法律をつくる唯一の機関である国会は、衆議院と参議院で構成され、2つの院には複数の委員会があります。
委員会には、常任委員会と特別委員会の2種類があります。
国会の委員会ではそれぞれ検討するテーマが決まっています。
全体で1つのことを決めようとすると、議論が錯綜したり長引く傾向にあります。
そこで委員会という小さなグループをつくり、方針を定めてもらい、その方針について、全員で賛成するか反対するかを決める仕組みになっています。
地方議会にも委員会があります。
ただしこの記事では、主に国会の常任委員会について解説しながら、地方議会の常任委員会についても触れていきます。
本記事がお役に立てば幸いです。
衆議院と参議院の違いについて詳しく知りたい方は以下の記事もご覧ください。
衆議院と参議院の違いってなに?5つの違いを簡単に解説
1、常任委員会とは
すべての国会議員は、いずれかの常任委員会の委員になります。
常任とは「いつもその任務についていること」という意味です。
委員会は「委員と呼ばれる複数のメンバーで構成する、議論や権限を実行する組織」です。
この「常任」と「委員会」の意味は、国会でも地方議会でも同じです。
常任委員会の仕組みと重要性を理解するには、
- 「もし委員会がなかったら」
- 「もし常任でなかったら」
と考えるとよいでしょう。
(1)もし「委員会」がなかったら
もし衆議院(国会)に委員会がなかったら、465人の衆議院議員が1つのことを議論しなければなりません。
465人で1つのことを話し合えば、意見が出すぎて議論が進まないかもしれません。
そこで国会のような「大きな組織」は委員会をつくることが多いのです。
少人数グループの委員会にじっくり議論してもらって、方針を定めてもらえば、あとは全員でその方針に賛成するか反対するか決めればよいからです。
「みんなで決める」民主主義は、ときに非効率になる可能性があります。
委員会の仕組みを使うことで、効率を高めながら民主主義を守ることができます。
(2)もし「常任」でなかったら
もし衆議院の委員会に「常任」委員会がなかったら、毎回、委員会をつくり直さなければなりません。
毎回委員会をつくるということは、その度に委員を選ぶことでもあります。
衆議院には
- 法務委員会
- 外務委員会
- 財務金融委員会
といった常任委員会があります。
なぜ法務や外務や財務金融というテーマを扱う委員会を常任にしているのかというと、法務や外務や財務金融などは、国会を開くたびに毎回必ず話し合わなければならないからです。
毎回、法務委員会や外務委員会や財務金融委員会を設置するのであれば、常設してしまったほうがよいでしょう。
そして、常任委員会のメンバー(委員)を固定したほうが、前回までの議論を踏まえた議論をすることができるので、より深掘りした話し合いができます。
(3)委員会では法律案を審査している
国会の委員会は、常任委員会でも特別委員会でも、主に法律案の審査を行います。
委員会で審議する内容は、衆議院規則と参議院規則で定められています。
省庁の官僚(国家公務員)や国会議員は、「法律案をつくる」ことはできても、「法律をつくる」ことはできません。
法律をつくるのは、国会という機関だけです。
委員会は国会の小グループなので、やはり委員会でも法律づくりに向けて話し合いをします。
例えば環境省の官僚が「環境を守るにはこういう法律があったほうがよい」と考え、法律案をつくったとします。
するとその法律案は、衆議院と参議院のそれぞれの環境委員会(常任委員会)で審査されます。
そして衆議院の環境委員会で「その法律案を法律にしてもよい」と決まると、衆議院の本会議で審議され、法律にするか廃案にするか決まります。
(4)「趣旨説明→質疑→討論→採決」の順で進み、本会議へ
常任委員会は法律案を「趣旨説明→質疑→討論→採決」の順番で審査していきます。
法律案の提案者が、提案した理由を委員(国会議員)たちに説明します(趣旨説明)。
次に委員たちが、法律案の提案者や大臣に質問をします(質疑)。
討論では、委員ひとりひとりが、法律案に賛成または反対の立場を明らかにして議論します。
討論し尽くしたら、採決をします。
賛成が過半数であれば、その法律案は本会議で審議されます。
2、国会の常任委員会の種類
国会(衆議院と参議院)の常任委員会の種類を紹介します。
常任委員会の名称は、ほぼ「省の名前+委員会」となっていますが、いくつか例外があります。
また、衆議院と参議院の常任委員会の名称はほぼ同じですが、相違点もあります。
<衆議院と参議院の常任委員会>
衆議院 | 参議院 |
内閣委員会 | 内閣委員会 |
総務委員会 | 総務委員会 |
法務委員会 | 法務委員会 |
外務委員会 | 外交防衛委員会 |
財務金融委員会 | 財政金融委員会 |
文部科学委員会 | 文教科学委員会 |
厚生労働委員会 | 厚生労働委員会 |
農林水産委員会 | 農林水産委員会 |
経済産業委員会 | 経済産業委員会 |
国土交通委員会 | 国土交通委員会 |
環境委員会 | 環境委員会 |
安全保障委員会 | - |
国会基本政策委員会 | 国会基本政策委員会 |
予算委員会 | 予算委員会 |
決算行政監視委員会 | 決算委員会 |
- | 行政監視委員会 |
議院運営委員会 | 議院運営委員会 |
懲罰委員会 | 懲罰委員会 |
(1)なぜ予算委員会は紛糾することが多いのか
国会中継で国会議員どうしが激論を交わすシーンを見たことがあると思いますが、国会で紛糾するのは、多くは予算委員会(常任委員会)です。
予算委員会は「予算だけを審議する場」なのですが、政治問題もここで取り扱われます。
政治でも経済でもインフラでも、国の根幹を支えるのは国家予算です。
そのため、ほぼどのような問題であっても予算委員会で議論できるようになっています。
予算委員会は最も規模が大きく、衆議院の予算委員会は50人で最多です。
また、衆議院の最少常任委員会は懲罰委員会の20人です。
3、特別委員会とは、常任委員会と何が違う?
特別委員会は常設されていない委員会で、国会が開かれるたびに(会期ごとに)つくられます。
どの常任委員会でも議論できない問題が持ち上がったときに特別委員会をつくります。
第201回国会(2020年1月20日~6月17日)の衆議院には、次のような特別委員会が設置されました。
- 災害対策特別委員会
- 政治倫理の確立及び公職選挙法改正に関する特別委員会
- 沖縄及び北方問題に関する特別委員会
- 北朝鮮による拉致問題等に関する特別委員会
- 消費者問題に関する特別委員会
- 科学技術・イノベーション推進特別委員会
- 東日本大震災復興特別委員会
- 原子力問題調査特別委員会
- 地方創生に関する特別委員会
法律上は、特別委員会は「会期ごとに」設置されることになっていますが、長年設置されたままの特別委員会もあります。
4、実際の地方議会の常任委員会
地方議会にも常任委員会があるので、確認しておきます。
ここでは埼玉県三郷市と東京都港区の常任委員会を紹介します。
(1)三郷市(埼玉県)の市議会の常任委員会と特別委員会
三郷市議会には
- 「総務常任委員会」
- 「市民福祉常任委員会」
- 「文教経済常任委員会」
- 「建設水道常任委員会」
と4つ常任委員会があります。
これらの常任委員会は、国会の常任委員会と似ています。
三郷市の行政に関わるあらゆる問題は、このいずれかの常任委員会で話し合われます。
ただ地方自治体の場合、地域特有の問題や期間限定の課題が頻繁に発生します。
それらを常任委員会で扱ってしまうと、三郷市の「行政のベース」となる議論が疎かになってしまう恐れがあります。
そのような特殊な問題は、やはり特別委員会をつくって審議したほうが効率的です。
三郷市の特別委員会には次のようなものがあります(2020年7月現在)。
特別委員会の名称には、地方の特徴がよく出ています。
- 三郷早稲田北部地域拠点整備対策特別委員会
- 三郷南部地域拠点整備対策特別委員会
- 三郷インターチェンジ周辺対策特別委員会
- 三郷中央地区周辺対策特別委員会
(2)港区(東京都)の区議会の常任委員会と特別委員会
港区議会の常任委員会は次のとおりです。
- 総務常任委員会
- 保健福祉常任委員会
- 区民文教常任委員会
- 建設常任委員会
名称は少し違いますが、三郷市の常任委員会とほぼ同じです。
ところが特別委員会になると大きく変わります。
- 交通・環境等対策特別委員会
- 行財政等対策特別委員会
- まちづくり・子育て・高齢者等対策特別委員会
- エレベーター等安全対策
- 新型コロナウイルス感染症対策特別委員会
- 東京オリンピック・パラリンピック対策特別委員会
港区議会と三郷市議会を比較すると、地方議会の常任委員会と特別委員会の性質がわかります。
地方議会の常任委員会では行政のベースを話し合い、特別委員会では地域特有の問題を話し合っているようです。
常任委員会に関するQ&A
Q1.常任委員会とは?
国会に上がる議案を検討するために常設されている委員会です。
Q2.常任委員会と特別委員会の違いは?
簡単に説明すると、常任委員会は、予算や環境など比較的よく問題になる議案について検討するために常設された委員会です。
特別委員会は、災害対策など特に設置が必要とされた場合に設置される委員会です。
Q3.常任委員会が設置されている理由は?
常設されているので、国会を開くたびに1から議論する必要がなく、より効率よく議論を進められるからです。
まとめ
「常任委員会」という単語だけを聞くと、「難しいことを検討していそう」と感じるかもしれませんが、実際は国民生活や住民生活に密着したことが話し合われています。
そして、常任委員会で決まったことは、国と地方自治体を大きく動かします。
選挙権を行使するのと同じくらいしっかりと、国会の常任委員会の動向を見守っていきましょう。