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政治ドットコムトピックス「便利なものはすべて悪」明治時代の頑固親父・佐田介石

「便利なものはすべて悪」明治時代の頑固親父・佐田介石

投稿日2020.12.7
最終更新日2020.12.08

かつて「小説なんて読んでいると馬鹿になる」とされた時代がありました。やがて「マンガを読むと馬鹿になる」さらには「テレビを見ていると馬鹿になる」「ゲームばかりしていると馬鹿になる」とその内容は変遷し、現在では「YouTubeばかり見ていると馬鹿になる」と言って子どもを叱る親御さんもいるとかいないとか。
新しいものへの拒絶反応は人間に備わった本能と言えるのかもしれません。
明治維新後の文明開化においてもそれは同じ。
新しい文化に対し、猛然と否定論を唱えた僧侶がいました。

ランプが日本を滅ぼす? その論理とは

現代に生きる我々には、電気・電灯のない生活は想像もつきません。
明治維新後、文明開化の世を照らした象徴として社会を明るく照らしたのはガス灯とランプでした。
いわゆる「開化のガス灯」は、1874年(明治7年)に東京の銀座通りに街灯として85基のガス灯が設置されたのを皮切りに、翌1875年(明治8年)3月、京橋から万世橋にかけて作られました。

一方、ランプは幕末に日本に入ってきましたが、広く家庭に普及したのは日清戦争以降のことでした。
それまで、日没以降の家屋内を照らしていたのは、ろうそくや松のヤニなどです。

明治維新後、世間を挙げての外国崇拝、舶来物は何でも良いものともてはやされますが、もちろんその逆張りをする、頑迷固陋な旧守派も存在していました。
そのひとりとして有名なのが、佐田介石(1818〜1882)。
浄土真宗本願寺派(晩年は天台宗)の僧侶として知られる彼は、攘夷運動・梵暦運動の指導者としても活動しました。
彼は「ランプ亡国論」を唱えたことで後世に名前を残しました。

このランプ亡国論はどのようなものか。
佐田いわく、ランプには16の大害があるとされています。一部抜粋してみてみましょう。
・毎夜金貨大滅の害:ランプを灯すことで大金がかかる。よろしくない
・国産の品を廃物とする害:ろうそくや松の木が使われなくなる。よろしくない
・火元を増やす害:火元が増えれば火事が増える。よろしくない
・人を焼死させる害:火事が起これば人が死ぬ。よろしくない
・市街村落ついに荒土とするの害:火事が起これば集落が滅ぶ。よろしくない
・全国しまいに火災を免れざるの害:全国どこでも燃えてしまう。よろしくない
以下略

どこか「風が吹けば桶屋が儲かる」的な論理の飛躍が見られるようにも思えますが、根っこには舶来品排斥論、国産品保護思想がありました。

佐田は同時代の浅田宗伯(日本の儒学者)、平野五岳(浄土真宗の僧侶)とともに「旧弊の三幅対(さんぷくつい)」と呼ばれました。
浅田は人力車を死ぬまで憎み、最後まで駕籠を使いました。
平野は西洋館が嫌いで、その前を通るときには「ひと目でも見ると頭痛がする」と言って目をつぶっていたそうです。

とはいえ時代の趨勢でもあり、なにより便利なものでありましたから、佐田らの反対意見は黙殺され、ランプや電灯はまたたく間に全国へと広がっていきます。

鉄道も牛乳も太陽暦も日本を滅ぼす

「ランプ亡国論」を唱えた佐田は、「鉄道亡国論」も合わせて訴えていました。
鉄道への反対意見の根底には、ランプ亡国論と同様に、排外主義的な思想がありました。

・鉄道敷設のための鉄の輸入や外国人の雇用のため、日本のお金が海外へ流れてしまう
・枕木用に材木を伐採することで、日本の森林が絶えてしまう。その後は海外の木材を輸入することで、やはり日本の金が海外へと流出してしまう
・鉄道を走らせる石炭も無尽蔵ではない。いつか尽きてしまい、海外から買うことになる
・鉄道を敷くことで日本の良田が潰されてしまう
・日本に存在する宿場町が、鉄道を敷くことで潰れてしまう。数十万人の宿、茶屋従事者が暴徒と化し、国家が乱れる
以下略

これらが鉄道に反対する佐田の理由でした。
佐田の熱弁虚しく、明治5年の新橋〜横浜間の鉄道開設以降、全国各地で順調に鉄道建設は続き、明治7年(1874年)には大阪駅〜神戸駅間が開通、明治13年(1880年)には北海道発の鉄道が開通するなど、着実に全国へと広がっていきます。

とにもかくにも新しいものは良いものだという維新後の風潮に真正面から反対する佐田は、他にも「キリスト教亡国論」「牛乳亡国論」「太陽暦亡国論」「簿記無用論」「蒸気船大害論」など、ありとあらゆる観点から「日本は滅ぶ!」と叫び続けます。

基本的には無視されますが、その熱い思いは一定の評価も受けており、後に谷干城や鳥尾小弥太ら欧化反対論者の思想的な拠り所となっていきます。

この記事の監修者
政治ドットコム 編集部
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