2024年5月10日に「重要経済安保情報の保護及び活用に関する法律」が可決・成立しました。この法律により日本の安全保障上、重要な情報へのアクセスを民間企業の従業員も含め、国が信頼性を確認した人に限定する、セキュリティ・クリアランス制度が創設されることになりました。今回のインタビューでは衆議院内閣委員会にて、セキュリティ・クリアランス制度の質疑に携わった国民民主党・浅野哲議員に、セキュリティ・クリアランス制度の意義や今後の運用で想定される課題、今後取り組みたい政策分野などをお伺いしました。
(文責:株式会社PoliPoli 秋圭史)(取材日:2024年6月11日)
浅野 哲(あさの さとし)衆議院議員
1982年東京都生まれ。青山学院大学院卒業。
日立製作所を経て、大畠章宏 元衆議院議員の公設秘書に。
2017年衆議院議員総選挙に初当選(現在2期)。
尊敬する人は稲盛和夫。
(1)労働組合での経験を経て、政治家の道へ
ー日立製作所で研究員として勤務されていた浅野議員。政治に関心を持ったきっかけはなんだったのでしょうか。
はじめに政治に関心を持ったきっかけは、日本が海外と比べ技術開発を軽んじていると感じたことです。日立製作所で研究員として勤務するなかで、学会やシンポジウムに参加する機会がありました。そこで海外の研究者たちと話していると、どうも日本の開発予算は海外よりも一桁少ないことがわかりました。海外では、若い研究者でも自由に使える予算が多く、いろいろなことにチャレンジできる一方、日本は予算が少なく、できることが制限されているのではないかと現場レベルで感じるようになったのです。このことにはデータの裏付けがあります。IMD(国際経営開発研究所:International Institute for Management Development)が公表する世界の競争力調査では日本は1989年から1992年まで1位だったにも関わらず、そこから急降下し2000年代には20位台に低下しました。2023年には、過去最低の35位となっています。研究者として日本の競争力を高めるにはどうすればいいのか考える中で、政治に関心を持つようになりました。
ー研究者としてキャリアを積んでいた浅野議員が、政治の道へ進んだきっかけはなんだったのでしょうか。
当初は自分が政治家になろうとは思っていなかったのですが、日立製作所の労働組合の役員になったことをきっかけに、次の衆議院選挙で出馬しないかと声がかかったんです。私が役員を務めていた労働組合は代々国会議員を輩出しているのですが、前任の議員が次の選挙で引退することになり、後継として私に立候補の声がかかりました。
正直、政治の道に進むかどうか迷いました。しかし、日本をもう一度世界一の研究立国にしたいという思いが捨てきれず、挑戦することを決意しました。政治の道へ進むと決めてからは、職場を離れ、大畠章宏 衆議院議員(当時)のもとで秘書として働き、政治を学びました。2年間、国会議員の実際の働きぶりを間近で見て、自分もこうやって人のために働くんだ、と政治家を目指す決意がさらに強くなりました。2017年の衆議院議員総選挙で初当選し、現在は2期目として活動を続けています。
(2)国民民主党がいち早く必要性を訴えていたセキュリティ・クリアランス制度が実現
ー浅野議員が所属する内閣委員会では、「セキュリティ・クリアランス制度」を創設する「重要経済安保情報の保護及び活用に関する法律」が審議されました。そもそも「セキュリティ・クリアランス制度」とはどのようなものなのでしょうか?
セキュリティ・クリアランス制度とは、経済安全保障上、重要な情報を取り扱える人を限定するための新しい資格制度のことです。公務員のみならず民間企業に勤める人も審査の対象となります。セキュリティ・クリアランス制度を創設する必要性が叫ばれ始めた背景には、防衛技術と産業技術の境目があいまいになり、平時から国益を守るための必要性が高まっていることがあります。日本でも2022年に「経済安全保障推進法」が成立しました。これにより日本にとって重要な物資や基幹インフラを外国の攻撃から守るための施策を推進することが明記されたのです。ただ実際に現場で技術や情報を取り扱うのは人です。人に対するフィルタリングをかけなければ、安定的に経済安全保障を実現することはできません。国民民主党は2022年から重要情報が漏洩することを防止するための、セキュリティ・クリアランス制度を提案し続けてきました。
国民民主党が2年前から指摘していたことが、やっと今国会で法律になったと感じています。私自身、労働組合の場にて重要情報を取り扱う人たちの意見を聞き、国会質疑の現場で政府に伝えてきました。自分のバックグラウンドを念頭に、後ろ向きな議論ではなく、どうすればよりよい政策を作れるのかを考えながら取り組んでいます。
ーセキュリティ・クリアランス制度の創立は決まりましたが、今後に残された課題はありますか。
今回の法改正でセキュリティ・クリアランス制度の大枠は固まったものの、運用面での論点はまだ残されています。私が注目している論点は二点です。一点目は、セキュリティ・クリアランス制度における、対象者の審査基準をより精緻する必要があるのではないか、ということです。重要情報の漏洩の原因には、ハニートラップや飲酒、自己顕示欲など人間生活に関わるさまざまな原因が考えられます。どのような審査をすれば、漏洩の可能性を低減させることができるのか、審査時の評価項目について再検討をする必要があると感じています。
二点目は国籍の問題です。審査項目に日本国籍を持つ人のみに限定するのかが大きな論点となります。例えばアメリカでは、重要情報を扱うことができるのはアメリカ国籍を持つ人に限定されていますが、アメリカは二重国籍を認めているため、アメリカ以外の国籍を持っていても審査をクリアすれば重要情報に触れることができるのです。一方、日本は二重国籍を認めていません。他国の国籍を持つ人が日本国籍を持てない条件の下で、セキュリティ・クリアランスにおける審査項目に国籍を含めるかどうかは現在まで政府は見解を示していません。現在では日本企業で働く外国人の方も増えており、現場での運用を考える上でも喫緊の課題になっていますので、今後も問題提起をしていきたい論点です。
(3)まだ誰もとらえられていない課題を見つけ、取り組みたい
ー2期目に入り、これまでの活動を振り返った感想はいかがですか。
セキュリティ・クリアランス法案を含め、自分として取り組みたいと考えていたいくつかの法案に取り組むことができました。科学技術分野では、研究者時代から関わってきた自動運転の解禁に携わりました。2022年の法改正によって、過疎地域などの特定ルートでは、ドライバーのいない自動走行が可能になりました。また昨年の6月には超党派の議員立法で「宇宙資源開発促進法」を成立させることができました。この法律では、宇宙から持ち帰った資源の所有権について定めるほか、民間事業者による宇宙開発を推進しています。
ー浅野議員が現在関心を持っているテーマはなんですか。
今の話と関連して、宇宙開発に関心を持っています。今後10年で宇宙開発は国際的にもかなり進展することが見込まれます。米・スペースX社が再利用可能な安価なロケットの開発に成功したことは宇宙開発を加速させるエポックメイキングな出来事だったと思います。従来、宇宙に人や物資を送るには莫大なコストが必要でした。ただ人や物資を宇宙に送るコストが劇的に下がるようになれば月面開発や火星開発が進むことになります。この点、日本の建築技術や自動車製造の技術が宇宙の舞台でも活躍する余地があると期待しています。ただそれに伴って、政治が解決しなければならない問題も発生するでしょう。たとえば月や火星はまだどの国のものでもないので、宇宙にある土地所有権の問題も勃発することが想定されます。日本は国際社会の舞台で、宇宙開発におけるルール作りを主導しながら、日本の技術力を生かすような動きが必要ですね。
ー政治家として、どんな社会を作りたいですか。
ベンチャー企業が今の10倍は生まれ、その中からユニコーンと呼ばれる企業が出てくることが重要です。これまでの日本は教育水準が高く技術力も高いものの、アイディアをビジネスにする点で世界の後塵を拝してきました。私のビジョンでもある「世界一の研究立国」を実現するには、日本企業に稼ぐ力が生まれ、その資金が新たな研究開発に回るような循環も大切です。
私は「三現主義」、すなわち現場に行き、現地の人の意見を聞いて、現実の課題を解決する姿勢を大切にしています。政治家の仕事は政策を主張することではなく、政策を実現することです。だから国民民主党の政策はすべて現実的です。それは尖っておらず地味な政策かもしれない。ただ国民民主党は偏った主張をして注目を集めるのではなく、まだ誰も気づいていない新しい課題に取り組むことを重視しています。これからも未来を見据えた取り組みを続けていきたいと考えています。