を担えるため、現在の日本の状況は生成AIを導入すべき好機にあるとも言えます。仮に、人手が潤沢な状況でAIが導入されれば、人間の仕事を奪うという負の側面が強調され、AIに対する見方がより厳しくなることでしょう。しかし、深刻な人手不足に直面しているからこそ、AIを積極的に活用することによる省人化が進めば、人口減少と人手不足に苦しむ地方にとって大きな助けとなるはずです。
例えば、地方が現在抱える移動手段の確保という問題もAIによって解決の糸口が見出せるかもしれません。バスやタクシーの自動運転は、そう遠くない将来に実用化されると見込まれています。AIは、地方におけるバスやタクシーの運転手不足という喫緊の課題解決にも大いに貢献してくれるのではないかと期待しています。
経済や社会を活性化し、次世代の革新的企業が次々と生まれる国に
ー今後の政治家としての方向性や注力したい分野について教えてください。
私の政治信条には3つの柱があります。
1つ目は、安全保障の強化です。安全保障が揺らげば、日本経済は活動の基盤が傷つき、立ち行かなくなってしまいます。例えば、台湾有事が現実となれば、仮に日本が軍事的に巻き込まれなかったとしても、物流の混乱、エネルギーや食料価格の急騰など、国民生活に甚大な影響が及びます。こうした事態を未然に防ぎ、国民生活の安全と経済を守ることが政治の責務です。防衛関係の三文書を改訂し、戦後最大の政策転換を行ったのは、紛争を防止するためであることを強調したいと思います。
2つ目は、経済と社会に活力を生み出すことです。AI技術の推進もその一環ですが、日本経済に再び活力を取り戻すためには、スタートアップ企業や成長する企業への積極的な支援が不可欠です。技術やアイデアを持つ企業が伸びていける環境を用意したいと考えています。
3つ目は、地方創生です。東京や大都市圏だけでなく、地方における活力が増していくことによってこそ日本の未来が拓けます。新幹線などの公共交通インフラを整備・活用し、地方の個性を活かした産業振興を図ることで、日本全体の底上げを目指します。
2つ目の経済の活性化について付言すれば、過去数十年の日本はリスクを恐れるあまり、挑戦を避けてきたように感じられます。しかし、リスクをゼロにすることは不可能です。大切なのは、リスクを適切に管理しながら、新たな価値を生み出す挑戦を後押しすることです。次世代を担う革新的な企業が次々と生まれるような社会を創出し、日本経済に再び活力を与えたい。誰もが様々な挑戦に向けて目を輝かすことができる社会にしていきたいと考えています。