2024年6月21日、政府は『骨太の方針2024』を閣議決定しました。正式名称は「経済財政運営と改革の基本方針2024~賃上げと投資がけん引する成長型経済の実現~」です。
骨太の方針は、総理大臣をトップとする経済財政諮問会議で決定されています。国が取り組む重要な政策課題や、その政策課題に対する方向性が示されており、年末の予算案の議論に向けての基礎となる重要な方針です。言い換えると、骨太の方針は、国が何を重要視していて、何にどのように予算をつけるのか、という大まかな方向性が示される文書です。
骨太の方針には、さまざまな政策に関する方針が書かれています。今回のニュースレターでは、『骨太の方針2024』より「デジタル」分野の政策に関する記述をピックアップして解説します。
『骨太の方針2024』におけるデジタル分野の記述
『骨太の方針2024』ではデジタル分野について
主に7〜11ページの
「第2章 社会課題への対応を通じた持続的な経済成長の実現~賃上げの定着と戦略的な投資による所得と生産性の向上~」
「3.投資の拡大及び革新技術の社会実装による社会課題への対応 / (1) DX 」の項目
「5.地方創生及び地域における社会課題への対応 / (1)デジタル田園都市国家構想と地方創生の新展開、(2)デジタル行財政改革 」
などを中心に記載があります。
デジタル分野については、10の政策項目をピックアップしました。
政府から発表されている原文は最下部に一覧にしています。
注目の項目を取り上げ、論点や今後の課題について見てみます。
(1)改革の司令塔として発足した「デジタル行財政改革」の今後の議論
2023年9月から成立した第二次岸田第二次改造内閣の目玉として「デジタル行財政改革」が発足しました。前身となるデジタル庁の「デジタル臨時行政調査会」の改革を引き継ぎつつ、規制改革推進会議や行政改革会議などの改革の司令塔の役割を果たしています。
<これまでの課題>
- 急激な人口減少を見据え、公共サービスの維持・強化をデジタル化によって支える必要がある
- 行政や財政の在り方を利用者の視点から見直しを行い、デジタル技術を最大限活用してサービス提供の効率化と品質向上を図る
- 自動運転やライドシェアなど新たなサービスの社会実装に向けた規制緩和や制度改革の需要が高まっている
<これまでの取り組み>
- 2023年10月以降、河野大臣も出席する注力政策分野ごとに利用者起点の課題について話し合う「課題発掘対話」を8回実施
- 2024年6月18日「デジタル行財政改革 取りまとめ2024」を発表
<これからの課題>
- デジタル行財政改革会議として、中心的な課題として挙げられているライドシェアについて、今後の議論を重ねてどこまで規制緩和するか
- デジタル行財政改革担当やデジタル田園都市国家構想担当、行政改革、規制改革を担当する河野太郎デジタル大臣の後任後、どのように運営をしていくか
(参考)
・内閣官房「デジタル行財政改革会議」
・デジタル行財政改革会議「デジタル行財政改革 取りまとめ2024 」
・デジタル庁「デジタル臨時行政調査会(廃止)」
(2)地方公共団体の基幹業務システムの統一・標準化に、スムーズに移行することができるか
国・地方の情報システムを、インターネットのクラウド上に構築し、業務にシステムを合わせるのではなくシステムに業務を合わせて、業務やその前提となる制度を改めていきます。また、基幹業務システムを利用する全ての地方公共団体が、原則として2025年度までに、標準準拠システムヘ円滑かつ安全に移行できるよう、環境を整備しています。
<これまでの課題>
- 自治体ごとにシステムが異なるため、 維持管理や制度改正時の改修等において自治体ごとに個別対応でシステム改修が必要となり、経済的負担が大きい。
- 全国一括の住民サービスを向上させる取組を、迅速に全国へと普及させることが難しい。
<これまでの取り組み>
- 2022年10月、2025年度を移行期限とした地方公共団体情報システム標準化基本方針を発表。
- 2023年9月、2025年度末までの移行を堅持しつつ、移行時期の分散が可能となるように、地方公共団体が早期に移行計画の策定や移行先システムに関わる事業者の決定を行えるよう集中的に支援することなどを閣議決定。
<これからの課題>
- 多くの自治体のシステム移行が2025年末や2026年初めに集中する見込みで、ITベンダーのリソースが逼迫し、移行期限に間に合わない自治体が増えている
- 企業のエンジニア不足により、移行費やその後の運用費が高騰する可能性がある。
(参考)
・デジタル庁「ガバメントクラウド」
・PoliPoli note「骨太の方針2023【デジタル】」
(3)AIに関する競争力強化と安全性確保を日本が主導できるか
産業競争力の強化及び経済安全保障の観点から、日本はAIと半導体分野において競争力を強化し、安全性を確保することで、国際舞台での主導権を握る必要があります。これには国内投資の拡大や次世代半導体の量産促進が不可欠です。
<これまでの課題>
- プライバシーの侵害、犯罪への使用など人権や安心を脅かす行為や機密情報の流出、サイバー攻撃など、セキュリティ上のリスクに対するルールが定まっていない
<これまでの取り組み>
- 2023年5月に開催されたG7広島サミットの結果を踏まえ「広島AIプロセス」を日本が主導して立ち上げた
- 2024年4月、経済産業省がイノベーションの促進とリスクの緩和を両立する枠組み「AI事業者ガイドライン(第1.0版)」を取りまとめ
- 2024年6月、内閣府で「統合イノベーション戦略 2024」を発表
<これからの課題>
- 欧州連合(EU)でAI法案が採択され、EU域内で提供されるAIシステムの安全性や信頼性と基本的人権の尊重を確保すべく、域内で一律に適用されるAI規制枠組みを規定することとなった。日本でも、EUの規制を鑑みながら開発を進める必要がある
- AIの学習において、日本語の学習量が英語や中国語に比べて少なくなっており、日本の企業や社会での活用の遅れがある
(参考)
・内閣府「統合イノベーション戦略 2024」
・経済産業省「AI事業者ガイドライン(第1.0版)
・総務省「広島生成AIプロセス」
・Council of the EU「Artificial intelligence (AI) act」