2019年4月から施行された「働き方改革法案」ですが、皆さんの職場に変化はありましたか?
2020年から2021年にかけて感染症の影響でテレワーク化が一気に進んだ人もいるかもしれません。
働き方改革法案には、
- 長時間の時間外労働の禁止
- 正社員と非正規労働者の格差撤廃など
など、労働者にとって重要な改革が多く含まれています。
そこで今回は「働き方改革法案」についてご紹介します。
本記事がお役に立てば幸いです。
1、働き方改革法案とは
「働き方改革法案」の正式名称は、働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律で、安倍政権(2020年9月16日まで)の政策である「働き方改革」を実施するために整備された法律です。
まず働き方改革とは何なのか?
その定義と法案の中身を見てみましょう。
(1)働き方改革とは
働き方改革は、アベノミクス、一億総活躍社会の実現などの政策の一環として進められていた改革で、2018年6月に「働き方改革関連法」が可決し、2019年4月から施行されました。
アベノミクスとは安倍政権下で行われた経済政策のことで、
- 「大胆な金融政策」
- 「機動的な財政政策」
- 「民間投資を喚起する」
などの成長戦略を3つの矢とし、働き方改革はこれら3つの矢を同時に叶える有効な政策として注目を集めています。
2013年から始まったアベノミクスですが、2015年からはアベノミクスの第2ステージとして
- 「希望を生み出す強い経済」
- 「夢をつむぐ子育て支援」
- 「安心につながる社会保障」
などの新しい理念を打ち出し、この政策においても働き方改革は政策の要であると考えられていました。
(2)なぜ働き方改革が必要なのか
さまざまな政策がある中で働き方改革が重要視される理由には
- 少子高齢化
- 過労死
- 女性の社会進出
などの社会背景があります。
それぞれの背景と働き方改革との関係を見ていきましょう。
①労働力人口の減少について
日本は少子高齢化が進行し、労働力人口が減少しています。
労働力とされる15~64歳の生産年齢人口は2013年10月の時点で7901万人となり、32年ぶりに8000万人を切りました。
2か月後の2013年12月の調査ではさらに7883万人まで減少し、急スピードで労働力人口が減っていることがわかります。
このまま労働力人口が減少すれば、国の経済が停滞する可能性も十分にあり、政府は急ピッチで働き方改革による労働力の増加に取り組んでいます。
②過労問題
労働力人口の減少に拍車をかけるのは「過労死」です。
厚生労働省の発表によると、仕事が原因で自殺した人数は2017年の時点で1991人。
前年と比べて13人増となりました。
2015年に起きた「電通過労自殺事件」のように過酷な残業によって精神を追いつめられる人は多く、これ以上の労働力人口の減少を防ぐためにも働き方改革を通して労働環境の改善が求められています。
③子育てをしながら働けない現状
総務省の調査によると、働いていない女性約315万人のうち105万人が出産・育児を理由に仕事に就けていない現状があり、出産前に仕事をしていた母親の7割が第1子出産の半年後に無職になっているデータもあります。
働き方改革によって子育てと仕事を両立できる社会を実現しなければ離職は止まらず、労働力人口の減少と出生率の低下の両方に拍車をかけることになるため、女性は働き方改革のキーパーソンであるといえるでしょう。
(3)働き方改革法案の概要
働き方改革法案には3つの柱があり、
- 働き方改革の総合的かつ継続的な推進
- 長時間労働の是正、多様で柔軟な働き方の実現等
- 雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保
を実現することで多様な働き方のニーズに応え、1人当たりの生産性の向上と労働力人口を増加することが法案の狙いです。
それぞれの柱をくわしく見てみましょう。
- 働き方改革の総合的かつ継続的な推進:雇用対策法の改正、中小企業に改革を取り組んでもらうための協議会の設置や連携の義務付けなど
- 長時間労働の是正及び多様で柔軟な働き方の実現等:時間外労働の上限は月45時間、年360時間を原則とする、前日の終業時刻と翌日の始業時刻の間に一定時間の休息の確保するなど
- 雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保:正規雇用者と非正規雇用者の不合理な待遇格差の禁止、非正規雇用者採用時の正社員との待遇差の説明の義務付けなど
2、働き方改革及び法案の課題
働き方改革が成功すれば、ワークライフバランス(仕事と生活の両立が取れた働き方)を実現できるかもしれません。
しかし、働き方改革には恩恵がある一方で課題もあります。
働き方改革のメリットとデメリットをそれぞれの政策で見てみましょう。
(1)時間外労働|長時間拘束の是正
時間外労働が制限されることで起きるメリットは、労働者の自由時間が増えることにあり、政策によって法外な長時間の残業が厳しく制限されることで労働者も声を挙げやすくなります。
企業は残業代として支払っていた人件費を削減し、従業員に短時間でメリハリのある業務を期待することもできます。
デメリットには
- 残業代が減ること
- 仕事の負荷が高まること
などが挙げられ、企業は既存の従業員だけでは従来の業務を終わらせることができない可能性もあります。
(2)高齢者も働ける社会に
厚生労働省の発表では高齢者の7割近くが“65歳を超えても働きたい”という労働意欲を持ち、高齢化を逆手に取れば、豊富な経験を持つ高齢者を雇用することでコストをかけずに労働力を補充できるメリットがあります。
ただし、若手従業員とのトラブルが発生したり、体を壊しやすいために会社の負担が増えるなどのデメリットも考えられます。
(3)非正規労働者に対する扱いの是正
非正規労働者と正社員の待遇差は日本貧困化の大きな原因といわれています。
非正規労働者と正社員の差を無くし、非正規労働者に対する扱いを是正することでワーキングプアを減らし、出生率の向上も期待できるメリットがあります。
しかし、非正規雇用者と正社員を同一に扱うことで企業の人件費の負担が増え、正社員の給与減少やリストラが発生するデメリットもあります。
3、働き方改革の具体例
働き方改革にはメリットとデメリットがありますが、上手な導入を叶えれば企業と従業員それぞれの負担を減らし生産性を上げることができます。
働き方改革の具体例を見ていきましょう。
(1)ワークライフバランス
「ワークライフバランス」とは仕事と生活の両立が取れた働き方のことで、柔軟な労働環境を整えることで、
- 労働力人口の増加
- 出生率の向上
- 従業員のスキルアップ
などの効果を期待することができます。
政府広報オンラインに紹介されている株式会社長岡塗装店の事例では、
- 男性の育児休暇奨励制度
- 各種講習会の参加奨励
- 出産祝い金10万円
- 保育料3分の1補助
などの制度で従業員のワークライフバランスの改善に取り組み、若手の人材確保と育成に成功しています。
(2)テレワーク
コロナウィルス対策で一気に導入が進んだ「テレワーク」ですが、働き方改革でもテレワークは推奨されています。
厚生労働省で紹介されている株式会社NTTデータアイの事例では、2014年からテレワークの導入を開始し、全従業員が利用可能になりました。
- 開始と終了の連絡の義務付け
- 自宅であっても労働時間外の作業は禁止
- 業務計画による作業の見える化
- 従業員の作業効率の向上
に成功しています。
(3)フレックス制
フレックス制(フレックスタイム制)とは、労働者が始業と終業の時刻を決められる制度のことで、それぞれの従業員のライフスタイルに合わせて働くことができます。
厚生労働省で紹介されているB社(福祉・文化・教育事業)では、タイムカードなしのフレックス制を導入し、従業員による自己管理力を強化。
上司(管理者)には部下の仕事配分やスケジュールに対する責任を課すことでマネジメント能力を成長させることもできました。
参考:事例編-2 厚生労働省
(4)補助金
働き方改革には
- 「働き方改革推進支援助成金」
- 「業務改善助成金」
- 「キャリアアップ助成金」
があり、それらを活用することで企業側の負担を減らすことができます。
たとえば、働き方改革推進支援助成金では、時間外労働の制限によって必要になった労働効率を向上する機器や設備、専門家によるコンサルティングの費用に助成金を使うことができます。
(5)リフレッシュ休暇
リフレッシュ休暇とは、法律で義務付けられている法定休暇以外に企業が従業員に休暇を出す制度で、現時点では義務ではなく企業の自己判断に任せられています。
厚生労働省が紹介している株式会社リクルートテクノロジーズの事例では、勤続 3 年以上の社員を対象に、3 年ごと最大連続 28 日間取得できるリフレッシュ休暇を与え、「留学、スキルアップ、リフレッシュ」など取得理由は自由に設定可能とし、応援手当として一律30 万円の支給を行っています。
4、働き方改革法案のこれまでとの違い
働き方改革では、2015年に「労働基準法等の一部を改正する法案」を提出されていますが、2019年に施行された「働き方改革法案」との違いは何なのでしょうか?
これらの法案には大きく2つの違いがあり、2019年の法案では「高度プロフェッショナル制度」が新設され、「裁量労働制の対象範囲拡大」が削除されました。
高度プロフェッショナル制度が追加されたことで、企業による従業員の健康管理が義務付けられ、対象労働者には定められた休日を与えること、選択的措置の実施など、従業員の健康維持の義務がより厳しくなりました。
まとめ
今回は「働き方改革法案」についてご紹介しました。
就職・転職の際には働き方改革を推進する企業と出会い、感染症のような未曾有の事態にも対応できるワークスタイルを確立していきたいですね。