食料自給率とは、国内で供給されている食料のうち、国内で生産されている食料の割合を示す指標です。
今回は
- 食料自給率とは
- 日本の食料自給率の課題
- 政府の取り組み
についてご紹介します。
本記事がお役に立てば幸いです。
1、食料自給率とは
食料自給率とは、食料供給に対する国内生産の割合を示す指標です。
国民の食料をどの程度自国でまかなえているのかという目安になります。
食料自給率には、
- 品目別自給率
- 総合食料自給率
があります。
それぞれ解説していきましょう。
(1)品目別自給率
品目別自給率とは、米や大豆など品目別での自給率です。
下記は農林水産省が2005年の自給率をもとに作成した朝食の品目別自給率の図です。
米の自給率は高く、味噌や納豆に使われる大豆の自給率は低いことがわかります。
品目別自給率の計算方法は以下の通りです。
「品目別自給率=国内生産量/国内消費仕向量」
(国内消費仕向量=国内生産量+輸入量-輸出量-在庫の増加量(又は+在庫の減少量))
この計算式を簡単にまとめると、『国内生産量÷国内消費仕向量』で品目別自給率を導けます。
一例として、小麦の品目別自給率を計算してみましょう。
2019年度の小麦は
- 国内生産量:103.7万トン
- 国内消費仕向量:632.3万トン
でした。
国内生産量を国内消費仕向量で割ると「103.7÷632.3=0.164」となり、四捨五入してパーセントに直すと、2019年度の小麦の品目別自給率は約16%になります。
(2)総合食料自給率
総合食料自給率とは、品目を分けずに計算した食料全体の自給率です。
ニュースや新聞で取り上げられる食料自給率は、この総合食料自給率を用いることが一般的です。
総合食料自給率には
- カロリーベースの総合食料自給率
- 生産額ベースの総合食料自給率
があります。
参考:食料自給率37% 平成5年度と並び過去最低 NHK政治マガジン
①カロリーベース総合食料自給率
カロリーベース総合食料自給率とは、国民1人あたりに供給されるエネルギー(熱量)に対する国内生産の食料割合です。
『1人1日当たりの国産供給熱量÷1人1日当たりの供給熱量』で導けます。
2019年度のカロリーベース総合食料自給率を計算してみましょう。
2019年度の
- 1人1日当たり国産供給熱量:918カロリー
- 1人1日当たり供給熱量:2,426カロリー
だったので、総合食料自給率は約38%になります。
参考:カロリーベース総合食料自給率 食料自給率とは 農林水産省
②生産額ベース総合食料自給率
生産額ベース総合食料自給率とは、国内の食料消費額に対する国内の食料生産量の割合です。
『食料の国内生産額÷食料の国内消費仕向額』で導けます。
2019年度は
- 食料の国内生産額:10.3兆円
- 食料の国内消費仕向額:15.8兆円
だったので、生産額ベース総合食料自給率は約66%になります。
参考:生産額ベース総合食料自給率 食料自給率とは 農林水産省
2、日本の食料自給率
下記は農林水産省が発表している1960年から2018年までの食料自給率の推移です。
画像出典:食料自給率の低下と、食生活の変化の関係 日本と世界の食料自給率 東北農政局
1960年に79%だった食料自給率は、1990年に半分を割り、2018年には37%まで低下しています。
農林水産省の資料によると、2019年度の食料自給率は、総合食料自給率のカロリーベースが38%、生産額ベースが66%でした。
生産額ベースでは半分を超えているものの、カロリーベースでは半分以上の食料を輸入に頼る現状です。
そもそも、食料自給率の低下は何が問題なのでしょうか?
簡潔にまとめると、食料自給率が低いと食料を輸入(他国)に頼ることになります。
つまり、国際情勢や異常気象など、輸入が何かしらのきっかけで止まってしまった場合は危機的状況に陥る可能性が高くなるのです。
下の図は農林水産省が作成した『国内生産だけの1日の食事』です。
もし輸入が止まったら、私たちの食卓はイモがほとんどを占め、普段の食事とはかけ離れてしまうかもしれません。
画像引用:もし輸入が止まったら 1 食料自給率向上の意義と効果 農林水産省
(1)世界の食料自給率との比較
下記のグラフは、農林水産省が発表している2019年の日本の総合食料自給率をベースにした外国との自給率の比較です。
主要先進国と比べて、日本の食料自給率が低いことが分かります。
画像出典:世界の食料自給率 農林水産省
また、2017年に農林水産省が試算した穀物自給率の順位によると、172カ国のうち、日本は125番目を記録しました。
そして先進国が多いOECD(経済協力開発機構)でも、37カ国のうち、32番目という結果でした。
参考:諸外国の穀物自給率(2017年)(試算) 諸外国の食料自給率等 農林水産省
(2)食料自給率を高める取り組み
政府は2020年3月に閣議決定された『食料・農業・農村基本計画』で、2030年までに
- カロリーベース総合食料自給率:45%
- 生産額ベース総合食料自給率:75%
まで高めることを目標として発表しました。
前述の通り、2019年度の総合食料自給率は
- カロリーベース:38%
- 生産額ベース:66%
だったので、約10%増の目標設定となっています。
3、食料自給率に関する日本の課題
食料自給率から見る日本の課題をご紹介します。
ここでは主に
- 食品ロス
- 農業従事者の減少
- 耕作放棄地の増加
について紹介します。
(1)食品ロス
日本の食品廃棄物等は年間2,759万トン、そのうち食べられるのに捨てられている食料は年間643万トンです。
2016年度の市町村のゴミ処理経費は19,606億円にのぼり、ゴミの処理費用は約2億円です。
食品の廃棄過程では多くのCO2が排出されているため、食品ロスは環境にも負担をかけています。
このように日本の食料自給率は低い反面、食品ロスは多い状況にあります。
参考:食品ロスの削減に向けて~食べものに、もったいないを、もういちど。~ 農林水産省 もったいない!食べられるのに捨てられる「食品ロス」を減らそう 政府広報オンライン
(2)農業従事者の減少
日本の食料自給率低下の1つの理由は、農業従事者の減少です。
生産者が減れば、供給される食料も基本的には少なくなります。
下記は農林水産省が発表している農業就業人口の推移です。
農業に就業している人口は、2000年の3,891人から2011年には2,601人まで減少しています。
表引用元:(2)農業就業者の動向 農林水産省
農業従事者が減少している背景には
- 農家の高齢化
- 後継者不足
- 都市部への若者の流出
- 農業の所得低下
などの理由が挙げられています。
参考:(1)地域社会・農村地域の現状と課題 ア 農村地域の人口と就業機会の動向 農林水産省
(3)耕作放棄地の増加
農家の減少とともに、耕作放棄地の増加も問題となっています。
耕作放棄地とは、以前は耕作されていたものの、1年以上何も栽培されることなく、放棄されている土地を指します。
下図の「耕作放棄地面積の推移」を見てみると、年々耕作放棄地が増加していることが分かります。
画像出典:第7節 農業生産を支える農地、資金、研究・技術開発、関連団体をめぐる状況 農林水産省
参考:(1)水田のフル活用による食料自給力・自給率の向上 農林水産省
耕作放棄地の再生利用のために- 参考資料 - 千葉県
4、食料自給率に関する課題への政府の取り組み
政府では、食料自給率に関する課題に向けたさまざまな取り組みを実施しています。
- 食品ロスの削減に向けた取り組み
- スマート農業の促進
- 農業の魅力アピール
についてご紹介します。
(1)食品ロスの削減に向けた取り組み
食品ロスの削減に向けて、農林水産省、消費者庁、環境省が取り組みを進めています。
例えば農林水産省では
- 食品小売事業者の納品期限の緩和
- 食品製造業者の賞味期限の大括り化
などに取り組む事業者名を公表し、食品ロス削減に取り組む事業者を推薦しています。
また、消費者に食品ロスへの取り組みを知ってもらう事業者ポスターの普及なども農林水産省の取り組みです。
画像引用元:食品ロス削減のための消費者啓発に取り組む小売・外食事業者を募集します~店舗で使える普及啓発資材を提供~ 農林水産省
(2)スマート農業の促進
スマート農業とは、ロボットや情報通信技術を使った農業です。
過酷な農作業は高齢農業者には厳しく、若者の参入も妨げています。
スマート農業ではアシストスーツやロボットを導入することにより、農作業の負担の緩和を図っているのです。
そのほかにも、GPSを使った農業機械の自動走行化、ドローンによる作物のセンシング(情報入手)などを導入することで、誰でも簡単に農業ができる環境づくりが進められています。
スマート農業とは?メリットや背景を導入事例とともに解説
(3)農業の魅力アピール
農林水産省では、農業の魅力を若者に知ってもらうために
- 新農業人ポータルの開設
- 新農業人フェアの開催
などの取り組みを行っています。
新農業人ポータルは、農業に関連する移住や求人情報を探せるポータルサイトです。
新農業人フェアでは、農業に従事したい人(就農希望者)のマッチングや相談などのイベントを開催しています。
参考:新・農業人ポータル 農林水産省
参考:特集1 一歩踏み出そう! 憧れの農業へ(1) 農林水産省
まとめ
今回は食料自給率について解説しました。
各国の経済力をはかる名目GDPでは、日本はアメリカや中国に次いで、3位を記録しています。
しかし、食料自給率の順位は低く、経済面と食料面の豊かさの差が生じているのかもしれません。
地産地消や国内産を積極的に食卓に取り入れ、日本の農業を応援していきたいですね。