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政治ドットコムトピックスSNS上の誹謗中傷対策が簡単に! 裁判を行わなくても開示手続きが可能に?

SNS上の誹謗中傷対策が簡単に! 裁判を行わなくても開示手続きが可能に?

投稿日2020.12.6
最終更新日2020.12.09

女子プロレスラーの木村花さんが、インターネット上での誹謗中傷や匿名の人物からの批判・脅迫を苦にして自ら命を断ったのが2020年4月のことでした。
この事件をきっかけに、誹謗中傷に対する取り締まり強化や投稿した人物の情報開示手続きの簡素化が一層強く叫ばれるようになりました。
総務省では有識者会議を開き、これらの問題について議論を続けており、2020年11月12日には最終案を取りまとめています。
従来の手続きを一気に簡素化し、書き込んだ人物の特定を容易にするための法改正を目指した最終案、どのような内容なのでしょうか。

2021年に改正法案提出予定で進行中

2020年11月12日、「第10回 発信者情報開示の在り方に関する研究会」が開催され、インターネット上で匿名の誹謗中傷を受けた被害者が、その投稿を書き込んだ人物を特定しやすくするための制度の見直しについて話し合いました。
2020年4月末から始まったこの有識者会議は、誹謗中傷などの被害者を保護するために始まりました。
これまで、書き込んだ人物を特定するための開示手続きは煩雑で、何度も裁判を経なければならない、費用も時間も負担が大きいことで、多くの被害者が泣き寝入りせざるを得ない状況でした。

第10回目を迎えた有識者会議では、この状況を打破するべく、時間のかかる訴訟を行わなくても、裁判所の判断で投稿者の情報開示を事業者に命じることができるとしています。
これによって、悪質な誹謗中傷の書き込みを抑止したり、被害者が開示請求を行いやすくする方針です。
この最終案を元に2021年の通常国会で関連法の改正案を提出する予定です。

現在の発信者情報開示手続きの流れ

現在、個人や企業が匿名の人物から誹謗中傷の書き込みをなされた場合、その投稿をした人物を特定するためには、裁判を3回起こさなければ難しい状況となっています。

1:書き込みのなされたサイトの運営者に、投稿した人物のIPアドレスとタイムスタンプ(Webサイトに記事の投稿をした時刻に関する記録)を開示させる(仮処分)
2:投稿の際に投稿した人物が利用したプロバイダを特定する
3:プロバイダに対して、記録の消去を禁止する裁判所の命令を出してもらう(仮処分)
4:プロバイダに契約者の氏名や住所を開示させ、投稿者を特定する(訴訟)

上記、1と3で仮処分、4で訴訟を提起して、すべてが認められるとやっと「誰が書き込んだかが分かる」のが現在の制度です。
書き込みを行った人物に損害賠償を請求する、書き込んだ内容を削除する手続きはまた別途になるわけですから、なんとも先の長い話です。
これだけ手続きが煩雑でありながら、多くのプロバイダでは、アクセスログの保存期間が数ヵ月しかありませんので、スピード勝負でもあります。
誹謗中傷の書き込みに気が付いたときには手遅れだった。
または、時間もお金も掛かりそうだから放っておくことにした。
そんな被害者が数多くいることが予想されます。

表現の自由との兼ね合いと各国の対応

簡単に投稿した人物の情報を開示できてしまうことについて、問題もあります。
誹謗中傷と正当な批判との線引は非常に難しいものです。
何が誹謗中傷で何が批判に当たるのか、明確な基準はなく、あまりに規制を厳しくしすぎてしまうと、表現の自由が奪われることになります。
さらに、政府や国に対しての批判はすべて「誹謗中傷である」とされてしまった場合、これは明確な言論統制であり、一部の独裁国家と変わらなくなってしまいます。
今回取りまとめられた最終案でもこの点については議論されており、正当な批判を封じる目的で制度が悪用または乱用されることを防ぐ仕組みもなされています。

インターネット上での誹謗中傷は、海外でも問題となっています。
各国いずれも対策に乗り出していますが、まだまだ模索中のようです。
各国の対応について見てみましょう。

・ドイツ

ドイツでは、難民に対するSNS上でのヘイトスピーチが問題視されていました。それを受けて、2017年6月にヘイトスピーチや誤った情報の拡散防止対策として、ネットワーク執行法が成立しています。この法律の執行に伴って、表現の自由が侵害されるのではないかという議論も起こっています。削除を行うかどうかの判断はSNS事業者に委ねられており、その判断が難しいことも課題となっています。

・フランス

2020年5月、インターネット上でのヘイトスピーチなどの違法コンテンツの削除をオンライン・プラットフォーム事業者に義務付ける法律が下院で可決されています。しかし、憲法院から内容の一部が違憲であるとの判断が出たため、違憲部分を削除・修正し、同年6月25日に公布・施行されています。
この法律の施行に伴い、放送行政監督機関のもと、ヘイトスピーチ観察局が置かれ、学校でヘイトスピーチ問題の啓蒙教育を行うことなどが定められました。

・アメリカ

2020年5月28日、トランプ大統領は、「(プラットフォーマーによる)オンラインの検閲の防止に関する大統領令」に署名しました。
トランプ大統領はこの日、「米国民の言論の自由を守り、維持するために大統領令に署名する。現在、ツイッターのようなソーシャルメディアの巨大企業は前代未聞の免責が認められている。中立的なプラットフォームだとする理論に基づいたものだが、これら企業はそうではない」と説明しましたが、「言論の自由を脅かす」と国内で議論を巻き起こしています。

・韓国

韓国でも芸能人に対する誹謗中傷が問題になっています。アイドルグループ「KARA」の元メンバー、ク・ハラさんなど、投稿を苦にして自ら命を絶ってしまうアイドルや芸能人が激増したことから、「指殺人」という言葉まで存在するほどです。芸能人の個人情報の漏洩が日常茶飯事となっており、処罰を強化するべきだとの声が高まっています。

インターネットの利便性を損なわず、表現の自由を侵すことなく、誹謗中傷や名誉毀損をなくすには、法整備と同時に個人個人のモラルの向上が求められます。
現在は「やり放題」「やったもん勝ち」の状況に近いものがありますが、法整備と合わせてユーザー意識を高め、そもそも誹謗中傷などのない社会を目指していきたいところです。

この記事の監修者
政治ドットコム 編集部
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