
日本維新の会・村上智信議員は昨年10月の衆院選で初当選を果たしました。経済産業省を退官後、8年半の浪人後の初当選となります。村上議員に経済産業省をやめて政治家を目指した経緯、そして今後手掛けたい政策や注目する政策分野などについて伺いました。
(取材日:2025年3月6日)
(文責:株式会社PoliPoli 大森達郎)
村上 智信(むらかみ とものぶ)議員
1969年、福岡県築上町生まれ。東京大学大学院修了。
経済産業省(資源エネルギー庁、科学技術庁、消費者庁、青森県庁、東北大学への出向を経験)を経て、2024年衆院選福岡第11区で初当選(1期)
経済産業省を退官後、8年半の浪人を経て2024年の衆議院で初当選
ー村上議員は経済産業省を経て衆議院議員に当選しました。経済産業省での仕事を通じ、何か課題を感じて政治家を目指したのでしょうか?政治家を目指した経緯を教えてください。
私は理系学部出身で元々経済の専門家ではないのですが、経産省への就職が決まった時からミクロやマクロなど経済学の勉強を始めました。日本経済は失われた10年や30年などと言われていますが、自ら学んだ知識で政府の経済政策を見ると、実は的外れなことをやってきた訳ではないと分かりました。それならどうして経済がよくならないのだろう、とずっと考えていたのですが、こうすればいいのではないかという自分なりの政策に辿り着きました。その政策は経産省時代にも提案したのですが、非常に幅広い省庁が関わる話なので、一人の官僚としてできることではありませんでした、それなら経産省をやめて政治家になりその政策の実現を目指そう、というのが政治家を目指したきっかけです。
ー2016年に経済産業省を退官後、2024年10月の衆院選で初当選されました。8年半はいわゆる浪人生活を送られた訳ですが、心が折れることはなかったのでしょうか?
経済産業省を退官して8年半、ずっと政治活動に携わっていました。その8年半の間に、政治家になることを諦めようと思ったことは1度もありません。なぜ気持ちが続いたかといえば、経済が停滞する日本を自分のアイディアでどうにかしたいという思いと使命感、これが自分のモチベーションでした。
ー2024年の選挙では、日本維新の会から出馬されました。なぜ日本維新の会を選ばれたのでしょうか?
日本維新の会で、経産省時代の先輩が議員として活躍しておられ声をかけていただいた、というのが直接的なきっかけです。ただそれだけではなく、誘われた後に日本維新の会の理念や過去の実績を調べると、改革志向が自分に合うのではないか、と思いました。私も今までにない経済政策を掲げて、改革を実現したいと思っていますので。
選挙区では変化を起こしていきたいという1人1人の思いはあるものの、全体としては保守的な雰囲気がありました。しかし、政治資金の問題などを受けて、多くの有権者もいよいよ変えていけなければならないと行動に表していただいた方も非常に多く、その結果として、当選させていただいたと考えています。
そんな想いを持った有権者の方々の一票に対して、その重みを感じています。ただし、国民の思いを受け止めて政策を実現する、という経験は経産省時代から行ってきました。国会議員になって、8年半ぶりに同じ重さを経験するんだな、と身が引き締まる思いです。また当選した時には、ようやくやりたい仕事ができる、と嬉しく思いました。自分が望んでその立場を選んだ訳ですので。
独自のマクロ経済政策への思い、やりたい政策について
ー日本維新の会の党内では1期目から経済産業部会長をお務めです。
日本維新の会は吉村代表の就任後、若手に経験を積ませるという方針のもと、1期目の議員で部会長になった人は私以外にもいます。政務調査会では、政府提案の法案審議だけでなく、議員提出の法案(例. 人手不足対策としてのライドシェアなど)を検討しており、私のやりたい政策も党の中で提案しよう思っています。
ー村上議員は、どのような政策を提案したいとお考えなのでしょうか?
マクロ経済政策です。バブルの1990年頃の政府の負債は約300兆円でしたが、2021年には約1400兆円となり約1100兆円増えました。ただし会計的には、日本全体で見ると、貯金など金融資産の量と負債の量はほぼ同じ金額ですから、負債が増えると誰かの金融資産が増えます。
ー政府の負債が増えた一方で、誰の金融資産が増えたのでしょうか?
実は家計部門なんです。家計が現預金や株式、投資信託など金融資産の形で資産を1000兆円以上増やしています。よって今後、政府が借金を減らそうとすると、家計部門の貯金などを減らす必要があります。家計部門の資産が増えたのは、老後に向けて貯金などを増やしたからではないでしょうか。高齢者も以前に比べ増えています。政府の借金は将来世代への借金だから我々世代で返すべきという議論もありますが、金融資産と負債は日本国内ではバランスが取れているため、政府の借金は将来世代への借金、という表現や議論は適切ではない、と私は思っています。
その資産についてですが、かつては貯金などを増やすのではなく土地を買っていたんです。日本では長く不動産神話があったように、バブルの頃までは将来のため貯金や金融資産を増やすのではなく土地を買っていました。そのため、家計の金融資産はそれ程大きく伸びることはなかった。しかしバブル崩壊で不動産価格が下落し非金融資産が減少しました。
以上を踏まえた経済政策としては、規制緩和などを行い、土地の価格が毎年マイルドに上がるような政策を行うことにより、家計部門が資産として土地などを持つようになれば、家計の貯金や金融資産が減少して、社会にお金が回るようになり、政府の負債も減らせます。経済政策として土地の価格を上げる方向に持っていけばよいのではないか、と私は訴えています。これは前例のない政策なので、自分がやるしかないと思っています。
ー個人の資産として土地を持ち、その土地の価格が上がると過度な貯金や金融資産が減少するということでしょうか?
そうですね。現在は、政府の負債が大きく家計の金融資産が多すぎる、という状態です。恐らく両者には適正なバランスがあります。その適正なバランスに政府の負債も家計の金融資産も近付ける政策が必要です。
その適正なレベルがどこにあるかは、様々な観点で考えなければなりません。その適性レベルに近づけるための土地の価値を上げる政策に加えて、社会保障制度の充実が大切です。社会保障制度が充実されれば、老後のために個人が貯金などの金融資産を貯めずとも済むので、消費が増して経済が活性化します。
ー日本維新の会は社会保障制度改革にも熱心ですが、老後の生活資金を自ら賄う金融資産蓄積型に賛成のイメージがあります。
社会保険料を引き下げ、現役世代の手取りを増やして自由に使えるお金を増やす一方で、最低所得保証制度を設けて社会保障をしっかり充実させるべき、と日本維新の会は主張しています。その中で、医療でも非合理的に使われていれば縮小すべきだし合理化すべきです。最低所得保障制度で社会保障を充実させて年金でもしっかり生活できるようにする、というのが私たちの政策です。
ー衆議院では財務金融委員と経済産業委員を担っています。それぞれ注目している政策はありますか?
財務金融委員として注目するのは103万円の壁問題です。この壁を引き上げるべく政党間で様々な交渉を行っています。日本維新の会としてもこの引き上げについて前向きに検討しています*。
*インタビュー後、日本維新の会の賛成により引き上げ。
経済産業委員としては、政府が支援している半導体製造のラピダスに注目しています。半導体事業はお金がかかるため、立ち上げには何兆円もの資金が必要です。ただし民間企業のラピダスに政府はいくら支援するのかという問題があります。予算に関わりますが、政府は補助金というより投資という関与も考えているようです。まずは政府の意見をしっかりと聞いて、一般的に受け入れられる方向性か、政府が独りよがりになっていないか、という点をチェックしたいと思います。
普通の人が普通に幸せを感じられる社会の実現を目指したい
ー今後の活動方針などを教えて下さい。
やはり仲間を増やして行きたいですね。今年の夏には参議院選挙があるので、多くの仲間が当選すればいいなと思っています。仲間の当選に向けて他党との調整もある様ですが、前向きに進んで欲しいですね。
ー最後になりますが、自らの政策の実現を通して今後日本をどのような国にしたいと思われますか?
普通の人が普通に考えておかしいと思うことはすぐに改正される、普通の人が普通に考えて幸せに感じられる、そのような社会にしていきたいですね。そのための条件は2つあると考えています。1つ目は経済成長です。やはり経済が成長せず停滞が続くと、国民に先行きが明るいとは思ってもらえません。2つ目は出生率の向上です。現在の出生率が低い理由としては、将来どうなるのだろう、という先行きへの心配が特に若者を中心にあります。子どもが欲しいと思ったら、心配せずに出産ができる、育児ができる。そんな社会にする必要があるのではないでしょうか。
しっかり1つ1つの政策の実現を通じて、社会を良い方向に変えていきたいです。
