日本では、国民が保険料を納めることで、病院での治療費が安く済んでいます。これは、日本独自の医療制度である「国民健康保険」と「健康保険(社会保険)」があるからです。
「国民皆保険制度」と呼ばれる相互扶助の形であり、“保険”という名前の通り、毎月の保険料の支払いが国民に義務付けられているのです。
今回は、以下についてわかりやすく簡単に解説します。
- 社会保険とは
- 社会保険の加入対象について
- 国民健康保険とは
- 社会保険と国民健康保険の違い
- 医療保険の課題
本記事がお役に立てば幸いです。
1、社会保険とは
「社会保険」には広義と狭義の意味があり、広義では国が運営する5つの保険を指します。
5つの社会保険は以下の通りです。
- 医療保険
- 年金保険
- 介護保険
- 雇用保険
- 労災保険
それぞれの保険は法律に基づき運用され、さまざまな方面から国民の生活を支援してくれています。国民全員を強制加入させることで大規模な保険集団を作り、病気や失業時にも個人がきちんと対応できる環境を作っています。
一方で、狭義の「社会保険」は会社員を対象とする健康保険(医療保険)と厚生年金保険(年金保険)を指します。
年金については以下の関連記事において基礎知識をご紹介しています。
年金とは?1から簡単解説|三階建ての仕組みや課題について
(1)制度目的
「社会保険」の制度目的は国民が支えあう社会の実現です。自分ではなかなか貯蓄できないお金も、国が毎月徴収し管理してくれることで、病気や失業に遭っても安全な生活を維持することができます。
この制度は憲法25条の「生存権」に基づくもので憲法にはこのように書かれています。
第25条
すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
2 国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。
出典:日本国憲法 衆議院
(2)各保険の概要
会社員対象の社会保険には前述した通り、医療保険、年金保険、介護保険、雇用保険、労災保険が入っていて、それぞれの費用が毎月の給料から天引きされます。
それぞれの保険をもう少しくわしく見てみましょう。
- 医療保険
医療費自己負担3割、出産支援金(出産育児一時金、出産手当金)、高額療養費、傷病手当金、死亡時の埋葬費など
- 年金保険
入社時から70歳まで支払い、65歳から年金がもらえる
- 介護保険
40歳から強制加入、受給対象は65歳以上(第1号被保険者)または40歳以上~64歳(第2号被保険者(40歳から64歳までの方))受けられる
- 雇用保険
失業時の各種給付金、再就職のための教育訓練給付金など
- 労災保険
通勤または業務を通じて生じた怪我や病気、死亡時に給付を受けることができる
社会保険には老後を支援する「年金保険」も含まれていますが、これは国民が将来の不安から過度に貯蓄し、消費を抑えてしまうことを防ぐ目的もあります。
2、社会保険の加入対象について
正社員しか入れないイメージのある「社会保険」ですが加入対象は広くなっています。
社会保険の加入条件には会社側と労働者側のそれぞれの条件があります。
まずは、雇用する会社側の条件を見てみましょう。
(1)雇用側の要件
事業所には社会保険を必ず用意しなくてはならない「強制適用事務所」と任意で完備することができる任意適用事務所の2つがあります。
①社会保険を完備しなければいけない会社(強制適用事業所)の条件
強制適用事業所の要件は以下の通りです。
- 株式会社などの法人の事業所(事業主のみの場合を含む)
- 農林漁業、サービス業などを除いた従業員が5人以上いる個人事業所
- 国、地方公共団体又は法人の事業所
②社会保険を任意で完備できる会社(任意適用事業所)
適用事業所ではない事業所でも半数以上の従業員が同意した上で事業主が申請し、認可を受けることにより適用事業所となることができます。任意適用事業所の場合は、健康保険のみ・厚生年金保険のみのどちらか一つの制度加入でも問題ありません。
(2)労働者の要件
次に、労働者側の社会保険加入の条件を見てみたいと思います。社会保険に入れる労働者の条件は以下の通りです(2016年10月から変更)。
- 週20時間以上の労働
- 8.8万円以上の月額賃金
- 1年以上働く予定がある
- 勤務先の従業員数が501人以上である
2017年からは国・地方公共団体にも上記の条件の適用を開始し、500人以下の企業でも労使合意があれば適用範囲を拡大できるようにもなりました。
しかし、学生は上記の対象外なので注意しましょう(夜間、通信、定時制の学生は対象です)。
3、国民健康保険とは
ここからは国民健康保険についてになります。
(1)制度目的
「国民健康保険」の制度目的は、怪我や病気になったら安心して病院に行けるように、普段から保険金を納めて、必要な時に支援を受けられるようにする助け合いの社会を作ることです。
これは社会保険と変わりはありませんが社会保険の主体が全国保険協会または健康保険組合である一方で、国民健康保険は市区町村や国民健康保険組合が主体です。
たとえばAさんが払った保険金はBさんの医療費に使われますが、Aさんが病気になった場合はCさんの保険金が使われる、といった流れで保険集団の中で助け合うことができます。これは民間の保険と同じ仕組みですね。そして、その保険集団が国保と社会保険では異なるということです。
(2)加入対象
会社勤めの人、生活保護を受けている人「以外」は国民健康保険に加入します。くわしい国民健康保険の加入条件は以下の通りです。
- 自営業
- 職場の健康保険に加入していないパートやアルバイト
- 退職して職場の健康保険から抜けた人
- 農業または漁業に従事している
- 3ヶ月以上の在留資格が決まった住所を持つ外国籍の人
4、社会保険と国民健康保険の違い
社会保険と国民健康保険の原則は助け合いの精神であることには変わりませんが、制度には違いもあります。
加入対象の違いについては取り上げたので、以下の違いについて見てみましょう。
- 保険料
- 保障内容
(1)負担する保険料が違う
「社会保険」と「国民健康保険」では負担する保険料の計算方法が異なります。
「社会保険」は標準報酬月額という3か月間の平均賃金に健康保険料率をかけて計算した合計額を会社と雇用者がそれぞれ折半して払います。つまり、天引きされる保険料は合計額の雇用者負担額のみ。
この健康保険料率は自治体によって異なりますが、介護保険料や厚生年金の割合は全国で統一されています。
「国民健康保険」の保険料は自治体が決められ、所得や資産、世帯の被保険者数に応じて所得割、資産割、均等割、平等割が算出されます。簡単にいえば、所得や家族構成という母体に自治体が決めた割合をかけて出た合計が保険料になります。
(2)保障内容の違い
「社会保険」と「国民健康保険」の保障内容の違いのひとつは扶養制度の有無です。
「社会保険」には扶養制度があるので、同じ家に住む奥さんや子どもを自分の社会保険に無料で加入させることができます。同じ家に住んでいない兄弟や孫、両親、祖父母も扶養に入れることが可能です。
一方で「国民健康保険」には扶養制度がないので奥さんや子どもにそれぞれ保険料がかかってしまいます。
5、医療保険の課題
日本独自の国民皆保険制度は国民みんなで支えあえる素晴らしい制度ですが、近年の少子高齢化によってバランスが崩れつつあります。
日本の高齢化率は28.1%。内閣府の発表によると2065年には約2.6人に1人が65歳以上になるというおそろしい予測も立てられています。
日本を支える医療保険は収入と支出のバランスが必要不可欠。しかし、高齢者増加に歯止めが効かず、寿命が延びることで医療費はさらに増加、高齢者を支える働き手の数は減少し、支出ばかりが出ています。
厚生労働省は各都道府県の医療機関と連携し、在宅医療の推進、生活習慣病の予防、入院日数の短縮などの政策を行っています。
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まとめ
今回は社会保険と国民健康保険の違いを解説しました。
社会保険と国民健康保険のどちらが安いかという議論になかなか決着はつきませんが、住んでいる自治体や加入団体、家族構成によって保険料金を計算できるのでぜひ比較してみてくださいね。
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