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家畜伝染病予防法とは?畜産業を守る農林水産省の取り組み

投稿日2021.3.12
最終更新日2021.03.12

家畜伝染病予防法とは、家畜による伝染病の発生や流行を防ぐことを目的とする法律です。
ニュースや新聞で家畜の伝染病について見聞きしたことがあるかもしれません。

伝染病が流行すると畜産業の発展が止まってしまうため、普段の食事でお肉が食べられなくなる恐れがあります。

そのため政府はこれを予防するために様々な取り組みを行っています。
そこで今回は

  • 家畜の伝染病とは何か
  • 家畜伝染病予防法
  • 農林水産省の取り組み

についてご紹介します。
本記事がお役に立てば幸いです。

1、そもそも家畜の伝染病とは

家畜伝染病予防法
家畜の伝染病とは、家畜が患う感染症のことをいいます。
家畜伝染病は例えば以下のものが該当します。

  • 口蹄疫
  • 狂犬病
  • ブルセラ症
  • 結核
  • 鳥インフルエンザ

他にも多々ありますが、上記のものが有名です。

参考:家畜伝染病予防法

2、家畜伝染病予防法とは

家畜伝染病予防法は、家畜の伝染病の発生及び蔓延を抑えるための法律です。

(1)家畜伝染病予防法の目的

そもそも家畜伝染病予防法の目的は、家畜の伝染病の発生を防ぐことです。
しかし発生してしまった場合は、それ以上の感染拡大を防ぐための殺処分など大々的な対応が必要となってきます。

(2)家畜伝染予防法の内容

それでは家畜伝染病予防法の具体的な中身の話に移ります。
1章から7章までありますので、順番に見ていきましょう。

①家畜伝染予防法1章について

1章は総則のため、家畜伝染病予防法の目的や定義が掲載されています。
同法では、都道府県や市町村だけでなく、家畜を所有する者に対しても伝染病の予防と蔓延防止に務めることを義務づけました。

特に国と地方公共団体は

  • 家畜の所有者
  • 所有者が組織する団体

に対して家畜伝染病を予防するための必要な助言と指導も行わなければなりません。

また、家畜伝染病予防法は農林水産省の管轄のため、農林水産大臣にも伝染病予防の措置に関する指針の作成や制定義務などがあります。

②家畜伝染病予防法2章について

2章は家畜の伝染病の発生と予防について、詳しく書かれています。

万が一、家畜伝染病にかかりそうな恐れがあるときに都道府県は、その家畜または家畜の所有者に対して家畜防疫員の検査を受けるよう命令することができます。

家畜防疫員とは獣医師免許を持った公務員のことで、主に農家に対して衛生指導などを行っていますが、伝染病が発生した際は蔓延防止に貢献します。

その後、都道府県知事は検査結果を農林水産大臣に報告し、大臣はフィードバックとして助言と指導を返し、知事が家畜所有者ないし組織にそれを伝え再び指導しなければなりません。

ある所有者の家畜に感染の可能性がなさそうでも、何かしらの理由で予防措置が必要な際には、都道府県知事は家畜予防員による注射や投薬を実施することができます。

そもそも家畜の所有者は、具体的な予防として、普段から消毒するための設備を設置することが義務づけられています。

また必要があれば都道府県知事から追加で消毒、ねずみや害虫の駆除などの命令が出ることがあります。

さらに万が一、家畜伝染病が発見された場合、都道府県知事や市町村長は72時間を上限とし、その間、家畜ないしその死体がいた箇所の通行を遮断することができます。

上記のような衛生管理は極めて厳密なルールに基づいて実施されており、毎年整理され、インターネットなどにて公開されています。

③家畜伝染病予防法3章について

3章では患畜の届出義務について書かれています。
患畜とは、家畜伝染病にかかっている家畜のことです。

また、患畜が口蹄疫などの病原体に触れた疑いがある場合は擬似家畜と呼ばれます。
患畜と擬似家畜が出た場合は報告義務が発生します。

具体的には、

家畜所有者

都道府県知事

知事から農林水産大臣

の流れで連絡しなければいけません。
基本的に情報伝達はこの流れで行われ、指導や助言は逆の順序で実施されます。

患畜や擬似家畜の隔離は家畜防疫員が担当します。
ただし下記の伝染病の患畜ないし擬似家畜は殺処分しなければなりません。

  • 牛疫
  • 牛肺
  • 口蹄疫
  • 豚熱
  • アフリカ豚熱
  • 高病原性鳥インフルエンザ
  • 低病原性インフルエンザ

しかし指示がなければ所有者は家畜を殺すことができず、緊急の必要がある際にのみ家畜防疫員が殺処分を実施できます。

加えて、口蹄疫に関しては、蔓延するリスクがある場合にのみ、農林水産大臣は殺処分する家畜の地域を定めることがあります。

その後については都道府県知事が対応します。
2010年に宮崎県で口蹄疫が発生した時も、家畜伝染病予防法に基づいて対応がなされました。

原則、殺処分された死体は焼却ないし埋没の措置が取られますが、学術研究のために提供されることもあります。

④家畜伝染病予防法4章について

4章は輸出入検疫などについて記載されています。
いわゆる輸入禁止事項が掲載されています。

以下のものは農林水産大臣の許可がない限り、輸入できません。

  • 農林水産省で定める地域から発送されるもの(経由も然り)
  • 監視伝染病の病原体
  • 家畜伝染病の病原であるが知られていないもの

さらに動物や、家畜の餌となる穀物のわらも原則、検査証明書がなければ輸入することができません(家畜伝染病予防法37条)。

輸入後の検査や、異常があった場合の消毒などについても細かく設定されています。

⑤家畜伝染病予防法5章について

5章では病原体の所持について述べられています。
当然ながら、病原体を所持しようとする場合は農林水産大臣の許可を得る必要があります。

ただし

  • 病原体の減菌や譲渡
  • 病原体の運搬やその委託

などを行う場合は例外となります。
また医薬品の製造などを目的とする研究の場合も病原体の所持が認められるケースがほとんどです。

⑥家畜伝染病予防法の6章について

6章には雑則、つまり細かい規定がまとめられています。
特に農林水産大臣から都道府県に出される指示について詳細に書かれています。

⑦家畜伝染病予防法の7章について

最後の7章には、罰則について記載されています。
これまで禁止事項や制限などが数多く出てきましたが、これらを破った場合に科される罰について書かれています。

各項目の懲役と罰金がまとめられているので気になる方は確認してみてください。

参考:家畜伝染病予防法
参考:動物検疫所

3、家畜伝染病予防法の改正

家畜伝染病予防法
昭和26年に施行された家畜伝染病予防法ですが、これまで何度も改正を重ねてきした。
令和元年6月24日に同法を一部改正する法律案が提出され、令和2年の3月27日に成立し、同年4月3日に公布されました。

(1)家畜伝染病予防法が改正された理由

平成30年の9月、26年ぶりに日本国内で豚熱が発生しました。
野生のイノシシがこれに感染し病原体が広まったため、未だ完全には終息していません。

また、アジア地域においてもアフリカ豚熱は急速に蔓延しています。
これらの影響を受けて法改正にて対応することになりました。

(2)家畜伝染病予防法の改正箇所

改正箇所は以下の6つに分けられます。

  • 家畜の伝染性疾病の名称変更
  • 家畜の所有者・国・都道府県・市町村・関連事業者の責務の明確化
  • 飼育衛生管理基準の遵守に係る是正措置の法への位置付け
  • 野生動物における悪性伝染性疾病の蔓延防止措置の法への位置付け
  • 予防的殺処分の対象疾病の拡大
  • 家畜防疫官の権限や罰則の強化

順番に見ていきましょう。

①家畜の伝染性疾病の名称変更

家畜伝染病の名称が一部変更になりました。

「水胞性口炎」、「ブルセラ病」、「結核病」、「ピロプラズマ病」、「アナプラズマ病」、「豚水胞 病」及び「家きんサルモネラ感染症」の名称を、それぞれ「水疱性口内炎」、「ブルセラ症」、「結核」 、「ピロプラズマ症」、「アナプラズマ症」、「豚水疱病」及び「家きんサルモネラ症」に変更するもの とすること。

引用:家畜伝染病予防法の改正

②家畜の所有者・国・都道府県・市町村・関連事業者の責務の明確化

各主体の役割や権限がより明確になりました。
それぞれの責務をより具体的に定めることで、連携の際にかかるコミュニケーションのコストが削減され、以前よりも迅速かつ確実に対応できるようになったのです。

③飼育衛生管理基準の遵守に係る是正措置の法への位置付け

消毒義務の発生する者の基準や都道府県知事の権限を拡大しました。
これにより安全性を高め、蔓延への対処といった緊急性の高い事態に対応できる条文が追加されました。

④野生動物における悪性伝染性疾病の蔓延防止措置の法への位置付け

野生動物への対応も強化されました。
例え家畜でなくとも

  • 発見された場所の消毒
  • 発見された場所の通行制限
  • 周辺にいる家畜の移動制限

などの措置が取れるようになっています。

⑤予防的殺処分の対象疾病の拡大

アフリカ豚熱も殺処分の対象となりました。
また野生動物において、口蹄疫もしくはアフリカ豚熱に感染していた場合も殺処分が行えるようになりました。

⑥家畜防疫官の権限や罰則の強化

家畜防疫官の権限などの強化として以下の項目が追加されました。

  • 入出国者が指定検疫物を携帯しているか質問、検査できる
  • 違反畜産物を保持していた場合、それを廃棄できる
  • 出国者に対しても要消毒物品に関する質問、検査、消毒をすることができる
  • 航空会社などに必要な協力を求められる(動物検疫所長のみ)

また罰則に関しては、違反に係る罰金が引き上げられました。

参考:家畜伝染病予防法の改正(令和2年)について

4、今後の課題

課題の1つはアフリカ豚熱に有効なワクチンが存在しない点です。
アフリカ豚熱は殺処分の対象であるほどの伝染病にもかかわらずワクチンがないため、野生動物も含め、より迅速に拡大防止に務める必要があります。

もう1つは国際社会との連携です。
同じくアフリカ豚熱はアジア圏とアフリカ圏を舞台に流行が続いています。

すでに輸出入の検疫強化は実施されていますが、近隣諸国とは特に緻密な連携と情報交換を行っていかなければなりません。

参考:アフリカ豚熱について・農林水産省

まとめ

家畜伝染病予防法とは家畜の伝染病の発生及び流行を抑えるための法律でした。
中でも鳥インフルエンザや口蹄疫が有名で、後者については2010年に宮崎県で発生し、大きなニュースになりました。

現在でもアフリカ豚熱は未だ終息に至ってはいませんが、法改正による対応が行われ、すでに施行されています。

家畜伝染病予防法は畜産業のさらなる発展のために不可欠です。

この記事の監修者
政治ドットコム 編集部
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