2023年6月16日、政府は『骨太の方針2023』を閣議決定しました。正式名称は、「経済財政運営と改革の基本方針2023 加速する新しい資本主義〜未来への投資の拡大と構造的賃上げの実現〜」です。
骨太の方針は、総理大臣をトップとする経済財政諮問会議で決定されています。国が取り組む重要な政策課題や、その政策課題に対する方向性が示されており、年末の予算案の議論に向けての基礎となる重要な方針です。言い換えると、骨太の方針は、国が何を重要視していて、何にどのように予算をつけるのか、という大まかな方向性が示される文書です。
骨太の方針には、さまざまな政策に関する方針が書かれています。今回のニュースレターでは、『骨太の方針2023』より「医療・健康」分野の政策に関する記述をピックアップして解説します。
『骨太の方針2023』における医療・健康分野の記述
『骨太の方針2023』では医療・健康分野について、主に37〜40ページの、「第4章 中長期の経済財政運営、2.持続可能な社会保障制度の構築」の項目で記載があります。
上記内容から、注目の項目を3つ取り上げ、論点や今後の課題について見てみます。
(1)地域医療構想の推進
<これまでの課題>
- 医療従事者や病院の数は都市部に偏りがちであり、住む地域によって受けられる医療サービスに格差が生じている。かつ、過疎地域にこそ、医療需要の高い高齢者が増えている。
- 地域医療の制度整備が追いついていないために、都道府県のガバナンスが効かず、医師偏在対策やかかりつけ医機能などの実効性が伴っていない。
<これまでの取り組み>
- 一人当たりの医療費に地域差がある課題に対して、厚生労働省では、2008年から5年ごとに評価・計画される「(第一期〜第三期)医療費適正化計画」を策定し、政策の実施と評価。(第三期医療費適正化計画)
- 厚生労働省で、「地域医療構想及び医師確保計画に関するワーキンググループ」を設置し、医療提供体制の適宜見直しを行う。
<これからの課題>
- 評価が行われている「第一期、第二次期医療化適正計画」において、地域ごとで取り組みに大きな差がある。また医療費削減の取り組みに対して、外部要因の影響により適切な評価ができなかったという問題もある。
- 日本の医療提供体制は民間中心で、調整に時間がかかること。また国から都道府県にガバナンスを移した後のデータ提供、財政支援などのバックアップを行うことができるか。
(参考)
・厚生労働省「地域医療構想及び医師確保計画に関するワーキンググループ」
・厚生労働省「第三期医療費適正化計画(2018~2023年度)」
(2)医療DXの推進
<これまでの課題>
- 医療・介護業界の慢性的な人手不足により、医師をはじめとした医療・介護従事者が長時間労働を強いられている。
- 病歴・治療歴・薬剤服用歴などの情報連携が取れず、医療機関が患者の病状を的確に把握することができず、結果として治療に時間がかかってしまう。また、重複検査や重複投薬により、国側も患者側も出費も大きくなってしまっている。
<これまでの取り組み>
- 2022年、岸田総理を本部長とする「医療DX推進本部」が設置。
- 2023年6月、「医療DXの推進に関する工程表」が策定された。2023年4月に、保険医療機関・薬局にオンライン資格確認等システムの導入を原則義務化、2024年秋に健康保険証を廃止することが決定。また、「全国医療情報プラットフォーム」を構築することが明示され、今年中に仕様の確定と調達を行いシステム開発に進む「電子カルテ」とその情報共有サービスをプラットフォームの基礎にするべく、検討を進んでいる。
- 労力とコストの軽減を目指し、「診療報酬改定DX」を2024年度から段階的に実現。
<これからの課題>
- 電子データの活用について、医療施設では競争原理が働きにくく、明確なインセンティブがない。同時に教育分野と異なり、ITリテラシーを向上させる研修が十分でないため、DX化が進んでいない。
- マイナンバーカードの健康保険証ひもづけ誤りなどの再発防止と、国民に制度の安全と信頼を確保できるか。
(参考)
・厚生労働省「医師の働き方改革について」
・内閣官房「医療DX推進会議」
・医療 DX 推進本部「医療 DX の推進に関する工程表」
・医療DX令和ビジョン2030厚生労働省推進チーム「診療報酬改定DX対応方針(案)」
(3)社会保障制度の見直し
<これまでの課題>
- 社会保障給付費は年々増加しており、高齢化に伴い今後も社会保障給付費の増加が見込まれる。
- 「給付が高齢者中心、負担が現役世代中心」となっている社会保障の構造を見直し。少子化対策の財源を社会保障制度で確保する方針が「全世代型社会保障構築会議」等で話し合われる。
<これまでの取り組み>
- 2022年、政府で持続的な社会保障制度を検討する「全世代型社会保障構築会議」が設置。
- 一定の所得がある75歳以上の後期高齢者の医療費窓口負担を1割から2割に引き上げる「全世代対応型の持続可能な社会保障制度を構築するための健康保険法等の一部を改正する法律」が成立。
- 医療保険として診療報酬の引き下げ、介護サービス利用料の2割負担者の拡大、高所得者の介護保険料引き上げが、歳出改革の候補として検討。
<これからの課題>
- 多くの介護事業所が物価上昇・人件費等で経営難になっており、2022年は倒産数も過去最多。
- 「介護保険料の上昇を抑えるため、利用者負担の一定以上所得の範囲の取扱いなどについて検討を行い、年末までに結論を得る。」等、歳出改革の内容については先送りになっていること、また国民の理解を得られることができるか。
(参考)
・厚生労働省「社会保障の給付と負担について」
・内閣官房「全世代型社会保障構築会議」
・厚生労働省「全世代対応型の持続可能な社会保障制度を構築するための健康保険法等の一部を改正する法律」
『PoliPoli』に掲載されている、医療・健康に関する政策
誰でも気軽に政策に関する意見を投稿できるプラットフォーム『PoliPoli』には、医療・健康に関する政策が投稿されています。
ぜひ政策提言やコメントをしてみて下さい。
上記政策の閲覧・コメントはこちら↓
①人生100年時代の幸齢社会実現に向けて!
②社会的処方を通じ誰ひとり取り残さない社会を!
参考URL:株式会社PoliPoli|note ニュースレター|骨太の方針2023【医療・健康】