「衆議院で予算案が可決され、参議院での審議に入ります」という報道を聞いたことがあるかもしれません。
国会では、衆議院と参議院が法律や予算などの重要な審議を行っています。
つまり、国のルールである法律を作り、政府が行う事業の決定や予算の確定を行っているのです。
では、衆議院と参議院にはそれぞれどのような役割があり、どのように違うのでしょうか。
そこで今回は、主に以下の内容についてわかりやすくご紹介します。
- 衆議院と参議院の役割と違い
- 選挙制度の違い
本記事がお役に立てば幸いです。
1、国会とは
衆議院と参議院は国会を構成する2つの議会をさします。
それでは、そもそも国会とはどんなことをする所なのでしょうか。
本章では以下の3つのポイントについて解説します。
- 日本国憲法に定められた三権分立
- 国会の役割
- 2つの議会をもつ二院制という制度
まず三権分立とは、日本国憲法によって、主権者である国民が、
- 国会(立法)
- 内閣(行政)
- 裁判所(司法)
の三つの独立した機関に国の権力を分ける仕組みのことをいいます。
相互に抑制しあい、バランスを保つことで、権力の濫用を防ぎ、国民の権利と自由を保障する機能を持っています。
民主主義の基盤となる考え方です。
国会は立法機関として、国のルールである法律をつくったり、時代に合わせて変更したりする役割を担っています。
また、行政サービスの予算審議、国会議員の中から行政機関の長である内閣総理大臣の指名を行います。
他にも以下のような役割があります。
- 国際条約の承認
- 弾劾裁判所の設置
- 憲法改正の発議
- 国政調査権の発動
続いて二院制についてです。
日本の国会は、衆議院と参議院の2つの議院から成り立っています。
このしくみを二院制と言い、両院制とも呼ばれます。
二院制の利点としては、異なる視点で法律案を審議することで、国民の様々な意見をできるだけ広く反映させられることが挙げられます。
また、一つの議院で決めたことをもう一方の議院が検討することによって、問題解決における審議を行うことができます。
さらに一つの議院の行き過ぎを抑え、足りないところを補ったりできるという利点もあげられるでしょう。
日本の法律は基本的に2つの独立した議会である衆議院と参議院が議決(決定)したものが制定(実行)されます。
2、衆議院と参議院の役割
まずは衆議院から、その役割についてみていきましょう。
(1)衆議院の仕事|特徴
衆議院は所属する国会議員の人数も多く、幅広い年齢層で、民意に近い議員が審議を行います。
予算審議はこちらの院から議論をはじめ(先議権)、可決(決定)されたものが参議院へ送られます。
衆議院には以下のような仕事があります。
-
- 法案の審議、議決
- 議案の発議(提案)
- 内閣への質問主意書の提出
- 国民からの請願の紹介
- 予算案の審議、議決
- 内閣総理大臣の指名
- 国際条約の制定
- 両院協議会の請求
国会議員は所属する議員の一員として、本議会や委員会などにおける法案の審議や意思決定への参加を行います。
常任委員会として17の委員会が設置されていますが、内容により特別委員会が設置されて、審議を行う場合もあります。
また衆議院には「議会の解散」が認められています。
参議院は解散できません。
解散できる条件は以下の4つです。
- 任期(4年)満了
- 内閣不信任決議案が提出されて可決した時(69条解散)
- 内閣任案決議案を否決されたとき
- 内閣が必要と認めるとき(7条解散)
ちなみに、任期満了に伴う解散総選挙は戦後27回の総選挙の中で1回しかありません。
内閣不信任決議案が可決されたあとに行う69条解散も、これまで4度しか行われていません。
このため、解散権は内閣総理大臣の専権事項とも言われています。
衆議院は、任期満了前の解散が多いため直近の民意が反映されやすく、参議院よりもいくつか優先的な権利があります。
これを「衆議院の優越」と呼んでおり、具体的な内容としては以下が挙げられます。
- 議決の効力における優越
- 権限の事項における優越
- 国会の会期延長
- 両院協議会の請求
衆議院の優越に関してより詳しく知りたい方は以下の関連記事をご覧下さい。
(2)参議院の仕事|特徴
参議院は、人数は衆議院の半分程度ですが、継続して法案審議の経過を追える仕組みをとっています。
衆議院が時代の変化に左右されても、冷静に法案の課題を審議し、より良い法律の制定を行うことが参議院には求められています。
本章では参議院の以下の点について紹介します。
- 特徴や仕事
- 「良識の府」と呼ばれる理由
参議院は議員になれる年齢が衆議院より5年遅いです。
また、任期は6年ありますが、所属する国会議員の半数は3年ごとに選挙が行われ、入れ替りが起こります。
解散は無いため、6年間という比較的長い期間、審議に関わることができるのです。
具体的な参議院の仕事として、以下が挙げられます。
- 法案の審議
- 法案や決議などの議案の発議(提案)
- 内閣への質問主意書の提出
- 国民からの請願の紹介
- 両院協議会での審議
- 参議院の緊急集会
衆議院とあまり変わらないように見えますが、同等の権限の中で、異なった視点から法案を審議し、政権に対して一定の距離を保ちながら、多様な民意の反映や政府に対する監視が求められています。
参議院だけに認められているのは「緊急集会」のみです。内閣は、衆議院の解散中に国に緊急の必要があるときは、参議院に対して緊急集会を求めることができます。
衆議院とよい緊張関係を保ちつつ、政府を監視し、誤りを是正する誠実な議論を行う「良識の府」となることが一つの理想です。
また、参議院は「再考の府」とも呼ばれ、その時々の民意や政府の意向に左右されず、将来に渡って必要な法律の審議が行われることが参議院には期待されています。
3、衆議院と参議院の違い
衆議院と参議院では、以下のような違いがあります。
- 議員数
- 任期
- 被選挙権
- 選挙制度
これらについて違いを紹介していきます。
(1)議員数
衆議院:465人
参議院:248人
議員数は衆議院の方が約1.9倍多いです。
それぞれの国会議員は所属している政党に関わらず、2名以上の院内会派(グループ)に所属している場合がほとんどです。
その院の各委員会の人数や発言・質問時間の配分は会派の所属人数に左右されます。
ただし、慣例で衆参両院の議長と副議長は会派に属さないようにしています。
(2)任期
衆議院:4年間(最長)
参議院:6年間(3年ごとに半数が改選)
任期は衆議院は最長で4年間あります。
任期満了を前に解散が行われた場合には、選挙が行われます。
一方、参議院は解散がないので基本的に6年間の任期満了まで務めます。
ただし、半数の議員は3年ごとに改選があり、新しい民意を取り入れつつも、長い目での審議が行える仕組みとなっています。
(3)被選挙権
衆議院:25歳以上
参議院:30歳以上
衆議院では、多様な意見を取り入れられるように25歳から被選挙権(立候補権)が与えられています。
参議院では、長期的に物事を議論できるよう、衆議院よりも5年遅い30歳から被選挙権が与えられます。
国会議員は衆議院と参議院のどちらか一方にしか所属することはできません。
衆参両院の立候補者に対する選挙権(投票権)は18歳から与えられています。
(4)選挙制度
衆議院と参議院の選挙制度には、以下のような違いがあります。
- 選挙区ごとに一定人数を選ぶ「選挙区制」
- 各政党が獲得した投票数から名簿順で選ぶ「比例代表制」
衆議院では選挙区と比例代表どちらにも立候補できますが、参議院ではどちらか一方にしか立候補できません。
また選挙区ごとに、投票できる人数が異なるため、1票あたりの価値に差が生じています。
このため、定数や選挙区は数年に一度見直しや是正が行われていますが、「一票の格差」問題としてしばしば裁判になることがあります。行われています。
それでは、それぞれの選挙制度について見ていきましょう。
①選挙区制
衆議院:小選挙区289区で289人
参議院:全国45区で定数 148人(3年ごとに半数74人改選)
衆議院では全国を289区に細分化して、各区から1人を選びます。
何人立候補しても1人しか選ばれないため、2大政党化しやすい傾向にあります。
参議院では鳥取県と島根県、徳島県と高知県を合区とした、45区から院の半数にあたる74人を選びます。
1区あたり1〜6人を選びます。
②比例代表制
衆議院:全国を11区に分けて176人
参議院:全都道府県の区域で定数 100人(3年ごとに半数50人改選)
比例代表制は各政党が比例代表名簿を作成し、獲得した投票数に比例して、議席を配分する制度です。
衆議院は全国を11区に分けて政党の得票数に応じて当選枠を振り分けていきます。
参議院では全都道府県を1区として、100名が政党の得票数で選ばれます。
ただし、比例代表制には拘束名簿式と非拘束名簿式があり、拘束の場合は名簿順に当選し、非拘束の場合は政党名だけでなく、立候補者名での得票数に応じて当選者が決まる仕組みです。
選挙によって方式が異なるのですが、それぞれにメリットとデメリットがあり、試行錯誤が行われています。
選挙制度について詳しく知りたい方は以下の関連記事をご覧下さい。
(5)衆議院議員だけが代議士?
代議士とは国民の代表として会議に参加する人のことを指します。
実は参議院議員はこの代議士に当てはまらないという考え方が存在します。
この理由は戦前日本の二院制が「衆議院」と「貴族院」によって構成されていたことに由来します。
貴族院の議員は文字通り貴族の出身であったために「国民の代表」としては必ずしも適格とは言えないという背景があり、今日においても参議院議員に対しては、代議士という言葉が使われていないのです。
ただし、現在では代議士という言葉そのものがあまり利用されていません。
衆議院と参議院の違いに関するQ&A
1.衆議院と参議院の違いは?
衆議院と参議院では
- 議員数
- 任期
- 被選挙権
- 選挙制度
において大きな違いがあります。
Q2.衆議院はどんな仕事をしてる?
議院の仕事には
- 法案の審議、議決
- 議案の発議(提案)
- 内閣への質問主意書の提出
- 国民からの請願の紹介
- 予算案の審議、議決
- 内閣総理大臣の指名
- 国際条約の制定
- 両院協議会の請求
などがあります。
Q3.参議院はどんな仕事をしてる?
参議院の仕事には
- 法案の審議
- 法案や決議などの議案の発議(提案)
- 内閣への質問主意書の提出
- 国民からの請願の紹介
- 両院協議会での審議
- 参議院の緊急集会
などがあります。
まとめ
衆議院と参議院の役割と違いについて紹介してきました。
国のルールを決める国会において十分な議論が尽くされることを目的に2つの議会が存在します。
それぞれに異なる特徴があることで、多様な視点から法案を議論することができ、国民や社会にとってより良い法律が作られる仕組みであることがわかります。