スマート農業とは、IoTやAI、ロボット技術などの最新技術を駆使し、農業の現場での効率化や生産性向上を図る新しい農業の形を指します。
スマート農業は精密農業とも呼ばれ、データ分析を駆使して作物の成長状況をモニタリングし、必要な資源を最適なタイミングで最適な場所に供給することで、サステナビリティ(持続可能性)を追求します。
スマート農業は、センサーやデジタル技術を活用して農業を自動化し、人々の食糧問題や環境問題への対策となりうる革新的な取り組みです。
そこで今回の記事では、以下のような内容について詳しく解説します。
- スマート農業とは?
- スマート農業の背景
- スマート農業が実現したらどうなるのか?
- スマート農業の具体例
本記事がお役に立てば幸いです。
1、スマート農業とは?
スマート農業とは、ロボットや情報通信技術(ICT)を導入した新しい農業です。
積極的に最先端技術を活用することによって、農業が抱えている人手不足や重労働の問題を解決するだけではなく、若者や女性、企業の参入による新たなビジネスチャンスを生むことも期待されています。
農林水産省は経済産業省の協力を得て、2013年に「スマート農業研究会」を設立しました。
スマート農業研究会には、以下のような人々が参加し、スマート農業の実現に向けたロードマップや課題についての話し合いを行います。
- ロボット先行業界
- 学識経験者
- IT企業
- 農機メーカー
- 関係府省(農林水産省、経済産業省、総務省など)
- 先進農業者
その後、2019年から2020年にかけて合計124地区で「スマート農業実証プロジェクト」が実施されました。
現在ロボットやICTを使ったスマート農業の実験的な取り組みが始まっています。
参考:「スマート農業実証プロジェクト」について 農林水産技術会議
2、スマート農業の背景
スマート農業の背景には、少子高齢化を伴う深刻な労働力不足という問題があります。
農業の就業人口は、以下のように減少しています。
- 1995年:約414万人
- 2020年:約136万人
また、2015年の農業就業人口の年齢構成を見てみると、以下のようになっており農業者の高齢化が進行していると言えます。
- 65歳以上が全体の69.6%
- 50歳未満はわずか10.8%
画像出典:農業分野における課題 農林水産省
農業者の高齢化の進行を解決するためには、若い働き手を見つけることが必要になりますが
- トラクター操作などの難しい農業機械の操作
- 収穫物の積み下ろしなどの重労働
といった技術的・体力的な負担が大きく、若者や女性の参入を妨げていました。
そこで、最先端技術を駆使するスマート農業を普及させることで、より効率的で効果的な農業を実現し、現状の農業における課題を解決しようといった取り組みが始まったと言えます。
3、スマート農業が実現するとどうなる?
労働力不足が深刻な日本の農業ですが、スマート農業が実現すれば
- より多くの若者や女性が農業にチャレンジしやすくなる
- 高齢の農業者も生産効率を上げられるようになる
といったメリットがあります。
では実際に農林水産省が発表している、スマート農業の4つの効果
- 大規模生産
- 品質向上
- 体への負担が大きい作業からの解放
- 後継者不足問題の解消
についてより詳しく見ていきましょう。
参考:スマート農業の実現に向けた取組と今後の展開方向について 農林水産省
(1)大規模生産
従来の農業方式では、農業者の減少が進むと、必然的に作業面積も縮小してしまいます。
スマート農業ではGPSを利用した自動走行システムを導入することによって、農業機械の夜間走行や複数走行、自動走行を実現し、農業者の労働負担を減らした効率的な農業を目指しています。
これらの技術を活用することで、1人あたりの作業面積を大幅に拡大することができ、大規模生産も可能になります。
(2)品質向上
広大な農地における、きめ細かい管理は熟練した農業者にとっても難しい作業です。
スマート農業では、農業機械のセンサーやドローンを使って効率的にデータを収集し、農地の環境情報を徹底的に管理します。
気象予報や病害虫の発生を過去のデータから予測することで、自然による被害を最小限に抑え、品質の維持向上を図ります。こうしたデータによって農作物の品質をきめ細かく管理する農業を精密農業と言います。
また、野菜や果物の選別もロボットで行うことにより、出荷時の見落としやバラつきを防止することができます。
そして、農業に利用できる技術が発展し
- 自律飛行ドローンを使った生育環境の情報把握
- 温室のモニタリング
- 機器のリモートコントロール
といった高度な環境制御システムが導入されれば、農地にいなくても高品質な作物をリモートで育てることできるようになります。
スマート農業では、こうした高度な農業の実現も見込まれているのです。
(3)体への負担が大きい作業からの解放
農業には、大量な収穫物の運搬や有害鳥獣の監視といった身体的な負担が大きい作業が多くあり、こうした作業が女性や若者の参入を妨げる原因となっています。
スマート農業では、農業用アシストスーツを開発・利用し、作業における体への負担を軽減することができます。
パワーアシストインターナショナル(和歌山大学発のベンチャー企業)が開発したパワースーツでは、10~30kgの物体の持ち上げにかかる負荷を1/2程度軽減することに成功しています。
また有害⿃獣の監視は、パソコンやスマホを使った遠隔監視によって行うことができ、見回り作業にかかる時間的・身体的コストを減らすことができます。
参考:スマート農業の実現に向けた取組と今後の展開方向について 農林水産省
参考:鳥獣被害対策におけるICT等の新技術の活用について 農林水産省
(4)後継者不足問題の解消
スマート農業では後継者不足を解決するために、以下のような施策が施されています。
- 農業機械の操作の簡略化
- 農業者ノウハウのデータ化
- アシストスーツの開発
- ロボットやAIによる作業代行
農業の経験がない人でも農業に挑戦しやすい環境整備が進められています。
参考:スマート農業の実現に向けた取組と今後の展開方向について 農林水産省
4、スマート農業の具体例
農業における様々な課題を解決に導くスマート農業ですが、実際にロボットやドローンはどのように働いてくれるのでしょうか?
- 遠隔監視や無人ロボット農機による無人化
- AI及びドローンの利用
上記について具体的な作業内容などを見ていきましょう。
(1)遠隔監視や無人ロボット農機による無人化
無人ロボット農機は、ハンドル操作や作業機制御といった自律走行が可能であり、全自動で作業を行うことができます。
現在のロボット農機の操作には人間の常時監視が必要になりますが、今後は遠隔操作による無人システムが搭載される予定です。
こうした農業における無人化が進むことで、農業者は作業中の農地から別の農地への移動も可能になり、作業効率を上げることができます。
すでにヤンマー(株)から無人ロボット農機が2018年10月に販売されており、およそ1,214~1,549万円で購入することができます。
画像出典:スマート農業の展開について 農林水産省
参考:ロボット農機による自動走行システムの実現に向けた取組 農林水産省
(2)AI及びドローンの利用
農業ではマニュアルにない経験者特有の知見などが必要とされ、初心者では容易に農業に参入できない傾向にありました。
スマート農業ではAIやドローンを利用し
- AIによる経験者の知識のデータ化
- ドローンによるデータに基づいた精密施肥(農地への肥料の施し)
- 剪定、摘果、収穫作業のロボット化
といった農業において必要な専門性を補うことができます。
5、スマート農業における農林水産省の働き
農林水産省ではロボット農機の安全な導入に向けて、2017年に「農業機械の自動走行に関する安全性確保ガイドライン」を策定しました。
2020年3月には今後実用化されるロボット田植機、ロボット草刈機に対応するためのガイドラインの改正が行われました。
改正内容には
- 対象ロボット農機に、ロボット田植機とロボット草刈機の追加
- ロボット田植機とロボット草刈機の「自動走行に係る危険源及び危険状態に関する整理表」の追加
- ガイドラインを2部構成へ変更、関連箇所の修正
などが含まれています。
参考:「農業機械の自動走行に関する安全性確保ガイドライン」の改正について 農林水産省
また、農業機械のロボット化は便利なものの、以下のような点において安全面の不安もあります。
- 第3者との接触
- 機械同士の接触
- 農地外への飛び出し
安全なガイドラインを作成することで、安心してロボットが使えるような環境を整備することも農林水産省の役割です。
まとめ
今回はスマート農業について解説しました。農業に憧れがあるものの重労働ゆえに、なかなか手が出しづらいという人も多いのではないでしょうか。
スマート農業がさらに普及すれば、自宅にいながら高品質な野菜や果物を自分で作れるようになるかもしれません。今後のスマート農業の発展に注目です。
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