2023年6月16日、政府は『骨太の方針2023』を閣議決定しました。正式名称は、「経済財政運営と改革の基本方針2023 加速する新しい資本主義〜未来への投資の拡大と構造的賃上げの実現〜」です。
骨太の方針は、総理大臣をトップとする経済財政諮問会議で決定されています。国が取り組む重要な政策課題や、その政策課題に対する方向性が示されており、年末の予算案の議論に向けての基礎となる重要な方針です。言い換えると、骨太の方針は、国が何を重要視していて、何にどのように予算をつけるのか、という大まかな方向性が示される文書です。
骨太の方針には、さまざまな政策に関する方針が書かれています。今回のニュースレターでは、『骨太の方針2023』より「教育」分野の政策に関する記述をピックアップして解説します。
『骨太の方針2023』における教育分野の記述
『骨太の方針2023』では教育分野について、主に42〜44ページの、「第4章 中長期の経済財政運営、5.経済社会の活力を支える教育・研究活動の推進、質の高い公教育の再生等 / 研究の質を高める仕組みの構築等」の項目で記載があります。
教育分野については、中央教育審議会が中心となって策定している5ヵ年計画である文部科学省の「教育振興基本計画」に沿って、8つにカテゴリー分けをされて、言及があります。
上記内容から、注目の項目を3つ取り上げ、論点や今後の課題について見てみます。
(1)学校のおける働き方改革
<これまでの課題>
- 大量退職等に伴う採用者数の増加や既卒の受験者数の減少、産休・育休取得者や特別支援学級の増加等が要因となり、教員不足の事態に陥っている。
- 2022年時点で「時間外勤務45時間超」の小・中学校教員が6割以上、かつ時間外勤務80時間超(過労死ライン)も中学校教員で36%、小学校教員で14%。
<これまでの取り組み>
- 2018年の働き方改革関連法の成立を受け、翌年の中央教育審議会が答申を取りまとめ「学校における働き方改革」として、各自治体で実施計画が策定される。
- 2022年より「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法の一部を改正する法律(改正給特法)」の施行。変形労働時間制と残業時間の上限が適用される。
<これからの課題>
- 2022年「教員勤務実態調査」では、2016年調査と比べて、勤務時間等に改善は見られるものの、依然として長時間勤務の教職員も多い。
- 全国の公立小中高校などで欠員が生じる「教員不足」の状況を、文部科学省が全国の教育委員会に回答を求めた結果、前年4月に比べて4割超が「悪化している」と回答があり、「教員の働き方改革」の効果が問われている。
- 関連する政策のための財源として毎年5000億円規模の予算増が想定されるものの財源については「安定的な財源を確保しつつ」に留まっている。
(参考)
・文部科学省「教員勤務実態調査について」
・国立国会図書館「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法の一部を改正する法律(改正給特法)」
(2)GIGAスクール構想の推進
<これまでの課題>
- 教員の長時間勤務の一因として、紙などのアナログな情報による膨大な事務作業や授業準備、コミュニケーションが、時代にそぐわないものとなっている。
- 新型コロナウイルス感染症流行時、ICTの活用が十分ではなく、デジタル化への対応の遅れが浮き彫りに。
<これまでの取り組み>
- 学校におけるICT環境の整備について、「教育のICT化に向けた環境整備5か年計画(2018〜2022年)」が策定される。
- 2019年、文部科学大臣を本部長とする「GIGAスクール実現推進本部」が設置。
- 2023年7月4日、「初等中等教育段階における生成 AI の利用に関する暫定的なガイドライン」を公表。
<これからの課題>
- 1人1台端末が整備完了したとしても、地域の予算や学校環境、教員スキルによって、利活用状況に大きく差が生じている状況が依然としてみられている。かつ小中学校に比べて、高等学校の整備が遅れている。
- 「校務DX」を進めるにあたって、学校現場では解決ができない技術的な課題が多い。
- 「学校現場における生成AI活用ガイドライン」を活用して、「質の高い公教育」を実現できるか。
(参考)
・文部科学省「GIGAスクール構想について」
・文部科学省「GIGAスクール構想の下での校務の情報化の在り方に関する専門家会議」
・文部科学省「初等中等教育段階における生成 AI の利用に関する暫定的なガイドライン」
(3)世界に勝つ研究力の強化
<これまでの課題>
- 1996年にイノベーション創出のための5ヵ年か計画である「科学技術・イノベーション基本計画」が策定されてから、期待されるほどのイノベーション創出には至っていない、という声がある。
- 論文に関する国際的地位の低下傾向や厳しい研究環境が継続。更に知財の競争力低下が始まっている
- 博士課程進学率が低い傾向が続いており、博士人材が産業界等を含め幅広く活躍するためのキャリアパス整備等による進学意欲の向上が求められる。
<これまでの取り組み>
- 2021年に「第6期科学技術・イノベーション基本計画」が策定される。
- 「大学院段階における「授業料後払い」制度」を2024年度に実施予定。
<これからの課題>
- 「第6期科学技術・イノベーション基本計画」には投資目標額があるが、2期から4期までの投資目標は未達成。かつ過去の基本計画において「研究力低下」は課題解決するべき政策ではあったが、低下の一途を辿っている。
- 多くの支援がすでに行われており、その他の支援制度とインセンティブの兼ね合いを検討する必要がある。
(参考)
・内閣府「第6期科学技術・イノベーション基本計画」
・大学院段階の学生支援のための新たな制度に関する検討会議
(参考)
・文部科学省「教育振興基本計画」
『PoliPoli』に掲載されている、教育に関する政策
誰でも気軽に政策に関する意見を投稿できるプラットフォーム『PoliPoli』には、教育に関する政策が投稿されています。
上記政策の閲覧・コメントはこちら
→https://polipoli-web.com/projects/gdcBAewieCXi12ubb7ZV/story
参考URL:株式会社PoliPoli|note ニュースレター|骨太の方針2023【教育】