政治倫理審査会とは政治倫理を確立するための機関です。
国会法という法律に次のような条文があります。
<国会法第124条の2>
議員は、各議院の議決により定める政治倫理綱領及びこれにのっとり各議院の議決により定める行為規範を遵守しなければならない
<国会法第124条の3>
政治倫理の確立のため、各議院に政治倫理審査会を設ける
出典国会法
この条文は、国会法ができた当初からあったわけではなく、政治家の倫理観が大きな社会問題になったことから、国会法につけ加えられました。
この記事では、政治倫理について解説したうえで、政治倫理審査会の特徴や性質について紹介します。
地方議会にも政治倫理審査会がありますが、本稿では主に国会における機関について取り扱います。
本記事がお役に立てば幸いです。
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1、政治倫理とは?政治倫理審査会を知るための前提知識
政治倫理審査会について紹介する前に、政治倫理について考えてみます。
(1)なぜ政治倫理が必要なのか
倫理には「人間生活の秩序」「人の行動の規範」といった意味があります。
なぜ倫理とは別に、政治倫理が存在するのでしょうか。
それは、政治家に求められる倫理が特殊なため、一般的な倫理では規定できないからです。
政治家が世間から厳しい目で見られるのは、彼らが選挙で選ばれ、税金から報酬が支払われることやさまざまな特権が与えられ、法律をつくっていることなどが要因となります。
そのため国会議員は、民間人よりも誠実な行動を求められる傾向にあります。
国会議員にはこのような職業上の性質があるので、政治家専用の倫理を用意する必要があるのです。
(2)政治倫理の定義
政治倫理にはさまざまな定義がありますが、それらをまとめると次のようになります。
- 公平、公正な行動
- 法律で規定できない正義
- 国民の代表者としての行動規範
- 不正や汚職に手を染めないこと
政治倫理はかなり厳しい内容であるといえます。
例えばビジネスパーソンにも公正さは求められますが、公平であることまで求められることはそれ程多くありません。
お金をたくさん支払った人に最もよいサービスを提供することは、ビジネスパーソンの務めでもあります。
また、一般の人との違いを見てみましょう。
例えば、自動車を運転していてスピード違反で警察につかまっても、一般人がマスメディアに報道されることはありません。
しかし国会議員がスピード違反をすると、記事になることがあります。これは社会的制裁とみなすことができます。
国会議員が社会的制裁を受けるのは、「法律で規定できない正義」を貫くことが強く求められているからです。
そして政治倫理のなかで最も厳しい内容は、国民の代表者としての行動規範でしょう。
政治家は、一挙手一投足が「国民の代表者としての行動規範」に合致していなければならないと考えられているのです。
2、政治倫理審査会とは
国会の政治倫理審査会は、政治倫理を確立するための機関で、衆議院と参議院に1つずつ設けられています。
衆議院の政治倫理審査会の委員の人数は25人、参議院は15人で、委員は国会議員が務めます。
(1)政治倫理審査会の仕事
政治倫理審査会は、国会議員の言動が「行為規範」や「法令」に著しく違反しているかどうかを審査したり、政治的・道義的に責任があるかどうかを審査したりします。
審査は、政治倫理審査会の委員が申し立てるか、国会議員が申し出ることで実施されます。
政治倫理審査会の委員による申し立ては、委員の3分の1以上が賛同する必要があります。
正当に申し立てられたときは、政治倫理審査会の会長は速やかに会を開かなければなりません。
審査の結果、申し立てをされた国会議員(つまり、問題があると指摘された国会議員)に政治的・道義的な責任があると認めたときは、政治倫理審査会は本人に次のような勧告を行います。
- 行為規範等の遵守の勧告
- 一定期間の登院自粛の勧告
- 役員、特別委員長、調査会長、憲法審査会の会長、情報監視審査会の会長の辞任の勧告
ちなみに、このなかに議員辞職勧告は含まれていません。
議員辞職勧告をするのは、国会の本会議においてです。
(2)行為規範とは
政治倫理審査会の仕事は「行為規範」違反と「法令」違反をチェックすることである、と紹介しました。
法令違反は理解しやすいのですが、行為規範違反はあまり聞き慣れないと思います。
行為規範とは具体的には、「政治倫理綱領」のことを指します。
そこには、政治腐敗の根絶に努めなければならないことや、言動のすべてが常に国民の注視の下にあることを銘記しておかなければならないこと、疑惑をもたれたら自ら真摯な態度で疑惑を解明しなければならない等の決まりが記載されています。
(3)勧告にすぎない?
ある国会議員の言動が、政治倫理審査会によって「問題あり」と認定されて何らかの勧告が発せられることは、とても重大なことといえます。
その一方で、勧告には「勧めているにすぎない」という特徴もあります。
政治倫理審査会が一定期間の登院自粛を勧告しても、それは罰則を伴った命令ではないので、その国会議員が登院しても罰を受けることはありません。
3、政治倫理審査会規程
政治倫理審査会のルールは政治倫理審査会規程で定められています。
例えば参議院の政治倫理審査会規程は25条で構成されています。
このなかで、政治倫理審査会の委員は「所属議員10人以上の会派の所属議員数の比率によって、各会派に割り当てる」と定められています。
会派とは、国会議員でつくるグループのことです。
10人未満の会派は、政治倫理審査会に委員を送り込むことはできません。
そうなると、10人未満の会派の国会議員が政治倫理審査会の審査にかけられると、「仲間」がまったくいない場所で裁かれることになってしまいます。
そこで政治倫理審査会規程では、10人未満の会派の国会議員が審査されるときは、会派の所属議員が審査会に出席できることにしています(第10条)。
少数のグループが不利にならないような措置が取られているのです。
4、政治倫理審査会の委員
政治倫理審査会の委員には、どのような人たちが就いているのでしょうか。
2020年4月30日時点の、衆議院の政治倫理審査会のメンバーは次のとおりでした(敬称略)。
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出典衆議院
参議院の政治倫理審査会のメンバーは以下のとおりです。
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出典 参議院
5、政治倫理審査会の関わる事例
政治倫理審査会の関わる事例を紹介します。
(1)ロッキード事件
政治倫理審査会の制度は1985年にできたのですが、これは1976年に発覚した「ロッキード事件」が契機になっています。
野党が、この事件に関わった元首相に対する議員辞職勧告決議案を国会に提出し、そのなかで辞職を求める根拠として「政治倫理」を持ち出しました。
ロッキード事件は政治倫理審査会だけでなく、政治倫理綱領や、先ほど紹介した行為規範を設置するきっかけにもなりました。
ロッキード事件は、1983年に東京地裁が懲役4年、追徴5億円の実刑判決を言い渡し、東京高裁も1987年に地裁判決を支持しました。
元首相は上告しましたが、最高裁判決が出る前の1993年に死亡し、公訴棄却となりました。公訴棄却とは、刑事訴訟の手続きが打ち切られることです。
(2)個人献金偽装問題|公設秘書の給与流用問題
せっかく設置された政治倫理審査会ですが、実は勧告が出されたことはありません。
これまでに9人が政治倫理審査会の審査にかけられました。
2009年には、のちに首相になる政党党首(衆議員)に個人献金偽装疑惑が持ち上がったことから、衆議院で政治倫理審査会が開かれました。
また2002年には、元外相が公設秘書の給与流用問題で政治倫理審査会にかけられました。
その他、政治倫理審査会にかけられた事案は、闇献金、多額献金、秘書給与の肩代わり、留学歴の詐称などとなっていますが、繰り返しになりますが、いずれも勧告には至っていません。
政治倫理審査会に関するFAQ
Q1.政治倫理とは?
政治倫理にはさまざまな定義がありますが、それらをまとめると次のようになります。
- 公平、公正な行動
- 法律で規定できない正義
- 国民の代表者としての行動規範
- 不正や汚職に手を染めないこと
Q2.政治倫理審査会とは?
国会の政治倫理審査会は、政治倫理を確立するための機関で、衆議院と参議院に1つずつ設けられています。
衆議院の政治倫理審査会の委員の人数は25人、参議院は15人で、委員は国会議員が務めます。
Q3.政治倫理審査会の仕事とは?
政治倫理審査会は、国会議員の言動が「行為規範」や「法令」に著しく違反しているかどうかを審査したり、政治的・道義的に責任があるかどうかを審査したりします。
まとめ
政治倫理審査会は、国会議員が政治倫理を遵守するように監視している機関とも言えます。
国民の税金を報酬とし、国民の代表として法をつくる国会議員には能力だけではなく、誠実さも要求されているようです。