教育の無償化は、子どもたちの学びの場を広げ、家庭の経済的負担を軽減する大きな一歩です。政府や地方自治体による教育支援政策は、幼稚園から高等教育に至るまで、多くの家族にとって希望の光となっています。しかし、教育無償化には色々な条件や所得制限などがあり対象となる要件が複雑です。
そこで本記事では、教育無償化になる家庭の条件・具体的な所得制限・現在取り組んでいる教育無償化に向けての政策について、わかりやすく解説しています。
1.教育無償化となる3つの対象と所得の関係について
現在、日本全国で行われている教育無償化の対象は3つあります。
- 幼児教育または保育の教育無償化
- 高校無償化
- 大学などの高等教育無償化
(1)幼児教育または保育の教育無償化
2019年10月1日より3歳児以上の幼児教育、または保育の教育無償化が実現されました。
幼児教育の無償化には所得の制限がありません。保育園は保育料が全て免除となり、幼稚園は一律で月額2.57万円が上限で免除となります。
無償化の期間は、満3歳になった翌年の4月1日から小学校に入学するまでの3年間が対象となっています。
参考:内閣府
①保護者が負担する費用
幼児教育または保育の無償化において所得制限はありませんが、以下は従来通り保護者の負担となります。
- 通園送迎費(通学にかかる定期代や送迎バスの費用)
- 食材料費(給食やおやつの費用)
- 行事費用(校外学習などの活動費)
②免除される費用と条件
以下に該当する世帯は、副食(おかず・おやつ)の費用が免除となります。
- 年収が360万円未満相当の世帯
- 全世帯の第三子以降に該当する子供
この他には、0~2歳児クラスへ通わせている家庭の保育料の免除はありませんが、住民税の非課税世帯は0~2歳児クラスの保育料が無料となります。
また、幼稚園や保育園に在籍する最年長の子供を第一子とし、第二子は保育料が半額、第三子以降は無料と保育料の負担が軽減するようになりました。
参考:内閣府
(2)高校無償化
2010年に開始した「高等学校就学支援金制度」とは、受給資格を満たした家庭の高校の授業料が実質無料になる制度です。
「高等学校就学支援金制度」は、国から都道府県を通して直接学校に支払いがあるため、個人の口座への入金はありません。
高等学校就学支援金制度の対象とならない条件は以下の通りです。
- 3年を超えて在学している生徒
- 専攻科や別科の生徒
- 科目履修生や聴講生
- 年収910万円を超える世帯の生徒
参考:文部科学省
①公立高校の場合
全日制の高校に通う場合は、月額9,900円(年額11万8,800円)が限度として支給され、自治体が学校に直接支払いを行います。
年額11万8,800円は、公立高校の年間の授業料と同額のため、家庭での自己負担はありません。
定時制高校の場合は月額2,700円、通信制の高校の場合は月額520円、特別支援学校の場合は月額400円が支給されます。
参考:文部科学省
②私立高校の場合
引用:文部科学省
私立高校に通う場合は、世帯の所得に応じて支給額が二段階に分かれます。
全日制の高校に子供が通っている場合の世帯年収に応じた支給額の差は以下の通りです。
子供の人数 | 11万8,800円の支給 | 39万6,000円の支給 | |
両親のどちらかが働いている場合 | 扶養控除が2人の場合
扶養控除が1人の場合 |
~約950万円
~約960万円 |
~約640万円
~約650万円 |
共働きの場合 | 扶養控除が2人の場合
扶養控除が1人の場合 扶養控除1名、特定扶養控1名の場合 |
~約1,070万円
~約1,030万円 ~約1,090万円 |
~約720万円
~約660万円 ~約740万円 |
引用:文部科学省
(3)大学などの高等教育無償化
2020年4月より、「短大・大学・高等専門学校・専門学校等」の高等教育無償化が始まりました。
大学等の教育無償化は所得制限の条件の他に学ぶ意欲のある学生であることというのが条件に備わっています。また、所得に応じて支給額が異なります。
大学等の教育無償化の支給額の一覧は以下の通りです。
引用:文部科学省
①教育無償化の対象として満額の支援を受けられる世帯は「住民税非課税世帯」
引用:文部科学省
大学等の高等教育に対しての満額支給は住民税非課税、または住民税非課税に準ずる世帯の学生となっています。
また、学力・勉強に関する意欲の基準も設けられています。
高校3年生 いずれかに該当すること
- 高等学校の評定平均値が3.5以上
- 評定平均値が3.5未満だが、レポート又は面談により学修意欲を確認できる
大学1年生 いずれかに該当すること
- 高校の評定平均値が3.5以上
- 入学試験の成績が入学者の上位1/2以上
- 高卒認定試験の合格者
- 学修計画書の提出を求め、学修の意欲や目的、将来の人生設計等が確認できる
大学2〜4年生 いずれかに該当すること
- 在学する大学等における学業成績について、GPA等が上位1/2以上
- 修得単位数が標準単位数以上であるかつ、 学修計画書の提出を求め学修の意欲や目的、将来の人生設計等が確認できること
引用:文部科学省
②その他で受けられる支援は給付奨学金
給付奨学金とは、基準を満たした家庭に日本学生支援機構から給付される返還の義務がない奨学金です。自宅から通う場合と自宅外から通う場合で給付の金額は異なります。
奨学金の給付額は以下の通りです。
引用:文部科学省
③大学教育無償化の手続き方法2選
大学等の高等教育無償化の支援を受ける場合以下の2つの方法で手続きを行います。
- 予約採用
- 在学採用
予約採用とは、高校3年生の春の時点で高校に在籍している生徒の場合、学校経由で申し込みを行います。申し込み結果はその年の秋~冬に発表されます。
結果の発表後、進学先に進学届を提出して奨学金を受け取る手続きを取ります。
在学採用とは、大学の在学中に申し込む方法です。進学後、年に2回申し込み時期が訪れます。1回目は、4月頃に行われ7月頃に採用の合否の決定、2回目は、9月頃に行われ12月頃に合否が決まります。
在学採用は年に2回のみですが、通常とは別に家計急変採用というものがあります。家計急変採用とは、2020年より流行した新型コロナウイルス感染症の影響により家計が逼迫した世帯に対しては1年を通して申し込みが可能となっています。
家計急変採用は、家計の状況が急変してから3か月以内の申し込みが必須となっているため、申し込み時期に注意が必要です。
2.教育無償化によるメリットデメリット
(1)教育無償化によるメリット
①教育費用が無くなる、または軽減されるため家庭の金銭的負担が軽減する
教育費無償化によって、保育園に子供を通わせる家庭の金銭的負担は大きく軽減されました。
保育料は所得に応じて月の保育料が変更になります。また、兄弟の数が多いと兄弟児の保育料が安くなる場合もありました。しかし、保育料無償化により2人目の保育料は半額になり、3人目以降は無料へと変わり、家庭の金銭的負担が軽減したのです。
幼児教育に関しても、月額2.57万円までの補助や、その後の預かり保育の料金が1.13万円まで無償化になり、専業主婦(夫)の家庭の負担も軽くなったと言えます。金銭の負担の軽減は、教育無償化による一番大きなメリットであると言えます。
②家庭の経済状況に関わらず、全ての子供が社会での自立が可能となり社会において活躍できる
家庭の経済状況により高校や大学への進学を諦めざるを得なかった学生たちに対しても平等に学べる環境が整ったという点もメリットです。
また、教育無償化の背景として子供が社会的に自立し、社会で活躍してほしいとの願いが込められています。勉強したいと思う全ての子供が学業に専念できる環境が整ったということは、教育無償化のメリットであると言えます。
③進学の選択肢の幅が広がる
今までは、家庭の経済的理由から私立への進学や全日制の高校への進学を諦める家庭がありました。しかし、教育無償化が導入され、全ての子供が自分の進学先の幅を狭めない選択が可能となりました。
子供が自由に進路を選択できるようになったという点に関しても教育無償化のメリットであると言えます。
(2)教育無償化によるデメリット
①幼児教育、保育に当たる幼稚園教諭や保育士の不足が懸念される
幼児教育の無償化が導入され、働く世帯も幼稚園への入園の幅が広がりました。また、保育園の預け時間も短時間・標準時間の選択肢が生まれた家庭もあります。多くの家庭が長時間の保育を希望した場合、養護教諭や保育士の不足が懸念されるというデメリットがあります。
現在、日本では保育士の不足が課題となっており、保育士資格を保有する半分の保育士が保育士業務から離れているという現実があります。
引用:厚生労働省
多くの家庭が幼稚園や保育園への入園を希望した場合、幼稚園や保育園の数が足りなくなるという課題も考えられますが、養護教諭や保育士の不足といった課題も懸念されます。
②財源の確保のための増税や社会保険の値上げの可能性がある
教育無償化やその他の子育て支援を継続するためには財源の確保が必須です。
2023年3月31日、政府は今後の少子化対策の財源確保のために社会保険料の引き上げを検討しています。
引用:朝日新聞
消費税増税や社会保険料の引き上げが実際に行われると、家庭の収入は減り、支出が増えるので家計を圧迫する可能性があります。
3.教育無償化の背景として少子化問題が重要な課題となっている
令和2年に開始された教育無償化の施行の背景には、日本の少子化問題があります。現在少子化問題は重要な課題となっていて、2023年には「異次元の少子化対策」を行うと岸田首相から発表があり、日々検討が進められています。
(1)理想の子ども数を持たない理由第1位は「教育費がかかるから」
平成29年10月27日に行われた「人生100年時代構想会議」では、50歳未満の夫婦が理想の子ども数を持たない理由として、子育てや教育にお金がかかりすぎるからと答えた30~34歳の世帯は8割にも上ります。
(2)子育て世帯からの教育費の補助を求める声は多数
また、「どのようなことがあれば、あなたは(もっと)子供が欲しいと思いますか」という質問に対して「教育費や幼稚園・保育園の費用の補助」を求める声が半数以上だということも分かりました。
教育無償化の継続によって今後の少子化問題が改善される可能性があります。
PoliPoliで公開されている教育関連の取り組み
誰でも政策に意見を届けることができる、政策共創プラットフォーム『PoliPoli』では、8+1の政策で教育無償化を実現する政策について、以下のような政策が掲載されています。
あなたの願いや意見が政策に反映されるかもしれないので、是非下記のリンクからコメントしてみてください。
(1)8+1の政策で教育無償化を実現する政策の政策提案者
政党 | 日本維新の会 |
プロフィール | https://polipoli-web.com/politicians/6SNB5NeiaWL6i3j6TaOT/policies |
(2)8+1の政策で教育無償化を実現する政策の政策目標
政策目標は主に以下の通りです。
- 0~2歳児の「保育無償化」にかかる第一子からの所得制限の撤廃
- 塾代助成の所得制限の撤廃
- 私立高校の授業料無償化、および所得制限の撤廃
- 公立大学の授業料無償化、および所得制限の撤廃
(3)実現への取り組み
実現への取り組みは以下の通りです。
- 大阪市にて、幼児教育の無償化にかかる所得制限の撤廃を実現
- 大阪市にて、小学校、中学校給食の無償化にかかる所得制限の撤廃を実現
- 大阪市にて、11~15歳の塾代助成を実現
この政策の詳細をより知りたい方や、政策の進捗を確認したい方は下記リンクからご確認ください。
まとめ
本記事では、教育無償化について解説しました。
今後も教育費やその他の子育て支援に対しての議論が進むと考えられます。子育て支援や予算の捻出は、少子高齢化を解消するための重要な課題です。
今後も動向に注目していく必要があります。