2023年6月16日、政府は『骨太の方針2023』を閣議決定しました。正式名称は、「経済財政運営と改革の基本方針2023 加速する新しい資本主義〜未来への投資の拡大と構造的賃上げの実現〜」です。
骨太の方針は、総理大臣をトップとする経済財政諮問会議で決定されています。国が取り組む重要な政策課題や、その政策課題に対する方向性が示されており、年末の予算案の議論に向けての基礎となる重要な方針です。言い換えると、骨太の方針は、国が何を重要視していて、何にどのように予算をつけるのか、という大まかな方向性が示される文書です。
骨太の方針には、さまざまな政策に関する方針が書かれています。今回のニュースレターでは、『骨太の方針2023』より「スタートアップ」分野の政策に関する記述をピックアップして解説します。
『骨太の方針2023』におけるスタートアップ分野の記述
『骨太の方針2023』ではスタートアップ分野について、主に12,13ページの、「第2章 新しい資本主義の加速、投資の拡大と経済社会改革の実行、スタートアップの推進と新たな産業構造への転換 / インパクト投資の促進」の項目で記載があります。
日本を代表する電機・自動車メーカーが、戦後直後にスタートアップ企業として、その歴史をスタートさせ、現在の日本経済をけん引するグローバル企業となりました。しかし現在は、開業率やユニコーン(時価総額 1,000 億円超の未上場企業)の数は、世界に比べて低い水準で推移している実情があります。
そのため、第二の創業ブームを実現するために昨年の「骨太の方針2022」にて初めて盛り込まれ、同年「スタートアップ育成5ヵ年計画」が策定されました。本年が本格始動の年になっている重要な分野です。
スタートアップ分野については、6つにカテゴリー分けをされて、言及があります。
上記内容から、注目の項目を3つ取り上げ、論点や今後の課題について見てみます。
(1)ストックオプションの仕組み・環境の整備
<これまでの課題>
- 従業員報酬としてストックオプションについて、スタートアップの事業の成長速度に応じて権利行使のタイミングと事業の成長速度が合致しない場合がある上に、手続きが煩雑。
- 未上場の場合に、種類株の価格をどのように測定するかのルールが不明確であることから、報酬としてストックオプションを付与する妨げとなっている。
<これまでの取り組み>
- 2019年、社外高度人材に対するストックオプション税制の適用拡大。
- 2023年5月、スタートアップ関係者向けのストックオプション税制説明会において、国税庁が「信託型ストックオプション」の見解と今後の「税制適格ストックオプション」の案内を実施。
<これからの課題>
- 参考としているアメリカのストックオプションの事例を、日本のスタートアップ環境に落とし込むことができるか。
- 「信託型ストックオプション」を税率20%の譲渡所得であることを前提に導入を進めていたスタートアップ企業が、最大55%の給与所得になることによる税負担の処理ができるか。(一定の要件を満たせば、「税制適格ストックオプション」として取り扱い可能。)
(参考)
・経済産業省「ストックオプション税制」
・新しい資本主義実現会議(第19回)資料12「信託型ストックオプションの課税上の取扱いについて」
(2)出口戦略の多様化
<これまでの課題>
- 既存企業が、新しい技術等を持つスタートアップ企業と連携するインセンティブがないため、オープンイノベーションが他国に比べて遅れている。
- 日本では出口戦略として、76%が新規公開株式(IPO)で、M&Aの選択は限定的。更にIPO後に売上高などの成長が鈍化する傾向。
- M&Aを慎重にさせている要因として、日本の会計では、「のれん償却費」が定額法等により規則的に償却を行うと定められており、買収企業の収益を継続的に圧迫することに。
<これまでの取り組み>
- 2023年4月「オープンイノベーション促進税制」が拡充。新規出資型の見直しとともに、M&A型が新設。
- 同年4月、新たな産業の担い手となるスタートアップに多様な新規上場手段を提供するため、新しい資本主義実現本部が「IPO プロセスの見直し」を公開。
- 金融庁の「企業会計審議会・第10回会計部会」で「のれんの会計処理」について議論が交わされる。
<これからの課題>
- IPOとM&Aの比率について、日本の8:2に対して、アメリカが1:9。今後、M&A の比率を高めていくにあたって、数値的な目標がないため達成基準が未だ不明確。
(参考)
・経済産業省「オープンイノベーション促進税制」
・内閣官房「IPO プロセスの見直し」
・金融庁「企業会計審議会・第10回会計部会議事次第」
(3)社会的起業家(インパクトスタートアップ)への支援
<これまでの課題>
- 若い世代がスタートアップの創業を検討する際、社会的課題の解決を目的にすることが多い中、社会的起業は上場やM&Aまでが長期化しやすい上に、民間からの投資を受けにくい。
<これまでの取り組み>
- 昨年の「骨太の方針2022」で、「インパクト投資推進」が明記。
- 民間で公的役割を担う新たな法人形態・既存の法人形態の改革の検討が始まる。
- 「休眠預金等活用法」の改正案が成立。支援対象にインパクトスタートアップが追加。
<これからの課題>
- 社会的起業家の認証制度で、「社会的課題」をどのように定義し、判定するのか。
- 地方自治体とも連携を行った支援を今後検討する中で、有効に働く政策を打ち出すための協力体制が取れるか。
(参考)
・内閣官房「スタートアップ育成5か年計画」
『PoliPoli』に掲載されている、スタートアップに関する政策
誰でも気軽に政策に関する意見を投稿できるプラットフォーム『PoliPoli』には、スタートアップに関する政策が投稿されています。
ぜひ政策提言やコメントをしてみて下さい。
上記政策の閲覧・コメントはこちら
→https://polipoli-web.com/projects/8SqWiHQUWs0l5vpq86es/comment
参考URL:株式会社PoliPoli|note ニュースレター|骨太の方針2023【スタートアップ】