
2024年10月27日に投開票された第50回衆議院議員選挙では、99名の新人議員が誕生しました。その中から、毎日新聞とダイヤモンドで記者を務めた経歴を持つ岡田悟議員にインタビュー。記者時代に目の当たりにした地方の衰退やビジネス現場の人手不足が岡田氏の価値観をどのように変えたのか、政治家への転身を果たした今、どのような国家ビジョンを描いているのか、話をお聞きしました。
(取材日:2025年4月7日)
(文責:株式会社PoliPoli 秋圭史 )
岡田悟(おかだ さとる)議員
1984年大阪府出身。
関西学院大学社会学部を卒業後、2006年に毎日新聞社入社。
2013年ダイヤモンド社へ入社し、記者として経済に関するテーマを幅広く取材。
2024年10月の衆議院議員選挙に兵庫7区から出馬し初当選(比例近畿ブロック)。
立憲民主党の政務調査会長補佐、青年局事務局次長に就任。
人口減少とマーケットの縮小、そして富の流出
ー政治家になる前は新聞記者、経済雑誌の記者をされていましたが、まずはジャーナリストを志したきっかけを教えてください。
高校時代は理系の教科が苦手で、現代文だけは得意でした。そのため、漠然と「文章を書く仕事がしたい」と考えるようになったのです。一方、私が10代を過ごした期間はバブル崩壊後の金融危機、小泉政権による構造改革、就職氷河期と非正規雇用の問題など、世の中の、特に経済の問題について考えさせられる出来事が続いた時代でもあります。この2つの背景から「書くことで世の中を良くしたい」という思いが生まれ、記者をめざしました。
ー大学卒業後は毎日新聞に入社されましたが、そこで国や社会についてどのようなことを感じられたのでしょうか。
当時、新人の記者はみんな全国各地に配属されましたが、私が配属されたのは秋田県でした。秋田は日本でもっとも高齢化が進んでいる地域のひとつです。農業所得は東北の中でも低く、稲作中心で単価の高い果物などへの転換が十分に進んでいませんでした。産業の集積も他県と比べて少なく、若い人たちは「秋田に残りたい」と思っていても、生活のために都会へ出ざるを得ない状況でした。私が赴任していた頃の人口は113万人ぐらいで今は90万人を下回っており、急速に人口減少が進んだわけです。ただ、当時から「これは秋田県だけの問題ではなく、将来の日本の姿だ」と思っていました。
ーその後、ダイヤモンドに転職されましたが、ここで政治家を志すような経験をされたのでしょうか。
ダイヤモンドでは10年半、いろいろな業界を取材しました。ゼネコンや小売り業界で感じたのは、人手不足がもたらす供給力の低下とマーケットの縮小です。例えば、コンビニ業界はフランチャイズ加盟店による店舗運営が主流ですが、店舗の人件費は加盟店が負担します。人手不足で人件費が高騰しても、本部は負担しません。加盟店は利益が出しにくくなり、24時間営業をやめようとして本部と争うような事例もありました。これらの問題を取材する中で、「働く人が減ってマーケットも成長しない、という問題が日本全体に広がっている」と痛感しました。
また、最後の1年半ぐらいは金融を担当していました。証券会社や円安の問題などを取材し、「貯蓄から投資へ」というテーマも扱っていました。特に課題を感じたのがコロナ後の急激な円安です。円が安くなると、海外から物を買うのに従来と比べて多くの円貨が必要になります。その分、日本の富が海外にどんどん流れていく。しかも人口が減って経済も縮小している。「このままだと本当にマズい」という危機感がどんどん大きくなりました。
記者として伝えることも大事ですが、それだけでは届かない現実があります。直接解決できるフィールドはどこか、と考えたときに「やはり政治の世界をめざそう」という思いが芽生えたのです。
ーどのような経緯で立憲民主党から出馬されたのでしょうか。
私はずっと、アメリカの民主党やイギリスの労働党のように、現実的な政策を掲げながらもしっかりとリベラルの立場で社会を支える中道政党が日本にも必要だと思っていました。自民党には多様な意見をお持ちの方がいて、中には極端な主張をされる方もいます。維新に関しては「改革」と言いつつ、その先にどのような社会を作りたいのかが見えてこない。そんな考えから、私は20歳の時からずっと民主党に投票していました。もちろん、以前の民主党政権に対する評価は分かれると思いますが、出馬に際して他の党はまったく考えませんでした。
税と社会保障の見直しを通して、適切な再分配を
ー新人議員として、大切にしている視点や理念を教えてください。
例えば最近では「政府が半導体に10兆円を投じる」などの話があります。もちろん最先端の技術に力を入れることは重要なのですが、「その前にやるべきことがある」という気持ちもあります。例えば、公立の小中学校の教育環境をもっと良くするとか、子どもたちが安心して学べる場を整えるとか。日本は公教育への投資が非常に少なく、OECD加盟国の中でも下位にいますからね。
経済産業省の担当者からも話を聴きましたが、日本には半導体の製造装置や素材の分野で世界トップレベルの企業があります。でも、実際に製造するファウンドリは台湾など海外が中心なので、結局は技術が国内に十分に残りません。だったら、もっと人への投資にシフトしないと、根本的な部分が変わらないままだと思います。
かつては工業製品を作って海外に輸出すれば確実に儲かる時代がありました。教育も行政も民間企業も、高度成長時代の成功モデルを見直し、人口減少社会だからこそ「人」を大切にして、経済的にも、それ以外の面でも付加価値を生み出せる社会にアップデートしていかなくてはなりません。
例えば教育政策について考えれば、お子さんが安心して勉強したり遊んだり、自らの興味や関心に従ってチャレンジできる環境を、東京の一部の裕福層だけでなく、全国に広く浸透させないと、新しい産業を生むための土台が築けないのです。新しい産業を作っていくことは必要ですが、その前に基礎から人を育てることに力を入れないと、おそらく既存の産業も維持できないでしょう。
ー労働力不足を補う手段として移民の受け入れも進んでいますが、この点はどのようにお考えですか。
「労働力不足だから外国人を入れればいい」という単純な話ではないと思っています。技能実習生に関しても、深刻な人権侵害と言える問題が実際に起きていますが、このようなやり方は、早急に改めなくてはなりません。日本を移住先として選んでもらうには、それなりの受け入れ体制と国民の覚悟が必要です。他の先進国では、何年も前から外国人労働者の受け入れ体制を整えている国もあります。日本ももっと真剣に考えないと、どんどん「選ばれない国」になってしまいます。
そして、受け入れる側の国民にどう理解してもらうか。ここを丁寧にやらないと、差別や分断が広がるだけです。政治の役割はそこにあると考えています。
ーもし政権を担う立場になったら、どのようなことに取り組みたいですか。
まず取り組みたいのは税と社会保障制度の見直しを通じた適切な再分配です。消費税の逆進性の問題もありますし、社会保険料もどんどん上がっています。ただ、国民の目線で見れば「何が税で、何が社会保険なのか」はあまり区別されていません。多くの国民は給与から天引きされていますからね。だから、シングルマザーなど本当に生活が苦しい人は社会保険料も税もトータルで軽減をして、もっと給付を拡充させる必要があります。
「国の借金は1000兆円を超えている」と言われますが、その一方で個人の金融資産は2200兆円あり、これも増え続けています。企業の現預金も増加傾向にあります。だから税金で適切に再分配して、トータルでお金が回る状況を作れば、若い人ももう少し安心して生活ができ、結婚も子育てもできて世の中全体が上手く回るはずなのです。その循環を作ろうと思えば、税と社会保障の仕組み自体を根本的に見直さなければなりません。
身近な問題から、政治に関心を持ってほしい
ー読者へのメッセージとして、若い方が政治への関心を高めるためのアドバイスをお願いします。
先日も阪神電車の甲子園駅の前で街頭演説をしていましたが、若い方が「岡田さんよろしくお願いします」と声をかけてくれました。若年層は高齢者と比べて人口は少ないですが、投票に行けば世の中も政治の仕組みもリアルに変わる可能性があります。また、SNSでの発信にはリスクもありますが、自分の意見を発信できたり繋がったりもできるので、昔よりは政治について議論しやすくなっていると思います。
もし近くに政治家がいたら、ぜひ会いに行ってほしいと思っています。会いに行って、どんな反応をされるかでその人の人柄が分かりますが、誠実な政治家ならきちんと話を聞いてくれるでしょう。「自分とは考え方が違うな」と感じた人でも、意見交換をすれば関心がさらに高まると思います。
また、身近な問題にも目を向けてほしいと思っています。税金や社会保険料は誰もが納めているものですし、子どもが生まれたら児童手当や学校の手続きがあります。これらはすべて、政治とつながっています。国会での論戦だけが政治ではありません。ぜひ身近な政治の動きに関心を持って、いろいろと調べてみてください。
