国家賠償法とは、国や地方公共団体の賠償責任について定めた法律です。行政不服審査法、行政事件訴訟法と合わせて「救済三法」とも呼ばれます。
本記事では、以下について解説します。
- 国家賠償法とは
- 国家賠償法における賠償責任の対象
- 国家賠償法の求償権
- 国家賠償法の時効
- 国家賠償法に関する判例
- 外国人への適用
本記事がお役に立てば幸いです。
1、国家賠償法とは
国家賠償法とは、1947年に制定された、国や地方公共団体の賠償責任について定めた法律です。
国家賠償法は、憲法第17条の内容に基づき定められました。
第十七条 何人も、公務員の不法行為により、損害を受けたときは、法律の定めるところにより、国又は公共団体に、その賠償を求めることができる。
条文引用元:日本国憲法 e-GOV
国家賠償法では、賠償責任について民法、または他の法律が適用されることが明記されています。
第四条 国又は公共団体の損害賠償の責任については、前三条の規定によるの外、民法の規定による。
第五条 国又は公共団体の損害賠償の責任について民法以外の他の法律に別段の定があるときは、その定めるところによる。
条文引用元:日本国憲法 e-GOV
2、国家賠償法における賠償責任の対象
国家賠償法では
- 職務上で公務員が損害を与えた場合
- 道路などの公共設備が損害を与えた場合
に国や地方公共団体が負うべき、賠償責任について定めています。
(1)職務上で公務員が損害を与えた場合
公務員は、国や公共団体の「公権力」を行使できる人物です。
公務員が職務の際に損害を与えた場合は、国家賠償法第一条に基づき、賠償責任の対象になります。
第一条 国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。
条文引用元:国家賠償法 e-GOV
(2)道路など公共設備が損害を与えた場合
道路などの公共設備は、国民が利用できる、国や地方公共団体によって設置された営造物です。
設備の設置や不十分な管理によって、他人が損害を受けた場合には、国家賠償法第二条に基づき、賠償責任の対象になります。
第二条 道路、河川その他の公の営造物の設置又は管理に瑕疵があつたために他人に損害を生じたときは、国又は公共団体は、これを賠償する責に任ずる。
条文引用元:国家賠償法 e-GOV
3、国家賠償法の求償権
国家賠償法には「求償権」があります。
求償権とは、他人代わりに支払いなどをした者が、その他人に対して支払いを求められる権利です。
国家賠償法では、国や地方公共団体が公務員や営造物の管理責任者に対して、求償権を持っています。
第一条 国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。
② 前項の場合において、公務員に故意又は重大な過失があつたときは、国又は公共団体は、その公務員に対して求償権を有する。
第二条 道路、河川その他の公の営造物の設置又は管理に瑕疵があつたために他人に損害を生じたときは、国又は公共団体は、これを賠償する責に任ずる。
② 前項の場合において、他に損害の原因について責に任ずべき者があるときは、国又は公共団体は、これに対して求償権を有する。
条文引用元:国家賠償法 e-GOV
4、国家賠償法の時効
国家賠償法では、民法724条の規定が適用され、時効が3年、除斥期間が20年となっています。
(不法行為による損害賠償請求権の消滅時効)
第七百二十四条 不法行為による損害賠償の請求権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
第一条 被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないとき。
第二条 不法行為の時から二十年間行使しないとき。
条文引用元:不法行為による損害賠償請求権の消滅時効 e-GOV
5、国家賠償法に関する判例
実際にどのようなケースが国家賠償法における賠償対象となったのでしょうか。
ここでは国家賠償法に関する3つの判例をご紹介します。
(1)武蔵野マンション事件
武蔵野マンション事件とは、武蔵野市と事業主の間で起きた、公権力に関する事件です。
武蔵野市では1969年頃から、マンション建設が頻繁に行われていました。
そして1971年には「武蔵野市宅地開発等に関する指導要綱」を制定しました。
しかしこの指導要綱には、「従わない場合、市によって水道の給水等を拒絶する」といった内容が含まれていました。
上記の行為が行政指導の限度を超えた、違法な公権力の行使にあたるとして、訴訟が起こされたのです。
最高裁判所による判決では、違法な公権力の行使にあたるとされました。
参考:昭和63(オ)890 最高裁判所判例集 裁判例結果詳細 裁判例検索 裁判所
(2)中国残留日本人孤児訴訟
中国残留日本人孤児訴訟とは、中国残留日本人孤児に対する、国の不作為について争われた訴訟です。
中国残留日本孤児とは、第2次世界大戦終戦後に中国に取り残され、中国人の養父母に育てられた日本人の子どもを指します。
不作為とは、あえて積極的に行動しないことです。
2006年の神戸地裁の判決では、以下の理由により、国家賠償法の請求が認められました。
- 中国残留日本孤児に対して帰国の制限をしたこと
- 中国残留日本孤児が日本で自立して生活するために必要な支援策を講じなかったこと
ただし、残留孤児の自立支援立法を制定しなかったことに対しては、裁判所がその内容を確定することはできないとして、国家賠償法の請求は認められませんでした。
参考:2006年12月1日 神戸地裁判決 「中国残留日本人孤児」国家賠償請求・鹿児島訴訟の記録(5・完) 鹿児島大学リポジトリ
(3)平作川吉井川等水害訴訟
平作川吉井川等水害訴訟とは、平作川と吉井川の水路があふれたことで、床上浸水などの被害が発生し、住民が横須賀市に対して、損害賠償を求めた訴訟です。
判決では、横須賀市の水路の管理に不十分な点はなかったとして、国家賠償法の対象にはなりませんでした。
具体的には
- 市が水害を防止するための対策をしていた
- 市が水害を防止する上で困難な部分があった
などの理由が挙げられました。
参考:主文 裁判所
6、外国人への適用について
国家賠償法では、外国人に対する賠償責任についても定めています。
第六条 この法律は、外国人が被害者である場合には、相互の保証があるときに限り、これを適用する。
条文引用元:国家賠償法 e-GOV
ただし、条文にもあるように「相互の保証」がある場合に限られます。
相互の保証とは、外国人の母国においても、日本人の国家賠償請求が認められていることです。
まとめ
今回は国家賠償法について解説しました。
国家賠償法は、国と地方公共団体の賠償責任について定めた法律です。
国の責任の範囲を理解する上でも、法律や制度に関する情報収集に努めたいですね。