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政治ドットコムトピックス明治時代の評論家が説く「政治家に必要な8つの資質」

明治時代の評論家が説く「政治家に必要な8つの資質」

投稿日2020.12.2
最終更新日2020.12.03

明治時代の政治評論家、大野清太郎が著した「国会議員撰定鏡」では、どのような人物を国会議員に選ぶべきか、有権者に向けて、議員に必要な資質について解説しています。その8つの要素は、現代の政治家にも通じる普遍の心得と言えそうです。

「この議員なら間違いない」議員に必要は資質8つ

その1「政治経済の学問を修め、その知識に富んだもの」
まずは、政治経済の知識に富んだ人でなければ議員になるべきではないと論じています。
その理由として「もし、この学を修めずして議員たれば、医学を研究せずして人の身体を取り扱う如し」と断じています。たしかに、このようなお医者さんに手術は任せられません。
法律を制定するにあたっては、法理を知らなければならない。法理を知らなければ、どの領域まで法律の影響を及ぼすべきか、その限界がどこにあるのかも分からないではないかというのは、現代にも通じる正論のように思えます。
また、経済を知らなければ、新たな税を課すにあたって、「これをやったら、社会にどんな影響を及ぼすか」が分からない、そんな議員は素人同然で危険なので、よく注意するようにと指摘しています。

その2「政治上の主義を有し、その履歴あるもの」
政治家としての主義・信条を持っているものを選びなさいと指摘しています。
どのような政治信条を持っているのか分からないまま当選させてしまったら、有権者としては自由政治を求めていたのに、いざ蓋を開けてみたら干渉抑制型の政治家だったということも起こってしまう。
そのようなことになれば、「選挙人(有権者)はあたかも自己の刃を貸して自己の身体を刺すがごとき不幸なる結果を生ず」と訴えます。
また、選挙に出る際には「自分はどの党に所属して、このような主義を有する者です。議場に上る際にはこれこれの意見を陳述します」と演説するべきだと、候補者に求めています。

その3「地方の実況を詳らかにし、常に公共の事業に尽力するもの」
国会議員は選挙区の代表者ではあるけれども、その地方の利益だけではなく国家全体の利害を考える必要がある。
正理公道を原則とした上で、他の議員の議案に対するときには、自己の選挙区の利害を照合した判断が求められる。ゆえに、自身の選曲については詳しく理解していないとならない、これも現代の政治に通じる卓見ではないでしょうか。

その4「内外の事情を知得したるもの」
明治時代、気軽に海外に行くことは難しい時代でした。それでも「日本のみならず、海外の事情にも通じる人物を選べ」と、筆者は求めています。
実際に海外には行けなくとも、「よく翻訳書・新聞紙等を読み、全国および海外の事情を了知したるもの」を選べば、内外の知識に通じているために、国会で議論を行っても、素っ頓狂なことは言わない。しっかりと、国内外の事情に照らして議論ができるので信頼できるという意味でしょう。

その5「剛毅心あり訥弁ならざるもの」
政治家のメンタリティーにも触れています。
どんなに立派な志があっても、剛毅(意志が強固で不屈なこと)の精神がなければならない。
もしこの精神がなければ、なにかを判断する際にも「こう言ったら政府の機嫌を損なうかもしれない」「こう言ったら将来損をするかもしれない」と、判断に迷いが生じてしまう。
さらに、訥弁(つっかえつっかえ話すこと)でもいけないと説きます。
「訥弁にて、一口演べて『うーんうーん』というような者では、聞いている議員たちは口笛を吹いたり、足で床を踏み鳴らしたり、隣の議員と私語をして妨害するのが欧米各国では当たり前」とし、強い精神と堂々と演説ができる心が必要だと伝えています。

その6「廉潔心あり金銭に惑わざるもの」
金銭に対して潔白であることも必要要素に挙げています。
本書が書かれた1890年は、日本で初めて衆議院議員総選挙が行われた年。このあと、日本ではお金にまつわる汚職が現代に至るまではびこることを考えると、筆者の先見の明には驚嘆せざるを得ません。
「いかに学識あり、経験あり、弁論に長じたりとて、廉潔心(清廉潔白であること)あらざれば、あるいは金銭のために惑わされ、自説を曲げて彼を弁護し、あるいは滑稽なる行政官の籠絡手段に陥られ」と、大正〜昭和の政治腐敗を予言しているかのような指摘が続きます。

その7「議員の手当を待たず、相当の生活をなし得られる財産あるもの」
当時、被選挙権を得るためには直接国税15円以上が必要とされていました。
議員の椅子を狙って、借金をしてこの15円を収めた候補者もいたようですが、そういった行為はよろしくないと否定しています。
「この如き者にして、議員に選挙せられたるとき何を以ってその整形を遂ぐるか。議員手当を待つよりほか無い。故にこういった人は、議員の座を追われて手当を失うことを恐れて自分の生活を守るための判断しかしなくなる。これでは公明な判断はできない」というのがその理由です。
「ならば、貧乏人は議員になってはいけないのか」という反論にもこう答えています。
「我が国の金満家は、政治思想に乏しく、学識がないものが多い。つまり、金満家にして信義に厚く、かつ政治経済の知識を持つものであれば鬼に金棒というものだ」
そのような人に投票しなさいということなのでしょうが、これはなかなかハードルの高い指摘と言えそうです。

その8「信義に厚く正直なるもの」
最後に大切なのが「信義」と説きます。
信義に厚い人でなければ、身を粉にして有権者の利益のために仕事などしてくれない。結局は、自分の利益のためだけに活動するのは目に見えていると評します。

これらの8要素、すべてを満たす候補者はなかなかいませんが、投票に悩んだときには思い出してみると良いかもしれません。

 


政治家に必要な資質を説いた「国会議員撰定鏡」

※参考資料「国会議員撰定鏡」大野清太郎著(明治23年刊行)

この記事の監修者
秋圭史(株式会社PoliPoli 渉外部門)
慶應義塾大学法学部政治学科卒業後、東京大学大学院に進学し、比較政治学・地域研究(朝鮮半島)を研究。修士(学術)。2024年4月より同大博士課程に進学。その傍ら、株式会社PoliPoliにて政府渉外職として日々国会議員とのコミュニケーションを担当している。(紹介note:https://note.com/polipoli_info/n/n9ccf658759b4)

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