原子力規制委員会とは、原子力を安全に利用するためのルールを策定する行政機関です。
原子力についての専門的な知識を持ち、独立した意思決定を行います。
今回の記事では
- 原子力規制委員会の概要
- 国内の原子力発電所の現状
- 原子力発電の安全確保の仕組み
- 福島原発事故から生まれた新しい規制基準
についてわかりやすく解説します。
本記事がお役に立てば幸いです。
1、原子力規制委員会とは
原子力規制委員会とは、原子力利用の規制に関する業務を担う行政機関です。
「原子力安全規制を通じて人と環境を守る」を使命としています。
環境省の外局として2012年9月に、事務局の原子力規制庁と同時に設置されました。
この章では、原子力規制委員会の
- 設立の経緯
- 組織図、体制の変化
- 具体的な業務
についてご紹介します。
参考:原子力規制委員会
(1)設立の経緯
原子力規制委員会が設置されたきっかけには、2011年の福島第一原子力発電所の事故が挙げられます。
当時の調査委員会から、原子力の安全確保に関する機能の低さを、政府が指摘されたのです。
そこで政府は、原子力利用における
- 安全確保
- 事故予防
に関する政策決定を行う独立した意思決定機関として原子力規制委員会を新設しました。
(2)組織図、体制の変化
原子力規制委員会は、国家行政組織法第3条に基づいた、強い権限を持つ行政委員会です。
委員は、原子力利用の専門家の中から、内閣総理大臣の任命によって選ばれます。
具体的には、2021年現在、更田豊志氏を委員長とした、
- 田中知委員
- 山中伸介委員
- 伴信彦委員
- 石渡明委員
の計5名から、原子力規制委員会は構成されています。
また、2014年には
- 原子力安全委員会(内閣府)
- 原子力安全・保安院(経済産業省)
- 放射線モニタリングなど(文部科学省)
などの組織を、原子力規制委員会に一元化。
さらに、内部に限定した政策決定の仕組みを見直し、
- 会議
- 議事録
について、原則インターネットで公開するようになりました。
施設の安全審査の会合などを配信し、運営の公平性や透明性を図っているのです。
(3)具体的な業務
原子力規制委員会、主に以下のような業務を担っています。
- 原子力発電所などの審査・検査
- 放射線規制
- 原子力災害対策
- 原子力規制事務所による現場監視
- 原子力安全に関わる国際活動
- 最新の安全研究
また、委員会の下部組織には、原子力規制庁が設けられています。
原子力規制庁では、約1000人の専門家である職員が、原子力についての審査や検査などを担当しています。
2、国内の原子力発電所の現状
東日本大震災前の原子力発電には、
- 少ない資源での発電
- 二酸化炭素排出量ゼロ
- 安定した電気料金
といったメリットが期待されていました。
しかし、2011年の震災後では、全ての原子力発電所が活動を停止しました。
その後2015年、九州電力の川内原子力発電所が再稼働。
これを機に、各地の原子力発電所が運転を再開しました。
画像出典:日本の原子力発電所の現状|資源エネルギー庁
2030年のエネルギー利用方針を定めた「エネルギー基本計画」では、可能な限り原子力への依存度を減らす方針が掲げられています。
参考:日本の原子力発電所の現状|資源エネルギー庁
参考:発電設備と発電電力量|電気事業連合会
3、原子力発電所における安全確保の仕組み
原子力発電所では、ウランの核分裂による熱エネルギーを利用し、発電をします。
この発電の際に生じるのが放射性物質です。
放射性物質を浴びてしまうと、重度の健康障害を引き起こす恐れがあるため、徹底した安全確保が必須です。
原子力発電所では、何重にも安全対策を講じる
- 深層防護
- 多重防護
の考え方を取り入れて、安全を確保しています。
具体的には
- 異常発生の防止措置
- 異常発生時に、事故へ繋がらないための防止措置
- 事故発生時の影響の軽減措置
という、3段階の安全対策がとられています。
以下で、詳しく見ていきましょう。
参考:深層防護|電気事業連合会
(1)異常発生の防止措置
原子力発電所では、事故原因となる異常事態を未然に防ぐことが、非常に重要です。
そのため、設計・建設・運転の各段階において
- 厳重な品質管理
- 入念な点検、検査
を実施しています。
例えば、設計段階では
- インターロック・システム
- フェイル・セイフ・システム
といった安全対策を採用しています。
「インターロック・システム」とは、正しい手順以外では操作できない、といった運転員の誤操作を防止するシステムです。
「フェイル・セイフ・システム」とは、一部分でも異常があれば停止する、といった運転の安全性を確保するシステムです。
(2)異常発生時に、事故へ繋がらないための防止措置
原子力発電所では、各種の自動監視装置を設けて、異常の拡大や事故への発展防止を図っています。
例えば、故障によって冷却水が漏れ出た場合、その異常をいち早く検知することで、重大事故の発生や拡大防止へつなげます。
また、緊急を要する異常状態が発見された場合、原子炉の稼働が自動的に止まるシステムも防止策の1つです。
(3) 事故発生時の影響の軽減措置
さまざまな状況を想定し、事故が発生した場合でも、その影響を少なくする多重防護の考え方を採用しています。
例えば、事故発生時の配管断裂によって、冷却水が利用できない場合を想定し、
- 非常用炉心冷却装置(ECCS)
- 原子炉格納容器
などが設置されています。
4、福島原発事故から生まれた新規制基準
原子力規制委員会は、2011年に発生した福島原発事故を踏まえ、
- 原子炉の設計
- 運営
などの審査において、新しい規制基準を策定しました。
ここでは、
- 福島原発事故の原因
- 新しい規制基準
などについて解説していきます。
(1)福島原発事故の原因
東日本大震災によって、福島の沿岸部にある第一原子力発電所では、放射性物質が放出される事故が発生しました。
事故発生当時、外部電源をすべて失ったため、非常用のディーゼル発電機を利用し、炉心の冷却が開始されました。
しかし、津波による浸水によって、非常用の電力源がすべて機能を停止し、
- 格納容器の破損
- 水素爆発
- 放射性物質の放出
という重大事故に至ったのです。
事故が深刻化した大きな原因は、
- 津波に対する堅牢さ
- 電力を失った際の注水手段
- 炉心損傷後の影響緩和手段
が不十分であったことなどが挙げられています。
画像出典:原子力規制庁
(2)新規制基準について
福島原発事故は、地震と津波によって、原子力発電所の「止める」「冷やす」「閉じ込める」といった機能が停止したことで、深刻化していまいました。
これを踏まえ2013年に、原子力発電所の安全性を高める新規制基準が設けられました。
新規制基準は、原子力施設の設置や運転などを、審査する際に利用されるものです。
各原子力発電所は、これらの新基準を満たすことが求められます。
新規制基準では、
- 設計基準の強化
- 予想を超える事態への対応
の2つがベースです。
地震・津波・火山などの自然災害への対策強化に加え、
- 炉心の損傷の防止
- 格納容器破損の防止
- 放射性物質の拡散抑制
- テロ対策
などの対応についても徹底しています。
この新規規制基準は、世界でも高い水準にあると言われています。
具体的には、海水の侵入を防ぐため、
- 高所での建設
- 防潮堤の設置
といった津波対策が、新たに義務づけられました。
また、水素爆発を防止するため、
- 水素濃度を低くする装置の設置
- 原子炉建屋に放水する放水砲の整備
なども義務づけられています。
画像出典:原子力規制庁
まとめ
今回は、原子力規制委員会について解説しました。
原子力規制委員会は、福島原発事故を踏まえ、原子力の安全な利用を実現するための行政機関です。
安心できる暮らしのためにも、原子力規制委員会や原子力発電所の今後の動向について、注目していきましょう。