
2024年10月27日に行われた衆議院議員選挙の当選者のうち、99名が初当選でした。議席を公示前の4倍に伸ばす躍進ぶりを見せた国民民主党からも19名の新人議員が誕生。20年以上アナウンサーとして活躍した後、政治家へと転身した、国民民主党・丹野みどり議員もその一人です。今回のインタビューでは、丹野みどり議員に、政治家を志した原点や今後注力したい政策、アナウンサーから政治家へのキャリアチェンジの背景をお伺いしました。
(取材日:2025年1月15日)
(文責:株式会社PoliPoli 秋圭史 )
丹野みどり(たんの みどり)議員
1973年愛知県出身。名古屋大学文学部卒業。大学卒業後、
中部日本放送に入社し約15年間ニュース番組のキャスターを務める。
2013年にフリーアナウンサーとなり、2019年には
株式会社丹野みどりアナウンス事務所を設立。
2024年10月の衆議院議員選挙に愛知11区から立候補し初当選(1期)。
報道の世界で抱いてきた“モヤモヤ”
ー政治家になる以前はアナウンサーとしてご活躍されていました。
中部日本放送でテレビのニュースキャスターを15年間務め、2013年に退社しフリーランスとして独立しました。フリーランスの期間はラジオの「丹野みどりのよりどりっ!」をレギュラーで続けさせていただいていたのですが「活動の幅を広げていくには法人化した方がいい」とアドバイスをいただき、2019年に株式会社丹野みどりアナウンス事務所を設立しました。
その後はアナウンサーとしてメディアに出るほか、司会業や広報物の制作など、さまざまな活動をしてきました。自身のキャリアを活かして、コミュニケーション講座を開いたこともあります。
ー独立前と後を合わせると20年以上もアナウンサーとしてご活躍されていますが、いつ頃から政治家の道を志すようになったのでしょうか。
最初に参議院議員選挙に出馬した2022年頃からです。法人設立後、仕事の幅も広がりさまざまな経験を積ませてもらっていたのですが、なんとなく自分の中でモヤモヤしたものを感じるようになりました。それが何なのかを深く考えたときに、世の中の問題が解決しないことへの疑問だと気づいたのです。
20年以上、ニュースの報道に関わってきましたが、ニュースの内容は変わらないどころか深刻さを増しているように感じています。問題は解決されないままで、日本がどんどん先細りしている。そんなモヤモヤを感じていたわけです。その背景に目を向けると、やはり政治に問題があり、国民を見ていないなと。
ーそのモヤモヤした状態から、どのような経緯で政治家へ転身する決断に至ったのでしょうか。
たまたま国民民主党のホームページを見て、党の理念が目に飛び込んできました。それは「正直で偏らない」という言葉でした。この言葉は、20年間報道に携わってきた私の理念とまったく一緒で、私も報道する上で、正しい情報を「正直に」伝えること、そして異なる意見を「公平に」紹介することを心がけてきました。そのため「正直で偏らない」という言葉はものすごく響いたのです。
さらに、この理念を実現するために必要なこととして「対決より解決を」と謳われていました。喧嘩をしている場合ではなく、オールジャパンで国民を主役にして取り組んでいくんだ、という姿勢ですね。その言葉を見たときに「これだ!」と全身にスイッチが入り、気付いたら、立候補に向けて動き出していました。
ー周囲の反応はいかがでしたか。
今でこそ国民民主党は注目されていますが、当時は「なんで国民民主党なんですか?」とよく聞かれました。「もっと大きな政党から出た方が有利なのでは?」というご意見もいただきました。もちろん、その方が近道だったかもしれませんが、やはり自分に嘘はつきたくなく、理念に心が震えるほど共感した国民民主党から出馬する考えが変わることはありませんでした。
ー2022年の参院選での落選から2024年の衆院選に向けて、どのような取り組みをされてきたのですか。
2022年の参院選は岐阜から出馬したのですが、今回の衆議院選挙では故郷の愛知県でがんばりたい」という思いもあり、多くの方と意見を交わす中で、最終的に愛知11区から衆院選をめざすことにしました。
正直、最初は厳しい反応でした。愛知11区は豊田市とみよし市にあたるのですが、「負けたらまたどこかに行くんでしょ」など、冷たい言葉をたくさん浴びたのを覚えています。そこから毎日、駅やスーパーの前で街頭演説を続け、並行して「丹野みどりのおしゃべり会」という地域の方々と意見交換を行うトークイベントを始めました。このイベントをきっかけに支援者が少しずつ増えていったように感じます。
最初は厳しかった方々もこの動きを見てくださり、「丹野さん、がんばってますね」と応援していただくようになりました。現在も、このトークイベントは続けていますよ。
真に活躍できる社会づくりには保育環境の整備が不可欠
ー議員になってからさまざまな課題に取り組まれていますが、中でも「女性が真に活躍する社会」の実現を力強く訴えられています。
大前提として、私は「女性活躍」という言葉がおかしいと思っています。以前聞いた話では、ある国には「女性活躍」に該当する言葉がなく、翻訳ができなかったそうです。こういった視点から、この言葉で旗を振ること自体がおかしいのではと思っています。一方で日本では10年ほど前から「女性活躍」が叫ばれていますが、当初から私は違和感がありました。男性の働くフィールドに女性を呼んで「24時間働けますか?」のような風潮を感じたのです。
私は「そうじゃない」と考えていて、本当に活躍できる社会というのは、育児や介護を抱えながらも笑顔でイキイキと働け、時短社員や専業主婦などいろいろな生き方を応援するような社会の仕組みが必要です。最近は女性の生き方や働き方の選択肢が増えたようにも見えますが、実際には古い価値観が残っていたり、環境が整っていなかったりして、まだまだ活躍できない人も少なくありません。その原因の一つとして、やはり政治に女性が少ないからだと思います。「女性活躍」とスローガンを掲げながらも、女性の視点が圧倒的に不足しているのです。
ー「女性が真に活躍する社会」の実現を阻む壁として丹野議員が特に問題視されている課題は何ですか。
具体的な課題をひとつ挙げると、病児保育の不足があります。自治体によって差はありますが、地域に1か所しかない場合もあります。お子さんが熱を出しても仕事を休まずに安心して預けられる病児保育が整っていれば、ご両親の職場も含めてみんなが助かるので、これは社会に必要なインフラだと思っています。男性の育休取得や時短勤務の対象年齢の引き上げを努力義務とするなど、さまざまな検討が進んでいますが、お子さんが熱を出したときに預ける先がなければ結局は困るのです。
保育環境の課題で言うと、保育士不足の問題もあります。実は、保育士資格を持つ人の4割しか保育士として働いておらず、せっかく資格を持っていても報酬の低さなどを理由に別の職業を選ぶ方も多いそうです。保育士の給与は2024年度に過去最大となる10.7%の引き上げが行われましたが、それでも他の業種に比べると低い水準です。
介護士などにも言えることですが、国がしっかりと予算を付けて保育士の地位向上と給与引き上げに取り組んでいかないといけません。男性の育休取得や時短勤務の拡充なども大切ですが、保育の環境整備もセットで進めていくことが、真に活躍できる社会の実現には不可欠だと考えています。
世界と戦える産業には国のバックアップを
ー衆議院の経済産業委員会では理事も務められていますが、注力されている政策はなんですか。
国会議員になり初めて質疑させていただいたのが、中小企業の適性取引に関する問題です。中小企業が価格転嫁を要求しやすくするために、通報制度や下請法などの規制が敷かれてきましたが、なかなか成果につながっていない現状があります。結局、通報制度があっても関係が悪くなるのを恐れて言えない現状があります。だから「北風と太陽」の話と同じで、厳しく取り締まるのではなく自浄作用を生むような制度を作るべきだと考えています。
また、国が成長産業をもっとバックアップするべきだと思います。ある中小企業の方とお話する機会があったのですが、その方は「弊社は世界一の技術で部品を作っていますが、中国のメーカーに負けてしまいます。中国では国がバックアップしているので、技術では勝ってもトータルのビジネスで負けるんです」と訴えられていました。
このような問題の背景には、日本では民間に対して官が口出ししない、という方針があったと思うのです。中国だけでなく、欧米もポテンシャルのある産業を国がしっかりとサポートしています。だから日本の企業だけが自らの力で孤軍奮闘せざるを得ない状態です。さらには、この「失われた30年」の間にコストカットが常態化してしまったことも、企業の体力低下と産業空洞化を招いてしまいました。
いま一度、長期的な視点に立って、伸ばすべき技術に対しては大型投資をすることも必要なのではないでしょうか。たとえば「全固体電池」というバッテリー技術では、日本が世界をリードしています。このようなポテンシャルの高い産業分野に対しては積極的に投資して「日本はこれで勝負するんだ」と国が旗を振ることが重要だと考えています。
政党の賛同者を増やし、「正しく」大きくなる
ー2024年の衆院選で躍進した国民民主党の強みはどのような点にあるとお考えですか。
議員になってから「すごいな」と感じたのは、税制調査会の内容をオープンにしていることです。たとえば「この議題について自民党とこのような意見交換を行った」など、私たち1年生議員も含めて全員に共有するのです。これまで、税に関することは限られた人たちが非公開で決めてきたのですが、それを開かれた議論にしたのは本当にすばらしいことで、ここに国民民主党の存在意義があると思っています。
ー2025年には参院選もありますが、党がさらに躍進するために何が必要でしょうか。
政党は「正しく」大きくなるべきだと私は思っています。というのも、野党連合のように大きいかたまりを作って政権交代することが目的化してしまうと、昔ながらの与野党対決の構図になってしまいます。私たちも「他の政党と一緒になればいいのに」と何度も言われました。しかし「どこかと手を組んで自民党をやっつける」という考え方には賛同できません。
私が党の理念に惚れ込んだように、国民民主党の政策や理念に共感する人が増え、その結果として大きくなることが重要なのです。この考え方をしっかり持っていれば方針がブレることもないですし、他の政党に迎合して理念が崩れることもありません。参院選でも、あくまで“正しいかたまり”となって議席数を増やしたいですね。
ー最後に丹野議員個人としてのビジョンを聞かせてください。
先ほどの産業政策の話にも通じるのですが、かつて「Japan as No.1」と言われていた時代があったのに、今は勢いが失われて非正規雇用も多いのが現状です。誰一人サボっていないのに、いつの間にかこのような社会構造になってしまったのです。
やはり、この現状は変えたいと思っていて、昔に戻すのではなく、新たな勢いを生み出さないといけない。あらゆる社会課題に目を向けて、もう一度世界に誇れる日本を築かなければならないのです。その先にあるのは「強く明るく優しい日本」。これが私のめざす日本の姿であり、その実現に向けて邁進していきたいと思います。
