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経済安全保障推進法とは?重要技術を含む4つの柱をわかりやすく解説

投稿日2024.3.6
最終更新日2024.03.06

2022年5月11日、経済安全保障推進法が制定されました。

この法律は、日本の経済施策におけるさまざまな分野を統合的に考えることで、安全保障の確保を目指す法律です。
経済産業に関する政策の一環として取り組まれています。

では、経済安全保障推進法とは具体的にどのような法律なのでしょうか?

今回は​​経済安全保障推進法について、以下の内容についてわかりやすく解説します。

  • 経済安全保障推進法の正式名称と目的
  • 経済安全保障推進法の4つの柱
  • 経済安全保障推進法におけるパブリックコメント

1、経済安全保障推進法とは?

(1)経済安全保障推進法の正式名称と目的

経済安全保障推進法の正式名称は「経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する法律」です。経済安全保障推進法の目的は、日本における安全保障の確保の推進に関する基本方針を策定することです。

世界情勢が複雑化し、社会や経済の形が変化する中、安全保障を確保するためには、経済活動に関して行われる国家及び国民の安全を害する行為を未然に防止する重要性が増大しています。

そのため、経済安全保障推進法では経済に関するさまざまな施策をまとめて進めることが目指されました。

具体的には、以下のような経済施策を一体的に推進し、国内産業の技術の保護と育成を同時に実現することを目指しています。

  • サプライチェーンの強化
  • 官民による重要技術開発
  • 基幹インフラの安全確保
  • 特許などの知的財産の保護

上記のような施策により、日本の経済安全保障を包括的に強化し、国民の生存や、国民生活・経済活動に影響度の高い物資の安定供給を図ることが狙いです。

(2)経済安全保障推進法の公布日、施行日

経済安全保障推進法の公布日は2022年5月18日です。

経済安全保障推進法の施行については「公布から6月以内〜2年以内に段階的に施行すること」とされており、明確な施行日は決まっておりません。

ただし、2022年8月1日にはこの法律の規定のうち、総則部分のほかに、(1)重要物資の安定的な供給の確保と、(3)先端的な重要技術の開発支援に係る部分を施行するとともに、法律に基づく事務を担当する組織として内閣府に大臣官房経済安全保障推進室が設置されました。

参照:内閣府-経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する法律(経済安全保障推進法)

(3)経済安全保障推進法の成立の過程(有識者会議)

経済安全保障推進法の成立までに、複数回の有識者会議が行われました。

この会議は、経済安全保障に関する専門的な議論を行う場として設けられ、その議論を通じて法案の内容が形成されました。

有識者会議は、経済安全保障推進会議の下で開催され、分野別の検討会合を含めて合計16回の会議が行われました。これらの会議では、供給網の強化、基幹インフラの安全確保、官民による先端技術開発、特許などの知的財産の保護といった経済施策について議論が重ねられました。

有識者会議での議論を踏まえ、「経済安全保障法制に関する提言」が提出されました。この提言は、経済安全保障推進法の策定における基本的な方向性を示すもので、法案の策定に大きな影響を与えました。

2、経済安全保障推進法の基本指針(4つの柱)

経済安全保障推進法

経済安全保証推進法には、法律を構成する4つの柱があります。

4つの柱の内容は以下の通りです。

  • サプライチェーンの強化
  • 官民重要技術の支援
  • 基幹インフラの安全性確保
  • 特許出願の非公開化

それぞれの内容について詳しく確認しましょう。

(1)サプライチェーンの強化

サプライチェーンとは、製品が生産され、消費者に届くまでの一連の流れを指します。この流れには、原材料の調達から製造、輸送、販売などが含まれます。

経済安全保障推進法では、このサプライチェーンを強化することが4つの柱の1つです。

サプライチェーンが脆弱だと、自然災害や戦争、経済制裁などの影響で物資の供給が滞る恐れがあります。加えて、サプライチェーンを特定の国や企業に依存しすぎると、その国や企業の政策や経済状況に左右され、突発的に機能しなくなるリスクもあります。

様々なリスクに対応できる、安定した経済活動の実現を目指すために、サプライチェーンの強化が重要視されました。

経済安全保障推進法では、リスクへの対応策として、サプライチェーンの多様化や国内生産の強化、在庫の確保などを行うことを策定しました。

半導体や医薬品におけるサプライチェーンの強化

経済安全保障推進法では、様々な分野でのサプライチェーンの強化に取り組むことが考えられていますが、特に半導体や医薬品といった物資におけるサプライチェーンが注目されています。

その理由を紹介します。

半導体はスマートフォンやパソコン、自動車など、私たちの生活を取り巻く多くの製品に使用されています。しかし、その生産は高度な技術と大量の投資を必要とし、生産地は限られているというのが現状です。

そのため、半導体のサプライチェーンには脆弱性があると考えられており、一部の地域で問題が発生すると、全世界に影響を及ぼす恐れがあります。

サプライチェーンの強化方法としては、半導体の原材料の供給確保や日本主導による同盟国・有志国間でサプライチェーン協力の枠組みの構築を挙げています。

半導体の原材料の供給確保に関しては、設備への投資による生産能力強化やリサイクル装置の導入が具体的な対応策として考えられています。

中長期的にはシリコンカーバイドや窒化ガリウム、酸化ガリウムなどが原材料となる、省エネ性に優れた次世代パワー半導体の導入などが考えられています。

参照:経済産業省-制作同行紹介〜半導体のサプライチェーン強靭化に向けて〜

医薬品におけるサプライチェーンも強化が図られています。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックでは、医薬品のサプライチェーンの脆弱性が露呈しました。特に、原材料の供給が一部の国に集中していることが問題となり、供給途絶のリスクが浮き彫りになりました。

2022年に行われた厚生労働省の調査によると「海外依存」「品質及び製造管理の難しさ」が、サプライチェーンのリスク要因として挙げられました。

「薬事工業生産動態統計調査」(2020年度)によると、医療用医薬品の生産金額の約7割は輸入品です。

参照:厚生労働省-第8回医療用医薬品の安定確保策に関する関係者会議 資料1

生産コスト削減のために、労働力が安価な国への製造移管等の結果として、サプライヤ数が減少し、結果的に「海外依存」の状況になったと考えられます。

上記のような状況を鑑みて、国内における医薬品製造を加速すべく、日本国内で製造を実施しようとする製薬企業等への支援が決まりました。

参照:厚生労働省-医薬品現役等の国内製造拠点の整備のための製造設備の支援

なお、医薬品のサプライチェーンにおける将来的な目標の1つとして、厚生労働省は以下のようなビジョンを掲げています。

抗菌性物質製剤においては、2023年から国内で原薬の製造や備蓄設備の構築を開始し、2030年までには、海外からの供給が途絶えた場合でも医療現場に必要な量を安定供給することが可能な体制を構築する。

参照:厚生労働省-抗菌性物質製剤に係る安定供給確保を図るための取組方針

上記のように、経済安全保障推進法では、特に半導体や医薬品分野でのサプライチェーンの強靭化を目指し、供給途絶のリスクを軽減するための措置が取られています。

(2)官民重要技術の支援

官民重要技術の支援とは、国と民間企業が協力して、重要な技術の開発や保護を進めることを指します。これは、国の安全保障や経済の発展にとって重要な役割を果たす技術を、国内で確保し、発展させるための施策です。

現代社会では、AIやバイオテクノロジー、量子コンピュータなどの新しい技術が急速に進化しています。これらの技術は、経済や社会、安全保障に大きな影響を与える可能性があります。

しかし、これらの技術の開発や保護は、高いコストや専門知識を必要とし、一企業だけでは難しい場合があるため、経済安全保障推進法では、国と企業が協力してこれらの重要技術の開発や保護を支援することを目指しています。

「特定重要技術」の20分野として指定されているのは以下の通りです。

  • バイオ技術
  • 医療・公衆衛生技術(ゲノム学含む)
  • 人工知能・機械学習技術
  • 先端コンピューティング技術
  • マイクロプロセッサ・半導体技術
  • データ科学・分析・蓄積・運用技術
  • 先端エンジニアリング・製造技術
  • ロボット工学
  • 量子情報科学
  • 先端監視・測位・センサー技術
  • 脳コンピュータ・インターフェース技術
  • 先端エネルギー・蓄エネルギー技術
  • 高度情報通信・ネットワーク技術
  • サイバーセキュリティ技術
  • 宇宙関連技術
  • 海洋関連技術
  • 輸送技術
  • 極超音速
  • 化学・生物・放射性物質及び核(CBRN)
  • 先端材料科学

参照:内閣府-特定重要技術の研究開発の促進及びその成果の適切な活用に関する基本指針

(3)基幹インフラの安全性確保

基幹インフラとは、電力、水道、通信、交通など、社会生活を支える基本的なサービスのことです。これらのインフラが安定して機能することで、国民生活も保障され、経済活動も円滑に行われます。

基幹インフラは私たちの生活にとって重要な要素ですが、自然災害やテロ、サイバー攻撃などのリスクがあり、適切な対策を講じることが必要です。

その具体策として、経済安全保障推進法では、インフラ企業が重要設備(システムを含む)の導入等を行う場合に、政府が事前に審査する制度が導入されました。

この制度は2024年2月までに適用開始予定です。

なお、上記の「インフラ企業」とは経済安全保障推進法50条にて、以下の14事業が指定されています。

  1. 電気事業
  2. ガス事業
  3. 石油精製業・石油ガス輸入事業
  4. 水道事業・水道用水供給事業
  5. 第一種鉄道事業
  6. 一般貨物自動車運送事業
  7. 貨物定期航路事業・一定の不定航路事業
  8. 国際航空運送事業・国内定期航空運送事業
  9. 空港の設置・管理事業、空港に係る公共施設等運営事業
  10. 電気通信事業
  11. 放送事業のうち、基幹放送を行うもの
  12. 郵便事業
  13. 保険業、第一種金融商品取引業その他一定の金融に係る事業
  14. 包括信用購入あっせん事業(クレジットカード)

なお、経済産業省では、重要設備の導入等に関する事前相談窓口も設けられています。

以下のURLから申込方法を確認することができます。

参照:経済産業省-経済安全保障推進法

(4)特許出願の非公開化

特許出願の非公開化の主な目的は、新しい技術の開発競争が激化する中で、技術情報の漏洩を防ぎ、技術の競争力を保つことです。

特に、海外で軍事転用される可能性のある技術等、国の安全保障の観点から必要と認められた場合は、その特許出願の一定期間の非公開化が可能となります。

国内の競争力を保つだけではなく、国際競争力の強化にもつながることが考えられています。

しかし、この非公開化には、特許制度の公開性という原則からの逸脱という課題もあります。特許制度は、技術者が新たな技術を開発し、それを公開することで、社会全体の技術進歩を促進することを目的としています。

そのため、特許出願の非公開化は、この公開性の原則とのバランスをどのようにとるかが重要な課題となります。

上記で紹介した「4つの柱」だけではなく、セキュリティクリアランスの考え方も広まりつつあります。

参照:内閣官房-経済安全保障推進法案の概要

3、経済安全保障推進法のパブリックコメント

経済安全保障推進法の制定までには、複数回のパブリックコメントが行われました。

本記事では、そのパブリックコメントについても解説します。

(1)そもそもパブリックコメントとは?

パブリックコメントとは、政府が新たな法律や政策を作るときに、国民から意見を募る制度のことを指します。

これは、法律制定における政府の決定が国民の生活に大きな影響を与えるため、国民自身がその決定に参加し、自分たちの意見を反映させることができるようにするためのものです。

日本では、行政手続法という法律によって制度化されています。

(2)経済安全保障推進法の成立までに行われたパブリックコメント

経済安全保障推進法が成立するまでには、複数回のパブリックコメントが行われました。これは、経済安全保障推進法が日本の経済全体に影響を与えるため、多くの人々からの意見が必要だったからです。

具体例として、以下のような観点で意見が寄せられました。

  • どのような技術が重要で保護すべきか
  • どのような物資の供給が必要か
  • どのように特許情報を扱うべきかなど

この法律が特定の企業や業界に不利益を与えないように、また国民の生活を守るために必要な措置が取られるように、パブリックコメントを通じて多くの意見が反映されました。

令和4年7月27日から令和4年8月25日までに行われた約1ヶ月のパブリックコメントでは、1305件の御意見が寄せられました。

参照:e-GOV パブリックコメント-経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する基本的な方針(案)等に関する御意見募集の結果について

PoliPoliで公開されている経済安全保障に関連した取り組み

誰でも政策に意見を届けることができる、政治プラットフォームサービス「PoliPoli」では、「宇宙産業を日本の経済成長のエンジンに!」の実現政策について、以下のように公開されています。

あなたの願いや意見が政策に反映されるかもしれないので、是非下記のリンクからコメントしてみてください。

PoliPoli|「宇宙産業を日本の経済成長のエンジンに!」の実現

(1)「宇宙産業を日本の経済成長のエンジンに!」の実現政策の政策提案者

議員名 平 将明
政党 自由民主党
プロフィール https://polipoli-web.com/politicians/CU6xgdz9r8x0M4IpSq2y/policies

 

(2)「宇宙産業を日本の経済成長のエンジンに!」の実現政策の政策目標

政策目標は以下の通りです。

日本の宇宙産業の世界シェアを現状の3%から10%への向上

(3)実現への取り組み

実現への取り組みは以下の通りです。

  • 日本版ダボス会議とも呼ばれるG1サミットでの宇宙政策のコーディネート
  • 有識者や宇宙産業の担い手の方々からの意見集約

この政策の詳細を知りたい方や、政策の進捗を確認したい方は下記リンクからご確認ください。

宇宙産業を日本経済成長のエンジンに!

4、まとめ

今回は経済安全保障推進法について解説しました。

経済安全保障推進法は、経済の視点に着目して日本の安全保障を目指す重要な法律です。法律自体は2022年5月11日に制定され、現在段階的に施行されています。

今後も本法律によって策定された施策の実施状況や中長期的な視点での日本経済への影響にも注目です。

この記事の監修者
政治ドットコム 編集部
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