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異色の経歴「元F1ドライバー」山本左近議員に聞く!「超“幸”齢社会」実現の鍵

投稿日2023.11.28
最終更新日2023.12.22

日本は課題先進国として、少子高齢化や気候変動などさまざまな社会課題と向き合っています。その中でも高齢化率が30%に迫り、医療や福祉、介護に関する課題が山積する中で、ウェルビーイングと呼ばれる生き方について注目が集まっています。

「超”幸”齢社会をデザインする」というモットーを掲げている山本左近議員(以下、山本議員)に、その実現の鍵となる政策をはじめ、元F1ドライバーという異色の経歴や、夢を支える行政についてお伺いしました。

(聞き手・文責:株式会社PoliPoli 中井澤卓哉)

山本左近議員インタビュー

山本左近 氏
1982年生まれ(41歳)。衆議院議員(1期)。
24歳で当時日本人最年少F1ドライバーに。
2021年初当選し、文部科学大臣政務官、復興大臣政務官を歴任。
座右の銘は「人間は自己実現不能な夢は思い描かない」。

(1)世界のF1ドライバー、そして政治家に

ー山本議員は「元F1ドライバー」という異色の経歴をお持ちです。なぜF1ドライバーを目指したのでしょうか?

F1ドライバーを目指した大きなきっかけは、6歳の時、鈴鹿サーキットで見たレースが衝撃的で、それ以来ずっとおぼろげながらF1ドライバーに憧れていたんです。

私の父は医師で、社会福祉の大切さを説き、当時は誰も取り組んでいなかった認知症リハビリやケアに対し、積極的に取り組んでいました。医療、介護、障害者福祉が連携して、高齢者や障害のある方々が一緒に暮らせる「福祉村」という場所を作るなど、「地域包括ケアシステム」に対する先駆的な試みを行っていました。

私が7歳の時、介護老人保健施設が新設されました。その落成式で、7階建の大きな建物を見上げた時、私は人生のレールがはっきりと見えた気がしました。もともと医師の家系で、両親から医師になることを期待されて育ちましたが、もし私が医師になって父の跡を継いだとしても、偉大な父を超えることはできないだろう、と思ったのです。

「自分は、医師にはならない」とその時決意しました。それと同時に思い浮かんだのがF1ドライバーになる夢でした。

ーその後、F1ドライバーへの道は、どのように歩まれたのでしょうか?

11歳の時に、元F1ドライバーの中嶋悟さんが開いたドライバー育成機関(スズカレーシングスクール)の門をたたきました。

今のようにインターネットで何でも調べられる時代ではなく、F1ドライバーになりたいと思ってから、スタートを切るまでに時間がかかりました。私が10歳の時、雑誌の特集記事で、F1ドライバーのほとんどが4、5歳からカートを始めていて、12歳以降にカートを始めてF1ドライバーになった人は0.1%しかいないことを知りました。そのため、「自分も絶対、12歳までにカートを始めなければならない」と、手当たり次第に情報を探して、ちょうど鈴鹿サーキットにカートスクールが創設されたことを知ったんです。

親は入校することに対して猛反対しましたが、土下座して何とか認めてもらいました。入校後は「10年後にF1ドライバーになる」と決め、そのためにいつまでに何をしないとならないか、逆算して目標を立てました。その後はいい時も苦しい時もありましたがキャリアを積み、19歳で単身ヨーロッパに渡り、24歳で当時日本人最年少のF1ドライバーとしてデビューしました。

ーF1ドライバーとして活動している時には、どんなことを感じたのでしょうか?

ヨーロッパに渡ったことで、日本という国や、日本人であることを意識するようになりました。

一方で、2002年からの約10年は、世界の中で、日本が落ちていく様子を目の当たりにしていました。2002年ごろはヨーロッパの街にソニー、シャープ、トヨタ、日産などの日系企業の看板が並んでいました。しかし2010年代には、中国や韓国などに拠点を置く新興企業の広告が街中を席巻していったんです。経済的に世界からの遅れが、日本企業の看板がなくなっていく様子に表れていたとことは、日本人としてとても悔しく、なぜこうなってしまったのか疑問に感じていました。

山本左近議員インタビュー

ーその後、どういった経緯で政治家を目指されたのでしょうか?

帰国後、医療や福祉の仕事に関わるようになったことがきっかけです。

2012年、たまたま年末年始に帰省した際、父の法人が運営する「福祉村」を久しぶりに訪問し、医療、介護、福祉の現場を知りました。私は、それまでレーサーとして自分の命と向き合ってきましたが、医療、介護、福祉は、他の人の命や人生に向き合う尊い仕事だと実感しました。

それから医療法人や社会福祉法人の経営に携わるようになり、少子化と高齢化が日本の重要課題であり、未来の課題がここに詰まっていると強く感じました。また、2008年をピークに人口が減少し、少子高齢化が進む中で、日本はこれからどうすべきか、という問いが生まれました。まだこの時点では政治家になるという思いはなく、日本の未来をどうすれば良くできるのか、という課題意識の下、勉強会を開いたり、国内外の医療機関や福祉機関を視察したりしていました。

2019年の参議院選挙で初めて立候補しましたが、その理由は、2100年に生まれた子ども達が「日本に生まれてよかった」と思える国にするためには、社会のシステムを変えなければならないと感じたからです。経済や社会保障は国政と密接に関わっていて、国が社会システムを決めているなら、自分もそこに飛び込むしかないと思いました。そして、今を生きる人だけではなく、これから生まれてくる子ども達も「日本に生まれてよかった」と思える国を作りたいと思い、政治家を志しました。

山本左近議員インタビュー

(2)「夢を支える行政」文部科学大臣政務官として目指したもの

ー山本議員は2021年の衆院選で初当選し、その後1年も経たないうちに文部科学大臣政務官に就任されました。就任時の挨拶では、「夢を支える行政」という表現がありました。

2021年、文部科学大臣政務官を拝命した時に、文部科学省の所管する教育、科学技術・学術、文化、スポーツの共通点は“夢”だと思ったんです。就任時には、文部科学省の仕事は、子どもも大人もワクワクする夢を与えることができる仕事だとお話しさせていただきました。

ー政務官として特にどのような政策に取り組まれましたか?

私は政務官時代、科学技術と文化を担当していました。その中で、特に印象に残っているものを3つ取り上げます。

1つ目は日本のアニメーション産業の振興です。日本のアニメーション産業が疲弊して、これから先、他の国々にとってかわられるのではないかという危機感を持ち、「我が国のアニメーション業界における創作基盤の強化のためのタスクフォース」を立ち上げました。

ヨーロッパにいた際、私は日本の漫画やアニメが世界で高い評価を受けているのを目の当たりにしました。20年前にローマでポスターを売っている露店商を覗いたら、レオナルド・ダ・ヴィンチやゴッホの絵と並んでドラゴンボールの絵があり、とても驚いたのを覚えています。イタリアで鳥山明は、ダヴィンチやゴッホと並んで評価されているのだと。

文化的側面だけでなく、アニメーション産業はコンテンツビジネスとして高い成長性があり、日本が世界に誇る産業の一つです。日本のアニメーションは、世界で稼ぐ力があり、人に夢を与えることができる産業であるという認識の下、文部科学省として支援策が必要だと考え、人材育成やエコシステムの構築に向けてなど取り組みました。

2つ目は、「大型放射光施設SPring-8」の高度化(アップデート)です。放射光とは加速器にて生み出される光で物質を照らし、未知の現象を明らかにする大型計測装置です。つまり、物質に光を当てて、「事象として起きることはわかっているが、なぜそれが起きるのかわからない」その「なぜ?」を解き明かし、世の中に役立てるのが、このSPring-8の役割です。

SPring-8では、この放射光を用いてナノテクノロジーやバイオテクノロジーなど、さまざまな研究が行われていて、産業での活用に貢献しています。

ここで行われた研究が基礎となって実際に製品として販売されているものは、非常に多岐 にわたります。

SPring-8は、利用が開始された1997年時点では世界有数の施設だったのですが、ヨーロッパやアメリカで大型放射光施設がアップデートされたり、中国で新規建設が進んだりするなかで、老朽化が進む日本は大きく遅れをとってしまう。そうなれば研究者が海外に流出し、研究データも海外で蓄積され、経済安全保障上の問題につながります。これを防ぐため、2030年以降の社会を見据え、今やらなければ取り返しのつかないことになるとの思いで、「SPring-8」の高度化タスクフォースを組みました。

「SPring-8の高度化に関するタスクフォース」で2023年8月に報告書を取りまとめ、圧倒的な世界トップレベルの性能を目指す、挑戦的な目標設定も行いました。Spring-8は、日本の経済安全保障における重要な研究に欠かすことができません。その施設の高度化を前進させるために取りまとめることができたことは、ご協力いただいた皆様へ感謝に絶えません。

山本左近議員インタビュー

「大型放射光施設 SPring-8」

3つ目は、科学技術と文化の融合に向けた取り組みです。私が文部科学省で所管の仕事をしている中、政策において科学技術(サイエンス)と文化(アート)が混ざる要素があまりにも少ないと感じ、危機感を抱くようになりました。

サイエンスとアートは、認識や表現の手法に違いはあっても、文化や社会をある価値観のもとで理解し、再構築するというプロセスでは同じだということを、身をもって体験してきました。

だからこそ、文部科学省内の若手職員を中心として「サイエンス×アートによるイノベーションの推進」の勉強会を立ち上げました。

サイエンスとアートの融合はどんどん進んでいて、時期を同じくして、東京藝術大学と愛媛県愛知県立芸術大学と名古屋工業大学がそれぞれ連携協定が始まりました。

「技術で勝って、商売で負ける」これが日本のお家芸と言われる時代を終わりにしたい。そのためにも「知る」と「創る」のサイクルを生み出すことを目的としたSTEAM教育など関係団体のヒアリングや先進的な取り組みを行う大学の視察などに取り組みました。

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(3)「超“幸”齢社会」をデザインする

ー山本議員は「超“幸”齢社会をデザインする」をモットーに掲げていますが、「超”幸”歳社会」とはどういう意味なのでしょうか?

「超“幸”歳社会」とは、「誰もが何歳になっても幸せに、自分らしく幸せに生き続けられる社会」のことです。

「幸せ」とはなんでしょうか? どんな時に幸せを感じるか、人それぞれ違うと思いますが、私が「幸せ」として定義しているのは、「自立して自由に生き、自分ができることで他の人の役に立つことができる」状態です。つまり「自分の役割がある」ということです。一人一人が異なる役割を持ち、お互いに助け合ったり、協働したり、そういう接点が多い社会が幸せな社会だと考えています。

ー望まない孤独や孤立をなくすということですね。

日本はこれだけ経済的に発展し、社会が成熟して、社会保障が手厚いにも関わらず、その網目から抜け落ちて孤独を感じる人たちがいます。そして、そういった人たちにどのようなアプローチをしていけばいいのか、答えを見つけられない時代に突入しています。 今注目されている「ウェルビーイング(well-being)」という考えにおいて大事なのは、「選択の自由」と「自己決定」の二つです。学びたい人が学ぶことができ、働きたい人が働くことができる社会や、国民全員がより前向きに選択の自由と自己決定ができる社会づくりに取り組みたいと考えています。

ー具体的にはどういう政策が重要でしょうか?

孤独や孤立は単一の政策で解決できる問題ではなく、さまざまな領域で社会的な繋がりを増やす政策を採用していく必要があります。

たとえば文部科学省では、学校の部活動の地域移行を進めていて、これまで学校の先生だけで見ていた部活動を、地域の人の力を借りて運営しようとしています。地域移行によって、学校の中で完結していた部活動が地域に開かれ、地域の大人とこどもたちの新しい繋がりが生まれることになります。このような、地域の中で役割が巡回していく仕組みはとても良いと感じていて、このような政策をもっと増やしていきたいと考えています。

人生100年時代といわれる中では65歳で定年を迎え、仕事という一つの役割を終えた後もさらに別の役割を持ち、社会的な繋がりを持ち続けることが、長く、健康に、幸せに生きるために必要だと思います。

山本左近議員インタビュー

(4)未来のこどもたちが「日本に生まれてよかった」と思える国へ

ー山本議員が政治家としてやり遂げたいことはなんですか?

やはり、2100年に生まれてくるこどもたちが「日本に生まれてよかった」と言える国をつくることです。つまり、国として自立し、そして国民全員が自由に人生を選択でき、自己決定できる社会であるということです。

そのためには、短期的と中長期的の二つの目線で、今取り組むべきことを一つ一つやりきっていくことが、政治家としての、自分の使命と感じています。

ー最後に、読者へのメッセージをお願いします。

毎日、幸せに生きていますか? 昔に比べ、今は圧倒的に情報量が多く、便利な一方で他の人がどう生きているかがあからさまになり、自分の人生がこれでいいのか、と迷うこともあるのではないかと思います。

そんな中でも、自分がやりたいことや目指したいものが見つかった時、その気持ちを大事にしてほしいと思います。人は、何かを思い描いた時点で既に一歩目を踏み出しています。次の二歩目や三歩目を自分で諦めることなく、踏み出すことを恐れずに挑戦してほしいと思います。

「人間は自己実現不可能な夢は思い描かない」。14歳の時にカートスクールの先輩から伝えてもらった言葉で、私の座右の銘です。

この言葉を信じて、がむしゃらに挑戦したからこそ、私はF1ドライバーとして世界中を回り、今は政治家として活動しています。

もしかしたら私はやや極端なケースで共感しにくいかもしれませんが、皆さんも、自分の目指しているものがあれば諦めずに挑戦してください。

若い皆さんには時間というアドバンテージがあります。これを無駄にしないで、自分の思いにしっかりと向き合ってほしいと思います。

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この記事の監修者
政治ドットコム 編集部
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