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政治ドットコムインタビュー政治家インタビュー史上最年少文部科学副大臣・今枝宗一郎議員に聞く! 日本のイノベーションの鍵となる政策

史上最年少文部科学副大臣・今枝宗一郎議員に聞く! 日本のイノベーションの鍵となる政策

投稿日2023.11.22
最終更新日2023.12.22

岸田政権は、「新しい資本主義」の柱の一つとして、スタートアップ推進を掲げ、2022年を「スタートアップ創出元年」と定め、「スタートアップ育成5か年計画」を立ち上げるなど、積極的な取り組みを進めています。

今回のインタビューでは、スタートアップ推進議員連盟の事務局長としてスタートアップの振興を推進し、スタートアップの政策に精通し、第2次岸田第2次改造内閣にて文部科学副大臣に就任した今枝宗一郎・衆議院議員に、日本のイノベーションの鍵となるスタートアップについてお伺いしました。

(聞き手・文責:株式会社PoliPoli 中井澤卓哉)

今枝 宗一郎 氏
1984年生まれ(39歳)。衆議院議員(4期)。医師。
2012年、愛知14区から出馬し、当時史上最年少の28歳で初当選。
第2次岸田第2次改造内閣にて、文部科学副大臣に就任。
好きなものはコンビニスイーツ。苦手なものは激辛。

(1)イノベーションの鍵となる「スタートアップ」と「ディープテック」

ー今後、日本でイノベーションを推進する上で鍵となる政策はなんでしょうか?

イノベーションを生み出す上で重要となる鍵は、スタートアップの振興です。
私は、スタートアップ推進議員連盟の事務局長として、スタートアップ振興に向けた活動をしてきました。具体的には、5年程前から、Jスタートアップの創設¹、スタートアップエコシステム拠点都市²の創造などを推進してきました。

その中で、岸田政権に入り「新しい資本主義」がきなテーマになりました。新しい資本主義の1つの柱に入っているのが、スタートアップの推進です。

2022年に「スタートアップ育成5ヶ年計画」というのが立ち上がり、これがいま2年目に入っています。1年目の2022年は、スタートアップのエコシステムの循環がうまく回るような仕組みの整備に取り組みました。例えば、日本版QSBS³ の創設などです。2年目に入った今は、特にスタートアップに人材が流入しやすくなるような仕組みの整備に着手しています。例えば、ストックオプション⁴税制のあり方を改革することなどです。

¹経済産業省が推進するスタートアップ企業の育成支援プログラムのこと。
²スタートアップや、スタートアップを支援するベンチャーキャピタル等が集積する都市を認定し、各省庁が連携して国の補助事業や海外展開支援、規制緩和等を積極的に実施する計画。
³アメリカにおけるQSBS(Qualified Small Business Stock)制度の日本版のことで、スタートアップの株式を売却して得た利益には一定額まで課税しない制度のこと。最大で20億円まで非課税措置となる(アメリカでは最大約14億円)。
⁴新株予約権の1種。会社から個人に対する、特定の金額で自社の株式を購入する権利のこと。運転資金などが十分ではないスタートアップ企業において、優秀な人材を確保するための手段としてよく利用されている。

ースタートアップ政策の中で、文部科学省としての取り組みについて教えてください。

文科省としてのスタートアップ政策の取り組みの代表例は、ディープテックの推進です。特に、大学発ベンチャーや研究所発・アカデミア発のスタートアップを社会実装やビジネス化まで支援することです。

この取り組みを推進する上では、2つの視点が重要です。1つが、グローバルスタートアップキャンパスのような、世界をリードする中核となるような拠点を作っていくこと、もう1つが、特定の拠点のみならず、地域においてエコシステムの拠点となる大学等をつくっていくことです。これらを産官学金で繋いで両輪で回していくことが重要だと思っています。

その中で、ディープテックがやはり大きな可能性を持っています。ディープテックとは、革新的な技術に基づいて、社会にインパクトを与えることができる技術のことで、この分野により多くの資金と人材が流入することが鍵になると思っています。これらは、ベンチャーキャピタルによるスタートアップへの投資額を5年で10倍以上に(8,000億円から10兆円に)、ユニコーン企業を5年で約10倍の100社にするという政府の目標に紐づいています。

ーディープテックというと、具体的にはどのような分野が特に想定されていますか?

新エネルギー、モビリティ、宇宙、海洋、バイオ、ドローンや空飛ぶ車、など、多岐に渡ります。また、Deepとは言い切れないかもしれませんが、文科省で担当するものでは最新のAI、EdTechやヘルステックなども対象に入ります。

エネルギーの事例でいうと、合成燃料があります。合成燃料とは水素と二酸化炭素によってできる燃料のことで、現在のエンジン車の内燃機関をそのままに保ちながらカーボンニュートラルを実現できる技術として近年注目を集めています。合成燃料の社会実装を進める上では値段(現在は約700円/l)なのですが、原料となる水素価格を下げることと、燃料を効率的に収集する技術の発達などで、その課題を乗り越えることが現実的になりつつあります。

一方で、近年の自動車産業の動きをみてみると、特に新車販売においてガソリン車を禁止する動きがありました。アメリカやEUでは、2035年以降は新車販売はすべて電気自動車のみとされていました⁵ 。

そのような状況があったにもかかわらず、当初合成燃料の実用化は2040年が目標とされていました。

しかし、2035年以降の新車販売がすべて電動車だと、せっかく合成燃料を開発したとしても、普及しません。そこで、合成燃料の社会実装を、当初より10年近く前倒しすべきだと何度も国会質問をしたり、国会議員の会で発言したりして、2030年代前半を目指すことになりました。これらの目標の前倒しは、社会実装に向けた技術の開発が進んでいることも後押ししています。

その他には、いわゆる「レベル4飛行」と呼ばれる、有人地帯での無人航空機(ドローンなど)の目視外飛行が今年(2023年)可能になったり、バイオ分野では、基金を作ってバイオ産業の支援を拡充していく動きもあります。

また、宇宙産業の重要性はいうまでもありません。例えば、衛星通信網を基地局ではなく、最終的には衛星で全てやっていけるようなことを想定すると、大量にロケットを打ち上げる必要があります。それらを、これまで政府が主に担ってきましたが、民間にも積極的に参入してもらう必要があり、これまで産業として成り立ってこなかったところを「宇宙産業」としてエコシステムが成り立つ仕組みを作っていかなければなりません。

⁵ EUは、2035年以降においても、合成燃料の利用を前提とすれば、内燃機関をもつ新車の販売が許可される方針に変わった。

(2)ディープテック・スタートアップにおける人材の課題

ースタートアップの中でも、特にディープテックの振興における課題はなんでしょうか?

1つは人材です。ディープテックの振興においては、研究者や博士人材が非常に重要ですが、いわゆるポスドクの問題があり、必ずしも適切な処遇がなされているとは言い難い状態です。また、近年の経済安全保障への関心の高まりを背景に、中国の留学生に対する警戒心が強くなってきた反面、代わりに日本人の研究者や博士人材を採用しようという海外の研究機関が増えつつあります。しかも、7万ドル、8万ドル、9万ドルぐらいでポストを出すと言うところも少なくありません。

これはまさに起きようとしていることで、この数ヶ月から数年で一気に日本の研究者や博士人材が海外に流出するかもしれないというリスクに直面しています。まずは、研究者や博士人材が日本でもキャリアをしっかり作ることができ、かつそれが魅力的な選択肢になるようにしていかなければならないと思っています。

2つ目は、グローバル展開です。近年、研究論文の引用数が少ないという課題が指摘されています。これは、英語が苦手という以上に、エコシステムが関係していると考えています。

現在の日本の研究エコシステムは、日本の中でガラパゴス化してしまっており、海外のエコシステムと接続していません。そうすると、日本人が出した研究論文が、なかなか他の研究者から引用されず、引用数が伸びません。海外では、研究者同士がネットワークを持っていたり個人で繋がっていたりして、いわゆる仲間内で引用していたりということをやっていて、その結果引用数が伸びてインパクトが上がる、というエコシステムになっています。今、日本は海外のアカデミアのエコシステムに入れていません。

外国語が苦手というところは何かしら取り組みをしなければならない部分ではありますが、仕組みや政策としてという話をすると、10兆円規模の大学ファンドを立ち上げました。このファンドの運用益で国際卓越大学の支援を行うとともに、地域の中核となる大学や特色のある研究大学に重点的な支援を行って、大学の研究機能、そしてイノベーション機能の推進に取り組んでいます。

ーディープテックの分野別の課題などはありますでしょうか?

G7で話題に上がっていた生成系AIだと、悪用やフェイクニュースの課題は避けて通れません。しかし本質的なところは、現状の生成系AIの利活用の議論が、全てコストカットの議論という点だと思っています。AIを使って効率化をしたり、デジタル人材も一部交換できるのではないかみたいな議論です。このような議論も重要ですが、もっと産業が「生成系AIを活用して、どのように付加価値を増やしていくのか」という議論を今後推進していくべきだと考えています。

(3)スタートアップ政策における文部科学省の今後の取り組み

ー今後、文部科学省として、スタートアップ政策においてどのような取り組みを推進することが重要だと考えていますか?

先ほども申し上げた通り、まずはディープテックの推進と支援です。ディープテックにおいては研究開発に莫大な資金が必要なのですが、ここにかかる初期の資金集めが課題になっています。実際にビジネス化されてくると、ベンチャーキャピタルはじめ投資が集まりやすいのですが、まだどのように実装されるのか不確実性が高いシード段階だと、必要な資金が集まりにくいといった状況があります。その課題を解決する手段として、SBIR制度⁶があります。

SBIR制度とは、スタートアップなどの研究開発を促進し、その成果を円滑に社会実装することを支援する制度です。これまでは、とある省庁が政府の大半の投資額を占めている状況でしたが、そのSBIRを文科省も本気でやるぞということで本腰を入れ始めました。

ここでのポイントが、他の省庁だと全部「後払い」のところ、文部科学省は「前払い」で行っているというところです。スタートアップは常に資金繰りが苦しいですから、後払いだとキャッシュがもたなくて苦しいので、先にお金を出して支援していこうということになりました。

また、積極的に官民共創を進めていくことも重要だと考えています。例えば、宇宙分野だとこれまでJAXAが主導してきたところ、民間も素晴らしい宇宙事業を行なえるので、それをJAXAが調達するというように、JAXAの下請けではなく、対等な調達先として産業を作っていくようなプロジェクトをもっと創出していく必要があります。

さらに、人材や教育も重要です。ディープテック・スタートアップでは圧倒的に人材が足りないので、博士人材をCxO⁷にしていくとか、CxO人材バンクのようなものに登録しておいてもらっていろんな大学などを繋ぐなどをして、人材を供給していく取り組みが必要です。

また、教育でいうと、スタートアップを推進する大使のような役割をつくって、小学校・中学校・高校などにおける起業家教育を進めていくことで、人材の裾野が広がります。これは、令和4年度の補正予算に計上されました。しかし、たった10人程度では無くて、少なくとも10倍、できれば100倍近くに持っていきたいですね。更に、この起業家教育の予算も来年度(令和6年度)の概算要求に入っています。

⁶ Small Business Innovation Research制度の略。
⁷企業における取締役などをさす。CEO(Chief Executive Officer)、COO(Chief Operating Officer)のように、真ん中のXが特定の職能等をさす。

ー最後の質問になりますが、今後のスタートアップ政策における意気込みを教えてください。

私個人の動きにはなりますが、実はキャラバンを始めました。大学等にある研究シーズや大学ファンド等を回って、各所で事例を見て回り、大学と大学ファンド、産業界を繋いで応援して廻っています。

地方においては、東京とは少し状況が違って、いろんなステイクホルダーを巻き込んで戦略的に盛り上げていかないといけないと思っています。商工会議所や経済連合会などの人たちと一緒にラウンドミーティングや勉強会を開催したり、一緒に視察をしたりしながら、そこに関わる人をマッチングしていくということを全国でやっていきたいと思っています。

この記事の監修者
政治ドットコム 編集部
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