「政治をもっと身近に。」
政治に関する情報をわかりやすくお届けします。

政治ドットコムトピックス戦後初の「国会セクハラ事件」が迎えた意外な結末

戦後初の「国会セクハラ事件」が迎えた意外な結末

投稿日2021.3.31
最終更新日2021.03.31

1948年(昭和23年)、泥酔した大臣が女性議員に抱きつき大騒ぎとなったことがありました。「セクシャル・ハラスメント」なんて言葉もない時代、それでもこの乱痴気騒ぎは大問題とされ、大臣は辞任に追い込まれます。
戦後初の「セクハラ事件」、どのようなものだったのでしょうか。

酔いつぶれて女性議員にキスを迫る

戦後初の「国会におけるセクハラ事件」は、1948年12月に起こりました。
事件の主人公のひとりは、泉山三六氏。
泉山氏は1896年(明治29年)、山形県生まれ。東京大学政治科を卒業後、三井銀行に入行。その後、1947年に山形二区から衆議院選挙に挑むと当選。早くも翌1948年には第二次吉田茂内閣で初代大蔵大臣を務めています。
豪放磊落な性格で、多趣味な粋人として知られていました。

1年生議員が破格の抜擢を受けた1948年12月13日の夜、参院の食堂で事件は起こります。
その夜、泉山氏は食堂で衆議院大蔵委員会の委員と会食をしました。
その頃ちょうど、補正予算案の審議は大詰めを迎えており、不眠不休の日々が続いていた泉山氏は疲労困憊。
もともと酒が好きで実際に酒に強かった泉山氏は「少しくらいなら」とコップ酒を飲んでいるうちに、気がついたらベロンベロンに酔っ払っていました。

会食をしていたメンバーの中にいたのは、日本初の女性国会議員のひとりとしても知られる山下春江氏。
泥酔した泉山氏に、山下氏は大変魅力的に映ったようで、やおら立ち上がると山下氏の腕を掴んで食堂の外へと連れ出すと、抱きしめてしまいます。

「私はよろけて立った拍子にひどい力で廊下に連れ出された。
『何をするのですか』というと『誰もいないよ』と凶暴な力で抱きしめ、発表できないようなことをし、アゴに噛み付いた。
そこで私は右手でほほをなぐり、手の緩んだスキに逃げ帰った」(山下氏)
これは、事件の翌日12月14日に衆議院の懲罰委員会で山下氏が語った内容です。発表できないようなことというのは、キスを迫ったということでしょうか。
この大臣による醜態は後にアメリカでも報じられ、「ニューズ・ウィーク」が報じたところによると、泉山氏は山下氏に「予算なんか問題じゃない。僕は君が好きなんだ(He said to me ” budget is out of my question “, I love you)」と語ったと言われています。

一夜にして失った大臣のポスト

泉山氏の手を振りほどいて大臣秘書官室に逃げ込んだ山下氏は、当時の佐藤栄作官房長官に「こんなことがあった」と詰め寄ります。
一方その頃、当の泉山氏は院内の医務室に担ぎ込まれ、酔い醒ましの点滴を受けていました。
院内は上を下への大騒ぎ。医務室の前に記者は集まる、カメラマンは虎視眈々と狙っている、そのうち政府与党の首脳も事件の重大性に気がついて、大臣室に三々五々集まります。

時計は0時を回って午前3時半。
ようやく酔いから覚めた泉山氏に首脳陣は辞任を勧告。
その後、臨時閣議を開いて泉山氏の辞任を報告しました。
14日の午前中に、先述の懲罰委員会が開かれ、泉山氏の懲罰は必至となりましたが、その前に議員辞職願を出したために問題は決着。
泉山氏は一夜にして大蔵大臣のポストを失うことになりました。

事件後、まさかの展開に

事件はその後、皮肉な様相を呈します。
辞任に追い込まれた泉山氏は、この酔虎伝で一躍有名になり、付いたあだ名は「トラ大臣」(※トラ=酔って怖いもの知らずになること)。
1950年の参議院議員選挙にふたたび立候補すると、40万票の大量票を得てゆうゆう当選を果たし、1962年まで国会議員として活動を続けました。
当選の背景には、全国の酒屋や芸妓組合(※芸妓=芸者のこと)がこぞって泉山氏を支援。一体何が吉と出るかわからないものです。

一方、まったくもって完全な「被害者」であるはずの山下氏ですが、彼女も生来の「大酒豪」として知られていたことが災いし、「彼女も泉山と一緒にはしゃいでいた」との事実無根のデマが拡散。
翌1949年に行われた衆議院議員総選挙で落選してしまいます。
しかし、1952年に無事国政に復帰。以後、1960年には落選していますが、1962年に三たび返り咲き、1974年まで国会議員として活躍を続けました。

参考資料:「政治記者の眼:永田町20年の目撃者」園田剛民著/徳間書店刊

この記事の監修者
政治ドットコム 編集部
株式会社PoliPoliが運営する「政治をもっと身近に。」を理念とするWebメディアです。 社内編集チーム・ライター、外部のプロの編集者による豊富な知見や取材に基づき、生活に関わる政策テーマ、政治家や企業の独自インタビューを発信しています。