ファッションにまつわる「粋」なエピソードも
新型コロナウイルスの世界的大流行を受けて、2020年春の国会において、出席している議員たちはマスクを着用し審議を続けています。
マスク着用は議員それぞれによる自主判断で行われているようですが、国会議員の服装に関しては規則で明確に規定されています。
衆議院規則第213条にはこうあります。
「議場に入る者は、帽子、外とう、えり巻、かさ、つえの類を着用又は携帯してはならない。但し、病気その他の理由によつて議長の許可を得たときは、この限りでない。」
国会議員が本会議場に入る際には、上記の規則のほか、品位を重んじた服装、身なりが求められています。議員記章をつけた上着を着ることと、男性はネクタイの着用が先例で決められており、女性はそれに準ずる服装が求められます。
ただし、夏場に限っては議院運営委員会理事会の申し合わせで、「上着、ネクタイを着用しないことを可とする。その際、長袖又は半袖の襟付きシャツを着用する。(なお、ポロシャツ、Tシャツ、半ズボン等は不可)」と、ノーネクタイのクールビズが認められています。
この規則や先例に関して、過去にたびたび話題になっています。
たとえば、2019年6月に参議院議員を引退したアントニオ猪木氏のトレードマークのひとつが「赤いマフラー」。猪木氏の代名詞とも言えるファッションアイテムではありますが、規則で「えり巻はNG」とされていますので、着用を断念しています。
また、ある女性議員は、おしゃれなスカーフを巻いて登壇したことがあります。この際、「スカーフはえり巻に該当するのか否か」が問題視された、という出来事もありました。
正装とはなにか、という視点で議論が巻き起こったこともあります。
ある沖縄県出身の議員が、かりゆしウェアで参院本会議に出席したときのこと。これを「規則違反だ」と指摘されたことがあります。
沖縄県出身の人間にとって、かりゆしウェアは「正装」そのもの、というのがその議員の主張でした。
これを認めるか否かが当時の国会で大問題となり、「女性に限り着用を認めてはどうか」「何がかりゆしか判断が難しい」と喧々諤々の議論が繰り広げられましたが、結論は出ず翌年に先送り。そして1年後、「国会でかりゆしウェアを着ることは認められない」と却下されています。
ベレー帽が議論の対象になったこともありました。
ある女性議員は、自身のトレードマークとしていたベレー帽を着用したまま国会議場内に入ったところ、これが大問題に発展。規則違反に問われました。
「品位に欠ける」「そもそも規則違反だ」との声に対し、「女性議員への攻撃だ」「男性でも帽子(かつらのこと)を被っている議員がいる」といった反論(?)も見られましたが、最終的には本人が折れ、ベレー帽を脱いでいます。
1970年代から90年代にかけて参議院議員として活躍した野末陳平氏には、ノーネクタイを巡る粋なエピソードがあります。
初当選間もない頃、野末氏がタートルネックのセーターにジャケットを羽織って議場に現れたところ、「ノーネクタイとは何事だ」と野次の嵐を浴びせられてしまいます。
しょんぼりとしてしまった野末氏のもとに、後日、イブ・サンローランの高級ネクタイが送り届けられました。
送り主は当時、参議院議長だった河野謙三氏。この粋な計らいに心打たれた野末氏は、以後、ネクタイ着用の常識的な服装で議員生活を送ることになりました。