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政治ドットコムインタビュー政治家インタビュー厚生労働大臣政務官・塩崎彰久議員に聞く!これからの時代の政策立案と官民連携の在り方とは?

厚生労働大臣政務官・塩崎彰久議員に聞く!これからの時代の政策立案と官民連携の在り方とは?

投稿日2024.4.23
最終更新日2024.04.23

日本は超高齢化社会を迎え、先端的なヘルスケアのニーズが集積する世界でも稀に見る状況を迎えています。そのような状況下で、政府が推進する医療DX政策により、医療・介護のデータが集積される状況が整いつつあります。

この背景に加え、岸田政権が打ち出すスタートアップ支援政策により、スタートアップがデータの利活用をはじめ医療・介護の課題解決を推進できるポテンシャルを秘めています。日本の課題解決にとどまらず、世界でも競争優位性を得られるチャンスがあります。

今回は、厚生労働大臣政務官であり、「ヘルスケアスタートアップ等の振興・支援策検討プロジェクトチーム」(通称:ヘルスタPT)のチームリーダーを務める塩崎彰久衆議院議員に、ヘルスタPT立ち上げの狙いや医療・介護の課題解決へのインパクト、またこれからの時代の政策立案と官民連携のあり方についてお伺いしました。

(聞き手・文責:株式会社PoliPoli 中井澤卓哉)
(取材日:2024年3月18日)

塩崎彰久議員インタビュー

塩崎彰久(しおざき あきひさ)議員
1976年生まれ。長島・大野・常松法律事務所のパートナー弁護士(共同経営者)として多くの危機事案の解決に携わるほか、
民間の立場から福島原発事故や新型コロナの独立検証などを行う。
06〜07年官房長官秘書官。2021年の衆議院議員総選挙にて愛媛1区で初当選。厚生労働大臣政務官。
趣味はテニス、茶道、インスタ俳句など。

1.民間だけではできない、危機への対応。弁護士から政治家へ転身

ー弁護士から転身し、政治家を志した理由は何だったのでしょうか?

もともと政治家になるつもりはありませんでした。弁護士時代は企業コンプライアンスの案件に多く携わっていました。コンプライアンスの個別の案件をみていくと、もちろん不適切な行動をとってしまった人がそこにはいるのですが、さらに「なぜなぜ」と突き詰めると、制度の歪みやルールが時代に合っていなかったという問題を目にしていました。だからこそ、法律やルールメイキングの力が重要であることは自身の経験の中で実感していました。それでも弁護士の仕事はとても楽しかったので、ずっと続けていくんだろうと思っていました。

塩崎彰久議員インタビュー

転機は2019年からのコロナ禍です。世界のどの国も、どの自治体も、どう対応すればいいのかわからない。そんな中で政治のリーダーシップが求められていました。みんな不安で「誰かに決めてほしい、誰かに道を示してほしい」という状況を目の当たりにして、民間だけでは対応できない大きな社会の危機や課題に直面したのが大きかったです。

そのときは弁護士として「新型コロナ対応・民間臨時調査会(通称:コロナ民間臨調)」というプロジェクトに携わり、新型コロナへの対応の検証をしていました。プロジェクトでは当時の安倍総理や菅官房長官にインタビューをしました。その中で、感染症予防や危機対応プロセスで、もともと予定していた提言が実行できていなかったり、いざというときに縦割りで情報共有できなかった、という状況が見えたんですね。何とかしないといけないものがたくさんあるな、と思いました。

塩崎彰久議員インタビュー

そんなときに当時政治家だった私の父(塩崎恭久 元衆院議員)が、次の選挙に出ない決断をしました。であれば、自分のこれまでの弁護士としての経験や、官邸での仕事の経験を、コロナ禍という危機の中で何か役に立てられるんじゃないかと思い、選挙に出ることを決意しました。

ー塩崎議員といえば、「note」で積極的に部会の情報などを公開・発信していて、画期的なことを行っている印象があります。どういった思いが背景にあるのでしょうか?

「本当の知恵は永田町と霞が関にはない」と思っています。弁護士として多くの方と仕事をする中で、はっとするような気づきやアイディア、現場の課題や肌触りは、民間に一番鮮度の高い情報があると思っています。

それらをもっとダイレクトに政策に反映できる仕組みがあればいいなと、ずっと思っていました。その試行錯誤の結果の一つが、部会情報や資料の公開でした。一番最初は、2021年のNFTプロジェクトチーム、翌年のWeb3プロジェクトチーム、そしてAIプロジェクトチーム、そしてそれを引き継ぐ形でチームリーダーとして立ち上げた「ヘルスケアスタートアップ等の振興・支援策検討プロジェクトチーム」と、少しずつ公開する領域を広げ、増やしてきました。

ーそもそも、オープンにしていこうという動きはどのようなきっかけがあったのでしょうか?

最初は、Web3や暗号資産のことが正直よくわからなかったんです。なので、PTで議論して何か結論を導こうとしていても「本当にこれ大丈夫かな、ここでプレゼンしていただいている方の意見が本当に正しいのかな」と疑問がたくさんありました。一方で、ものすごく面白い情報にも毎週毎週接するんですよね。「こんなにいい情報を国会議員だけが聞いているのはもったない、多くの人に見てもらった方がビジネスに役立ててもらえるんじゃないか」と思ったんです。同時に、情報を公開することで、反対意見や別の考え方も教えていただける。ファクトチェックの意味も込めて公開に取り組んできました。

ー「note」のいいね数も4,000件を超えており、非常に注目されているのがわかります。

「note」で公開してから、様々な会社から「PTの資料をAIやWeb3関連の社内研修の資料として参考にしています」との声をいただくようになりました。今まで「自民党で政策作っています」「部会に出ています」と言っても、何を議論してるのか、誰と議論してるのか、ほとんど世間には見えなかった。一部の議員で議論して、できたものを「さあどうですか」と公開するスタイルではなく、ルールメイキングの過程そのものを見せていくことが、よりよい政策作りに役立つんじゃないかといった期待と手応えを持っています。

塩崎彰久議員インタビュー

2.「ヘルスタPT」で取り組む、新しい形の政策作り

ー「ヘルスタPT」の資料を見ると、スタートアップ支援へ本腰を入れると同時に、ヘルスケア分野に対する危機意識も全面に出ていると感じます。どのような背景で立ち上がったのでしょうか?

背景は2つあります。1つは、私自身が弁護士時代からスタートアップの支援をずっとやってきたことです。特にヘルスケア分野には多く携わっていたので、日本で成長できるヘルスケアのスタートアップがあるのに十分そのポテンシャルを発揮できていないという問題意識がありました。

もう1つは、岸田政権のもとで『スタートアップ5ヶ年計画』をはじめスタートアップ支援が盛り上がる中、分野ごとに特有の課題を把握する必要があると感じたからです。特にヘルスケアの分野は、ビジネスと規制が表裏一体の関係にある点が特徴的です。だからこそ、その部分にまだ議論され尽くしていない政策のポテンシャルがあるんじゃないかと。この2つが重なって、やってみようかと、立ち上げさせてもらいました。

ー立ち上げにあたって、厚生労働省だけではなく経済産業省もアドバイザーとして入っています。どのような意図があったのでしょうか?

実は、厚労省の中には産業振興を担当する部署が非常に少なく、その点で日頃から産業振興に取り組んでいる経産省の方の知恵を借りたいと思ったんです。経産省も喜んで協力してくれましたし、厚労省でも何の異論もなかったですね。

厚労省の検討会にこれだけ他省の部署がオブザーバーに入っていただくのは、かなりユニークな形だとは思います。検討会のオブザーバーには、経産省で長年スタートアップ支援に取り組んできた石井芳明さんに入っていただきました。齋藤健 経済産業大臣も喜んで協力すると言ってくださったこともとても大きかったです。

ーPTには「バイオ・再生医療」「メドテク・医療機器・SaMD領域」「医療DX・AI領域」「介護テック領域」の4領域が選定されています。どのような選定の意図だったのでしょうか?

ヘルスケアのスタートアップに大きなチャンスがあると考える背景には、国が推進する医療DX構想が密接に関わっています。医療DXは医療や介護にあるデータを一元化しようとする構想です。マイナンバー制度との連携を筆頭に、これから数年かけて、世界でも類を見ないぐらい高品質で巨大なボリュームの医療データのプールが日本に誕生します。これこそが、外国と比べて日本のスタートアップが勝負できる大きな武器になります。

これを念頭に置いた時、医療DXでカバーされている分野として、バイオや再生医療などの創薬分野、医療機器の分野、そして介護DXも入ってきます。そして、データそのものの医療DX・AIの部分をあわせた4つを切り出して、タスクフォースを立てたということですね。この4つはそれぞれマーケット、市場構造が全然違うので、分けて議論しないといけないと考えました。

塩崎彰久議員インタビュー

ー各タスクフォースでは、どのぐらいの回数の議論を重ねる予定ですか?

各タスクフォースで、すでに何十人もの方へのヒアリングが進んでいます。政府がこの類の検討会を開くとき形式的な形だけで終わってしまうことがよくあります。十数名の有識者の日程を合わせるだけで大変で、月に1回、2時間の議論を数回、形だけやりました、のような例も少なくないと聞きます。その形だと議論が薄まってしまうんですよね。であれば、全員が集まってオープンで行う会議は2回に限定し、その後はタスクフォースごとにどんどんヒアリングをかけていけば、実りある実態調査とディスカッションができるのではと考え、早速実行しています。

毎日何件も何件もそれぞれのタスクフォースでヒアリングが走ってきました。「ヘルスタ・アイデア・ボックス!」に寄せていただいた多くのご意見の中で、より詳しく聞きたい意見については直接主査から連絡を取り、ヒアリングをさせていただいています。

ー4月に中間取りまとめを出す予定ですが、現時点での議論のまとめや方向性はどのような状況でしょうか?

ヘルスケア分野のスタートアップ支援に関する大きな方向性と、具体的な提言の多くを発表できるのではないかと思っています。かなりヒアリングを重ねてきているので、それぞれの市場ごとの課題が明確に見えてきました。この課題認識から有効な打ち手につなげていくブリッジのところを、これから一つ一つ提言を磨いていくフェーズに入っていきます。

塩崎彰久議員インタビュー

3.これからの時代の政策の作り方、官民連携の在り方とは

ー2ヶ月で中間取りまとめを出すのは他の検討会などと比較してかなり早いペースかと思います。どのようにしてこのスピード感が実現できているのでしょうか?

有識者会議は往々にして、忙しい有名なスーパースターを集めがちです。それはもちろん素晴らしいことであることは前提なのですが、みなさん手を動かす時間がないので、結局中身は役所任せみたいになってしまうことがほとんどです。

ヘルスタPTでは、一番最初の会議で、委員の皆さんに「申し訳ないですが、これは有識者会議ではありません」と伝えました。「プロジェクトチームなので、皆さんに相当手を動かしていただくことになります」と。実際に各タスクフォースでは、主査の方々に相当な裁量を持って自分でどんどん検討できるようにしています。

もう1つ今回工夫したところは、その主査の方々とは別に、副主査のチームを作っています。副主査は、弁護士やコンサルタントの方々で、副主査がそれぞれの主査に1対1対応で付いています。忙しい主査の思いを、具体的に文字化していったり、データを詰めていく超強力な右腕のような位置付けです。国の検討会議ではおそらく初めての試みになるのではないかと思いますが、主査の方々が自由に思い切った政策提言を検討できる環境を整えています。

ー塩崎議員が考える「今後の新しい官民連携のあり方」とはどのようなものでしょうか?

政治と行政の役割を明確にした上で、うまくバランスをとることが重要だと考えています。たとえば、政治主導がいいことだとよく言われますが、その加減は結構難しいと感じています。政策を民間の人だけで役所にまったく相談しないで作ると、一見聞こえはいいけれども今までの政策と整合性がなかったり、実現が不可能だったり、予算が莫大にかかったりする政策ができてしまう危険があります。一方で、すべて役所任せにしてしまうと、今までの政策の延長線上だったり、予定調和なものしか出てこなかったりします。この2つのバランスをうまく取るところに、これから新しい政策づくりの形があるのではないかと考えています。

自民党のデジタル社会推進本部のいくつかのPT事務局長の経験を経て、私なりのメソッドとして、政策の最初の叩き台を政治+民間側でつくり、そのチェックや修正提言を役所側でやっていただく形がベストなのではないかと思ってます。これまではその逆で、役所が叩き台をつくって「何かご意見ありますか」と政治側に聞いたり、民間にパブリックコメントで聞いたりしていました。

最初の叩き台を作るのは、それだけ大変でエネルギーも必要で時間もかかりますが、叩き台を作る覚悟で政治家が動けば、思い切った政策づくりができます。

ー「これからの時代の政策づくり」を考える上でAIなどの新しい技術にどのように向き合っていくかは避けて通れない点かと思います。この点についての考えはいかがでしょうか?

この点はまさに、デジタル社会推進本部のAIの進化と実装に関するPTで取り組みました。「責任あるAIの推進のための法的ガバナンスに関する素案」を作成する際、今までのいろんな取り組みをさらにもう一歩進めて、法律を書いてみました。

塩崎彰久議員インタビュー

この素案は、役所の人の手は一切入れず、学者と弁護士と政治家だけで、あるべき法律の形を書いたものです。生成AIのような新しい技術をどのように規制していくかについては、役所に任せると、どこの役所の所管か責任の調整だけで何ヶ月もかかってしまう。世界がこれだけ速いスピードでAIを動かしてるときに、調整を待っている時間はないので「だったらこっちで作っちゃえばいいじゃないか」ということで作りました。

これを2月に発表したところ、ものすごい反応がありました。すぐにアメリカのビッグテックやヨーロッパのEU AI法に取り組んでいる政治家からも「話をしたい」と連絡をいただきました。

各国がこの新しい技術にどうやって向き合っていこうかと不安になっている中、日本としての考えやスタンスを出していくから、世界は日本の意見を聞かなければいけないと思うわけです。これから様々な新しいテクノロジーが生まれてくる中で、ルールメイキングの大舞台でリーダーシップをとっていくことは、補助金を何百億何千億つける以上の政策効果があると思っています。

ー今後、塩崎さんが政治家として成し遂げたいことはなんでしょうか?

根底に自らが弁護士であるとの自覚を持ちながら、様々なルールメイキングを通じ、イノベーションで社会課題を解決していく社会を作りたいです。

人口減少社会でも成長を感じられる社会を次の世代に残すためにも、社会保障制度の改革は私たちの世代で必ず取り組まなければなりません。医療制度、介護制度をはじめ、時代に合わせたアップデートが必要です。

塩崎彰久議員インタビュー

ー最後に、読者にメッセージをお願いします。

私がアメリカのスタンフォード大学に留学したのは1999年ですが、当時ははじめてインターネットが当たり前に使える環境を目の当たりにし「未来がこんなに変わるんだ」という希望を持ちました。これからますますテクロジーが私たちの生活に大きな影響を与える時代になります。

新しいテクノロジーやイノベーションを生み出していく役割自体が、様々なアイデアとやる気にあふれた、ルールにしばられない挑戦心を持ったスタートアップに移行していくのは間違いありません。ぜひ日本で、何度失敗してでもはい上がってくるような、タフな起業家がたくさん生まれてきてほしいと願っています

この記事の監修者
政治ドットコム 編集部
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