黄川田仁志 きかわだ・ひとし 議員
1970年 神奈川県横浜市出身
1994年 東京理科大学理工学部土木工学科 卒業
1998年 米国メリーランド大学大学院 沿岸海洋環境科学プログラム修了
2006年 松下政経塾 入塾
2012年 衆議院議員選挙にて初当選(埼玉県第3区)
2015年 第3次安倍改造内閣で外務大臣政務官 就任
2025年 高市内閣で内閣府特命担当大臣 就任
海洋研究者から政治家に転じた黄川田仁志議員は民間時代に「海洋基本法」の成立にも関与した日本の海洋政策の第一人者です。南鳥島近海で進むレアアースやメタンハイドレートなどの資源開発の最前線とともに、日本の経済安全保障的な観点からも、海洋政策の課題や可能性についてうかがいました。
(取材日:2025年9月11日)
(文責:株式会社PoliPoli 河村勇紀)
「海洋国家・日本に戦略を」海洋研究者から政治家へ

ー海洋研究者から政治家になった略歴をお持ちですが、なぜ政治家を目指そうと思われたのですか。
現在は海洋政策に関する「海洋基本法」という法律がありますが、その法律ができたのは2007年です。私が海洋研究者をしていたのは、海洋基本法ができる前なのですが、当時の海洋政策は、各省庁がそれぞれ行っていてバラバラの状態でした。
例えば、海洋に関する国際会議があると、外務省・環境省・国土交通省の官僚も含めて代表団は構成されるのですが、省庁によって言うことが違うんですね。海外の代表団は意思統一がされている反面、日本は縦割り行政そのものの状態で、これはいかがなものかと思いました。
研究者としては、様々な国に行けて、更に海にも潜れるなど、自由が効き仕事自体は楽しかったですが、やはり海洋国家・日本というのであれば、きちんとした海洋政策、海洋戦略を持たなきゃいけない、海の世界ですらこんなに縦割りなのだから、実際は様々な所で縦割りが発生しているのだろうと容易に想像ができ、これを正すのが政治の務めと感じました。35歳の時に、誰かにやってもらうのではなく、自分が政治家になる選択肢があるならば自分でやってみるべきではないか、と思い、何人もの政治家を輩出している松下政経塾の門を叩いたことがきっかけです。
ー日本の海洋政策の現状や課題について教えてください。
冒頭にお話した海洋基本法が2007年に作られ、各省庁の海洋政策を束ねる司令塔(現内閣府総合海洋政策推進事務局、以下海洋事務局)を設置しました。私も松下政経塾の在籍中に、海洋政策研究財団(現海洋政策研究所)の事務局として法案作成のお手伝いをしました。翌年の2008年に海洋基本計画(5年毎に改定)が初めて策定され、現在は第4期海洋基本計画が実行されています。2012年に私は国会議員となってからこの十三年間、ライフワークとして海洋政策全般に携わっています。そして日本の海洋政策を強力に推進するめに、一昨年に海洋開発等重点戦略を定めました。レアアース泥開発等の省庁横断的に戦略的に取組まなければならない重点政策を実行していく段階です。
今の海洋事務局は、本当によくやっていただいていますが、お願いベースで関係省庁に仕事をやってもっています。海洋開発等重点戦略を強力に実行していくためには、海洋事務局の司令塔機能をさらに強化する必要があります。そのためには、議員立法で海洋基本法と内閣府設置法を改正し、海洋事務局に予算と権限を持たせたいと考えています。主要政党は賛成してくれています。これができると、海洋事務局が予算の裏付けを持って他省庁に仕事を支持できるようになります。また補助事業を立案して民間事業者にも研究開発等で活躍してもらうことができるようになります。
南鳥島海底に眠るレアアース 開発の最前線は

ー南鳥島でレアアースの開発が進んでいると聞きました、最新の状況は?
南鳥島の海底に充分な量のレアアースが眠っていることが確認されています。南鳥島のレアアース泥には、様々な元素が含まれていて、質が良いことがわかっています。特に、そのハイブリッド車のモーターに必要な強度の磁石を作るネオジムやジスプロシウムも十分に含まれています。
レアアースは、中国の市場シェアが非常に高く、世界的なウィークポイントです。現在も中国が輸出入管理と称して、日本への輸出を制限しています。日本では来年1月に、海底6,000メートルからレアアースを取り出す実験を世界で初めて行う予定です。日本国内でレアアースの生産ができると、中国外交のくびきから逃れることができ、経済安全保障にも資する可能性があります。
ー海底6,000メートルはかなりの深さですが、採算は合うのでしょうか?
正直な所、最初はこんなに深い所から取り出しても採算に合わない、と私も思っていました。しかし非常に興味深いことに、実は、陸上で採取されるレアアースを含む鉱石には、放射性物質が含まれているのですが、海底のレアアース泥は、放射性物質をほとんど含んでいません。陸上のレアアース鉱石からレアアースを取り出す際は、放射性物質の除去が必要不可欠で、そのためのコストがかかります。レアアース鉱石は中国だけでなく、アメリカやオーストラリアでも採れるのですが、最終的にほとんど中国に渡って精製されています。放射能はやはり環境問題を生じますから、アメリカやオーストラリアは環境保護活動が強い反対があるためです。
いま、オーストラリアで採取されたものをマレーシアで精製して輸出しようという取り組みがあります。それでは日本のレアアース泥は必要ないじゃないかというと、やはり資源はいろんな所から入手できるようにしておくことが大切ですし、自国で採取できることが一番いいので、そこはしっかりと日本の海底6000メートル下のレアアース開発を進めていきたいと思っています。

ー日本周辺では、メタンハイドレートも採取できるそうですが
メタンハイドレートは、天然ガスが氷の塊にのような状態になった資源です。今、LNGをいろいろな国から輸入していますが、これを自国で取り出すことができれば、経済安全保障から見ても、為替の影響を受けずに、日本のエネルギー問題の大きな改善が狙えることになります。
海底1,000メートルから取り出すメタンハイドレートの方が、海底6,000メートルのレアアースよりも早く開発が進むと思っていましたが、技術的な壁が残っています。メタンハイドレートは簡単に言えば氷の塊で、それを減圧し気化させて管で吸い上げるのですが、海砂を一緒に吸い上げてしまい管が目詰まりを起こしてしまうのです。この目詰まり問題の解決に取り組まなければなりません。海だけで開発をしていると技術的な問題もあるため、近年はアラスカの永久凍土にもメタンハイドレートがあることから、アラスカの陸地で様々な改良実験に取り組みました。その陸上実験を踏まえて、諸問題解決方法がうまく探れれば、来年から再来年ぐらいに日本の海域で再び実験を開始する予定になっています。
-資源を採るだけではなく、二酸化炭素を海底に埋めるCCS(Carbon Capture & Storage)のようなカーボンニュートラルに関連する環境プロジェクトもあるようですね。
第一段は、北海道の苫小牧沖で始まる予定です。臨界状態(液体と気体の両方の性質を有する状態)の二酸化炭素を海底の地中面に固定します。また、南鳥島沖の海底には拓洋第五海山というテーブル状の巨大な山があります。面積が東京都ぐらい、高さは5500メートルあるんです。この巨大海山は玄武岩でできています。玄武岩はものすごく短期間で二酸化炭素を吸収するのですが、問題は岩石なので、岩にうまく掘削して注入する方法などの技術的課題が残っています。しかし、シェールガスの開発で岩盤の掘削技術やガスを取りだす技術が進んでいるため、その技術の応用が効くのではないかと考えています。シェールガスは岩盤からガスを吸い上げますが、逆パターンのイメージです。
ASEAN諸国との連携は?海洋国家・日本の未来は?

ーASEAN諸国は海に囲まれた国も多いです。海洋開発の技術協力などで、日本のプレゼンスを高めることも可能でしょうか?
ASEAN諸国や太平洋の島嶼部の国がレアアースとかメタンハイドレートを開発するのは、まだハードルが高いと言わざるを得ません。日本も技術開発の途中です。
日本が海洋政策でASEAN諸国に貢献するとすれば、安全保障の面です。日本はフィリピンに海上保安の分野で巡視艇を提供したり、訓練・教育など人材を派遣しています。こういった形でASEAN諸国に貢献できます。中国の海洋進出を食い止める意味もありますが、マラッカ海峡の海賊問題に対処する意味合いもあります。中東からの原油のシーレーンはASEAN諸国を通っているので、各国と共同して安全保障の体制が取れれば日本としても助かります。ASEAN諸国との連携はそういった面がまずは中心になると思います。
もう一つが環境分野です。海を汚して開発をすれば各国に大きな影響が出ます。資源開発と同時に環境モニタリングのやり方、環境を汚さずにどう開発をするか、そこにしっかりと目が届くのが日本の強みですから、そこで大いに貢献できると思います。
ー海洋産業の可能性や、日本の将来像をどう描いていますか?
日本経済のためにも海洋資源開発や海洋環境技術は今後も積極的に取り組みたいと思っています。そして海洋関連産業で、大いに注目して欲しいのが「造船」です。
かつて日本の造船業は世界の約半数のシェアを有していましたが、現在は世界シェア10%で世界3位に甘んじています。中国と韓国に市場のシェアを奪われてしまいました。その背景には両国の国による不当に歪められた造船市場にあります。実態は解明できませんが、中国政府は国営造船企業に対して10年間で10兆円以上投入したとも言われています。韓国政府はこれまで1兆円以上を造船業界に投じたとされ、日本は韓国をWTOに提訴しました。しかし日本においては、各造船企業は多少の優遇税制があるものの、民間の力だけでその歪んだ市場で戦ってきました。しかし、日本の造船業界ももう限界にきています。国策として日本の造船業を蘇えらせなければなりません。そうすれば、アメリカの造船業の復活も助けることができ、日米同盟の強化にもつながるでしょう。今秋に経済安全保障の枠組みで船体を特定重要物質に位置付ける方向で動いています。造船業に対する支援ができる仕組みを現在考えているところです。
私が大学生の時は、まだバブル崩壊の前で日本に非常に元気があり、将来はどんどんよくなっていくんだ、という雰囲気が世の中にありました。その後、経済成長しない時期が長く続いて、現在の日本の姿があります。しかし、私は楽観視しています。日本の未来は明るい。日本は、世界一勤勉な国民がいて、世界有数の科学技術力も持つ企業がたくさんあり、平和で安定した社会がある国です。このような国は世界で見渡しても日本だけです。私は、海洋産業など日本で誇れる産業をたくさん育てて、日本を経済的にも再び成長する国にしたいと思っています。そして、今の若者にも自信を持って「日本は一番いい国だ、豊かな国だ」と思ってもらえる国にしたいです。













