2024年6月21日、政府は『骨太の方針2024』を閣議決定しました。正式名称は「経済財政運営と改革の基本方針2024〜賃上げと投資がけん引する成長型経済の実現~」です。
骨太の方針は、総理大臣をトップとする経済財政諮問会議で決定されています。国が取り組む重要な政策課題や、その政策課題に対する方向性が示されており、年末の予算案の議論に向けての基礎となる重要な方針です。言い換えると、骨太の方針は、国が何を重要視していて、何にどのように予算をつけるのか、という大まかな方向性が示される文書です。
骨太の方針には、さまざまな政策に関する方針が書かれています。今回のニュースレターでは、『骨太の方針2024』より「スタートアップ」の政策に関する記述をピックアップして解説します。
『骨太の方針2024』におけるスタートアップ政策の記述
『骨太の方針2024』ではスタートアップ政策について
主に20〜23ページの
「第2章 社会課題への対応を通じた持続的な経済成長の実現~賃上げの定着と戦略的な投資による所得と生産性の向上~」の、「4.スタートアップのネットワーク形成や海外との連結性向上による社会課題への対応 」
などを中心に記載があります。
政府から発表されている原文は最下部に一覧にしています。
注目の項目を取り上げ、論点や今後の課題について見てみます。
(総論)新しい資本主義の実現に向けて、スタートアップ支援施策が本格化
政府は、2022年11月に「スタートアップ育成5か年計画」を策定し、2027年度にスタートアップへの投資額を10兆円規模にし、将来においてはユニコーン企業を100社、スタートアップを10万社創出するというKPIを掲げ、施策を盛り込んでいます。
<これまでの課題>
- 高成長するスタートアップは株式市場の成長、新規雇用創出に大きく貢献するエンジンであるが、日本においては民間企業が技術力を持っているにも関わらず、スタートアップに結びついていない
- 大学においても、起業家教育、支援プログラムはごく一部に留まる。都市としても競争力不足
<これまでの取り組み>
- 2022年11月、政府が「スタートアップ育成5か年計画」を策定。スタートアップを数・レベルともに5年で10倍増という目標を掲げた
- 2023年12月「令和6年度予算案・与党税制改正大綱」でスタートアップに関連する5つの税制改正を閣議決定(エンジェル税制、オープンイノベーション税制、パーシャルスピンオフ税制、第三者保有の暗号資産に係る期末時価評価課税、イノベーション拠点税制)
<これからの課題>
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エンジェル税制など、近年の手続き改善で活用しやすくなったものの、さらなる簡略化を求める声がある。また、スタートアップ企業が銀行から借り入れる際に代表者が債務連帯保証をしなくてはいけないため、政府公庫による連帯保証不要での融資枠の増額が求められている
(1)「海外との連結性向上」が新出。グローバルエコシステムを構築
自由で公正な経済圏の拡大や多角的貿易体制の強化を図り、CPTPPやRCEP協定の推進を行います。政府は日本企業の海外展開を一体で促進し、現地企業との協調案件を組成するための支援を強化します。特に東南アジア、南アジア、アフリカ、中南米などとの連携を深め、ODAや公的金融を活用し、日本企業の進出を支援します。また、スタートアップを含む日本企業のウクライナ復興支援や、2030年までに対日直接投資残高100兆円の目標達成を目指します。
<これまでの課題>
- 国内スタートアップ企業の意識として、国内マーケットのみでの事業展開を考えているケースが多く、海外ユニコーン企業のように、初期から海外展開を見据えて事業展開を行う企業が少ない
- グローバル市場進出に必須の大型投資、海外ベンチャーキャピタルからの投資が致命的に少額
<これまでの取り組み>
- 2022年2月、内閣府に「イノベーション・エコシステム専門調査会」が設置され、国際市場における、スタートアップ政策が議論される
- 海外における起業家等育成プログラムの実施・拠点の創設事業やグローバル・スタートアップ・アクセラレーション・プログラム、グローバルスタートアップ成長投資事業など海外を舞台に活躍するスタートアップの各種施策の実施が決定
<これからの課題>
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円安市場かつ手厚い政府支援の影響により、海外資本のスタートアップが日本市場に参入している
(2)AIに関する競争力強化と安全性確保が進む中、日本が主導できるか
日本は、「統合イノベーション戦略2024」に基づき、官民連携の下でAIの競争力強化と安全性確保を促進します。データ整備と研究開発力の強化、計算資源のインフラの高度化、人材育成とスキル情報の可視化、そしてAI事業者の自主的なガイドラインに基づく取組を推進します。同時に、制度の整備、安全性の確保、偽・誤情報対策、知的財産権の保護を進め、国際的な連携と協調を促進しています。
<これまでの課題>
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プライバシーの侵害、犯罪への使用など人権や安心を脅かす行為や機密情報の流出、サイバー攻撃など、セキュリティ上のリスクに対するルールが定まっていなかった
<これまでの取り組み>
- 2023年5月に開催されたG7広島サミットの結果を踏まえ「広島AIプロセス」を日本が主導して立ち上げる
- 2024年4月、経済産業省がイノベーションの促進とリスクの緩和を両立する枠組み「AI事業者ガイドライン(第1.0版)」を取りまとめ
- 2024年6月、内閣府で「統合イノベーション戦略 2024」を発表
<これからの課題>
- 欧州連合(EU)でAI法案が採択され、EU域内で提供されるAIシステムの安全性や信頼性と基本的人権の尊重を確保すべく、域内で一律に適用されるAI規制枠組みを規定することとなった。日本でも、EUの規制を鑑みながら開発を進める必要がある
- 学習において、日本語の学習量が英語や中国語に比べて少なくなっており、日本の企業や社会での活用の遅れがある