「ムーンショット」とは、未来社会を展望し、これまで無い「壮大な目標・挑戦」を指す言葉です。
今回は、内閣府が掲げる「人が身体・脳・空間・時間の制約から、解放された社会の実現」というムーンショット目標について、以下の通り解説します。
- ムーンショットの概要
- 政府が掲げる7つの目標
- ムーンショットを進める政府の取り組み
本記事がお役に立てば幸いです。
1、ムーンショットとは
「ムーンショット」とは、未来社会を展望し、実現すれば大きなインパクトをもたらす「壮大な目標・挑戦」を指す言葉として使われています。
語源は、ジョン・F・ケネディ大統領が発した、アポロ計画に関するスピーチです。
「1960年代が終わる前に、月面に人類を着陸させ、無事に地球に帰還させる」というスピーチが、由来であると言われています。
日本では、
- 人口減少社会の到来
- 地球環境の現状
を受けて、「国民の新しい生活様式」を実現するため、ムーンショット目標が掲げられました。
2、政府が掲げる7つのムーンショット目標
内閣府は、2020年1月に「48回総合科学技術・イノベーション会議」を開催しました。
この会議で、2050年を見据えた計画として、「ムーンショット型研究開発制度」を推進する7つの目標を発表したのです。
ムーンショット型研究開発制度の具体的な内容は、以下の通りです。
- 「身体」「脳」「空間」「時間」の制限から解放された社会の実現
- 超早期からの疾患の予測・予防ができる社会の実現
- 自分で学習・行動し、人と共に過ごすロボットの実現
- 資源を循環する持続可能な社会の実現
- 地球規模でムダのない持続的な食料供給産業の創出
- 経済・産業・安全保障を急激に発展させるコンピューターの実現
- 100年人生を楽しんで過ごすための医療・介護システムの実現
それぞれの目標について、以下で確認していきましょう。
参考:目標1-6(総合科学技術・イノベーション会議決定)|内閣府
(1)「身体」「脳」「空間」「時間」の制約から人が解放された社会の実現
「解放」とは、ロボットや3Dホログラムなどを利用して、人間の
- 身体能力
- 認知能力
- 知覚能力
を拡張することです。
解放された、未来的な新しい生活様式を「サイバネティックアバター生活」と呼びます。
2050年までに、身体的な限界に縛られずに社会活動へ参画できる、未来の社会基盤を作ることを、政府は掲げているのです。
例えば、
- コーディネーターロボットによる道案内
- 自己アバターの遠隔操作による仕事への取り組み
などが考えられるでしょう。
参考:目標1-6(総合科学技術・イノベーション会議決定)|内閣府
(2)超早期からの疾患の予測・予防ができる社会の実現
「超早期からの疾患の予測・予防」とは、
- 認知症
- 癌
などの深刻な病気が発症する前に、疾患予測し、予防を図るシステムを確立することです。
2030年までに、人間の臓器間ネットワークの包括的な解明を目指しています。
そして2050年には、「すべての病気を未然に防ぐこと」を実現する計画です。
(3)自分で学習・行動し、人と共に過ごすロボットの実現
人と価値観などを共有し、一緒に成長するパートナーロボットの開発を指しています。
ロボットの開発が進めば、
- 新しい分野における自然科学の解明
- 完全無人化による産業構造の変革
などが可能になるかもしれません。
2030年までには、特定の問題や状況に対して、自律的に動作するロボットの開発が目指されています。
(4)資源を循環する持続可能な社会の実現
2050年までに、今までのライフスタイルを継続しつつ、
- 地球温暖化問題
- 環境汚染問題
を解決し、地球環境を再生する、持続可能な社会を目指します。
具体的には
- 大気中のCO2の直接回収・資源転換
- プラスチックゴミの分解・無害化
などの技術開発がカギとなるようです。
2030年までに、
- 温室効果ガスに対する循環技術
- 環境汚染物質の有益な資源への変換、無害化
を実現する技術の開発を目標としています。
参考:目標1-6(総合科学技術・イノベーション会議決定)|内閣府
(5)地球規模でムダのない持続的な食料供給産業の創出
世界的な人口増加により、食料需給はひっ迫状態にあります。
2050年には、穀物の需要量は、現在の1.7倍になると言われています。
そのため、自然と共存した、ムダの無い、食料需要の解決を目指す必要があるのです。
具体的には、
- 土壌微生物環境の完全解明
- 化学肥料を使わない食料作りの実施
- 食品ロスの減少
などが挙げられています。
上記の技術開発を進めることで、
- ムリ・ムダのない食料生産活動を構築
- 世界的な人口増加への対応
- 地球環境の回復への貢献
が期待されています。
参考:目標1-6(総合科学技術・イノベーション会議決定)|内閣府
(6)経済・産業・安全保障を急激に発展させるコンピューターの実現
Society5.0の実現に向けて、圧倒的な処理能力を持つ量子技術を応用し、様々な分野で革新を生み出すことを目指しています。
実現すれば、既存の社会システムへの、大きな変革につながる重要な目標の1つです。
(7)100年人生を楽しんで過ごすための医療・介護システムの実現
目標2で掲げた「疾病の予防」に加えて、心身ともに健康を維持しながら、人生を楽しめる社会基盤の構築を目指しています。
求められる技術開発は、
- すべての生体トレンドを把握・管理できる技術
- どこにいても必要な医療にアクセスできるメディカルネットワーク
- 機能が衰えた臓器を再生・代替する技術
などが挙げられます。
個々人の健康状態をシステムで管理しながら、介護に依存しない、自律的な社会の構築を目指しているのです。
3、ムーンショット目標への政府の取り組み
ムーンショット目標を実現するために、政府では、以下の取り組みを進めています。
- 総合科学技術・イノベーション会議の開催
- ムーンショット型研究開発制度の創設
- ムーンショット国際シンポジウムの開催
それぞれの内容について、みていきましょう。
(1)総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)の開催
内閣府では、ムーンショット目標を含めた、「イノベーション創造プログラム」に関する事業が展開されています。
その1つが「総合科学技術・イノベーション会議」です。
「総合科学技術・イノベーション会議」とは、
- 内閣総理大臣
- 科学技術政策担当大臣
が企画立案した、科学技術・イノベーション政策について、調整することを目的とした会議です。
日常生活への新技術の活用を図るため、
- ムーンショット型研究開発制度の進め方
- ムーンショット型研究の必要性
- 目標の設定
- キックオフシンポジウムなどのイベントの開催
などについて、取り組んでいます。
(2)ムーンショット型研究開発制度
ムーンショット型研究開発制度とは、日本におけるより大胆なイノベーションの創出を目指して発足した新しい制度です。
欧米や中国などの先進的な取り組みを参考に、2018年に内閣府より創設されました。
政府が掲げる「ムーンショット」は、「Human Well-being(人々の幸福)」を目指すというコンセプトのもと、基盤となる社会・環境・経済の領域における様々な課題の解決を目的としています。
社会から尊敬される技術をもつ、士気の高い国を目指して、2018年度の補正予算では約1000億円が計上されました。
また優れたテーマの研究開発に対しては、最長で10年間の支援を発表しました。
(3)ムーンショット国際シンポジウムの開催
2019年12月に、
- 内閣府
- 科学技術振興機構(JST)
- 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)
が主催する、「ムーンショット国際シンポジウム」が開催されました。
「ムーンショット国際シンポジウム」とは、ムーンショット型研究開発制度の、運営方法や目標について、議論するための会議です。
具体的には、
- 人の能力に対する拡張技術の実現
- AIとロボットの共進化によるフロンティアの開拓
などのプレゼンテーションが行われ、専門家による認識が共有されました。
まとめ
今回は、ムーンショットについて解説しました。
ムーンショット目標は、AI やロボットといった、先進技術の発展に基づいるため、現時点では予想がつかないものも多くあります。
しかし、このように大きな計画を掲げて、様々な分野を後押しすることは、政府が担うべき重要な役割の1つと言えるかもしれません。