「Society 5.0」とは、政府や経団連が提唱している、日本が目指す新しい未来社会の姿を表す言葉です。
Society 5.0を理解するためには、この言葉の背景となる科学技術基本計画の5期目と、それが目指す具体的なビジョンを把握することが必要です。
本記事では以下の視点から「Society 5.0」を詳しく解説します。
- Society 5.0とは何か
- 目的・事例
- 課題
私たちの生活は、テクノロジーの進化とともに大きく変化しています。その変化を理解し、適応するためには、Society 5.0というビジョンを深く理解することが不可欠です。本記事がその理解の手助けとなれば幸いです。
1、Society(ソサエティ)5.0とは何?
(画像出典 内閣府)
繰り返しになりますが、Society5.0とは、AI、ロボット、ビッグデータなどを取り入れた「創造社会」という未来のあり方のことです。
情報社会と呼ばれて久しく、老若男女がインターネットを利用するようになった現代社会。今後は、人間が中心となりつつも、サイバー空間と現実空間を高度に融合させた社会に推移していくことになります。
そもそもは、5年ごとに改定される科学技術基本計画にて、日本が目指す未来社会として初めて提唱されたキャッチフレーズです。
経団連がこれを「創造社会」と名付け、国連が採択したSDGs(国連が採択した「2030年に向けた持続可能な開発目標」のこと)と絡めてSociety5.0 for SDGsを掲げています。
Society5.0を進めることで、SDGsの達成にも貢献できる、というわけですね。
以下、Society5.0について、
- 社会の歴史
- 創造社会の仕組み
- メリットや恩恵
について見ていきたいと思います。
(1)社会の変化の歴史【5.0の意味】
Society5.0という数字は何かというと、「段階」「レベル」が5段階目だという意味です。
- 狩猟社会(Society 1.0)
- 農耕社会(Society 2.0)
- 工業社会(Society 3.0)
- 情報社会(Society 4.0)
という人類の歴史の次に、「創造社会」(Society5.0)という未来の姿を打ち出しています。
インターネットが普及し始めたころは、第二次産業革命というような言葉もありました。
確かに2000年以降、我々一般の人もパソコンやケータイ、そしてスマートフォンでインターネットを利用することが多くなりました。
それから約20年が経過し、情報社会の次の社会が到来しようとしている訳ですね。テレビ番組などでも、AIやロボットに関する先進的な事例が紹介されるようになりました。既にSociety5.0に突入しているとも言えますね。
言葉や考え方だけが一人歩きして、「なんかすごそう」「新しい時代なんだ」という感覚だけになってしまわないよう、解説や説明だけでなく、実際の取り組みとして進めていくことが重要だと思います。
(2)Society5.0はどんな仕組み?
Society 5.0は、どんな仕組みで成り立っていくのでしょうか?簡単に言うと、インターネットを利用して収集したデータを核として、AIやロボットに手伝ってもらう仕組みです。
これを小難しく解説すると、サイバー空間とフィジカル空間を高度に融合させたシステム、ということになります。
これまでの情報社会(Society 4.0)では、人間がサイバー空間にアクセスして、情報やデータを入手し、分析を行ってきました。
私たちが普段、分からないことをインターネットで検索するような行為ですね。Society 5.0では、人間生活の膨大な情報が、サイバー空間に集積されます。これをビッグデータと呼びます。
サイバー空間で、このビッグデータをAIが解析し、その結果が人間に「提案」という形で返ってきます。そのおすすめの提案を、実際にロボットが動くことで自動的に課題に対処していく、このような仕組みです。
まとめると、今までは人間がデータを収集するためにインターネットを利用していましたが、創造社会においては、人間社会のデータをインターネット経由で集積し、人工知能やロボットがビッグデータを基に課題を解決してくれる、ということだと思います。
このような仕組みを説明すると、「人工知能に人間が乗っ取られる」「AIは人間よりも賢くなる」「世界がロボットに埋め尽くされる」という不安を抱える方もいることでしょう。
確かに、AIは人間よりも記憶力もデータ解析能力も優れているのは間違いないです。しかしあくまでも、人間が中心となって、AIやロボットに手伝ってもらうという仕組みです。
利便性の追求という側面だけを考えると、どうしても反対意見も出てきますが、例えば食材が余っている地域と食材が不足している地域のデータをAIが分析して、今まで廃棄していた食材を不足地域に回すことが出来たら、これは社会の仕組みとして歓迎すべきことです。
人間の記憶力や分析能力では追いつかない部分を、人工知能に提案してもらうことで、効率的で持続可能性のある社会を目指す時代になってきているのです。
もう少し具体的に、Society5.0の恩恵・メリットについて紹介します。
(3)Society5.0の具体的な恩恵・メリット
Society5.0を実現することで、どんな恩恵・メリットがあるのか、どんな社会を実現することができるのか、もう少し具体的に見ていきたいと思います。
経団連の提唱するSociety5.0 for SDGsでは、9つの分野での活用が提案されていますが、その中でも今回は
- 「医療」
- 「温暖化対策」
- 「農業」
- 「人手不足」
という4つの項目について、より詳しく紹介します。
①医療・介護分野での恩恵
Society5.0における医療・介護とは、どんな未来になるのでしょうか?
例えば、我々個人の健康データ(性別・体重・血圧・血糖値…などなど)と、病院の過去の診断・治療データをビッグデータとして集積し、AIが最適な治療方法を医者・患者に示すことが可能になります。
日常的に健康データを管理することで、病気の早期発見にもつながります。また、介護ロボットや会話ロボットなどの活用により、健康的な生活と人手不足の問題も解決できます。
ビッグデータ・人工知能・ロボットを活用することで、国や地域に関係なく、ひとりひとりが最適な医療・介護を受けることができるような社会を実現できるのです。
②エネルギー問題・温暖化対策への恩恵
多くの先進国が向き合っているエネルギー問題・地球温暖化問題に対しても、Society5.0による恩恵を受け取ることができます。
例えば、普段の電気の需給量を正確に予測し、適切な運転ができれば、火力発電所の稼働を減らすことができるかもしれません。
過去と未来の気象情報や、人々の電力使用量、発電所の稼働状況などのデータを集積し、AIが効率的で最適な調整を提案してくれれば、エネルギー・温暖化の課題解決につながります。
また、自宅において、何時に、どの家電が、どのくらいの電力を使用しているのかを見ることができれば、各家庭での省エネ意識が働くかもしれません。
さらに、車の自動運転が開始されれば、エコな運転で渋滞もなく、温室効果ガスの排出は減少するでしょう。
③農業における恩恵
人手不足、高年齢化、異常気象などの問題点が多い農業分野でも、Society5.0の恩恵が期待できます。ドローンなどを利用して、作物の生育状況を観察し、天候情報も取得することが可能となります。
さらに市場での需要と供給の情報までキャッチし、AIが最適な解決策を提案してくれます。
またロボット・機械化を進めることで、天気に合わせて水をまいてくれたり、食べごろの作物を自動で収穫してくれたり、欲しい人のもとへ適切な価格で販売の営業をしてくれたり、そんな未来が考えられています。
食料自給率が低く、農業従事者の平均年齢が高い日本では、農業分野での新しいテクノロジーは特に積極的に開発・実践していくべきでしょう。
④人手不足に対する恩恵
日本は人口減少が進行し、特に労働者人口が減り続ける超高齢化社会です。世界で最も深刻な高齢化社会と言われており、人手不足問題が指摘されて久しいです。Society5.0は、人手不足問題の解決にもメリットがあります。
例えば、先ほども触れた
- 「介護ロボット」
- 「農業の自動化」
によって、人手不足の解消になります。
また、工場でのものづくりにおいても、需給情報・在庫状況・運送状況などのデータを人工知能が解析し、ロボットが作業することで、無駄のない効率的な流通が可能になります。
企業においても、人間がやる必要のない定型業務はAIやロボットが代替するようになり、人手不足を解決できるかもしれません。
ちなみに日本では人手不足を解消するべく、外国人労働者の受け入れ拡大を進めています。外国人労働者に関しては以下の関連記事で解説していますので、もしよろしければご覧下さい。
外国人労働者とは?外国人労働者の受け入れ拡大と注意点について
⑤教育に対する恩恵
ソサエティ5.0が教育にもたらす恩恵については以下のような点が挙げられます。
個別最適化された学びの実現
一斉一律授業の学校は、読解力など基盤的な学力を確実に習得させつつ、個人の進度や能力、関心に応じた学びの場に変わることが期待されます。また、EdTechを活用して個人の学習状況の「スタディ・ログ」を「学びのポートフォリオ」として電子化・蓄積することで、学習計画や学習コンテンツの提示、より精度を高めた学習を支援します。
学校の指導体制と教育免許制度の改善
文部科学省は指導体制の質・量両面にわたる充実・強化を図る観点から、免許制度の在り方を見直すことを提言しています。
2、文部科学省や経済産業省などの取り組み
ここまでは、Society5.0の概要について見てきました。
この段落では、日本の各省庁の動向について見ていきたいと思います。
今回は特に、教育分野での取り組みが期待されている文部科学省と、経済分野での取り組みが期待されている経済産業省の2省庁の動向を紹介します。
(1)文部科学省によるSociety5.0
文部科学省は、教育分野におけるSociety5.0の取り組みを進めています。
例えば、教材用AIの発達によって、生徒一人一人のスタディログを蓄積し、最適な学習計画や学習内容を提示してくれるようなシステムを目指しています。
また、「一律一斉」の教育から、個々人の関心と能力に合わせて、学びの場が提供される環境を整える方向性が模索されているのです。もちろん、従来の義務教育レベルは世界的に見ても高いため、学校・教師・教科書などの基本的な枠組みは変更されないということも言われています。
しかし、先進技術を用いた教育手法と、先進技術を扱える人材の育成の両面で、文部科学省の担う役割は大きいでしょう。
(2)経済産業省によるSociety5.0
経済産業省でも、Society5.0の到来に向けて、取り組みが進んでいます。特に自動運転技術・AIロボット・健康分野の成長を目指しており、規制緩和やベンチャーキャピタルの増加など、多岐にわたる取り組みを進めているのです。
具体的には、顧客が自分で採血し、それをドラッグストアに持ち込んで結果を聞くことができるサービスが話題になりました。これが「医業」に該当するかどうか、意見がありましたが、結果は「該当せず」で、民間企業の新しいアイデアが実施されることとなりました。
また、企業実証特例制度では、ヤマト運輸とヤマハ発電機が、アシスト力が3倍のリアカー付自転車の導入を、一部都市で実証実験することが認められました。
現行の道路交通法施行規則では、踏力の2倍までのアシスト力に限定されていますが、安全確保を企業に求める形で、認可されています。
今回の事例はSociety5.0のような高度情報を利用した事例ではありません。しかし、このような新たな挑戦を認め、小さな失敗を恐れない企業が増えることで、Society5.0に向けた土台作りを進めています。
(3)民間企業・学校によるSociety5.0への取り組み事例
民間企業や学校でも、Society5.0への取り組みが進んでいます。技術の発展に合わせて変化しないと生き残っていけないですから、民間の方が対応のスピードも速いと言えるでしょう。
例えば「がんこフードサービス」という企業では、ロボットによる料理の自動運搬をしています。キッチンからお客さんのもとへ、ロボットが料理を運ぶわけです。これにより、従業員は接客に集中できるようになり、労働量は15%減少できているようです。
また、青森県の弘前大学は、地域と企業と連携を深めることで先進的な取り組みをしています。地域住民の健康情報を継続的に取得し、企業の資金を活用し、認知症や生活習慣病に関するビッグデータの活用方法を研究しています。
自分の病気が予測できるようになり、事前に食事や運動に気を付けることができるようになったら、革命的ですよね。
3、Society5.0の課題・問題点
Society5.0が進められるにあたって、課題・問題点はあるのでしょうか?
ビッグデータ・人工知能・ロボットの活用を進めていくわけですから、当然、今までにはないリスクも出てきます。
特に課題として指摘されることの多い
- 技術的な課題
- サイバーセキュリティ
- 個人情報、プライバシーの問題
といったポイントについて、情報をまとめました。
(1)Society5.0の技術的な課題とは?
Society5.0では技術的な課題が指摘されています。ビッグデータといえば、第一に名前が挙がる企業はGoogle・Facebook・Amazonなどのアメリカの会社ばかりです。
自動運転技術においても、TOYOTAに先駆けて欧米やイスラエルなどの企業が活発な動きを見せています。AIやロボット分野では、日本の技術力で高いシェアを占めている分野もあります。
従来より、モノづくりの技術力では世界トップレベルですが、情報技術・技術革新のプラットフォームを構築する技術がまとまっていないのは事実でしょう。
データの収集と、それを統合するAI・ロボット・自動運転の開発技術において、企業と政府が一体となって進める必要があるのかもしれません。
(2)サーバーセキュリティへの対処
Society5.0では、サイバーセキュリティという課題もあります。社会の隅々までデジタル技術が浸透することで、あらゆる日常生活でデータ管理が必要となります。
従来型の「内側は安全。外部からの攻撃に対処する」といったセキュリティの考え方を改め、「脅威はどこにでもある」というゼロトラストモデルへ変化させていくことが重要です。
ちなみに、欧米諸国ではサイバー攻撃の被害を受けた際、被害状況をなるべく早く社会に公表し、同様の被害を拡大させないという施策がとられます。
一方、日本では企業がサイバー被害にあった際、企業が責任を感じ、被害状況を隠したり遅れて公表したりします。世間のバッシングも含めて、サイバーセキュリティへの考え方や企業姿勢も問われる時代になってきているのです。
(3)個人情報・プライバシーの問題
Society5.0では、個人情報・プライバシーの問題もあります。AIやロボットに判断させるためには、人間社会におけるありとあらゆるデータを蓄積する必要があります。
現在でも、Googleは、メール内容・検索履歴・位置情報などがデータとして収集されている訳ですし、今後もそのような傾向は増えていきます。
むしろ、増やしていこうというのがSociety5.0という社会です。医療分野でのデータ活用を進めていくのであれば、今まではカルテという形で残していた個人的な健康情報を、情報データとして残し、他の色々な分野で使われることに同意する必要があります。
当然、個人情報の提供を好ましく思わない人が多い中で、どのようなルール・取り扱いにするのかが重要です。
PoliPoliで公開されているIT関連の取り組み
誰でも政策に意見を届けることができる、政治プラットフォームサービス「PoliPoli」では、「Web3.0」を日本の成長戦略の柱にする政策について、以下のように公開されています。
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PoliPoli|「Web3.0」を日本の成長戦略の柱に!
(1)「Web3.0」を日本の成長戦略の柱に!政策の政策提案者
議員名 | 平 将明 |
政党 | 衆議院議員・自由民主党 |
プロフィール | https://polipoli-web.com/politicians/CU6xgdz9r8x0M4IpSq2y/policies |
(2)「Web3.0」を日本の成長戦略の柱に!政策の政策目標
政策目標は主に以下の通りです。
- Web3.0時代を見据えた国家戦略の策定・推進体制の構築
- ブロックチェーンエコシステムの健全な育成
- NFTビジネスの発展促進
(3)実現への取り組み
実現への取り組みは以下の通りです。
- 担当大臣の設置
- ブロックチェーンエコノミーに適した税制改正
- NFTビジネスをめぐる法令や指針の整備
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まとめ
今回の記事では、Society5.0とは何か、どんな仕組みなのか、メリットや現在の動向、課題や問題点について情報をまとめました。
AIやロボットを活用する時代は、遠くありません。車の自動運転も、技術的には既に可能、という情報もあります。
ただし、創造社会はいつのまにか訪れるものではなく、人間がつくりあげていく社会の姿です。データやAIに支配されるのではなく、適切な情報を適切に活用し、社会問題に最適に対処していく未来を創っていく姿勢が重要なのかもしれません。
特に日本は、社会的な問題が山積している国なので、世界に先駆けてSociety5.0による解決を示していくべきポジションです。
技術力・信頼感が高いことを活かして、AIやロボットの分野で競争力が高まれば、経済的にも復活できることでしょう。リスクに注意しながらも、社会に対して有益なものは柔軟に取り入れる姿勢が求められているのかもしれません。